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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第三章 〜新米当主編〜
252/977

252.彼女は私の大切な友人で、可愛い従者です。





「申し訳ありません。

 せっかくの催しの席を汚してしまいまして」

「構わぬ。とにかく今は着替えを」


 先ずはこの屋敷の当主であるエマヌエル様とレーギル様に、騒ぎを起こしてしまった事を謝罪をする。

 その後、女中(メイド)に案内されて屋敷の一室をお借りして着替えをするのだけど、服の替えと布巾はあるので問題ないとだけ伝え、私とジュリだけにしてもらい、着替えながらジュリに謝罪をする。

 ジュリに嫌な思いをさせてしまった事。

 あんな場所で、ジュリの過去を口にさせてしまった事。

 私のために、怖いのを我慢して、動こうとしてくれるジュリを抑え込んでしまった事。

 とにかくジュリを傷つけてしまった事を、全部謝罪する。


「もう、分かってませんっ!」

「え…と、ごめん」

「意味も分からずに謝られても、なんの意味もありませんわ。

 私が本当に怒っているのは、幾ら私のためだからと言って、自分を平気で犠牲にする事ですっ」

「うん、ごめん。

 でも、それに関しては少しも後悔していない。

 だって、ジュリはもっと傷ついていたんだから」


 はい、涙目になって怒られました。

 でも幾らジュリに文句を言われ、怒られ、反省を促されようとも、同じ事があったら、多分同じ事をする自信がある。

 だから私としては謝るしかない訳で。


「……はぁ、もう、ユウさんは反省する気がないですのね」

「反省はしているよ。

 ジュリを傷つけた事と、ルーシャルド家の催しで騒動を引き起こしてしまった事については」

「それ以外には、反省する気がないと」

「こればかりは性格と思って諦めて」

「……はぁ」


 深々と思いっきり溜め息を吐かれてしまうけど、こればかりは自業自得なので仕方がない。

 なので冷たい視線だろうが、呆れられた表情だろうが、甘んじて受けるつもり。


「……私の事、……知っていたんです…ね」

「まぁ、以前に概略だけね

 だから、今、こうしてジュリが横にいてくれている事が私の答え」


 あの馬鹿に『それが何か?』と言った返答は、私の答えでもある。

 ジュリの過去に、何があろうが関係ない。

 彼女を受け入れると決めた時点で、何があっても彼女を守ると決めたのだから、あの馬鹿の言ったような、汚れた者を家に入れたとか下らない事を気にする気など最初からありはしない。


「私は、あの人が言ったように、何人もの…」

「ジュリっ!」


 だからつまらない事を言おうとするジュリを制して、思いっきりジュリを抱きしめる。

 ブロック魔法で膝カックンをして、無理やり跪かせた事は横に置いておいて、ギュッと、それでいて優しく抱きしめる。

 魔力の循環制御でジュリを落ち着かせるための物とは違う、親愛の込もった抱擁。

 額と額を優しく触れ合わせたり、頬と頬を擦り合わせながら。


「ジュリは汚れていない。

 たとえ過去に何があろうと、私にとってジュリはジュリ。

 こうして心から抱きしめられる、私の友人であり、信頼する可愛い従者。

 この言葉じゃ駄目かな?

 ジュリの事は大好きだし、これからも、ず〜っと一緒にいたい」


 友人として、主人としての親愛を示すように、ジュリの髪と額にそっと唇を当てながら、これからもずっと、側にいて欲しいとジュリにお願いする。

 彼女の掌を合わせるように、優しく掴みながら。


「私のそんな我が儘じゃ、駄目?」

「……もう、本当に、狡いですわ。

 こんな風にされたら……。

 そんな風に言われたら……。

 頷くしかないじゃないですか」


 うん、狡くて結構。

 それでジュリが此れからも私の側にいてくれるなら、私は幾らでも狡くなってみせるし、その謗りを甘んじて受ける。

 私は自分勝手で我が儘だから、我が儘を通すには、それくらいの事は必要だもの。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




「と言う事で、私はあの馬鹿を潰します」


 着替えを終えた後、事情聴取というか事態の説明をするために、ルーシャルド侯爵家の屋敷の一角でエマヌエル様とレーギル様に事の顛末を簡単に説明する。

 御迷惑を掛けた上に、この催しに呼ばれた人間を貴族として潰すつもりなので、その説明と謝罪の意味も込めての事。


「バルタザール伯爵家は当家の派閥ではない、唯の客人故に勝手にすれば良い。

 当家主催の催しで、あのような品のない言葉を大声で口にした挙句に、目上の者に彼処までの無礼な振る舞いをするなど、貴族社会としてはあり得ぬ事だからな」


 爵位としては私の持つ子爵より、伯爵の方が当然ながら偉く。

 叱責や教えと言う意味では、先程起こった事ぐらいはあり得る事だし、周りも見て見ぬ振りをして受容する。

 でも逆はとんでもない話で、貴族社会としてはあり得ない暴挙。

 だけど、相手がその家族であれば話は別になる。

 例えば、公爵家の嫡男であろうとも、公的な場においては男爵家当主の方が立場が上になり、先程のような事も、貴族社会の身分制度という意味では許される事。

 もっとも、実際の力関係もあるので、そんな事はまず起きないけどね。

 そして、今回は当然ながら、伯爵家嫡男より子爵家当主である私の方が身分制度として格上であるため、貴族間の力関係などを無視すれば、貴族会議で今回の件を訴える事ができる。

 無論、貴族会議という名の裁判は、まずは身分制度が優遇される。


「ウチに加え、コンフォード、ヴォルフィード、ガスチーニ、アーカイブが後盾になっている上、陛下のお気に入りであるお主に正面から喧嘩を売るなど、早々にいなくなった方が、バルタザールとしては寧ろ安泰だろう」

「父上、後盾の力がなくとも、相手にならないでしょうね。

 彼女はただ一人の家ですから、彼女以外に攻めるべき相手がいませんし、彼女の関係者は何処かの家の関係者で手出し不可能。

 無論、このような事で、彼女の実家に手を出すなど陛下の怒りを買うだけの事。

 経済力で攻めようとも、落ちぶれている伯爵家程度では、飛ぶ鳥の勢いである彼女を相手にはどうしようもない。

 かと言って決闘を申し込んでも勝てはしないでしょうし、彼女も受けないでしょう。

 一度、決闘を断られた以上、後は貴族会議の結果に任せると言えますからね」


 そのとおり、力関係では今回ばかりは、皆様に御協力をお願いするつもりでいたのだけど、どうやら不要らしい。

 実際、影響がない訳ではないらしいけど、これくらいの事は貸し借りにするまでもない事なのだと遠回しに言われてしまう。


「まぁお主の情報を、バルタザール家の当主に少しばかし教えてやれば、貴族会議を待つ事なく、廃嫡と回状だろうな」


 レーギル様の言うとおり、バルタザール家は私の後盾を恐れて、バルタザール家は一切関係ないと言う形を取る事になると思う。

 貴族会議の結果は、あの状況で目撃者も多数となれば、火を見るよりも明らか。

 むしろ公的な記録が残る事を考えたら、バルタザール家としては裁判沙汰は避けたいところ。

 なら一番簡単なのが、そんな人間はバルタザール家にはいない事にする手段。

 騒動を引き起こした嫡男を廃嫡して家から追い出し、更には国中の貴族達にそんな人間はバルタザール家にはいませんよと言う手紙を送る。

 実際、回状までやるかはともかくとして、そこまでされたらバルタザール伯爵家の嫡男は、完全に貴族として浮き上がる事はないし、家や親族で庇われる事もなくなるため、完全な貴族落ちと言えよう。


「大丈夫ですよ。

 今まで真っ当に生きていれば、私みたいになんとでもなるものです」

「「「……」」」


 いえ、何でそこで呆れたような目で見るんです?

 私、家を出て平民になっても、色々な人が助けてくれたので、なんとかなりましたよ。

 ……真っ当に生きてきてなければですか?

 そんなものは知りませんよ。

 自業自得ですし、それこそどうなろうと知った事ではありません。

 だいたい、ジュリをあんな風に虐めた人間を、なんで私が心配をしないといけないんですか。

 大切で可愛い従者を守った。

 私はそれだけです。






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