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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第三章 〜新米当主編〜
248/977

248.あぁ……、やっぱり会議に呼ばれなくて良かったです。





【ドゥドルク・ウル・コンフォード】視点:




「さて、最初に言っておいたけど、改めて宣言し直しておこう。

 本日、この場での出来事は、許可あるまで口外する事を禁じる」

「「「「「御 意」」」」」


 陛下の言葉に、この場に集まった者達が声に又は黙って頷く。

 殆どの者が、最初に陛下に宣言された際には何事が起きているのかと危惧した物だが、話の概要を聞いた今では、そう宣言されるのも当然だと思わざるを得ないと理解したようだ。

 この場にいるのは、現王である陛下と、次代の王であるカーライル王太子殿下、そして宰相のアーカイブ卿を始め、国政と国防を担う重臣が十三人と、古き血筋の家の当主や、その当主の代わりに呼ばれた前当主ばかり。

 いや……、正確には、古き血筋の中でも一人だけ呼ばれていない家がある。


 オルミリアナ侯爵家。


 古き血筋の五公爵七侯爵の中で、唯一領地を持たない家ではあるが、その代わり聖オルミリアナ教の本殿において、数多くの大司教を輩出し、今代においても枢機卿の地位についている。

 もっとも、その血筋ゆえに枢機卿以下の地位にいた者はいないため、その立場にあった能力と徳を積む者であるかは別の話だと言うのがもっぱらの噂。

 少なくともこの場に呼ばれていない時点で、陛下にとって信用無き者だと言う事なのは、誰の目にも確かだろう。

 だが、この中にオルミリアナ卿の息の掛かった人間がいないとは限らないが、其れも仕方かなき事。

 いくら能力がなくとも、その血と枢機卿と言う立場は良くも悪くも利用価値の高い役職だと言えるからな。

 そしてその代わりと言ってはなんだが、同じくこの計画に嫌でも関わらざるを得ないだろうフェルがこの場の席に座っているが、このような厳粛な場にも関わらず頭を掻いている辺り、かなり機嫌が悪いようだ。


「さて、資料を見て理解してもらった通り、この計画は世界を変える程の物だろう。

 そして僕も王太子も、この計画を基に今後は動くつもりだが、その前に君達の意見も一応は聞いておこうと思ってね。

 質疑を許そう、忌憚のない意見を聞かせてくれたまえ」


 まったく、水の魔法石による水問題の解決。

 確かに素晴らしいし、それが実現するのであれば、幾らでも協力は惜しまない。

 だが……、危険や様々な問題があるのも事実。


「何故、問題の人間がこの場にいないのか疑問に思いますが、その人間に説明させるのが、一番ではないのですかな?」

「彼女がこの場にいる必要がないからだ。

 確かに細かな説明は出来るだろうが、それが、今、此処にどうしても必要な事かね?

 概要と方針、そして必要な資料があれば、細かな研究成果など必要はない」

「しかしこれほど重要な事を、当人不在のままなど」

「一魔導具師でしかない彼女を国政に関わらせて何になる。

 それに、彼女は自分がやっている事が、如何に価値があるものかと同時に、危険も孕んでいるかを理解している。

 今までの様に周りの影響を考えずに、好き勝手に作ってきた魔導具師達とは違う。

 どう言う影響を齎すかを理解しているからこそ、今、こうしてこの場が開かれているのだと理解したまえ」


 まったくだ、それが故に陛下はあの娘を気に入り、色々と便宜を図っている所がある。

 無論、それだけの価値があるとも認識しての事だがな。

 そしてだからこそ、儂やフェルにも黙っていたのだろう。

 魔物と深く関わった経験を持つ儂等からしたら、反対されかねんと考えて。


「なぜ此処まで黙って計画を進められたのでしょうか?

 これほどの危険や問題を含んだ事を、勝手にやられては、なんのために我等がいるのか」

「そんなもの決まっている。

 最初から話していたら君達が反対するからさ」

「「「「なっ」」」」

「魔物は驚異だし、人間の天敵だ。

 そんな物を繁殖するだなんて知ったら、反射的にも本能的にも反対すると目に見えていたからね。

 話し合いも何もなく、頭ごなしにね

 だけど、こうして実物を見せられたら話は違う。

 現に君達と話し合いが出来ている事こそが、その証だと言えよう。

 そしてそれは、その価値があると理性が認めているって事だ、口では何と言おうともね」


 まったくその通りだとしか言いようがない。

 あんな小さな魔法石一つで、馬車の半分程の水になる。

 大樽に八つもの水を生み出せるとなれば、話は大きく変わってくる。

 そして実際それを目の前でやって見せた陛下の話には、実に説得力がある。

 これを大量生産するための準備をしており、将来的には、あれ一つを銀貨一枚、又は銅板貨数枚で買える様にまでしたい等となれば、耳も傾けたくなると言うもの。

 そして、その副産物として生まれる水を通さぬ布。

 これもまた、儂がフェルになんとか出来ぬのかと求めていた物の一つであり、あの少女が戯に作って見せた物の完成形。

 荷馬車を覆う幌に、陣を張った時に使う天幕に、個人向けの小さな幕屋に、外套等、他にも儂が思いもつかなかった様な物が、幾つも並べられている。


「しかし、もしも魔物が暴走したら」

「そのための研究だし、その研究も万が一暴走しても問題ない場所だ」

「それは何処で?」

「聞いてどうするのかね?

 止めるか? それとも技術を盗み出すか?

 少なくとも君等の領地の近くではない安全な場所だ」

「そ、その様な事は決して。

 それに我等が領地の近くではなければ良いと言う問題ではありません」

「まぁ一応は教えてあげるけど、チョッカイは禁じるよ、無論、探る事もね。

 破れば古き血筋であろうとも、処罰は免れないと思いたまえ。

 それだけ重要な計画だと言う事だ」


 まったく、人が悪い。

 処罰に関したところで陛下から凄まじい圧力を感じるが、これは確かに【威 圧】によるもの。

 あの娘が開発した身体強化の魔法の一つであり、ヴァルトとその師団が教わり修めたと聞いてはいたが、まさか陛下も身に付けられていたとは思いもしなかったが、こうしてやられてみれば、身に付けて当然の技術と言えよう。

 そしてそれだけに、陛下が本気だと示されたのだと。

 やれやれ、儂も久しぶりに初心に戻って鍛えるしかなさそうだな。


「【断罪の高台】、彼女は、その地で研究をしている。

 安心したかね?」

「「「「「っ!」」」」」


 何人かは陛下の言葉に息を飲むが、フェルの奴は深くため息を吐きながらも、小さくやっぱりかと呟いているあたり、心当たりがあったのだろう。

 だが、誰がその事でフェルを責められよう。

 西は断崖絶壁の海岸が切り立ち……。

 北は万年氷河に覆われた山脈に阻まれ……。

 南は同じく高い山と火山による溶岩で阻まれ、その向こうは砂漠ときている……。

 そして東には【死の大地】と呼ばれる、凶悪な生物が生息する魔物の領域が広がっている。

 シンフォニア王国の人々の住む町や村があるのはその更に東で、【断罪の高台】に行くにはその【死の大地】を何日も掛けて突っ切らなければならない。

 それも何もない平地での話してあって、強力な魔物の領域である【死の大地】となれば、どれほどの時間を費やす事になるか以前に、【死の大地】深部に踏み込んで生きて戻れる事自体が不可能とされている。

 おまけに北も南の山も【死の大地】程ではなくとも、強力な魔物の領域である事には違いない。

 嘗て、女だてらに稀代の魔導師でありながら旅行家だった人間が、命辛々で生還し、それまでの経験を基に幾つかの放浪記を書き上げたと言うが、恐れを知らない旅好きの魔導士が旅を辞めた理由が、その【死の大地】で自分が如何に自惚れており、矮小な存在だと知らしめさせられたとか。

 何方にしろ、下手な魔物の領域が可愛く思えるほど危険な土地の向こうにある以上、手出しなどしようがない。


「そ、その様な危険な場所にどうやって?」

「噂は聞いているだろ。

 災害級の魔物を単独で倒せる様な子だよ、しかも空間移動持ちのね。

 もし、そんな場所でちょっかいを掛けようと思ったら、それだけの事が出来る人間が必要だ。

 そんな手駒がもし君達の中にいたとしても、もったいなくて使えないでしょ、危険すぎてね。

 だから、禁じさせて貰ったのさ。

 もし君等が僕に黙ってそんな上等な駒を隠し持っていたとしても、くだらない事に使い潰して貰いたくないからね」


 あくまで我等のために……か、相変わらずそう言うところは陛下は巧いと言わざるを得ない。

 だだ、その裏にある意図は、命令と思いやりという籠の中に入れ、それでも動くのであれば、容赦をする事はないと言う事。

 何方にしろ危険ではあれど、それだけの価値はあると示し、国としての方針は示された以上は、おそらく陛下としては不退転の覚悟の上の事。

 今更、外野である我等がとやかく言った所で、それが覆る事はないだろう。

 製品の安定供給にはまだまだ時間が掛かり、解決すべき問題も多いとだけは聞いてはいるが、それはあの娘の仕事であり、この場では関係なき事。

 この場で関係するのは、国を揺るがす程の製品を世に広げる上での問題をどう解決すべきかだ。


「当分の研究と繁殖には、此方側に危険がない事は理解致しました。

 となれば、しばらくの間は魔物の繁殖の件は伏せて、作り出された物の利便性のみを広げて行くと?」

「それが一番の手だろうね。

 人間、その利便性に慣れてしまえば、中々それを手放しにくいものだ。

 その後、安全性を示しながら、順次公開してゆけば良い」

「期限は?」

「見ての通り、試作品の試用段階に入れる所まで来てはいるが、繁殖はまだ始まったばかり。

 繁殖の基礎研究で最低で二年、本繁殖に移るまで更に二年、その後は様子を見ながら施設を大きくするとは言ってはいた。

 その後、安全性が確認出来れば、大陸の内側でも繁殖が出来る様に広めたいとの事だ」

「まずは噂からでしょうが、魔物の繁殖の事実の公開まで、二年から五年でと言う訳ですか。

 中々に厳しいですな」

「だが、あまり時間を掛けていては、この価値に目を付けた隣国が黙ってはおるまい」


 どう機密を黙っていようとも、こうして人の口に上がった以上は何処からか漏れるだろうし、世に広める以上は、他国の耳にも入るのも仕方がない事だ。

 横槍や妨害が入る前に技術として確立し、世論の主要な流れを掴んでおきたい考えなのだろう。

 そこへずっと黙っていた王太子が口を開き。


「水と言うのは、我々が思っている以上に重要なものだ。

 特に砂漠の国と呼ばれる南の国は、戦を嗾けてでも欲しがる技術だろう。

 だが、逆に言うならば、それだけの価値があると言う事だ。

 我が国がより他国に対してより有利な立場に立つためにも、この技術を世に広め認めさせる事が要になろう。

 そのためには、此処に集まる皆の力を借りたい」


 やはり、そう話を持ってくるか。

 砂漠の国と呼ばれるかの国の名前と水の重要性を説けば、誰にでも水と言う価値以外にも外交の札としての価値がつく。

 そしてそこに対して消極的な意見や行動を取れば、それは国益を害する事以外に他ならない。

 しかも下手を打てば、戦になり得るかもしれない事を匂わせてまでだ。

 慎重に、かつ素早く世論を操作しろとは、中々に陛下も殿下も厳しい事を言う。

 だが、それで得られる物は大きい。

 国外に対して依り一層強い外交の札を持つ事になる上、多くの場所で水を持ち運ばなければならない事による弊害を解決する事ができる。

 そこへ再び陛下がこの場の皆に視線を送り。


「さてもう一つ重要な事を話しておこう。

 先程も少しだけ述べたが、全ての研究と供給の安定技術が完成し、民に受け入れられたのであれば、魔物の繁殖技術の提供と管理出来る者に権利を任せたいと言ってきている。

 そして水の魔法石を製造し、管理し、平等に世に供給する事もな」


 間違いなく莫大な利権と権力に繋がるだろう。

 そして今の陛下の仰り様だと最低でも二つの家にそれを任すと言う事だろうし、分散させる事で互いに監視し合うと言う手を取るのであれば、利権と権力が分かれようとも、元が巨大なだけに、それでも構わないと考える家も多かろう。


「ただし、コンフォードとガスチーニには遠慮してもらおう。

 コンフォードは既に彼女から多くの利権を得ているし、おそらくこれからも細々とした物は得られるだろうしね。

 あまり欲を掻きすぎると、皆に恨まれるだけだよ」


 言われるだろうとは思ってはいたが、これは仕方がない事。

 むしろ彼女には数多くの借りがあるゆえに、此処で協力する事になんら不満はない。


「ガスチーニ家には防水布に関する利権を譲渡する約束があるそうだから、今後、国中の防水布の製造販売の管理は君の家が管理すれば良い。

 無論、肝心の素材の供給は、権利を引き継いだ家に提供するよう約束させよう」

「過分な配慮、痛み入ります」


 二十年と言う貴族間の約束事など関係なく、この国において防水布の利権は何百年経とうとも、ガスチーニ家が担う事になれば、かなりにの大きな利権だろう。

 ましてや、ヴァルト自身も望んでいた魔導具だからな。

 実際、今回陛下が匂わせた利権は、彼女の爵位の拝命の際に後盾になった家以外の者が担う事になる可能性が高い。

 後盾になった家には、既にそれぞれ利権を分け与えられているし、今後もその事による甘い汁を多少なりとも吸えるであろう事は想像するに難くない。

 つまり当分の間、此処にいる者達は、あの娘が力を必要であれば貸さねばならないのと同時に、守らねばならない立場にあると言う事。

 全く儂もフェルも人の事は言えぬが、陛下も中々にあの娘に対して甘い。

 それだけあの娘がその力を示したと言うのもあるが、あの娘のあり方が心地良いのであろうな。

 擦り寄るのでも頼りきるのでもなく、自らを磨き続け、一人立ち続ける姿が。

 それでいて他人を尊重し、目上の者には敬意を払うが、自分の中の譲れないものに関しては断固として動く事をしない個の強さ。

 おまけに本人は自覚していないが、性格や言動も中々に笑わせてくれるから、陛下が気に入られるのも分かる。

 強いて言えば、あの娘は自分を大切にしないところがある故に、それが気かがりではあるがな。


『……ドルク様』


 ふと、怯える様に不安げに、儂の愛称を初めて呼んだ時のあの娘の姿が脳裏に浮かぶ。

 無理やり呼ばせておいてなんだが、あの時の小心者の震える姿が今でも吹き出しそうに笑える。

 未だ儂程度に過分な敬意を払ってくれるあの娘に、微笑ましくなるのも仕方がなき事だろう。






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