254.会う度に成長していますよね?
「また、大きくなっていない?」
「んっ、そうかな?」
「ええ、間違いなく」
数ヶ月ぶりに会ったヴィー達は、間違いなく大きくなっていた。
もっとも数ヶ月では、驚くほど大きくなる事はないのだろうけど、実際にすぐ目の前に来たのは半年ぶりなので、ますますそう思ってしまう。
だってね、あきらかに視線の角度が変わっているもの。
男の子の十六歳前後は、それこそ成長期真っ盛りだから大きくなるのは分かるけど、もう百八十を軽く越してるよね?
「周りには、もっと筋肉を付けろと言われているぐらいなんだけどな」
いや、それ背が高くなったから、それを支えるための筋肉を付けろって事だから。
身長に合わせて手足が長くなっているから、剣を振るうにしろリーチが長くなっている分必要な筋肉量も大きく増えているからね。
ぺとぺと。
うん、よく締まっている。
叩いたらコンコンと鳴りそうなぐらい鍛えてある。
これはあれかな、鍛えてはいるけど、成長の方に栄養を使っちゃって、筋肉を作る材料が足りていないと言う事かな?
「ユ、ユゥーリィ?」
「あっ、擽ったかったですか?」
「い、いや少し恥ずかしかっただけで」
うーん、腹筋や腕に触れるぐらいは、普通のあるだろうに。
そう言うのよく見かけるから、恥ずかしがる程ではないと思うのだけど。
とにかく人の事は言えないけど、ヴィーにしろジッタにしろ、もっとお肉とパンを食べないと。
できれば、質の良いタンパク質が多い魚肉の方が良いと思うけど。
「いや、魚あまり好きじゃないから」
「匂いもありますし」
「……それ、鮮度が悪いか、泥を吐かせていないだけですから」
流石に数十キロも離れた海からの物はともかくとして、この王都の近くには大きな湖があるため、其処から結構な魚貝類が獲れているし、大きな湖がある以上は当然ながら大きな川もある訳で。
一応は王都だけあって、豚も鶏もそれなりに繁殖されていはいるけど、肉よりも魚の方が安くて量も多いのは王都でなくても常識なのに。
そこはそこ、ヴィー達もやはり貴族のおぼっちゃまらしく。
「肉は好きだけど」
「流石に量を食べると腹がもたれますしね」
「それ良い所を食べ過ぎ、もっと脂身の少ない所で良いの」
一般的に脂身はラードや獣脂として使われるから前世の霜降り肉とかはなく、パサパサの部分よりは、口当たりが良くてそれなりに脂肪分がある肉の方が、貴族には好まれているのは知ってはいるけど、普通の牛や豚でそう言う部位って少ないんですよね。
地方の討伐騎士団が聞いたら、怒り狂いそうな事を口にする二人に、私も少しばかり呆れる。
ええ、二人じゃなくて、此処の食事事情に。
それはともかくとして、まともに模擬戦をするのも半年ぶりかな。
腕は鈍ってはいないつもりだけど、忙しくて魔力制御の鍛錬時間が減っているのは確かなので、勝ち越してはいても油断はできない。
ヴィーとジッタは心も身体も技術も成長期真っ盛りだからね。
体重なんて、私の三倍とまで行かなくても、それに近いだろうし。
え? 私の体重? それはもちろん乙女の秘密です。
「はぁ……、やっぱ今回も勝てなかったか」
「と言うか良い勝負にもなってませんでしたね。
腕そのもの以前より、反応が速すぎますよ」
「確かに、あきらかに手加減されて、此方の連携を待たれていたのに、尽く避わすか反撃されたからな」
いいえ、言うほど手加減してませんよ。
それに間違いなく二人の攻撃も速くなっていたし、それ以上に連携が上手くなっていましたから、私としても良い練習になってます。
丁度ジュリが火力以外は制限なしで相手をすれば、ジュリの良い鍛錬相手になるかもしれないけど、ジュリは生憎、ベル君に会いに家族のところに行っているし、従者教育の一環で、ドルク様の所の兵や、偶にルチアさんが相手をしてくれているみたいなので、余計なお世話か。
「あきらかに実戦経験の質の差ね」
「あっ、お姉様」
「ユゥーリィ様、お久しぶりです」
力尽きて地面に座り込んでいる二人に付き合って、私も地面に腰掛けて話している所に、討伐騎士団の華である、お姉様方の内の一人が話しかけてくる。
「ユゥーリィ様は、小さい頃から狩猟の経験があるのでしたよね?」
「ええまぁ、と言っても弓矢による狩猟なので、別に実戦という訳では」
「それでも、相手を良く見て、次の動きを予測して動く癖はついている訳ですし、時には向かって来られる事もあった訳でしょ?」
まぁ、狩猟をしていれば、それくらいの事は当然ある訳で。
当時はお父様達には黙っていたけど、野犬や狼の群れに囲まれる事も、何度かあったのも事実。
だって言ったら、二度と山には行かせて貰えなくなる事は目に見えていたからね。
「しかも魔物とも、何度も単独で相手にしているんですよね?」
「美味しいお肉と、暖かな毛皮になりましたけどね」
「「「……其処?」」」
其処って、狩猟なんですから普通はそう言う物でしょ。
好き好んで、討伐なんて大変な事はしませんよ。
そう言う事は専門家にお任せします。
「いや、そうなんだがな」
「言われる通りではあるんですが」
「貴女に言われると納得いかないわよね」
「何故っ!?」
「「「強いし」」」
別に最強を目指してません。
趣味の狩猟を楽しむために、身につけた程度の技術です。
もう、こんな話をしていても私が虐められるだけなので、話題の変更。
水分代わりに、収納の魔法から果物を出して、サクッと包丁を入れる。
私の頭の大きさくらいもあるマンゴーに似た大きな赤い果実で、マンゴーより少しだけ酸味はあるけど、瑞々しさがあって食べやすい果物。
そんな訳で、お姉様もどうぞ。
今は貴族の令嬢のお茶会ではないし、討伐騎士団に所属しているだけあって、手掴みもオーケーなお姉様とヴィー達。
無論、私も手掴みで戴く。
フォークを出そうと思えば出せますけど、此処は野外の雰囲気を楽しんで、敢えてワイルドに。
「うまいっ」
「ですね」
「甘さと酸味と瑞々しさが、私、これ好きよ」
「なんなら、幾つかお分けしますよ」
「それは嬉しいわね、私だけこんな美味しいもの食べたなんて知ったら、後で皆んなに何を言われるか」
ちなみにこの場合の皆と言うのは、他のお姉様方の話であって、討伐騎士団の皆んなではないのは言うまでもない事。
でも、言うけどね。
一個が大きいので、大きな一切れが三切れずつある。
……えっ、大きさの差がおかしいって、私、そんな大きなの三つも食べれませんから、一切れを三等分です。
「貴女はもう少し食べた方が良いと思うけど、無理して身体を壊しても仕方ないわよね。
それはそうと、これってリズドの街の名産?
今度、取り寄せたい味だし、干しても美味しそうだから」
「いえ、死の大地産です」
「「「……はっ?」」」
「死の大地に行った時に自生していたので、たくさん採って来ちゃいました」
この間のバナナもどきもそうだけど、あの森にも美味しい果実や山菜がたくさん溢れているんですよね。
魔物が良く成長する訳だと思うぐらい沢山あるし、魔物の領域って採っても、比較的すぐに生えてくるから、よほど採り過ぎない限り大丈夫なんですよ。
特に領域の奥に行けば行くほど、その傾向が強いみたいですし。
「普通の野山は、其処まで食べ物に溢れていないですけど、魔物の領域って水さえ確保してあれば、基本的に飢える事がないじゃないかと思うんですよね。
そう言う訳で、とりあえずこれだけあれば、全員に行き当たりますかね?」
収納の魔法から、幾つかの種類の死の大地産の果物の取り出して山を築く。
大丈夫ですよ、位置はマーキングしてありますから、空間移動の魔法でまた採りに行けば良いだけですから。
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【国王執務室】
「何か、いつも討伐騎士団にばかり美味しい物を食べて狡くない?
そう言う訳で、僕にもお裾分けを」
「耳が早いのにも驚きですが、一国の王にお裾分けを要求される事にも驚きです」
「大丈夫、君にだけにしか言わないから。
そう、君は僕の特別なんだ」
「気持ち悪いので、二度とそう言う事を言わないと誓って下さるなら、お分けします」
いったい人を揶揄って、何が其処まで面白いのだろうと思いつつも、ジル様から最近陛下の犠牲者が減ったと言われれば、これくらいの事は我慢しますけど。
……本当、何が面白いのか?
「いや、面白いでしょ」
やかましい。
人の思考を読まないで、とっとと報告書を読んでください。
とは流石に言わないけど、そう言わんばかりに冷たい視線を送ってあげる。
まぁこの面の皮の分厚い陛下には何の効果もないでしょうけどね。
はぁ……。




