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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第三章 〜新米当主編〜
261/977

261.腹黒いのは良いですけど、私を巻き込まないでくださいね。





 シンフォニア王国、国王

【ジュードリア・フォル・シンフォニア】視点:




「ほう、では閲覧禁止にしていなかったと?」

「はい、恐れながら高位貴族や中位貴族とその家族であるならばともかく、下位貴族ともなると数も多く、重要性も低くあります故。

 この辺りは、およそ二百年前に診察記録を最低二十年間は残すと決めた際に、国からも了承されている物ですし、そもそもこの診察記録を残す事を決めたのは、国の要望から始まった事をお忘れなく」


 事の重要度を敢えて無視して、元を正せば国が決めた事で、責任を問うのは筋違いだと言ってのけるこの男を内心苦々しく思いながらも、男の話の筋は通っているため不愉快とは思っても、この程度でこの男に喧嘩を売るのも今は得策ではないか。

 どうせ、のらりくらりと逃げるだろうし、今日此処に呼び出した事自身、この男に対する警告でしかない。


「以後、シンフェリア子爵の記録は、閲覧禁止の棚に移させていただきますが……既に漏れ出て広がってしまっている以上」

「分かった。

 だが、この件を最初に漏らし、広げた人物の捜索は続けてもらうぞ。

 オルミリアナ侯爵家の名と枢機卿の名の下にな」

「御意」


 退出してゆく男の背を見送り、まったくこの男は、貴様がその中心人物だと言うのに抜け抜けとこの狸が毒付くが、……僕も状況証拠までしか掴めれなかったのだから、詰めが甘いと言えば詰めが甘いんだけどね。


「やはり、オルミリアナ卿外しを恨んでの事ですかな?」


 ジルの言葉に、そう頷くしかない。

 確かに何時ぞやの国の主要だった人物を集めての、今後の国政を左右する会議の場にて五公爵七侯爵の中で、あの男、オルミリアナだけを招集しなかったのは、こう言う事態を招きかねない事ではあったが……。


「新式の魔導具の武具を国外に持ち出そうと、指揮しているのはあの男だよ。

 他にも海外との怪しい繋がりもかなりあるしね。

 情報を横に流すと分かっている男を呼べる訳ないだろう」


「いずれも証拠には至ってはおりませんが、……まぁ間違いないでしょうな」

「流石は、古き血筋のオルミリアナであり、神と教会の子を代々名乗るだけあって狸だね。

 大司教になるための国外の票集めをしている時に、国内の支持が落ちかねない事だから、嫌がらせだろうな。邪魔をするなってね」

「まったく、それこそ此方の台詞ですな。

 彼方はたかが十年、二十年の在任、此方は今後数百年は関わるであろう大事業だと言うのにも拘らず」


 まぁ、内容を知ったら知ったで、あの男は邪魔をしてきただろうしね。あの男の魔物嫌いは有名だからな。


 水の大改革。


 百年どころか、今後の世界の在り方が変わる研究の成果。

 理論上は、【水】意外にも【火】【風】【土】【氷】の安価な魔法石を作る事が出来るとの事。

 使い方次第では危険な代物ではあるが、それ以上に人々の暮らしに恩恵を齎してくれる魔導具であり、我が国の繁栄に役に立つ(カード)になる事は間違いない代物。

 そのためには、先ずは一番利便性が高い【水】の魔法石を広める事で、この魔法石を作る上で、若干ある危険性を民衆に受け入れさせる事が要。

 それを、たかが我欲の為に潰させるなど、到底看過できんが、……まだ時期早々か。


「引き続き内偵は続けますが……」

「そうそう尻尾を掴ませてくれる程迂闊ではないし、教会が探られる事その物を嫌がるだろうからね。

 まぁそれを利用している狸なんだけど」


 あの男を何とかするには、教会その物があの男の敵になるのが一番なのだけど、なかなかそんな巧い具合には話しはいかない。

 必要ならば【蜂】や【蛇】を使うべきだろうが、流石に当分は警戒が厳しいだろうから、逆に弱みを握られかねん。

 結局は、此方の方も時期早々と……。


「それにしてもあの子、好みがハッキリしているね」

「ですな。

 刺客に狙われても、意に介さないどころか、警戒を強める事もせず平然と街中を歩き回る豪胆さを見せるかと思えば」

「子供の刺客に激怒し、小柄な少女が大の男を泣き喚く迄往来で叩きのめしてから、引き摺ってゆく姿は異様だったと報告が上がっているね」


 他にも、己が従者の為に冷静に怒り、相手を嵌めて破滅に追い込んだ手口は、あの子の怖さを再認識したね。

 手口もそうだが、平気で自分を傷つける事の出来る怖い人間なのだと。

 ああ言う人間は普段は温厚な分、尚更に敵にしてはいけない人間だ。

 できる事ならば、彼女の背中に狂犬注意の札を張って、周りに注意喚起をしたいぐらいだよ。

 あまりにも、見た目と温厚な性格に騙される馬鹿が多すぎるからね。


「まぁいい、なるべく彼女の心に負担の無い護衛を準備するための下準備も終わったし、流石に釘を刺されたばかりだから、それまでは大人しくしてくれる事を信じるまでさ」


 本気で僕に喧嘩を売る程馬鹿ではないだろうし。

 この間の課税の一件も効いているが、念のため教会上層部に、更に課税を掛ける考えも検討していると、それとなく伝えておくか。

 教会内で牽制してくれれば、あの男も少しは動きにくくなるだろう。

 

「ところであの子の店の様子は?」

「評判は良いようですな。

 店を一度閉めた後は、より一層人気が上がっている様子です」

「たいしたものだね。

 最初に宣伝しただけで、どの家も何もしていないんだろ?」

「物が良い上に使い勝手が良いようですからな。

 妻も娘達も、今までの物は付き合い上は購入しても、それ等は下賜して、あの店の物を使っているようですからな」

「例の計画の事もあるから、必要であれば支えてやれと言うつもりだったが、余計な心配だったね」


 販売方法も、中々に面白い方法みたいだし、聞いた限りは高位の者も下位の者も購入意欲を刺激する方式みたいだしね。

 中には可愛らしい小瓶欲しさに、特別会員とかに在りながら、更に普通会員に入る者もいると聞いている。

 しかも、商会内での規定が中々に面白い。

 

「そう言えば来月だったね」

「何がでしょうか?」

「ジルが仕事を放り出して、若い女の子達と遊びに行くのが」

「そのような人聞きが悪い事を仰る方の下で働く事を思えば、そのまま仕事を放り出したくなりますな」

「冗談だから、間違っても引退するような発言は止してくれ。

 今、ジルに辞められては、本気で困る」


 時たま冗談のように言うが、この男の場合、本気でやりかねない所があるから堪らない。

 まったく人を困らせて何が楽しいのかと思うが、多分それを口にすると、鏡を見ろとか言いそうだから止めておく。

 実際、引退時期を延ばして貰っているのだから、後任が育つまでの数年は引退してもらっては困るし、例の計画が一段階つくまではジルは必要な存在だ。


「それで、航行試験を兼ねて、彼女を監禁して仕事をさせようなんて君も人が悪い」

 ぶぉっ!

「今のも冗談だ。

 まったく、鉄拳宰相の二つ名は現在だねぇ」


 今のは咄嗟に身体を逸らさなかったら、直撃していたから危なかった。

 まったく、王家に対する不敬罪許可書があるからと言って、本当に手を上げるのはジルぐらいだよ。

 あの子だって、そんな真似はしない。

 まぁ、鉄拳制裁で済むあたり、可愛いものだし面白くもあるんだけどね。

 

「あの子は、随分と自分を低く見ているみたいだから、少しだけ仕事をさせて無料の船旅に対する後ろめたさを解消してあげるだけだって言うのは分かっているさ」


 もっとも、あの子から使えそうな物を吸い上げようと言うのは本当だけどね、そうで無ければ多忙である宰相が、顔見知りだと言うだけで同行する訳がない。

 そして、仕事だけでジルが付き合う訳では無いのも本当だけどね。

 

「使えそうな物は価値を概算し、買い上げた事にすればいい」


 先日買い取った、魔物の血を使わない安価で大量に出来る人工魔法銀(ミスリル)の製法などとか、あの子を相手にしていると、雑談交じりに、とんでもない物が平気で出てくるからね。

 おかげで、今年は確認試験と準備に取られるにしろ、来年度の魔法銀(ミスリル)の産出量が五十倍以上になる試算が出ているから、魔導具の関係で暴騰している価格も来年には落ち着くだろう。

 まったく、ウチの馬鹿息子じゃないけど、本気であの子を横に置きたくなってくるから困る。

 せめて、年齢があと十歳上で僕が十歳若かったら、あらゆる手段を使う事も考えたけど、流石にあの年齢の子を相手には色々無理だし、籠の中の鳥が逃げた出したら、身も蓋もない。

 何より縛るより放し飼いしていた方が輝く子だと、理解しているから、そんな考えは結果的に国のためにはならない。

 あの子から望まない限りは、僕から動く事はない。

 まぁ、そんな事はないだろうけどね。






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― 新着の感想 ―
[一言] 急に爪なめ始めたかと思た
[一言] 「……僕も状況証拠までしか掴めれなかったのだから、爪が甘いと言えば爪が甘いんだけどね。」 →「・・・詰めが甘いと言えば詰めが・・・」
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