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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第三章 〜新米当主編〜
254/977

254.会う度に成長していますよね?






「また、大きくなっていない?」

「んっ、そうかな?」

「ええ、間違いなく」


 数ヶ月ぶりに会ったヴィー達は、間違いなく大きくなっていた。

 もっとも数ヶ月では、驚くほど大きくなる事はないのだろうけど、実際にすぐ目の前に来たのは半年ぶりなので、ますますそう思ってしまう。

 だってね、あきらかに視線の角度が変わっているもの。

 男の子の十六歳前後は、それこそ成長期真っ盛りだから大きくなるのは分かるけど、もう百八十を軽く越してるよね?


「周りには、もっと筋肉を付けろと言われているぐらいなんだけどな」


 いや、それ背が高くなったから、それを支えるための筋肉を付けろって事だから。

 身長に合わせて手足が長くなっているから、剣を振るうにしろリーチが長くなっている分必要な筋肉量も大きく増えているからね。


 ぺとぺと。


 うん、よく締まっている。

 叩いたらコンコンと鳴りそうなぐらい鍛えてある。

 これはあれかな、鍛えてはいるけど、成長の方に栄養を使っちゃって、筋肉を作る材料が足りていないと言う事かな?


「ユ、ユゥーリィ?」

「あっ、擽ったかったですか?」

「い、いや少し恥ずかしかっただけで」


 うーん、腹筋や腕に触れるぐらいは、普通のあるだろうに。

 そう言うのよく見かけるから、恥ずかしがる程ではないと思うのだけど。

 とにかく人の事は言えないけど、ヴィーにしろジッタにしろ、もっとお肉とパンを食べないと。

 できれば、質の良いタンパク質が多い魚肉の方が良いと思うけど。


「いや、魚あまり好きじゃないから」

「匂いもありますし」

「……それ、鮮度が悪いか、泥を吐かせていないだけですから」


 流石に数十キロも離れた海からの物はともかくとして、この王都の近くには大きな湖があるため、其処から結構な魚貝類が獲れているし、大きな湖がある以上は当然ながら大きな川もある訳で。

 一応は王都だけあって、豚も鶏もそれなりに繁殖されていはいるけど、肉よりも魚の方が安くて量も多いのは王都でなくても常識なのに。

 そこはそこ、ヴィー達もやはり貴族のおぼっちゃまらしく。


「肉は好きだけど」

「流石に量を食べると腹がもたれますしね」

「それ良い所を食べ過ぎ、もっと脂身の少ない所で良いの」


 一般的に脂身はラードや獣脂として使われるから前世の霜降り肉とかはなく、パサパサの部分よりは、口当たりが良くてそれなりに脂肪分がある肉の方が、貴族には好まれているのは知ってはいるけど、普通の牛や豚でそう言う部位って少ないんですよね。

 地方の討伐騎士団が聞いたら、怒り狂いそうな事を口にする二人に、私も少しばかり呆れる。

 ええ、二人じゃなくて、此処の食事事情に。

 それはともかくとして、まともに模擬戦をするのも半年ぶりかな。

 腕は鈍ってはいないつもりだけど、忙しくて魔力制御の鍛錬時間が減っているのは確かなので、勝ち越してはいても油断はできない。

 ヴィーとジッタは心も身体も技術も成長期真っ盛りだからね。

 体重なんて、私の三倍とまで行かなくても、それに近いだろうし。

 え? 私の体重? それはもちろん乙女の秘密です。




「はぁ……、やっぱ今回も勝てなかったか」

「と言うか良い勝負にもなってませんでしたね。

 腕そのもの以前より、反応が速すぎますよ」

「確かに、あきらかに手加減されて、此方の連携を待たれていたのに、尽く避わすか反撃されたからな」


 いいえ、言うほど手加減してませんよ。

 それに間違いなく二人の攻撃も速くなっていたし、それ以上に連携が上手くなっていましたから、私としても良い練習になってます。

 丁度ジュリが火力以外は制限なしで相手をすれば、ジュリの良い鍛錬相手になるかもしれないけど、ジュリは生憎、ベル君に会いに家族のところに行っているし、従者教育の一環で、ドルク様の所の兵や、偶にルチアさんが相手をしてくれているみたいなので、余計なお世話か。


「あきらかに実戦経験の質の差ね」

「あっ、お姉様」

「ユゥーリィ様、お久しぶりです」


 力尽きて地面に座り込んでいる二人に付き合って、私も地面に腰掛けて話している所に、討伐騎士団の華である、お姉様方の内の一人が話しかけてくる。


「ユゥーリィ様は、小さい頃から狩猟の経験があるのでしたよね?」

「ええまぁ、と言っても弓矢による狩猟なので、別に実戦という訳では」

「それでも、相手を良く見て、次の動きを予測して動く癖はついている訳ですし、時には向かって来られる事もあった訳でしょ?」


 まぁ、狩猟をしていれば、それくらいの事は当然ある訳で。

 当時はお父様達には黙っていたけど、野犬や狼の群れに囲まれる事も、何度かあったのも事実。

 だって言ったら、二度と山には行かせて貰えなくなる事は目に見えていたからね。


「しかも魔物とも、何度も単独で相手にしているんですよね?」

「美味しいお肉と、暖かな毛皮になりましたけどね」

「「「……其処?」」」


 其処って、狩猟なんですから普通はそう言う物でしょ。

 好き好んで、討伐なんて大変な事はしませんよ。

 そう言う事は専門家にお任せします。


「いや、そうなんだがな」

「言われる通りではあるんですが」

「貴女に言われると納得いかないわよね」

「何故っ!?」

「「「強いし」」」


 別に最強を目指してません。

 趣味の狩猟を楽しむために、身につけた程度の技術です。

 もう、こんな話をしていても私が虐められるだけなので、話題の変更。

 水分代わりに、収納の魔法から果物を出して、サクッと包丁を入れる。

 私の頭の大きさくらいもあるマンゴーに似た大きな赤い果実で、マンゴーより少しだけ酸味はあるけど、瑞々しさがあって食べやすい果物。

 そんな訳で、お姉様もどうぞ。

 今は貴族の令嬢のお茶会ではないし、討伐騎士団に所属しているだけあって、手掴みもオーケーなお姉様とヴィー達。

 無論、私も手掴みで戴く。

 フォークを出そうと思えば出せますけど、此処は野外の雰囲気を楽しんで、敢えてワイルドに。


「うまいっ」

「ですね」

「甘さと酸味と瑞々しさが、私、これ好きよ」

「なんなら、幾つかお分けしますよ」

「それは嬉しいわね、私だけこんな美味しいもの食べたなんて知ったら、後で皆んなに何を言われるか」


 ちなみにこの場合の皆と言うのは、他のお姉様方の話であって、討伐騎士団の皆んなではないのは言うまでもない事。

 でも、言うけどね。

 一個が大きいので、大きな一切れが三切れずつある。

 ……えっ、大きさの差がおかしいって、私、そんな大きなの三つも食べれませんから、一切れを三等分です。


「貴女はもう少し食べた方が良いと思うけど、無理して身体を壊しても仕方ないわよね。

 それはそうと、これってリズドの街の名産?

 今度、取り寄せたい味だし、干しても美味しそうだから」

「いえ、死の大地産です」

「「「……はっ?」」」

「死の大地に行った時に自生していたので、たくさん採って来ちゃいました」


 この間のバナナもどきもそうだけど、あの森にも美味しい果実や山菜がたくさん溢れているんですよね。

 魔物が良く成長する訳だと思うぐらい沢山あるし、魔物の領域って採っても、比較的すぐに生えてくるから、よほど採り過ぎない限り大丈夫なんですよ。

 特に領域の奥に行けば行くほど、その傾向が強いみたいですし。


「普通の野山は、其処まで食べ物に溢れていないですけど、魔物の領域って水さえ確保してあれば、基本的に飢える事がないじゃないかと思うんですよね。

 そう言う訳で、とりあえずこれだけあれば、全員に行き当たりますかね?」


 収納の魔法から、幾つかの種類の死の大地産の果物の取り出して山を築く。

 大丈夫ですよ、位置はマーキングしてありますから、空間移動の魔法でまた採りに行けば良いだけですから。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

【国王執務室】




「何か、いつも討伐騎士団にばかり美味しい物を食べて狡くない?

 そう言う訳で、僕にもお裾分けを」

「耳が早いのにも驚きですが、一国の王にお裾分けを要求される事にも驚きです」

「大丈夫、君にだけにしか言わないから。

 そう、君は僕の特別なんだ」

「気持ち悪いので、二度とそう言う事を言わないと誓って下さるなら、お分けします」


 いったい人を揶揄って、何が其処まで面白いのだろうと思いつつも、ジル様から最近陛下の犠牲者が減ったと言われれば、これくらいの事は我慢しますけど。

 ……本当、何が面白いのか?


「いや、面白いでしょ」


 やかましい。

 人の思考を読まないで、とっとと報告書を読んでください。

 とは流石に言わないけど、そう言わんばかりに冷たい視線を送ってあげる。

 まぁこの面の皮の分厚い陛下には何の効果もないでしょうけどね。

 はぁ……。





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― 新着の感想 ―
[気になる点] 現実だと脂身が多い肉をありがたがるのは日本くらいですが、この作品では脂身のある肉が高級品扱いなんですね
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