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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第三章 〜新米当主編〜
260/977

260.身に付く原因を発見です。彼方にも身に付いたようですが。





「……痩せられたというより、引き締まりました?」

「ゔっ」


 久しぶりに見たルチアさんは、なんと言うか以前より立派な身体になっていた。

 ふんわり可愛い女性の雰囲気のままに、討伐騎士団のお姉様方以上の身体付きに。


「全部、ユゥーリィさんのせいですっ!」


 はい、何故かプルプルと震えながら、可愛くキレられました。

 なんでも、甘味のドライフードの開発に入って以来、味見や失敗品の処分だので、どうしても甘い物を食べる機会が増えてしまい、増えた体重を元に戻すためと、新たに摂取せざるを得なかった甘味の栄養価を消費するために、鍛えざるを得なかったとか。

 別に味的に失敗してなければ、屋敷の女中(メイド)さん達に協力してもらうとかあったのでは?

 ……既に犠牲者となり、ごく偶になら良いけど頻繁には困ると、食べ物を持って屋敷の中に入る事を禁じられたとか。

 まぁ、仕事の内容柄、廃棄の出る量も出る量ですし、確かに甘味を毎日食べてたら、そうもなるかも。

 なら、問答無用にドライフードにすれば日持ちしますし、普段の消費用にしてもらえれば引き取り手は幾らでもあると思いますよ。

 例えば、王都の騎士団とか。

 最近、何故か(・・・)甘味男子が増えているみたいですからね。

 ここの騎士団の方達も、密かにいると思いますよ、甘い物好きな男性陣。

 ……もっと早く教えて欲しかったと。

 すみません、もっと頻繁に顔を出せていたら良かったのですが。


 こんこん。

「ルチアさん、今日は余っているのはないでしょうか? ぁっ」


 そこに聞き捨てならない台詞と共に、従者教育を終えた様子のジュリが入ってきて、私に気が付き硬直する。

 私自身はジュリが少しくらいポッチャリさんでも気にしていないのに、ジュリがすぐ太っただの騒ぐから、仕方なしに協力していると言うのに、この子は……。


「そっかーっ、最近、食事に気を付けていても、ジュリの体重が増えて、その度に手間隙の掛かる痩身料理を作る羽目になる原因は、此処でしたかー。

 買い食いが出来ないように、お小遣いを取り上げても、お腹すいたとダラけた様子がないから変だとは思っていたんですよね」

「…あっ、…その、これは」


 痩身料理は、必要な栄養素はそのままで、栄養価を減らしつつも、美味しく腹持ちを良くするために、本当に手間が掛かるんですよね。

 なにせこの世界、幾ら私が前世の知識を持っていようとも、一から作らないといけない訳ですから、本気で大変なんですよ。

 一人鉄●腕D●AS●の世界ですよ。

 魔法がなかったら、本気でやってれません。


「ルチアさん」

「以後、ジュリエッタさんに食べ物は与えません」

「そ、そんな。

 処分を手伝ってほしいとお誘いしてくれたのは、ルチアさんからじゃないですか」


 まぁ、その辺りはルチアさんの先程の話で想像はついていたけど、其れは其れ、此れは此れ。

 なんにしろ、味以外の失敗品の処分方法は確立したので、今後ジュリに態々分け与えないといけない物もありません。

 あと、味の失敗した物や野菜クズもドライフードにしてもらえれば、此方で処分する宛がありますので、ある程度量が纏まった所で連絡をくだされば取りに来ます。


「ジュリ、お小遣いは戻しますから、みっともない事は止めてください。

 あと、あまり甘くはありませんが身になりにくいオヤツも作りますから、其れで我慢しなさい。

 でないと、ルチアさんにお願いして、特訓してもらいますよ」


 ルチアさん、ほんわか系の可愛い顔をして根が軍人ですから、肥満対策に今の引き締まった身体を見ても分かるように、特訓内容はブートキャンプかそれ以上、おそらく私なら一日を待たずして死ねるレベルだと言う事は、簡単に想像できる。

 とりあえず私にできるのは、以前にルシードの港街に行った時に見つけた天草もどきから作った寒天を使って水増ししたお菓子や、この世界では飼料に使われている大豆を使ったお菓子。

 他にも魔物の領域で見つけたバナナもどきも使えそうですね。

 此方は此方で手間は掛かるし、ダイエット向けのお菓子はあまり得意ではないけど、ジュリの笑顔のためなら、たいした手間ではありません。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

【グットウィル子爵領】



「お姉様、お久しぶりです」

「ユゥーリィも元気そうね」


 以前と違い数ヶ月ぶりではあるけど、お姉様は相変わらず……あれ?

 お姉様、お太りになられました?

 ……違うと、二人目がいると。


「其れは、おめでとうございます」

「ありがとう。

 まだ、そう目立たなから分からないかと思ったけど、分かっちゃったわね」

「そりゃあ、抱き心地に違和感がありましたから。

 でも、其れなら、もっとそうっと抱きしめなければいけませんでしたね。

 申し訳ありません、お姉様」

「大丈夫よ、あれくらいは。

 別に飛びついて来た訳ではないし、これでも二人目だから、前ほど神経質になってないわ」


 ちなみに旦那さんであるグラードさんは、国境沿いの砦の職場への単身赴任中。

 と言うか前回は、私が来ると言う事で態々休みをとって戻って来てくれていたみたい。

 貴族としての務めと言えば、休みは取りやすいらしいですからね。

 ……つまり仕込んだのはその時と。

 人のお姉様に、なんて事をするのかと思うと、色々と複雑です。

 いえ、其れ以前に夫婦なので、当然といえば当然なんですけどね。


 すりすりすりっ

「どうしたのよ、そんな甘えて」

「ん、お姉様の匂いと、温もりだなって思って」

「もう、いつまで経っても子供なんだから」


 匂い付けです、マーキングです。

 あれ、どうしたんですジュリ、いきなり抱っこして。

 別に私そこまで子供じゃないですよ。

 ああ、あまりお姉様のお腹に、負担をかけないようにと言う事ですか。

 其れもそうですね。そう言う訳でいい加減に離してもらえると。

 また飛び掛かるかもしれないからって、……私、犬や猫ではないですよ。


「ふふふっ、仲が良いのね。

 さぁ、お義父様が、屋敷の中でお待ちになっているわ」


 突然の訪問で、屋敷の敷地の門戸でまで迎えに来てくれたお姉様に導かれて、久しぶりにグットウィル家のお屋敷にお邪魔する。

 ジュリじゃないけど、妊婦であるお姉様を、あまり夏の陽射しの中に晒しておく訳にはいきませんからね。

 相変わらず綺麗な庭が見える案内されたラウンジ兼客間に通され、そこでお待ちになっていたラルガード様に、急の訪問になってしまった事を先ずはお詫びする。


「なに、コンフォードと此処までの距離を考えれば当然のこと。

 子爵は忙しい身の上だと噂は聞いておるし、事前に連絡を寄越さなんだのは、その時間を惜しんでの事だと理解できる。それも、我が家の事を考えての事だとな」

「ありがとうございます。

 より早い開発に取り掛かれればと思いまして。

 内容としましては、以前に手紙でお知らせした物になりますが、詳細は此方に」


 秘書役のジュリに渡してもらった書類には、グットウィル家の得意な草花を使った産業の発足の内容と契約内容。

 この世界ではまだない、水蒸気蒸留法による精油と芳香蒸留水の精製。

 其れをこの世界特有の魔導具で高効率化した蒸留窯の貸与と、精油と芳香蒸留水の一定量を購入し、其れを私の店である【花の滴】で使用し、グットウィル家の精油と芳香蒸留水を材料に使っている事を宣伝する。

 その際、基本的な精油と芳香蒸留水の使用例も提供するので、その後で人気が出て事業拡大した場合、増産に必要な蒸留窯は販売。

 得た利益の数パーセントを私の方に還元する契約。

 その他細かい規約が書かれた書類を一読したラルガード様は此方に視線をやり。


「魔導具を使わない製法まで記載されている上に、この程度の利益還元で良いとは、随分と当家に都合が良いように思えるが」

「書類に記載されているように、魔導具を使った物と使っていない物では、取れる量以外に品質に差があります。

 その差を利用して、貴族向けの高額商品、一般裕福層向けの低価格商品と使い分けが出来ると思います。

 利益還元が低いのは、事業を拡大する上で多額の資金が必要になると思われるからと、貴族間の商品保護のための約束事である二十年に関係なく、この事業をグットウィル家が続ける限り利益還元をし続ける契約だからです。

 あと、その際に資金が足りないようでしたら、低金利でお貸しする事も可能ですよ」

「ふぅ……、我が家は本当に良い嫁を貰い受けれたようだな」


 そうは言ってくれるけど、私としては事業丸投げで、完成した物を使わせてもらう上、利益も得られる美味しい商売です。

 確かに全て自分の所でやれば、得られる利益は数十倍だろうけど、それだけの人手も労力も時間も私にはない。

 なにより、お姉様がこの家でより大切に扱ってもらえるのならば、私としては全然惜しくない訳で。

 とりあえず基本契約は、受け入れられたようなので、私はジュリに視線を送り新たな書類を渡してもらう。


「先ずは来年度の頭から、月毎に書かれた草花の精油と芳香蒸留水、そして規定量を納入する契約書です。

 料金はやや安めだと思いますが、これも利益還元の一つとお思いください」

「……なるほど、ただ甘いだけではないと言う訳だな。

 了承した、これでも十分に利益が見込める金額ではあるな」


 これだけの庭園を持っているだけあって、リストに書かれた植物を育てるのに幾ら掛かるのかを理解されているし、街道沿いの街の領主だけあって、精油と芳香蒸留水を精製するのに必要な薪代や人件費が幾ら掛かるかの概算が早い。

 最初はともかく、事業が波に乗れば、私が提示した相場よりも安くなるであろう金額でも、利益が出ると判断される辺りは流石だと言わざるを得ない。


「事業が波に乗るまで、最低限の利益を子爵が保証してくださっていると思えば、安い物だろう。

 心配すべきは、子爵の持つ店だか、安心してもよろしいのかね?」

「出来たばかりのお店ですので、疑念にお持ちになるのも理解できます。

 なんでしたら、この場で来年分の料金をお支払いする事も可能です。

 それと、詳しい事は申し上げられませんが、あのお店は国の計画の一部が絡んだお店ですので、その計画がある段階になるまでは潰れる事はないとも考えております」


 良い商品を提供しているつもりではあるけど、この世界は良い商品を提供するだけでは生き残れない。

 流行は貴族が生み出し、価値を決める物。

 社交界であのお店の商品は駄目だと大きく広がれば、其れで終わってしまう恐ろしい世界でもある。

 でも逆に言うと、あのお店に利用価値がある内は、そう言う噂が広がる事はない。

 無論、其れに胡座を掻く事なく、悪いところがあるならば、すぐさま対策を取るつもりだけどね。


「いや結構。

 当家にも、其れなりに誇りがある。

 嫁の実家の関係者にそこまで甘える訳にはいかん。

 此方に関しては、あくまで商売として付き合わせていただこう」

「失礼いたしました。

 お互いに良い商売になる事を」

「良い商売になる事を」





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