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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第三章 〜新米当主編〜
268/977

268.絶叫マシーンは好きでしたよ。……彼女が好きでしたからね。





 ざーっ、ざーっ。


 波を切って帆走る船上で、海と空しか見えない景色を眺めながら、その揺れを楽しんでいたのだけど。

 ふと聞こう聞こうと思っていた事を思い出して、チェスに似た盤上遊戯の相手をしてくださっているジル様に尋てみる。


「そう言えば、今回は試験航行を兼ねていると言ってましたけど、最高速度とか試してみないのですか?」


 この小型船をベースにした作りを持つ双胴船は、私がアーカイブ家に提供した魔道具の技術を使って、最初から魔導具を乗せる事を前提にして作った船。

 その最大の特徴は、風がなくとも魔力さえあれば航行が可能な事。

 他にも出航の時に錨を上げる反動を利用して行き足をつける事なく、出航させる事も出来るし、錨を引き上げる反動を利用してやれば、更に早く港を出る事が可能。

 おまけに双胴船である事を利用して、左右の船底に付けた魔導具を独立させて使う事で、普通の小型艇よりも小回りが効く。


「本当によく考えられた戦船(・・)だと思いますが、其れも重要なのでは?」

「やはり見抜かれていたか」

「そりゃあ分かりますよ。

 小型船で運搬能力が欲しいと問われて、私が書いた意匠図から起こしたにしては、この船はよく出来過ぎて(・・・・・)いますから」


 此の世界の戦船の特徴には、私が先程考えていた特徴がある。

 ただし、多くの人間を使って(オール)を漕がせるなどをして無理やりにだ。

 海の風向きは何時どう変わるか分からないから、当然ながら船には(オール)を漕ぐための多くの非戦闘員が乗船しているし、兵士に(オール)を漕がせたとしても、いざと言う時に体力を使い尽くしてヘロヘロでは意味がない。

 だから、戦船に乗っている兵士と言うのは、其れほど多くはないのが実情だと聞いている。

 でも、その点、この新型の魔導具を利用した双胴船は、小型船と言う欠点はあるものの、乗員の全てを兵士にする事ができるし、小型船だからこそ、目立ずに動けると言う利点もある。


「まず船が喫水線を見れば分かりますが、双胴船という事を差し引いても大きさの割に重過ぎます。

 これは相手の船にぶつかっても良いように、頑丈さを求めた結果ですよね。

 他にも船の縁には、飾りに見せかけてはありますが、矢避けの盾を差し込むための溝が幾つもありますし」


 注視して見れば、船の彼方此方には戦船らしき特徴が幾つも見られる。

 定員にしたって、それは快適な船旅を求めた場合であって、戦船としてより多くの兵士を運ぶ場合は、倍以上の人間を乗せる事が可能な空間的余裕がある。

 正直、私の技術を利用して、こんな戦船を作られるのは嫌だけど、こればかりは仕方がない事。

 どんな便利な技術も、人殺しに使おうと思えば使えてしまう。

 美味しい料理を作り、人を幸せにする包丁だって、簡単に人の命を奪えてしまえる武器になるようにね。


(オール)を漕ぐための人手も、多くの場所を取る水の入った樽を乗せる必要がなければ、戦船の在り方も変わろう」

「機動性重視の戦船にですね」

「兵も馬も速いに越した事はない。

 其れは当然ながら船にも言える事だし、機動力は戦の基本だ。

 そのような目的に使われずに済むのが、一番なのも当然だがな」


 なにより、前世と違ってこの世界は平和な世の中ではなく、魔物だけでなく人同士の争いも絶えない世界なのだから。 

 いくら陛下やジル様達が、戦争を仕掛ける事には反対派だとは言っても、戦争を仕掛けられたら民の暮らしを守るためにも迎え撃たない訳にはいかないし、国力や軍事力を見せる事で、戦を回避する方法もある。

 少なくとも前世の平和ボケした私が、説得力のない理想論でもって口を挟める問題ではない。


「そうですね、そうなる事を心から祈ります」


 私が出来る事なんて、作る物を気をつけながらも祈る事しかできない。

 いくら稀代の魔導士だの、魔導具師だと煽てられようとも私は個人でしかなく、無力な小娘でしかない。

 だから、作りたい物を作って、やりたい事をやって、自分勝手に生きながらも、そうやって自分勝手な祈りをするだけ。

 しかも、不信心者なのに、なんて身勝手な祈り。

 ううん、正確には神様の存在は信じている。

 こうして転生なんてものを体感した以上、信じない訳にはいかない。

 ただ、神様その物を信じているかどうかは、また別の問題と言うだけのこと。


「話は戻るが、最高速に関しては一応は先日に試したぞ」

「え、そうなんですか?」

 

 ……パラセーリングの時と。

 確かにあの時はそこそこ出ていたと思うけど、精々が六、七十キロ程。

 昨年乗った大型船が、順走事で十五キロぐらいで、小型船が三十キロ行くか行かないかと思ば、確かに速い方だと思うけど。

 手漕ぎボードのような小さな船に大きな帆をつければ、同じぐらいの速度はでるとは思うけど、それだと速度は出ても乗員が二人がせいぜいだろうから、意味はないか。

 やはり魔導具だと、アレぐらいが精一杯なのかもしれない。

 それに、確かにあの速度ならクラーケンぐらいなら振り切れるので、十分と言えば十分な速度だと思う。


「やはり、魔導士の魔法とはかなり違うかね?」

「そうですね、船の大きさにも違いがあるので一概には言えませんが」


 今以上に魔力制御が未熟だった昨年のジュリですら、昨年の小型連絡艇で九十キロくらいの速度を出していた。

 帰りは私が操船していたけど、船体が魔法で強化していても持たない状態だったので、それ以下の速度で走らざるを得なかったけど、もっと早く出せる自信はあった。


「よければ見せてもらえないかね。

 なに、礼は何時か何かの形で返そう」

「では、全員に連絡を、あと、これでチェックメイトです」

「ぬぁっ!? ……まて、あれがああして、これが……ぐっ、たしかに」


 ジル様の言葉もあるけど、単純に私が試してみたいだけと言うのもある。

 最高速度実験と称して、皆んなを甲板に集め、ジュリに皆んなのフォローを頼む。

 一応、命綱をつけてもらってはいるけど、私も初めて試す事なので、船がどう言う挙動を示すか分からないからね。

 まずはブロック魔法を展開。

 最初に形作るのは水流ジェット推進の魔法を展開するためではなく、

船の形状を少しだけ弄るため。

 双胴船の船底から前と後ろにブロック魔法によるブロックを下に伸ばしてから横に広げて固定。

 あとは、その横に広げた、…翼の根本に水流ジェット推進の魔法を展開。



 ざばっ!


 勢いよく飛び出す船だけど、それだけではない。

 段々と視線の高さが上がってゆく。

 前方に突き進む力と水の抵抗が、船の前部を持ち上げようとし、更にはその下にある水中翼が、船そのものを水上へと押し上げる。


 ずざざざ〜〜〜〜〜〜っ!


 船が速度を出す際に一番の敵は、水の抵抗。

 だけど、水中翼と魔法による力任せの推進力があれば、船体そのものを海面へと押し上げて、水の抵抗を最小限にできる。


 水中翼船。


 私が魔法で再現したのは、前世でそう呼ばれる船を再現したもの。

 実際、TVやインターネットで見かけた程度の知識でしかなかったので、これが効率的かどうかはともかくとして、取り敢えず形になったみたい。


「ひっ」

「うひゃ〜〜っ」

「と、とんでいる?」

「こ、これは」


 取り敢えずは、現状でもパラセーリング中の速度の倍は出ているけど、これ以上はこのままではまずいかな。

 ジュリに合図を送り、風圧から守るための結界を、皆んなに掛けてもらい、その間に私はもう少し水中翼の形状を調整して、安定性を出してから、改めて魔法に魔力を込めてやる。

 体感的には、前世の富士の麓の遊園地の有名なジェットコースターより早いくらいかな?

 一刻以上、走らせながら試行錯誤したけど、勘任せの水中翼では、安定度はこれ以上向上しそうもない。

 これ以上は油断して横波を受ければ吹き転覆す流可能性もあるし、この大きさの船をブロック魔法で船の形状を変えながらだと、集中力が落ちて事故を起こしかねないか。

 魔力を制御して徐々に速度を落とし、通常航行へと移り操船を船員の方へとお返しする。


「これ以上は、船の形状をもう少し研究しないと危ないので止めます」


 ……ええ、これ以上はですよ。

 速度を上げると、ひっくり返る恐れがありましたし、波の乗ってしまった時に、船が跳ねて船体が強度的に持つか怪しかったので。

 ……寿命が縮んだって、そんな大袈裟な。……速度を落とすように言ったのに聞いてもらえなかったと。

 すみません、風音で聞こえてませんでした。

 肩を叩いてくださって、知らせてくださればよろしかったのに。

 ……船の速度と振動が凄すぎて身体が固まっていたと。

 そんな大袈裟な、……ぁっ、後ろで座り込んで……その…、床を……濡らしている方が。


「すみません、調子に乗りました」




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




「うむ、水中翼か」

「ええ、船底のバラストも兼ねてますが、魔法での急造は無理があったようです」

「どちらにしろ、今の造船技術では不可能だろうな。

 作ったとしても、強度的に保ちそうもないな」


 説明用の意匠図をあっさり返してくるあたり、ジル様は試す気などないのだろう。

 この魔導具が取り付けられるのは、小型艇が限界で、あり例え戦災級の魔物の魔石を使ったとしても、中型船には出力が足りないのは同じ。

 双胴船にする事で魔導具を二機取り付ける事が可能になり、多少の大型化は図れたとしても、外洋航行には不向きな小型艇である事には変わらない。

 無駄になる投資はしないという事なのだろうし、私も魔法での試験の結果、お勧めできないというのが本音なので、ジル様の答えが嬉しかった。


「これ以上、開戦派に餌をやる必要もあるまいしな」


 でもジル様、其れって、私のような一般人に言って良い台詞ではないですよ。

 あっ、何かお酒を飲みます?

 ちょっと面白いのを思いついたのですが、試してみますか?

 お酒を凍らせて、かき氷にして其処にお酒をかけて食べるという物ですけど。


「「……」」

「すみません。失敗です」


 物凄い勢いで白い煙を上げる器。

 香りと飾りを兼ねて載せたレモンは、一瞬で凍りついてしまった蜂蜜酒がけ。

 凍り難いなぁと思って、魔力任せに一気に凍らせてみたけど、どう見てもそのままでは人が食せる物ではなく、よくよく前世の記憶を思い起こしてみたら、アルコールの凍結温度ってマイナス百度以下だった事を思い出し反省。

 果実水を液体のまま、過冷却で衝撃で一気に凍らせて見せる方は成功だったんですけどね。





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