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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第三章 〜新米当主編〜
258/977

258.やっちまったぁ……、漫画ではよくある話ですが、まさか其れを経験するとは。





 ちゅんっ、ちゅんっ。


 そんな鳥の鳴き声に、ふと目を覚まし身体を起こすけど、何故か身体がどうにも重い上に頭が痛い。

 久しぶりに風邪でも引いたのかと思ったけど、其処で、昨夜はジュリに付き合って御酒を飲んだ事を思い出し、だとしたら此れは二日酔いかな?

 同い年ジュリが一足早く誕生日を迎え、祝いに戴いたワインを一本空けたのだけど、前世の記憶を持つ私からすると、たかがワインを数杯飲んだだけで、翌朝に響く程深酔酔いするなんて、此の身体、どれだけ虚弱体質なのかと呆れてしまう。

 うん、お酒は成人してからと反省。

 確か、二日酔い解毒の魔法で楽になるはずなので、魔法を施した所で、今の状況にふと気がつく。


「……ぁっ」


 ええ、裸です。

 スッポンポンです。

 おまけに隣では、同じように裸で可愛い寝息を立てていたりする。

 ……そして思い出しました。

 そのなんと言うか、お酒の勢いと言うかどうかは分からないけど……。

 幸いな事に、同性同士なので、男女の関係と言う訳でないのでセーフ。

 中身が男なので、決してセーフとは言わないけど、私の精神的な意味でセーフ。

 触れ合っただけで、ちょっとした女の子同士のスキンシップの激しい奴です。


「……言い訳だと思うけどね」


 とりあえず落ち着こう。

 昨夜はお酒に乗った勢いで、こんな事になったのは事実。

 何方かが始めた事かなんて、ハッキリとは覚えてはいないけど、この際は其れはどうでもいい事。

 ただ、まぁなんとなく色々とやったのは覚えてはいるし、酔っていて流されたとは言え、拒絶せずに受け入れていたのは確か。

 と言うか、一方的にやられていただけな気がする。

 そもそも前世ならともかく、今世では私はそういう事は未経験なので、経験豊富なジュリに敵う訳がないし、小柄な私では組み伏せられたら体格では勝ち目がない。

 はっきり思い出せるのは、ジュリとの口付けが物凄く気持ち良かったのと、耳元で囁かれるたびにゾクゾクしたのに反して、身体が意思に反して勝手にビクビク跳ねて怖かった事だけ。

 何度も言うけど、少し激しい程度のスキンシップです、擽りっこです、親愛のキスです。

 少なくとも此方から何かやったような記憶は……いまいちない。

 まぁ無いだけなのだろうけど……。


「よし、平謝りして、なかった事にしよう」


 私もジュリもまだ未成年なので、こ言うのは早い。

 いえいえ、大人ぶった事を言うのではなく、中身は大人ですので正論を言っているだけです。

 そもそも私はともかくとして、ジュリはあんな事があったとはいえ、ジュリ程の良い子なんだから、誰かと結婚できる可能性はある。

 無論、政略結婚で無理に誰かの所に嫁に出すなんて真似はしないし、例えペルシア家が馬鹿な真似を言い出したら、其れこそ私が使える権力の全てを使って黙らせてやるだけの事。

 それにジュリの心の傷が癒え、誰かをジュリが好きになるかもしれない。

 だから、その時はちゃんと応援して見送ってあげたいと思うもの。

 私自身、中身が男だから、ちゃんと男女で結ばれて欲しいと思っている。

 ♂×♂は、私が知らない所で勝手にやってくれと言いたいし、その逆は……。

 少なくとも、身体が女で中身が男である私の異常な性癖に、ジュリみたいな良い子を巻き込む訳にはいかない。

 この子は身体は大きくても、まだ中身は子供と言えるんだから……。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

【早朝鍛錬】




「どうしたの? 珍しいわね」

「この間、早朝鍛錬サボってからおかしいけど」

「稽古に身に入らないようだし、今日も手合わせは止めだな」

「そうだな、大怪我をしかねん」


 アドルさん達に言われるまでもなく、ここ数日の早朝鍛錬は、基本的な運動だけで終わっている。

 其れと言うのも、私が少しだけ気落ちしているからだ。

 理由は……その、ジュリを怒らせ中で、色々と気不味い。

 従者としては、きちんとしてくれるし魔法の鍛錬もいつも通りなのだけど。


『私はユウさんに謝られる事なんて何もありませんし、あの晩の事はお酒が切っ掛けだったとは言え、私の想いである事に何等変わりありません』


 なんと言うかその、あの晩の事が平行線で。

 私としてはジュリの将来を考えての事なのだけど。

 ジュリはジュリで開き直ったのか。


『どうしても受け入れられないと言うのであれば、はっきりと言ってください。

 私と私の家の事は気にしなくていいですから』


 別にジュリの事が嫌いという訳では無いし、かと言ってジュリが好きと言っても、そう言う感情なのかと問われれば少し疑問があるのが本当のところ。

 ただ、恋人かはともかくとして、側にいて欲しいのは間違いなく、本心と言える訳なので、間違ってもジュリを拒否している訳ではない。

 ジュリの想いが嬉しくないと言ったら嘘になるし、ジュリに対してそう言う感情が全くないと言っても嘘になる事は自覚しているから。

 ……ただ、もし彼女の想いにはっきりとした拒絶の意思を見せたら、ジュリは従者を辞めるつもりでいる気がする。

 無論、彼女の立たされている立場からしたら、そんな事が許される訳がないのだけど、そう言う問題ではない。

 かと言って、こんな事は誰にも相談できない訳で。

 もし相談するとすると、……故郷にいる彼女しか無いのだけど、何故か其れは其れで別の意味で終わった気がしない訳でも無い訳で。

 そんな袋小路な状況と想いの思考の果てに、良い解決が簡単に出る訳ではなく、つい胸元を開けて、彼女との繋がりである首飾りを見つめてしまう。


「こらっクソ兄貴、見ないのっ!」

「ユゥーリィ、見えてる見えてる」


 胸元の服を引っ張り過ぎたのと、私が地面に座って身体を休めていたのもあって、どうやら立っている人達から、隙間から見えている状態だったみたい。

 別に下着をつけているから、私としては欠片も気にしていないのだけど、犠牲者になったギモルさんには申し訳ないと思ってしまう。

 とりあえず身嗜みを整えて話題の変更。


「そう言えば、夏の休暇まで一月半程だけど、皆んなの予定は?」

「セレナとラキアがまだ学習院生だからな、去年と一緒だ」

「実家に顔見せて鍛錬三昧」

「家の手伝い三昧でもあるけどね」

「近場の山で狩猟でもして、小遣い稼ぎかな。

 実家にいる間は、食費も宿代も掛からねえし」


 四人とも、家を出る事は決まってはいても、ギリギリまでは貴族として家の仕事の手伝いはさせられるらしい。

 だけど、アドルさん曰く、ちゃんとお小遣いと言う給金を多めに貰えるので、親として出来る最後の施しなのだろうとの事。

 四人も其れが分かっているから、子供として親に甘えてみせる姿を見せるのだと思う。

 一度、家を出てしまえば、貴族の家としては、もう他人扱いになってしまうから。

 この学習院にいる高位貴族や中位貴族の子女は、なんやかんや言って家を出る事になったとしても、運営している商会の中に入ったり、下位貴族の家に入ったり、親戚筋の庶民の店で働いたり嫁いだりする人が多く、中には店や商会ごと与えられて家を出ると言う人もいるとか。

 でも子爵家ともなると、中々そこまで出来る裕福な家は少なく、四人の家もその例に漏れず、親子でいられるのは、一番年下のラキアが成人するその日までと決められているらしい。

 其れが分かっているからこそ、四人は子供ながらに自分達の未来を決め、将来に向けて日々真面目に自分を磨き続けている。


「ユゥーリィ達は?」

「今年はポンパドールの方に行ってみようかなって」

「うわぁ、遠っ!」

「フォルスまでは、空間移動の魔法で一瞬だから」

「ずるっ!」

「狡く無い、魔導士の特権」

「其れでも結構な距離があるだろ?」

「その気になれば一日中、馬が駆けるより速く走れますから」

「「「「……」」」」

「でも、其れをやるとジュリが付いて来れないですけどね」


 冗談は置いておいて真面目な話、ジル様がフォルスから船を出す予定があると言うので、其れに便乗する予定。

 昨年の航旅中で魔物の襲来があった件で、船には良い思い出はないのだけど、アーカイブ公爵家に技術移譲したジェット水流機構を魔導具化した物を、十人規模の小型艇に二機も搭載した船で、真面な手段で手に入れられる魔石を材料にした魔法石では、これ以上の大きな船では、効率が悪く航行には向かないとの事。

 所謂、高速船なので、もし昨年みたいな事があっても、私とジュリが其処に魔法を付加してやれば、まず振り切れる。

 試験運行はしているものの、実質的な初航海になるので、意見を聞きたいと言う名目で声をかけられているけど、私の夏の長期休暇に合わせているあたり、初航海の予定そのものを私に合わせたのだと思う。


「そう言う訳で、数人なら、お友達も誘って良いと言われているけど?」

「「「「むりむりむりっ」」」」

「ジルドニア・ラル・アーカイブって、この国の宰相だろ?」

「そんな方と一緒って、心臓に悪過ぎっ」

「肩が凝り過ぎて死んでしまうわ」

「親父や兄貴達が知ったら、死んでも断れって言うに決まっている」


 ジル様、宰相モードの時は恐れ多いけど、近所の気難しいけど実は根の優しいお祖父ちゃんモードの時は、結構、付き合いやすい方ですよ。

 色々知識も豊富で話も上手いですし、話していて飽きさせません。

 少なくとも陛下とジル様と、どっちが話していて疲れないかと言うと、ジル様の方が何倍もマシです。


「いや、比較対象がそもそもオカシイから」

「仕方がないじゃないですか、向こうが絡んでくるんですから。

 陛下を黙らせる良い方法とかって、ありませんかね?」

「不敬すぎて何も言えないって」

「聞く相手が間違っているわ」

「そんな怖い相談は無理っ」

「頼むから、一般人の会話で願いたい」


 私もそちら側の人間なのに、……皆、冷たいなぁ。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

【深夜】



 眠れない夜を過ごしながら、寝台の上で想いにふける。

 白く長い髪を手悪戯で弄りながらも考えるのは、当然ながらジュリとの事。

 ジュリの気持ちは嬉しいし、嫌な訳ではなく、むしろジュリみたいな可愛い子に思いを寄せられて、頬がついつい緩んでしまう。

 ただ、本当にそれで良いのかと思ってしまうだけ。

 前世で男の記憶を持っているから、男相手は無理と言う私の歪んだ性癖に巻き込んでしまっても良いのかとも思う。

 幾ら中身が男でも、私は本当の男にはなれないし、当然ながら男と女の関係にはどうやってもなれないからね。

 なにより前世の彼女のように、本当に好きな人が出来たからと、去って行かれる事が物凄く怖い。

 なら、ジュリとは恋愛でなくていい、私は、ただ一緒にいられるだけで十分。

 あんな風に壊れるくらいなら、最初から、そんな物はいらない。

 其れじゃダメなのなかなぁ?

 ねぇ、エリシィー、……私どうしたら良いと思う?





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