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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第三章 〜新米当主編〜
264/977

264.甘くて美味しいお菓子は、平和の使者なのです






「んぅ~~~、美味しい♪

 ルーも気にしないで食べて見なさいよ」

「し、しかしセリア様」

「ルヒャルダ、子爵の願いでもある。

 この船旅の間は、侍女であろうとも気遣いは不要とし、一緒の席について食事をしなさい」


 ジル様の言葉にルーと呼ばれた侍女のルヒャルダは、己が仕える主と同席してお茶や食事をする等と言う、高位の貴族であればあるほど有り得ない命令に戸惑いながらも、少しだけ溶けかけたアイスを恐る恐る口にし。

 リューセリア様ことセリア様同様に、食べた事もない冷たいお菓子に身を悶えさせた後、目を輝かせながらミントとバニラの二段重ねのアイスの素晴らしさを語りながらも喋る二人の姿は、信頼し合う友達でもあるのだという事が窺えるので、傍から見ていて微笑ましい。

 間違っても、お代わりを要求するような誰かさんとは決して違う。

 ……ジル様と私が食べているのは見た事が無いからって。

 これ、紅茶のアフォガートと言ってジル様向けの甘味控えめのものですよ。

 かなり濃いめの紅茶を掛けて、紅茶の香りと渋みをアイスで滑らかにして食べるお菓子です。

 はい、一口上げるから、それで我慢なさい。


「ん、確かにこれも悪くありませんが、私の好みではありませんわね」

「ジュリがお子様舌なだけでしょ」

「そんな事ありませんわ」


 辛いの駄目、苦いの駄目、酸っぱいのも駄目、それでもって甘いのは大好き。

 此れをお子様舌と言わずに、なんと言うのか知りたい。

 まぁ、私が食事を握っている以上、少しずつ改善してきてはいるけど、まだまだお子様ゾーンである事には違いない。


「ふははっ、儂も人の事を云えんが、お主も従者には甘いのぉ」

「此れでも、結構厳しくしているつもりですよ」


 でも、ジル様が笑うのも分かる話ではあるかな。

 現に、今にしたって、私は胃袋の大きさの関係で、ジル様はそれほど甘い物が好きではないと言う事でバニラアイスが一段なのに対して、ジュリ達は倍の二段ある上トッピング付き。

 其処へ更に私がたった今、大きめに梳くってジュリにあげたから、甘いと言われても仕方ないと思う。

 それに、今みたいな食べさせてあげるような行動は、はしたなくて申し訳ないけど、私とジュリはこう言う事はしょっちゅうなので、今更と言えば今更なので気にしていないだけです。

 こう、街で食べ歩きをする時、二人で二人前を買うと、私の胃袋が直ぐにギブアップしてしまうし、残すのは勿体無い。

 でもジュリと一人前を分けて食べ合えば、二人とも色々な味が楽しめるという事で、いつの間にか慣れてしまっただけ、…まぁ貴族令嬢らしくないのは確かですけどね。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・



 結局、ジル様がセリア様を連れて来たのは、同じ年頃の同性がいた方が楽しかろうと言う心遣いみたいだけど、生憎と山奥で育った私に公爵令嬢との接しかたなんて分かる訳がない。

 向こうも向こうで、本来であれば同い年の子爵家の者など横柄に扱えれる相手だけど、当主本人で気を使わねばならない相手だと思うと、どう接すれば分からない様子。

 非情に不本意だけど、私、貴族としては色々と例外の塊みたいですから。

 そんな睨み合いの応酬も、化粧やお菓子の話の後では公爵令嬢らしい誇り高さと素直でない所は残ってはいるものの、セリア様達の態度や口調は柔らかくなったのは、ボッチの私としては上手くやった方だと思うよ。

 向こうも船旅の間だけと思ってくれたのか、其れとも、大好きなお爺様の周りを彷徨く同い年の女の子ではなく、お爺様の仕事関係の人と認識されて気持ちを切り替えただけかもしれないけど。

 それで、なんでこんな事を考えているかと言うと。


「すみません、此処なんですけど少し教えて戴きたいのですが」

「ああ、此れはですね」


 疑問に思った所の背景を丁寧に教えてくれるジル様付きの文官であるヘレナ様。

 そして何故か私が手にしていたのは、国の重要であるはずの上申書や領や国同士の貿易や取引関係の書類。

 ええ、何故かジル様のお仕事を手伝わされています。

 中には国の予算案から購入伺いまで多岐に渡り、今、疑問に思った書類など、国境沿いの地域から紛争直前の問題をどう脱したら良いか、国に救援要請を記した手紙や書類などとか重要なもの。

 私が目にして良い物じゃない気がするんですけど?

 ……違った視点の意見を聞きたいって、それにしても私なんかに見せて良いんですか?

 ……漏らしたり悪用したりしないであろうって、まぁしませんけど。


 どさっ。


 そして私の質問に対して、追加の資料として収納の鞄から、綴られた書類の束を出すを出すヘレナ様。

 彼女がこの旅についてきたのはジル様の仕事をサポートする上で、私が気兼ねしないように女性だからと言うのもあるけど、彼女は【時空】属性持ちで、国に納められたと言うか、接収されたアルベルトさんの収納の鞄を扱える人間だからと言うと事もあるらしい。

 背負い鞄型のヘレナ様の持つ収納の鞄は、魔導士でなくても【時空】属性持ちであれば扱えれる分、その容量が小さく、八畳部屋程の容量しかないらしい。

 でも、それだけの物を持ち運べれるのだから、十分といえば十分な能力の収納の鞄だと思う。


 ぴかぴかっ。


 そして船内のリビング内を、赤い光が明滅して知らせたのは、見覚えのあるFAXの魔導具で、これも先程までヘレナ様の収納の鞄の中に収納されていた物。

 どうやら急ぎの案件があったみたいで、その知らせみたい。


「まったく、便利になった反面、おちおち休暇も取れんと言う欠点があるな」


 いえ、其れを私に言われても困ります。

 空間移動の魔法と違い、移動しながらでも使えるのが、このFAXの魔導具の強みではあるけど、今回は船での使用の実験も兼ねてもいるらしい。

 ジル様は、FAXの魔導具に映った文面を紙に写す事なく、紙に簡単な指示を書いて送信側にセットし、後は魔力を流し続けておくだけなのだけど、其処はお付きの魔導師のタニヤ様に任せて自分のお仕事に戻られる。

 其れを片目に、私は私に気になった所の背景を調べるために、別の書類と格闘しているのだけど……。

 ああ〜っ! もうっ! 書式が統一されていないから、調べにくいったらありはしない。

 おまけに上申書や報告書に、なんで家庭の愚痴まで書かれているのっ!

 其れくらい苦労していると言うのは分かるけど、仕事なんだから当然でしょ!

 こんなのは『部下達の家庭にも問題が起きているほど故に配慮を願う』、その一文で十分なのに、三枚も長々と書くなっ!

 しかも微妙に重要な事をチョロっと混ぜてあるあたり、コレを書いた人間は態と愚痴を読ませるように書いてある事は明白なので、非常に性質(たち)が悪い。

 此方の隣国側に潜り込んだ人間の報告書は報告書で、重要な報告の合間合間に、もう五年も国に戻っていないから、いい加減に子供の顔を見に戻りたいとか、妻が浮気していないか心配だと書いてあって、一見して同情を誘われはするのだけど。

 あんた、その前に報告書では現地妻の自慢話を書いておいて、よくもその後の報告書に、こんな事を書けるなと神経を疑う。

 報告書そのものが機密性が高いため、奥さんに知られないと思って書きたい放題っ!

 自分が浮気をしまくっておいて、奥さんが浮気をしないか心配するだなんて自分勝手にも程があると思う。

 ……まぁいい、個人的にはどうかと思うけど、他人の家の事情にどうこう思っても仕方ないので無視するにしても、どの書類や報告書も無駄な文章が多すぎ。

 今のも、無駄に長い駄文に暗号が混ざっているのかと、思わずヘレナ様に聞いてしまった程だけど、本気で駄文だったみたい。


「…それにしても、ガイア語が分かるんですね」

「だいたいで読めるだけです。

 専門用語などは分からない物も在りますから、読めると言うには怪しいですけどね」


 私が良く読む旅行記や、風土や風習を書いた本は、色々と役に立つ知識も載っている事があるため、何事も独学だった私は、貴重な資料の一つとして積極的に読む様にしているのだけど、当然その中には海外の物もあるので辞書片手に覚えた程度の物。

 隣国のリンガイア帝国の公用語であるガイア語は、前世のドイツ語に似た表記と文法なので、前世を跨いで覚え直しと思えば、それほど難しくなかったし、他の外国語もそんな感じで、内容を簡単に理解できる程度には読み書きできる。

 それくらい出来ないと、国内外の魔導具に使えそうな貴重な情報を集めれないですからね。

 無論、そう言った知識が魔導具に役に立つかと言うと、役に立たずに雑学で終わる知識の方が多いけど、ふとしたところで役に立つ事もある。


「結局、色々と理由をこじつけてはいても、この紛争の原因になっているのは、鉱山の権利ですよね」

「ええ、紅炎石が取れる、かなり大きな鉱脈が見つかりまして」


 紅炎石と言うのは、魔力を流すと高熱を発する鉱物なんだけど、これが大変貴重で下手な宝石よりも価値のある魔法石。

 もしこれが大量にあるなら、携帯(かまど)の魔導具はもっと簡単に安価に作れたかもしれないけど、生憎と其処までの量は産出しないし、温度も其処迄高温ではない。

 せいぜいが六、七十度ぐらいの温度。

 では何に使われているかと言うと、魔導具の素材や高貴な人達向けの暖房器具だったりするらしい。

 そして、この紅炎石が取れる周辺には温暖石と言う鉱石が採れるのだけど、此方は発する温度が温かいかも?と感じる程度に低い上に、ある程度の大きさが無いと、魔力を流すと温かくなると言う特性その物が出ないため、基本的に屑鉱石扱い。

 そう言った事で見向きもされていないのだけど、北国の方では、この温暖石を家の周りに置いておくと、雪があまり家の周りに積もらない上に溶けるのも早いという事で、それなりに重宝されてはいるらしいけど、如何せん鉱石としては砂岩に近くて、建材に使うには脆いため使えない、みたいな事を書いてある書物を読んだ記憶がある。


「此方の資料によると、周りの山には紅炎石を採り尽くして温暖石しか残っていない廃坑がたくさんあり、埋蔵量もかなりあるとか」

「そうですが、それが何か?」

「ええ、なら、紅炎石の鉱脈が見つかった鉱山は譲るから、周囲の温暖石の鉱山は全て貰い受けて、今後一切の不干渉の条約を結んではどうかと思いまして」


 私の言葉に、眉を顰めて、なんでそんな事を言うのか疑問に思われているけど、だからこそ相手に条約を呑ませられる算段が高い。

 なにせ、この紅炎石と温暖石は基本的に同じもの。

 温暖石が一度高熱で溶けて、その成分が流れ出て圧縮され冷え固まった物が紅炎石と呼ばれているだけに過ぎないと私は思っている。

 以前に、この温暖石の事を書かれた本を読んだ後、もしかしてと思って確かめた事があり、確かその時の物が残っていたはずなので、収納の鞄の方から取り出し。


「此方が以前に商会から取り寄せた紅炎石で、此方が温暖石を精製して作った人工紅炎石です」


 温暖石から成分を取り出し、圧縮成形したもの、融解成型したもの、そして融解圧縮成型した物を机の上に並べて見せ。


「一概には言えませんが、だいたい見本の紅炎石の二十倍の温暖石で同程度の大きさの人工紅炎石が作れます」


 融解圧縮成型した物が、だいたい紅炎石と同程度かそれ以上の性能を持つけど、お湯一つ沸かせない程度の石でしかないのなら、逆に言えばそこまで高い温度を出す必要が無い物に使用すれば良いだけの事。


「身に着ける暖房にする程度であれば、圧縮成型した物で十分ですし、敢えて不純物を混ぜて発生させる温度を調整する事も出来ます。

 形も自由になりますし、敢えて成型せずに魔法銀(ミスリル)の糸と共に砂袋状にして椅子の座面に仕込んだり、タイル状にして足元に敷けば、より利便性が上がります」


 用途例を言いながらも、前世の便利な暖房器具が幾つか思い出し、冬に向けて炬燵を作っても良いかもと考えていると。


「至急王都に連絡して、現地の紅炎石と温暖石の鉱脈の分布図と予想埋蔵量を調べ直させます」

「紅炎石の鉱脈を譲ってやる事を前押しにして、後はゴリ押しするよう調整だな」

「後でバレた時のために常駐の兵を、気付かれない様に少しづつ増やした方が良いかと」

「あの領主はカリオストル公爵家の派閥だったな。なら、子爵から技術供与と利益供与の件も含めて丁度良かろう。その辺りの試算も出させてみろ」


 なにか大変な事になりだした気がするけど、取り敢えず一つ問題が解決したようなので、放っておいて、私は城内で使う書類に定形書式を作成してみる。

 稟議書や簡単な報告書や伺い書等は、決まった書式にした方が、書く方も処理する方も便利。

 内容の項目を作って、箇条書きで構わない事も下に書き、後は書類の流れが分かるようにサイン欄を。

 早速一枚を使って、定形書式の採用について提案書を作成。

 ついでに、ワンページ、ファイブページ法の提案も。

 ……なに他人事の様な顔で仕事を進めているって、他人事ですから。

 他にも良い用途例を思いついただろうって、よく分かりましたね。

 ……作れと。

 良いですけど、せめて一冬、試用して安全確認をさせてくださいね。

 それと、温暖石もそれほど手持ちの量はないので、……今回の件が巧く行けば、鉱山の一つや二つ毎って。そんなにはいらないのですが。

 今なら山毎買っても二束、三文だから、たいした謝礼にはならないって、貰っても管理が、……経営権だけで後は丸投げできるって、それなら戴ける物は戴くという事で。

 今の話ですと五公爵七侯爵の内、まだ友誼を結んでいないカリオストル公爵家に、人工紅炎石の製法と一緒に供与ですね。

 私としては、大量発注されても困るだけなので助かりますけど。










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