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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第三章 〜新米当主編〜
255/977

255.ちょっと、お節介な心配と、貴族としての心配。





「そう言えば、ヴィーはちゃんとレティシア様と話をしているの?」

「えっ? なんでいきなり、レティの事が?」

「ん〜、ちょっと心配になっただけ」


 陛下への定期報告が終わった後、ジュリと合流がてらに街へ買い物。

 定期的に来る事で、季節の食べ物を補充。

 収納の魔法があるので、腐る心配がないからね。

 そして当然ながら、道案内兼護衛として、最近は討伐騎士団の方が付いてくるのだけど、今日はヴィーとジッタの番らしい。

 たいていは女性の隊員であるお姉様方が多く、男性隊員だと、この二人が当たる事が多い。

 元々顔見知りと言う事もあって、気を使ってくださった上での人選なのだろうと思う。


「一応は、定期的にお茶をしている」


 うん、何というか面倒臭そうな雰囲気を感じる。

 私に説明すると言うのではなく、そのお茶そのものが、義務的な感じのようにね。


「まぁ、侯爵家のお嬢様だと、こうやって街中を歩くと言う訳にはいかないかもしれないけど、護衛を影ながらつけて、と言うのも違う雰囲気があって良いんじゃないのかなって」

「そ、それは……、色々と大変そうだし」


 うん、やはり面倒臭そうだ。

 公爵家の次男と侯爵家の次女なんて、完全な政略結婚以外の何者でもないと思うけど、それでも婚約する事に頷いた以上は、もっと積極的になっても良いと思う。

 相手が嫌な人間と言うのならともかく、二度ほど会って話した感じ、多少思い込みが強いところがあるものの、それ以外は可愛くて素直な良い子そうだったし、何より私と違って純粋で捻くれていない。

 まぁ、ヴィー自身も、浮気疑惑を掛けられていて、面白くないのかもしれない。

 それに、今は小隊長を任されるようになって、仕事が色々と面白くなってきている頃だろうから、尚更の事なのだろう。


「良い子なんだから、ちゃんと幸せにしてあげないと」

「お、俺はユ、ユゥーリィのこ・」

「ユウさん、此方に葡萄が出てますわ」

「えっ、もうこんな時期に? 知らない品種かな?」


 ジュリに言われて、お店を覗いてみると小粒だけど確かに葡萄がある。

 まだ出始めるまで一月以上あるのに珍しいと思っていたら、どうやら、南の国からの輸入品で収納の魔法持ちを雇った高級フルーツのため、値段がとんでもない。

 別にお金には困ってはいないけど、このお値段を出してまで食べたい物でもないのでパス。

 ジュリも、その辺りは分かっているはずなのに、珍しいわね。

 その後、市場や、幾つかの薬剤や素材を扱うお店を回って、今回の買い物はこんなところかな。

 実際、私の収納の魔法の中には、私とジュリだけなら数年分は軽くある食料はあるけど、種類が豊富にある事には越した事はないので、多分これからも増え続けると思う。

 この後は【花の滴】(フラワードロップ)に行っても良いし、レイチェルさんの顔を見にいても良いけど、ヴィー達が付いてきても、あまり面白くないだろうし。

 ……よし、やっぱり決めた。


「もう少し買い物するけどヴィー達も良いかしら?」

「もちろん」

「本日は何処までついて行きますよ」


 どこかの変態残念M王子が言うと変な勘ぐりしてしまうけど、流石にジッタ達がそう言う事を言っても、何処にも変に捉える要素がないので安心できる。

 そんな訳で言質を取ったので、裏路地の方に入り込んで、空中に大きな穴を開ける。


「おいおい、此処は街中だぞ」

「大丈夫、陛下から許可は戴いていますから」


 空間移動の魔法で繋いだ先は港街のフォルス。

 此方は流石に街の外だけど、本来は街中での空間移動の魔法は御法度。

 だけど私の場合、自室と秘密基地もとい、秘密の研究所を行き来するのに、一々街の外に出て空間移動の魔法を使うのは面倒だろうと言う事で、街中での空間移動の魔法を使う事を認める許可書を戴いている。

 流石に王城内は、転移の間以外での使用は問題になるので駄目だけど、私ならば悪用する事はないだろうと言う事で特別な計らいらしい。

 無論、悪用なんてする気はありませんよ。

 其処までしたいような事なんてないです。精々が乱用するだけです。

 こらっ、其処、呆れないの。

 とにかく、目指すは市場。

 この時期なら、夏牡蠣も始まり始めているだろうし、港街だから新鮮なお魚も多い。

 二人共、お魚は美味しくないと言う間違った認識を改めさせてあげるから、今夜の夕食は楽しみにしてなさいよ。

 さぁジュリ急ぐわよ。

 とっとと買って帰らないと、夕食の準備が始まっちゃうからね。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

【討伐騎士団、王都師団、団長室】




「何時も、美味い食事を作ってもらってすまないな」

「いえ、私が勝手にやっている事ですし、むしろ調理人の方達に御迷惑話をお掛けしていて、申し訳ないとも思っています」

「なに、良い勉強になると言っていた。

 今日も川魚の臭みを消す処理方法や、香草を使った調理方法を教わったと聞いているぞ」

「基本的には、綺麗な水に入れて数日泥を吐かせれば、臭みの殆どは消えますし、これからは納入する商会にそう指示をしておけば、だいぶ違うかと」


 実は今日の料理の半分は新鮮な海の幸ではなく、食べ慣れているはずの湖のお魚。

 最初にヴィー達の話を聞いて、陛下に会う前に厨房の調理人の方に基本的な処理方法を話しておいた。

 たまたまその日は川魚を出す予定だったらしいので、試すとか言っていたので、其処で私が思いつきで、追加で新鮮な海の魚を買ってきて、騎士団の皆さんに見せびらかせてからの調理。

 大半の隊員達は、海の魚を食す機会が殆どないためか、全部海の魚だと信じて疑わなかったみたい。

 ええ、いつも以上に量があったにも関わらず完食です。

 いつもなら多少は残り、川魚を出す日は更に残ると言うのに。

 元々騎士団の人達は身体が資本なので、一人分の量がかなり多いため、用意しておく量が多いと言うのもあるけど、出す料理によって残る量の差は酷かったらしい。


「多少臭みがあっても、油で揚げてしまえば、大分違いますから、今度はその辺りを纏めたレシピも持ってきます」

「ありがたいが、その辺りはまた本でもしてくれ、知識の安売りはすべきではないし、我等のみがそれを享受するのも気がひける」


 まぁ流石にヴァルト様とか、お姉様方には気がつかれたけどね。

 後で、こっそりと、どう臭みを取ったか聞いてきたくらいですから。

 ……え〜と、ヴァルト様の家にも本を予約って。

 私、本屋さんではないですよ。

 いえ、持ってきますけど。


「では頼む、あまり侯爵家の力で割り込みを掛けるのも、批判を受けるのでな」


 だから直接と言うのもどうかと思うけど、ヴァルト様は其処で視線でもって、己が従者に指示を出し人払いをし私に視線を移したので、私もジュリに視線を送り、退出を促す。

 入口のドアは半ば開けたままとは言え、これでこの部屋の中には私とヴァルト様の二人のみなのだけど、例の計画の件だろうか?


「先日、ある貴族から回状が回ってきてな。君の仕業か?」


 ヴァルト様の言わん事に何となく察しがついたし、人払いをした意味も理解し、その事に感謝をする。


「ええ、公の場で人の従者を辱めようとしましたので、徹底的に叩きました」


 私の従者であるジュリとその実家であるペルシア家の事は、ヴァルト様は当然知っておられるはず。

 だからこそ、先程の質問だろうし、少なからずも、その事で被害を被ったのかもしれないと、謝罪の意味を込めて事情を説明する。

 そして一通り説明を終えたあとヴァルト様は深く息を吐き出し。


「なるほど、ルーシャルドの催しで、そのような真似をするなど、この処遇も当然と言えよう。

 このバルタザール家の長男に嫁いだ娘は、当家の寄子の親戚筋でな。

 子はまだ故に家に戻すか、次の当主候補になった次男にそのまま嫁がせるか話が分かれていてな、事情を一応は聞いておきたかっただけだが、嫌な事を話させたな」

「いえ」


 この件での一番の被害者は、まず間違いなく、あの馬鹿に嫁いだ令嬢なのだと思う。

 人生を狂わされたと言ってもいい。

 でも夫であるあの馬鹿に付いて行かなかったというのは、結局は夫婦ではあっても、それだけの関係でしかなかったのだろう。

 正直、その令嬢には申し訳ないと思うし、哀れだとも思うけど、当事者である私にはそれを口にする権利はない。


「それで、肝心なのが、まだやるつもりなのかと言う事なのだが」


 ああ、確かにそれは肝心な確認だと思う。

 でも、不要だ。

 こう言っては何だけど、ジュリとバルタザール家の一件は、ペルシア家とバルタザール家の家同士の取引。

 いくらその事に腹ワタが煮えくり返ろうが、その事に対して何かを言ったり報復するのは筋違いでしかないし、そんな事をしてもジュリの一件が無かった事になる訳ではない。


「もともと、向こうが黙っているのであれば、私から何もする気はありませんでした。

 たとえジュリの過去がどうあれ、私の大切な従者である事には違いありませんからね。

 それに、彼女に対して契約以上の事を仕出かしたのはあの男であって、家ではない。

 それだけの事です」


 だから、ジュリの口から詳細の一部を聞いた今、目の前にあの男がいたら冷静にいられる自信はないけど、でもそんな事をすればきっとジュリが悲しむ。

 私にそんな真似をしてもらいたくないと。

 あの日のようにね。


「なら先方にそのように伝えておくが、良いのかね?

 今の君の価値を考えれば、伯爵家の一つ二つ潰す事くらいは可能だぞ」

「そんな真似は不要です。

 ただ伝えるのであれば、ついでにお願いしたい事があるのですが」

「なんと?」

「此方は謝罪しませんし、其方も謝罪は不要。

 当家と当家の者と、其方の家とは過去においても未来においても、何ら関係が無き事を望みますと」


 今回の一件がなくても最初からそのつもりだった。

 ジュリの過去に繋がる家とは、関わる気もなかったし、極力避けるつもりでもいた。

 例え社交界で顔を合わす事になったとしても、唯の社交辞令。

 別れた瞬間に、記憶から消し去れば良いだけの事だと。

 だから今回の一件で、元凶がいなくなった今、それまで以上にそれがしやすくなっただけに過ぎない。


「了解した。

 最初は心配もしたが、不要だったようだな」

「家ごと潰すと?」

「いや、其方は心配していなかった、ただの確認事項だ。

 心配していたのは、君が貴族と振る舞えれるのかだか。

 君は少女であろうとも、貴族(こちら)側の人間なのだと実感させてもらった所だ」


 ……ご冗談を。





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― 新着の感想 ―
[一言] 廃嫡を宣言された時のがっかりした様子を覗いてみたかったです。
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