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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第三章 〜新米当主編〜
253/977

253.乙女の悩みは、どの世界でも共通みたいです。





 ジュリをたくさん傷つけてしまったあの日の夜、私はジュリと一夜を共にした。

 そこ、変な事考えないでよね。

 純粋に清い一夜を共にしただけですよ。

 一緒にお布団で眠っただけで、同衾とは違います。

 ただ、あの日はジュリに色々と、嫌な記憶を思い出させてしまったかもしれないからと言うのもあるけど、あの男を前にして、青い顔をし震えるジュリが脳裏から離れなかったから。

 要は自己満足のためです。

 私は自分勝手な人間ですから、私の自分勝手な同情心に、正真正銘、傷ついているジュリを巻き込んだだけ。

 ジュリの好きな料理を作って、一緒に食事して。

 態々そのためだけに、空間移動の魔法で秘密基地に行って、広い温泉で一緒にお風呂に入って。

 お風呂上がりに、甘くて冷たいパフェを一緒に食べて。

 そして、一緒にお布団に入って、手を繋いで眠っただけです。


『……ひぐっ、……ひぐっ』


 真っ暗の部屋の中、昼間の一件で嫌な過去を思い出したのか、震え、咽び泣くジュリに気が付き、優しく抱きしめながらそっと後頭部を撫でてあげていると、次第にポツリ、ポツリと語るジュリ。

 時間系列はバラバラで、感情ばかりで繋がらない言葉。

 薬で動けなくされ、無理やりで怖かった事……。

 両親に売られた事実が悲しかった事……。

 誰も助けなんて来る事なく、嫌な日々が続き苦しかった事……。

 嫌なのに……、駄目なのに……、それでも薬と酒と毎日の行いで……。

 聞いているだけで、苦しかった。

 聞いているだけなのに、胸が痛く悲しかった。

 本当に苦しんでいるのは、ジュリなのに自分の事のように感じて涙が止まらない。

 こんなのは欺瞞なのに……。

 なのにジュリを慰める言葉の一つも出てこずに……。

 ただ、手を繋いで抱きしめ合うように、一緒に泣く事しか出来なかった自分が悲しかった。


「そう言う訳でで清い夜でした」

「何がです?」


 いえ、自分を納得させるための独り言です。

 朝起きたら、二人で抱き合っていた、……まぁ、これはいい、一緒に寝ていたし、私も色々と感情一杯一杯であんまり覚えていないけど、ジュリを抱きしめてあげていたのは確かだしね。

 ただ、なぜか半裸状態だった事が謎だったけど。

 暑くて服を脱ぐ癖はないはずだけど……。

 まぁ考えても仕方ないし、私がジュリに変な真似をした記憶はないので、まぁそれしかあり得ない訳なんだけど。

 やだなぁ~、脱ぎ癖なんて悪癖、本当に癖にならなければいいけど、と悩みながら朝食の準備を完了。


「他は何を作るんです?」

「他も何も朝食は目の前にあるだけ」

「た、足りませんわ」

「昨夜はたっぷり食べた上に、甘味もどっさりだったから、何処かで調整しないと」


 ぶ〜、ぶ〜、と文句を言うジュリを宥めながら、何時もより少なめの朝食を取る。

 ええ、なんとでも言ってください。

 必要以上に甘やかすのは、昨日で終わりです。

 はい、最後にこれね。


「さすがはユウさんですわ」

「ゆっくり飲んでね」


 バナナに似た植物繊維たっぷりで甘味のある果物とヨーグルトのスムージーは、自然の甘みがある上に、腹持ちがいいので、ジュリの空腹を少しは紛らわせてくれると思う。

 そう言う訳で今日から三日間、買い食い禁止ね。

 これ、命令。


「横暴ですわっ」

「知らん」


 むしろ私は、昨日のジュリに付き合って、いつもよりかなり多くに食べたため、胃がもたれてます。

 多く食べたと言っても、ジュリより半分以下ですよ。

 まったく、この子の胃袋どうなっているのかしら。

 ……私の胃袋が小さいだけって。

 ジュリ、摘んであげましょうか?

 そのハミ肉。


「な、ないですわ、そんなものっ!」

 むにっ!

「ひゃ〜っ!」


 はい、また当分、頑張ろうね。

 言っておくけど昨日だけが原因じゃないからね。

 普段の節制の問題だから。

 私は気にしないけど、それなら太ったって騒いで、私の料理が美味しいからだなんて文句は聞かない。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




「と言う事が昨日は朝から在ったのだけど、二人はそんな心配ないの?」

「あるに決まっているでしょうが」

「毎日が我慢の日々よ」


 毎回毎回、凝りもせずに太ったと騒いではダイエットを繰り返すジュリに、セレナとラキアはないのかなぁと聞いてみたら、二人はどうやら節制に気を付ける派らしい。


「太って動きが鈍ったら、死活問題だからね」

「食べたら、その分動くのが基本」

「でも甘いの食べちゃうと、それだと追いつかないし」

「我慢よ、我慢」


 そう言いながらも、カスタードプリンを口の中に放り込む二人。

 二人の向こうではアドルさん達も食べていたけど、とっくに食べ終わって、手に持っているのは空の容器とスプーン。

 私の分は、今日の昼のお茶の時に食べるので、二人の話し相手。


「うーん、太った事がないから」

「くっ、この万能文化白娘めっ」

「それって自慢?

 なら喧嘩を売っているとみるけど?」

「そもそも太る程食べれないのが実情だけどね」

「それはそれで、嫌ね」

「食べれないと言うのも辛いよね」


 もし此処で一緒になってプリンなんて食べたら、間違いなく朝食が食べきれなくなって、不審に思ったジュリに先にプリンを食べた事を白状させられる。

 経験談です。

 そして一人だけ狡いと何故か倍要求されます。


「でも、あの子、そんなに太っているように見えないけど」

「そうよね、寧ろスタイルは羨ましいぐらいに良いわよね」

「目立つ所が目立つから、目立ちにくいだけでね。

 あと自己目標が高いのもあるかな」

「「「「あぁ〜、確かに」」」」


 そして、目立つ所が目立つに納得する四人。

 アドルさん、ギモルさん、女の子のスタイルの事で、横あいから納得しないの。

 そんなのだから、セレナとラキアに怒られる羽目になるんじゃない。

 ギモルさんも、ラキアをそう邪険にしないの。

 妹にはお兄ちゃんは格好良くいて欲しいものなんだから。

 ……余計な事を言うなって、絶対違うって、此れは情けない兄の性格を矯正しているだけって。

 はいはい、何方でも良いけど、ポカポカぐらいなら良いけど、

 ドスッ、とか、ガスッ、は音がヤバイからもう少し手加減してあげてね。


「いやっ、止めてくれよっ!」


 やだっ、ラキアに恨まれたくないもん。

 実際二人が言うようにジュリは本人が思っているほど太ってはいないし、むしろスタイルはかなり良い方。

 昨日お肉を摘んだのだって、指先でちょこっとだし、あれくらいは女の子なら普通だと思う。

 まぁ目の前の二人は、力を入れると腹筋が割れるので例外だけど、これは何方かと言うと職業柄みたいな物だからね。

 もっとも、正確には職業は学習院生だけど、半分冒険者みたいな物だから仕方がない。

 そう言う訳で、私としてはジュリが理想としているスタイルから外れてくると、ちょこちょこ気にして突っついてあげている訳です。

 私自身は別に全然気にしないんだけどね。


「「ないわ〜」」


 うん、何故か二人に怒られてしまう。

 全然、気にしないなんて相手に言っちゃダメって。

 別にジュリが太ってても痩せてても、大切な友人で従者である事には違いないって意味なのに、何故、そこまで怒られないといけないのか、……解せぬ。






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― 新着の感想 ―
[一言] 「くっ、この万能文化白娘めっ」 これ何人の読者が判るんでしょう。
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