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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第一章 〜幼少期編〜
25/976

25.狂騒曲へのお誘い? そんな趣味ありません。





 あっと言う間に過ぎる山奥の短い夏。

 ようやく魔力循環の常態化に慣れ始め、睡眠時間にもなんら不足を感じなくなった頃。

 秋の収穫が少しずつ始まり、お姉様の御輿入れまで後一月半を残すばかりとなる。

 シンフェリア領内は、これからが一年でもっとも忙しい時期で、実りの季節を迎えようとしている。

 ただでさえ忙しい時期だと言うのに、我が家ではお姉様の婚姻の準備が更に忙しさに輪をかけていた。

 元凶は……、不本意ながら私だけどね。


「化粧品全種類なんとか初期開発分は間に合いそうです。

 ただ数は流石に……」

「百あればいいわ。

 今回は話題を広げられれば十分だし、勝負は春からよ。

 それまでに生産体制を整えましょう」

「装飾品はミレニアの分以外に十セットあれば、貴族や商会を魅せられるわ。

 でも、出す時期には気をつけないといけないわよ。

 見せるのはあくまで式の後の披露宴の中盤からよ。

 当日の主役はミレニアなんだからね」

「光舞ドレスはミレニアのドレスだけで宣伝できます。

 使用条件が厳しいから、貴重性を高められて好都合よ。

 どうせ年に数着しか売れないでしょうから、思いっきり高く売りつけましょう」

「ミレニア、靴の作り直しも何とか間に合うってさ」


 我がシンフェリア家の居間は、既に作戦会議室兼新商品の試作品の展示場と化している。

 家族一丸となって、ミレニアお姉様の結婚式を新商品の宣伝の場にするためだ。

 結婚式を新商品の発表の場にするのはどうかと思うのだけど、既に先方の了承済みだとか。

 むしろ結婚相手の家の力を見せる良い場になるので、先方としても色々と都合が良いらしい。

 そう言う意味では、貴族同士の結婚というのは、家同士の繋がりなのだと実感する。


「ああ、もう一月早く判っていたら、ここまで急ピッチにならなかったのに」

「そこっ! 文句言わないの!

 ユゥーリィのおかげでこんな良い商品が出来たのよ。

 文句を言う暇があったら、これ持って工房に行ってきなさい!」

「次期当主の俺が使いっぱしりか、先が思いやられる」

「ああ~、悪い事は言わん、男爵家の当主なんてそんなものだ。

 今の内に諦めておけ」


 家族以外にも、商会や工房の人達が忙しそうに出入りしている様子を他所目に、甥っ子のアルティアをあやしながら、魔法で実力がバレない程度に光石を粉末加工をしている。

 ええ、白状させられましたとも。

 いつかの化粧品の騒ぎの後、しっかりと私の様子がおかしかった事に気がついていたミレニアお姉様に、根掘り葉掘り新製品のアイデアを吐かされました。

 光舞ドレスと名付けられた輝くウェディングドレス。

 宝石の下に小さな粒の光石を仕込んで輝かせる装飾品の数々。

 靴も光らせれる事を言い忘れてたと、ついこの間話した時には、既に夜になっていたにも関わらず、お兄様が工房まで職人を呼びに走らされていた。


「……しかも、二度目のやり直しだものね」


 いくら新製品を宣伝したいと言っても、盛り過ぎて全身が光るような服はどうかと思って、要所要所に成るように作り直させた事は流石にやりすぎたと思うものの、あんな下品に全身を光らせるような服で、お姉様の結婚式に泥を塗るのは許せなかったので、必要な事だと思う事にした。

 と言うか、最初から構想の意匠図を全て渡しておけばよかったと反省。

 所詮、子供の言う事だと思われると思って、敢えて口を出さなかったのだけど。

 やはり人間、目新しいものを見つけると、それにだけ目が入ってしまい全体のバランスが疎かになってしまうものらしい。

 その事にウチの職人は大丈夫なのかと思ってしまったものの、あの意匠図からそれ以上のクォリティーで作ってくる辺りは、流石は職人だと感心するしかなかった。

 ちなみに、私の分の白いドレスも、なんとか間に合ってしまうらしい。


「……間に合うのが良かったのか、悪かったのか」


 思わずそんな溜め息が出る。

 光るウェディングドレスこと、光舞ドレス。

 これはミレニアお姉様だけでは、その魅力は半減以下に落ちてしまう。

 ドレスの下に着るアンダーは、なんとかお姉様だけでも光らせれるけど。

 本体のドレスは、体に密着していないため、ティアラや指輪やピアスのように身につけているだけでは光らせる事はできない。

 そんな問題を解決するためには、魔法の使える人間が必要で。

 つまり当日、私がベールガールとしてお姉様の後ろに付く事になってしまった。

 ペールガールにしろペールボーイにしろ、普通はもう少し小さな子だと思うんだけど。


「……お留守番か、ペールガールかの二者択一……か」 


 こう言う貴族の結婚式において、身分の低い家である妻側の家族の参加者は限定されるらしい。

 それ以前に最近は調子が良いものの、一応は病弱な事になっている私は、お姉様の結婚式には参加できず、お留守番が予定されていた。

 病気持ちの人間が結婚式に参加する事は、本来忌避されるべき事らしいから、ある意味当然の事だろうとは思う。

 今回はミレニアお姉様が最愛の妹に見送られたい、と言うシンフェリア家の娘として最後の我が儘と言う名目になっている。

 無論、実際に私の体調が当日に崩れる危惧があるため、保険の光舞ドレス用アンダーを用意をしてある訳だけど、私が参加するかしないかでは大きく違うため、体調管理に気をつけるように厳命されてたりする。

 何故かと言うと、私なら光舞ドレスを八色に煌めかせれる。

 各場所を下品にならないように一瞬一瞬ずつ別の色にしたり、光を波のように見せたり。

 子供の頃から続けている、光石を使った魔力制御の練習の成果の集大成と言えよう。

 

「ユゥーリィの純白のドレス姿。

 私も楽しみだわ♪」

「……」


 ちなみに私のドレスの意匠は、最初からお姉様の要望で職人任せ。

 お姉様がした要望はただ一つ、自分のウェディングドレスと似た意匠の物、だそうです。

 私に自分の分のデザインを任せると、地味になるから駄目だとか。

 いえいえ、シンプルなデザインと言って欲しいです。

 まさかお姉様用にデザインした意匠がこうしてブーメランとなって帰ってくるとは……、とほほっ。

 あの、お姉様向けの意匠が、私に似合うとは限らないのでは?

 ……え? 絶対に似合うから大丈夫って、何を根拠に。

 ……もうデザイン画は見たから大丈夫と。あと自分が似合うのなら、私は大丈夫って、意味が分かりませんが。

 そもそも何を着ても似合うって、流石にそれはお姉様の欲目だと思うのだけど、此処はお姉様への恩返しの一つと思って諦めるしかない。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




「ユゥーリィ様の家は、なかなか忙しい様子で」

「ええ、まぁ。

 それなりにと言うか、かなり」


 本日は教会の行儀見習の日。

 毒による症状の違いや、緊急の対処療法を一通り学び終えたところで、今日は珍しく神父様から話題が振られる。


「まさにお祭り状態だとか聞き及んでいますが」

「お姉様の結婚式もありますし、元々この時期はどうしても」

「ふふ、それだけの問題ではないと聞き及んでいますが」


 どうやら神父様にはお見通しらしい。

 何処で情報が漏れたのかと思うものの、何処からでも情報は漏れていそうだ。

 あれだけ慌ただしければ、情報管理など不可能でしょうから。


「実は御当主から聞き及んでおりまして」


 犯人はお父様でしたか。


「アレは国内外(・・・)の貴婦人方の注目の的(・・・・)になり得るものでしょうね」


 しかも、この話の様子だと実際に目にしている可能性も。


「それにしてもユゥーリィ様はなかなかに素晴らしい」

「私がですか?」

「今回の特産品となる数々の品は、ユゥーリィ様の発案だと聞いております」

「元々この地にあった特産品です。

 私はその可能性を広げただけに過ぎません」


 お父様は、そんな事まで話されたのかと呆れてしまう。

 実際、細かい商品開発をしているのも、生産体制を整えているのも、私は一切関わっていない。

 そこまで持ち上げられるような事ではないと思うのだけど、お父様としては自慢したい親心なのだろうと心の中で溜息を吐く。


「私が素晴らしと申し上げたのは、ユゥーリィ様のそう言う所です」

「……ん?」

「失礼ながら御当主やその奥方様は、今回の件を軽く考えられている御様子」

「そうでしょうか?」

「先ほど申し上げたとおり、アレらの商品は多くの方々が求める事になるでしょうね。それこそ国内外から」

「……」

「現在作られている量産体制では、とても間に合わなくなる程と私は見ておりますが、ユゥーリィ様もそうお考えだと思います。

 なにやら、かなりの量の材料を独自に作られているとか」


 少し神父様の事が怖くなる。

 好々爺してはいても、やはりこの国の教会の中心近くにいた人間だけはある。

 教会と言う巨大な情報網を持っているだけでなく、それを扱えるための頭もあるようだ。

 しかも、人々が何を求めているかを見抜く目も。


「私が素晴らしいと申したのは、そう言ったところも含め、何を話し、何を黙っているかを理解し、実践されているところです。

 まだ幼いと言う事も差し引いても、ユゥーリィ様ほどできる方は、そうはおりません」

「買い被りですよ」


 訂正、好々爺だなんてとんでもない、妖怪爺いだ。

 雰囲気が、前世の会社の会長達と同じだ。

 この手の人間の怖いところは、表と裏の顔を思考毎完全に切り替えれる事。

 普段見せている好々爺で人の良い神父様も、こうして教会の上層部に居た頃の神父様も、ともに同じ神父様。

 きっと次の瞬間にでも、いつもの神父様のように接してくる事ができる。

 要は必要に応じて、自分を切り替えれる人間。

 全くの別人レベルでね。


「お父様も、きっと神父様を頼り(・・・・・・)にされていると思いますので、どうかこれからも、お父様の力になって戴けたらと思います。

 あと、エリシィーが固まってしまっていますので、今日のところはこの辺で」


 私の言葉に、満足ですと言わんばかりに笑みを浮かべた神父様に、いったい何が目的で仮面を脱いだのかと思わなくもないが、考えたところで分かるはずもないし、この手の人間に下手に探りを入れても此方が痛い目に合うだけ。


「ユゥーリィ様の、これからに(・・・・・・)神の祝福を」


 何がこれからだっ。

 そう心の中で吐き捨てたくなるけど、口や態度に出しても仕方ない。

 目の前の人物が、私が教会本部の司祭に、どのように診断されたか知らないはずがない。

 教会からしたら、私は残り数年の命で、それを踏まえた上での発言。

 今回の新商品も踏まえた上で、今後の利権に絡ませろと、そう言ってきた。

 しかも、敢えてこの場で言ったのは、彼女の存在。

 こちらが勝手に解釈すると判断した上で、この判断ができる人間かを、判断するための確認も含めて。


「エリシィー、結婚式が終わった後の休日に、また遊ばない?」

「ん、いいよ。なにする?」

「そうね、たまにはお菓子作りとか」

「本気?」

「本気」

「きちんと食べられる物を食べたい」

「ひどっ! その言葉、覚えていてね」


 そんな私たちの会話を、神父様は大変満足した笑顔で頷いているのを横目に、エリシィーとの話に花を咲かせる。

 神父様の思惑通りに……。






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