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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第三章 〜新米当主編〜
267/977

267.せっかくの海ですから遊ばないと損です





「ふは〜♪ 海〜〜、海〜〜♪」

「何をはしゃいでいるんです。

 海なんて、もう飽きるほど見たじゃないですか」

「そりゃあジュリは堪能出来てたでしょうけど、私もジル様達も船底でずっと仕事詰めだったんだから、海を堪能する暇なんてなかったわよ」


 フォドールの港街の観光とショッピングを軽く楽しんで、再び海に出たのがつい先程。

 とりあえずフォドールの港街までに到着するまでに、ジル様が持ち込んだお仕事は一通り終了。

 後はFAXの魔導具で急ぎの仕事が来ない限りは仕事はないし、其れこそ私には関係ない事。

 お〜〜し、これで心置きなくポンパドールに到着するまでの残りの四日間は、船遊びに精を出すぞぉ〜。

 そんな訳で、収納の魔法から取り出したのは、携帯(かまど)にも使っている強化型の魔力伝達コードに、頑丈な革と布のベルトと幾つかな金具。

 そして黄金大蝙蝠ゴールド・バッドの皮膜を素材に作ったパラシュート。

 前世の人間なら此処まで出せば分かるでしょうけど、パラセーリングの道具一式です。

 今回の旅の話が出た時から、色々考えて作って来た物の一つ。


「はい、ジュリ、私の真似をして身体に取り付けて」

「いったい、此れはなんなんですの?」

「もちろん、遊びよ、遊び♪」


 そして、当然ながら二人でも楽しめるように二人乗り。

 言われた通り準備をしたジュリの金具を手で引っ張って、安全確認をしたり、ロープの端をしっかりと船に固定し、船員の方に水流ジェット推進魔導具で速度を上げてもらい。

 何も知らないジュリと共に、一気に大空へと。


「ひ、ひや〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」

「ひゃっふぅ〜〜〜っ♪」


 空中に放ったパラシュートが、海風と船の速度によって生み出される風を受け大きく膨らみ、私とジュリを一気に空へと舞い上がらせる。

 ジュリが盛大に悲鳴をあげるけど、ロープもパラシュートも、念のため私の魔力で強化を施しているので、まず切れたり破れたりして墜落する心配はない。

 そう言う訳で、涙声で文句を言うのは勘弁してください。

 吃驚したって、吃驚させようと黙っていた訳で。

 今は、この光景と空の旅を楽しんでは?

 空の大型の魔物に御飯として連れ去られない限り、なかなか体験できない事だと思いますよ。


「例えが怖いですわっ!」

「でも、今は安全だし、念のため探査の魔法を掛けているから安全ですよ」

「もう、せめて一言、言って欲しかったですわ」

「言ったじゃない遊びだって。

 ねぇジュリ、私と一緒に遊ぶのは嫌?」

「…ず、狡いですわ。もうっ」


 うん、ジュリの気持ちを知っていて、今の言葉は狡いと思うけど。

 私は自分勝手な人間だから、気にしない。

 ただ、ジュリと一緒にこうして同じ光景を見て遊んでみたかっただけ。

 胸の下にある首飾りを、服の上から確かめるように弄りながら、彼女の代わりに今こうしてジュリと楽しむ。

 ……本当、私って狡い人間だと思う。

 でも、こうして楽しむくらいは構わないわよね、エリシィー。


「この高さからだと、まだ陸地が見えますわね」

「うん、天気が良いからよく見えるし、綺麗よね」

「大型船のマストの見張り台からでも、きっとこの高さは見えませんわね」

「小型船で魔導具で速度を出しているからこそ、できる遊びだしね」


 ほんの十分ほどの空中浮遊を堪能した後、魔力伝達コードを操ってロープを巻き取り船に戻ると、目を輝かせているジル様達。

 空を飛ぶなんて物語の世界みたいだって、別に飛んだ訳ではなく浮き上がっただけですから。

「試されます?」

「うむ、頼む。ラッセンはどうする?」

「……えっ、…その」

「このような女子供でも大丈夫だと言うのに情けない」


 あの無理強いは……、いえ、ジュリを強引に空の散歩に連れ出した私が言うのもなんですけどね。

 ……主人の行く処には何処までのついて行くのが従者の務めと。

 足を震わせながらも格好良い台詞を言っているように思えますけど、念のために言っておきますけど遊びですからね。


「ふぉふぉっーーーっ」

「…ひぃぃ〜〜〜っ!!」


 そして歓声と悲鳴を挙げながらも、空高くへと舞い上がる二人。

 一応は、手元の金具に細い紐をくっつけて、其れを強く引っ張って合図を送れば、私がロープを巻き上げて引く事にはなっているのだけど。

 ……その連絡用の紐は、ラッセンが手の届かないように、ジル様が御自分の手の方に取り付けられたんですよね。


「ジュリ、私、あそこまで酷くないわよね?」

「そうですわね、悪意がないと言う意味では、酷くありませんわね」

「……今日のお茶菓子は、ふわふわパンケーキのアイス乗せ」

「三枚でお願いいたしますわ」

「……トリプルベリー乗せにしてあげるから、二枚にしておきなさい」

「其れで手を打ちますわ」


 私が作るふわふわパンケーキは、一個が物凄く分厚いのを知っているくせに、よくも三枚も食べる気になると思いつつ、そろそろ空中散歩中のジル様達を回収かな。

 セレナ様やタニヤ様だけでなく、公爵令嬢であられるセリア様までもが、期待に満ちた目で並んでいますからね。




 結局、船員までパラセーリングを楽しんだ昨日はともかくとして、今日はトローリング。

 本当は水上スキーも考えていたのだけど、水中探査の魔法を掛けると、水棲の魔物や巨大なサメなどの姿がチラホラと。

 私やジュリはともかく、他の人にはお勧めできる環境ではないので断念して釣りを楽しむ。

 以前と違い、釣った魚をその場で捌いて、刺身やしゃぶしゃぶで戴く美味しい遊び。

 朝食も兼ねているので、私のお腹の心配はない。


「生魚を食べる人達もいるとは聞いていましたが、悪くないですわね」

「うむ、このタレが特に合うな」

「本当ですわね。黒くて見た目的には不気味なタレですが、魚の生臭さが綺麗になくなっています」

「新鮮だから生臭くないだけですよ」


 ジル様達が言っているタレは醤油。

 そのままだと生魚を食べるのは初めての人には厳しいのでホースラディッシュを擦り下ろした物にライムの果汁を少しだけ混ぜたタレ。

 しゃぶしゃぶの方は、西洋風のタレを数種類用意し、香草と一緒に食べて貰っているけど、どうやら好評のようだ。


「魚の種類や季節によっては寄生虫がいますけど、其れさえ気を付ければ後は鮮度との勝負。

 釣りたてなら、タレなしでも美味しいですよ」


 そう言ってたった今釣り上げたイカを、皮を剥いて柵切り。

 そのまま、醤油もつけずに口の中に放り込むと、甘味と共に歯応えの食感を楽しんでいると、ルヒャルダさんが私の脇にある箱を気にされてくる。

 

「此方ですか?

 白身や赤身の魚は、熟成させれると美味しくなるんですよ。

 ただ、氷の魔法を持っていないと腐らせてしまうだけなので、お勧めはできません」


 魚の熟成は下処理や手間以上に、冷蔵技術がないと食中毒の原因になってしまう。

 氷の魔法石が普及すれば、そう言った技術も普及して行くだろうけど、現時点では私が個人で楽しむだけの技術だし、水の魔法石もまだまだなのに、氷の魔法石など生産準備など、人手不足もあるから最低でも数年は先だとは思っている。


「【氷】は【水】属性と【風】属性の複合魔法ですので、二人掛かりで使うのが一般的ですから、幾らアーカイブ家でも流石に、そう言った用途に魔導士を雇い入れるのはどうかと思いますが」

「いえ、流石に其れは……」

「【水】属性と【無】属性だけでも作れますよ。ちょっと工夫がいりますけど」

「……ちょっととは、言いませんわよ」

「其れはジュリの腕が未熟だからの話」


 ジル様の護衛魔導士であるタニヤさんの言葉に、私が補足しておく。

 要は、私の使う音響爆弾の魔法の応用でもあり、フリーズドライ食品を作る真空窯の魔導具にも使われている技術。

 結界内に水魔法で少量の水を発生させ、無属性魔法で中の空気を抜いてやれば良いだけ、そうすれば水は真空という気化熱の効果で、水が凍るという現象を利用した物。

 ジュリが【風】属性がないのに、氷を作り出す事が出来るのは、私がこの方法を教えたため。

 もっとも、今のジュリの魔力制御力では、音響爆弾の魔法を使える程、大きくて強固な真空状態は作れないので、まだまだ鍛錬が不足していると言える。


「慣れれば、結界内を小さな結界の器をたくさん作って」

 ビシッ


 結界内でピンポン球サイズに区切られた水は、一気に真空を作り出したために一瞬にして氷となり、別に用意した木箱の中へとボトボトと落ちて行く。

 無論、大きな氷を作って砕いても良いだろうけど、【水】属性と【無】属性で作る場合は、一気に個別で作った方が魔力効率が良い。

 せっかく氷を大量に作って見せてあげたのに、なにか頬を痙攣らせているタニヤ様は放っておいて、コップに氷を入れてウイスキーを注いでオンザロックスに、氷を少し魔法で砕いてミスト。

 風魔法で削り取るように細かく砕いて、贅沢にカキ氷のウイスキー割り、レモン添え。

 そして前世では定番だけど、魔法で作り出した炭酸水と氷で割ったハイボール。


「お好きなものをどうぞ」


 大人組はお酒にしておいて、私達子供組はカキ氷を果物で飾り付けして、加糖ミルクを掛けた、前世の某地方の銘菓である白熊もどきを楽しむ。

 セリア様の侍女であるルヒャルダは、申し訳ないけど子供枠で。


「職務中ですのでお気になさらずに。

 それに、先日のアイスやシャーベットと言うお菓子といい、夏に氷を使ったお菓子など、屋敷に戻ってから皆んなに自慢できますわ。

 ですよね、お嬢様」

「ええ、お母様やお婆様だけでなく、お友達にも自慢できますわ。

 この夏は誰も体験した事のない事を、たくさん体験できたと」


 其れは何よりです。

 そう言う訳で此方はせっかく良いお話をしているんですから、大人組はお代わりはまだかと強請(ねだ)らない。

 カキ氷は作ってあげますから、後は自分達で楽しんでください。

 お酒にしたって、ジル様の方が良いのをお持ちでしょ。

 ……女の子に作ってもらう酒が美味しいって、オヤジ臭い。

 まぁ気持ちは分かりますけど、そこに二人も若くて綺麗な大人の女性がいるでしょ。

 ……作るより飲む方が良いって、そんな当たり前なの事を。

 はいはい、今、作りますから、あっ、セリア様もジル様に作ります?

 可愛い孫が作ってくれたお酒なら、ジル様も一層美味しいと感じると思うでしょうし。

 ……お酒の入ったお爺様は嫌いと。

 まぁジル様なら二杯や三杯でどうにかなる酔い方はしないでしょうから、其れくらいは付き合ってあげましょうよ。




「…ぅぃ……」


 結局、この後、酔っぱらった何処かの誰かさんが、海に向かってそのまま用を足そうとしたところで強制終了。

 名誉のために誰がとは敢えて言いませんが、お孫さんに嫌われたくなければ、きちんとトイレに行ってくださいとだけ。






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[一言]さ、宰相さんが~、真面目枠だと思ってたのに
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