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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第三章 〜新米当主編〜
265/977

265.寝ていてもできる財テクをしてみませんか?






 新鮮な魚を使ったマリネのサラダに、野菜と魚介類を使ったジェルスープ。

 主菜に鯛もどきの松葉焼の他に、魚のアラでとったスープに通して、魚の火を通した甘味と、生故の旨味を閉じ込めた魚の切り身を一口毎の匙に盛り付けて、ジュレタレと香草と一緒に食べてもらう魚しゃぶもどきと、新鮮な岩牡蠣にライムを絞った物を野菜の飾り切りの中に交互綺麗に並べてちょっとだけ演出。

 あとは籠一杯の数種の焼きたてのプチパンをお好みで。


「貴族の方には物足りないかもしれませんが」

「この船でこれだけの物が作れるのであれば、十分だ。

 儂はもちろん、孫のセリア達にも、行軍中の食事はどのようなものかは経験させてある故に、旅先では家のようにいかない事は身を以て知っている」


 どうやら造船業を始め、船を使った商売を担うアーカイブ家の家訓として、行軍中の食事どころか、船舶事故で漂流した時の節水や粗食生活を、男女構わずに体験させる事になっているらしい。

 孫のセリアさんも、侍女のルヒャルダもその辺りは既に体験済みらしく、ジル様がその話をした時は、思い出したのかげんなりした表情で……。


『二度とあんな目に遭いたくはありませんし、家の者にも、あんな目に合わせたくありませんわ』


 と言う事らしい。

 トラウマに思う程、過酷な体験だったみたいですけど、いったいどんな内容を?

 ……洗礼を浴びていない年頃の一族や使用人を集めて一ヵ月間、海の上と言う逃げ場のない状態で、少量の水と食料で生き残るサバイバル生活と。

 半月も経てば、嫡男だろうが使用人だろうが、立場に関係なく力を合わせて生き延びる事に必死になると、……中々に過激と言うかトラウマな物の内容ですね。

 そのおかげかはともかく、アーカイブ家の持つ商会等では、無茶な日程や準備不足による船舶事故は他の船を持つ商会に比べ、驚くほど少ないらしい。

 幾らケチって利益を出したところで、事故を起こして船と乗員をなくしたら、なんの意味もないからと。

 安全、確実がモットーで、信頼を武器に商売を広く展開しているとの事。

 無理な商売展開をしなくても済むアーカイブ侯爵家の財力と権力を武器に、並み居る商売敵達を長い時間掛けて潰してきたとも言いますけどね。


「しかし、前回の魔法銀(ミスリル)の件といい、今回の件といい。

 とんでもない話が出てくるものだのぉ」

「私一人では使い道のない技術でしたので、記憶の隅に押し込んだままだっただけです」

「確かに鉱山運営からとなると、組織力も人も時間も必要なのは確かだがな」


 光石や硝子細工は実家が鉱山も工房も持っていたから出来た事で、私一人では役に立てれない技術でしかなく、そう言う意味で人工紅炎石の技術も同様の物。

 もちろん人を雇い、時間を掛けてゆれば、一財産処か街の一つや二つを養うだけの利益を生み出せるだろうけど、生憎と私には他にもやりたい事があるので、それならば技術を活かせる家に任せるのが一番。


「確認のために聞いておくが」

「もうやってませんよ。在庫も十二分にありますし」


 ちなみに魔法銀(ミスリル)の件と言うのは、書物から銀が長い時間魔力の影響を受けて魔法銀(ミスリル)に変化しているのではないかという推論の元、銀に一定量以上の魔力を浴びせていたら、半月程で魔法銀(ミスリル)化する事を発見。

 その結果から銀を魔法銀(ミスリル)製の網で覆って寝台の下に置き、網から伸びたミスリルの紐を身体の一部に結んでおけば、あら不思議、一月半後には人工魔法銀(ミスリル)の出来上がり。

 寝ている時間を有効活用しながら楽に財テクが出来ると思い、この一年、銀を買い占めれるだけ買い占めて、人工魔法銀(ミスリル)化して、高騰している魔法銀(ミスリル)で、それなりに利益を得ていたのだけど。

 先月に、私の魔導具が原因で魔法銀(ミスリル)不足で頭を悩ませている陛下とジル様の前で、ついうっかり人工魔法銀(ミスリル)を作れば良いのではと言ってしまったのが運の尽き。

 魔物の血を使わない新しい人工魔法銀(ミスリル)の製法を、陛下の勅令で国に買い上げられてしまい、私は、私が使う分以上の製造を禁じられてしまった。

 持っていた在庫の人工魔法銀(ミスリル)の大半も、まだ上がるであろう魔法銀(ミスリル)の相場で購入してもらえたし、そろそろバレて騒ぎに在りかねない頃だったから、引き際と考えれば文句はないですけどね。


白金貨(おく)単位で儲けさせてもらいましたから」

白金貨(おく)単位でも桁が違うがな」

「……白金貨(おく)白金貨(おく)という事で」


 この世界、白金貨以上の通貨単位がないですからね。

 因みに製法の買取で、クラーケンの時の同程度の金額を得たけど、此れが高いか安いかと言えば微妙かも。

 一回で、銀のインゴットを数百個、魔法銀(ミスリル)化できるので、儲けようと思えば確実にもっと儲けれたけど、騒動が起きた時の後始末とかを考えると、陛下が後始末してくれると思えば、悪くない結果だとは思う。

 ……何の話かって、ジュリには言っていなかったけど、実験を兼ねて研究費稼ぎをしてて、あとで帳簿渡すから来年の税金の計算をよろしく。

 陛下に昨年度分までは研究の一環として非課税として認めるけど、今年度分は駄目って言われちゃったから。

 別にきちんと税金は納めるつもりではいたけど、王命で無理やり取り上げた以上は、それくらいはしないと国としては不味いらしい。

 そして、こうしたコッソリとしたお金稼ぎに溜息を吐いたのは、私の従者であるジュリで……。


「十分に稼ぎをお持ちでしょっ」

「今後の研究を考えると、ちょっと不安だったから、簡単に稼げるなら稼いでおこうと思って」


 私の場合、貴族としての稼ぎは皆無だけど、魔導具師としての収入は、製法と利権譲渡した魔導具の利益供与だけでも、それなりの貴族年金並みにあるし、利益供与は今後も二十年間は純利益の五パーセント入ってくるし、その後もその家がその商売を続ける限り二パーセントの利益がはいってくるので、普通に生活をする分にはお金に困る事はない。

 でも、今やっている魔物の繁殖にしたって今は良いけど、今後、繁殖している数が増えて人を雇わなければならなくなった時、機密度の高い仕事内容や、場所的な事を考えたら、簡単に白金貨(おく)単位で飛んでいくだろうし、すべて順調にいくとは限らない。

 国が関わってしまっている以上、引き下がれない研究内容なだけに、もしもの事を考えて資金が多いに越した事はない。

 人を雇うって、結構お金かかるんだよ。

 勉強のためにジュリに帳簿をやらせてはいるけど、まだ計算に必死で、其処まで見えないのは残念だけど、其処はこれからなので長い目で見るとして。


「ユゥーリィさんは、多才のようですが、刺繍とかはやられないのでしょうか?」

「ジュリは出来たっけ?」

「い、一応は程度ですわ」

「私も一応は程度かな。

 何方かと言うと服を作る方が得意だし、私の刺繍はお母様曰く、刺繍じゃないそうだから」


 そう言って収納の鞄から出したのは、お母様に全否定された八十センチ四方の壁掛け。


「素晴らしい出来に思えるのですけど。ルーより巧いわよね。

 其れにしてもコレって、どうやったら、こんな風に?」

「お嬢様一言余分ですが、確かに素晴らしい出来ですし、私も見た事のない手法ですわね」

「ユゥさん、此れの何処が一応程度なんですか?」


 そうなんだよね。

 前世の大昔でも言われている事だけど、此の世界も良い女の条件の一つが、裁縫や刺繍ができる女性が入っていて、貴族の女性は特に刺繍が出来る事が望まれる。

 そう言う事情から、私の淑女教育やその課題には、刺繍も含まれていて、以前にお母様から課題を出された事があった訳です。

 私としても会心の出来だと思ったし、お母様を納得させられる作品が出来たら、淑女教育の時間を半分にしても良いと言ったから、本当に頑張ったのだけど。

 草花を模したよくある構図の刺繍で、この世界にある刺繍と少し違うのが、立体刺繍を施されているところ。

 そして……。


「お母様が、刺繍は一針一針心を込めて刺すもので、魔法で一気に作る物じゃないって」

「「「「……」」」」


 そもそも、課題として出された大きな壁かけを真面目に一針一針縫っていたら、数ヶ月から半年は掛かってしまう。

 そんなの時間が勿体無いし、自分一人で作った事には違いないのだから、手でも、魔法でも良いじゃないのと食い下がったのだけど、残念ながら認められる事は無かった。

 悔しいから、しばらくの間シンフェリア家のリビング兼食堂に飾ってあったお母様が作った壁掛けの横に並べておいたのだけど、すぐに剥されて私の自室の机の上に置かれるの繰り返しとなり……。

 結局、私が根気負けをして、刺繍の話その物が無かった事になったのだけど、今思えば少しばかし大人げなかったかなと思わないでもない。

 それでも丁寧に扱われていたところを見る限り、其処にお母様の愛情を感じたのは本当の事だし、コレもお母様との大切な思い出の一つなので、丁寧に畳んでから安全性の高い収納の鞄の方にしまう。


「そう言う訳で、私の刺繍は一応程度なの」

「……た、確かに、私の知っている刺繍とは掛け離れていますわね」

「凄い事なんでしょうが、……確かに刺繍とは言いにくい……かも?」

「想像だが、見ていて風情がない光景には違いないな」

「……まぁユウさんですし」


 布を固定したり、針や糸を操るのに魔法を使っただけで、其れ以外は普通に刺繍だと言うのに、誰も味方がいないところが、地味にキツイ。

 あとジュリ、その私ですしってどう言う意味よ。

 あれタニヤ様、いきなり糸を取り出してどうしたんです?

 練習ですか? 

 食事中ですので後程にお願いします。

 あと練習するなら、毎朝の髪をセットする時にやるとかどうです?

 慣れると朝の準備の時間が減りますし、髪の毛一本、一筋の狂いもなくセットできますよ。

 ……何故かタニヤ様だけでなく、事情を知っているジュリ以外の女性陣に引かれてしまう。

 どう聞いても、手抜きにしか聞こえないし、女として其れはどうかと言われても、中身は男なので気にしないとは流石に言えないので、場を誤魔化すように、デザートのクリームブリュレを収納の魔法から取り出し、最後の仕上げとしてオレンジキュラソーを少量振りかけ、目の前でフランベして見せる。


「わぁ、綺麗〜。ルー、これって食べれるの?」

「料理としてはよくある技術らしいのですが、お菓子で、しかも目の前でされるのは初めての経験ですね」

「うむ、演出としてみれば面白いな。

 部屋に広がる香りも楽しめる」

「ぁっ、魔法の火だから余計な香りが付く事も無い訳ですね」

「お酒で香り付けをすると共に、表面を軽く焦がす事で、程よい苦味を出す訳ですね」


 よしよし、クリームブリュレ自体はお菓子の本にも載せたけど、目の前でフランベするなんて演出までは記載していないから、皆んなの食い付きもいいし、本に乗せたからといって、皆んながこのお菓子を食べた事があるとは限らないから、狙い通り話題を逸らす事に成功。

 まったく、魔法で髪をセットすれば、一人で色々な髪型を楽しめるのに何が悪いと言うのか……解せぬ。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




 そうして三日目の夕方。

 フォルスとポンパドールの中間近くにある、フォドールの街に立ち寄るため寄港した。

 収納の魔法もあるし、水も、実験を兼ねた水の魔法石もあるので、水の心配はないのに何故立ち寄るのかと言うと、この時期のフォドールの街は水神祭直前で賑わっているので、私やセリアさんの勉強になると言うのと、ヘレナ様とタニヤ様が酷い船酔いをした。

 そりゃあまぁ、船の大きさに比べたら揺れない方と言っても、大型船とは違い其れなりに揺れる訳だし、ほぼ一日中、下を向いて書類と格闘していたら、船酔いぐらいもする。

 どれくらい酷い船酔いかと言うと、治癒魔法が追いつかないくらいに。


『まったく此れくらいで情けない。修行が足りぬ』

『淑女方も平気だと言うのに』


 そんな二人に情け容赦のない言葉を放ったのは、上司であり主人でもあるジル様や、その従者のラッセンの言葉。

 でも、早く到着するように、船をなるべく揺れを抑えながらも急がせたのもジル様なんですよね。

 それと、女性陣の中で二人が情けないのではなく、二人が辛い環境下に居ただけの話。

 セリア様や侍女のルヒャルダは、単純に揺れる船の中で書類仕事等と言う、酔うような真似をせずに余暇を過ごしていた訳だし、ジュリも酔わない程度に税金の計算をし終わった後と言うか揺れる船の中では無理だと諦めて、魔力制御の鍛錬や、同じように船の中でできる余暇を過ごしている。

 さっきも三人で、いつか作った普通サイズのジェンガで遊んでいたし。

 私は、揺れには慣れているだけかな。

 何時だったか、アドルさんにお猿さん扱いされる程、身体強化の魔法を駆使した三次元的な動きで相手を翻弄させるために日々鍛えていますからね。

 あと酔い止めに、ちょこちょこ治癒魔法を、自分で掛けているのも大きいだろうし。


「……あぁ…、地面だけどまだ揺れているわ。…うぷっ」

「ぜぇぜぇ……まさかこんな酷い酔いをするとは……ぜぇぜぇ」


 なんとか自分の足で立ってはいるけど、まぁ押せば倒れそうな二人のために、今、ラッセンさんが走って宿を確認しに行っているらしい。

 二人のために急がせた結果、予定より一日早く到着したため、お祭りの前で宿が取れなければ、アーカイブ家の商会の支部にお世話になってもいいし、ここの領主に話を通せば、急遽だろうが何だろうが歓待してくれるらしいけど、そうなると、まず大事になるので、できれば遠慮を願いたいところ。







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