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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第三章 〜新米当主編〜
247/977

247.普通に見ると真面に見えるから不思議ですよね。





「なんで俺まで揃って呼ばれるんだか。

 嬢ちゃんよ、また何をしでかしたんだ?」

「さぁ、私はドルク様と一緒に連れて来いと言われただけですし、その後は時間まで自由にしていて良いと言われているので、詳しい事は知りません」


 FAXの魔導具で王都からのお知らせで、決められた日時に、ドルク様とコッフェルさんを王都まで連れてくる様に命令書が送られてきただけで、詳しい事は本当に何も知らない。

 ええ、知らないだけで、想像は付いていますけどね。

 内容としては、おそらく私が研究している事についての概要と、それらを世に出す時に混乱するであろう事に対する、事前の対策の打ち合わせだろうとだけ。

 おそらくは王都の選りすぐった重臣達と、領地持ちの公爵家と、同程度の領地を持つ侯爵家。

 つまり古き血筋の家と国の中枢を担う数人の重臣による円卓会議。

 無論、その中には私みたいな小娘が呼ばれる訳がないし、むしろ呼ぶなと言いたいので、素直に久しぶりに自由の(なにもない)時間を満喫させてもらおうと思う。


「ジュリは、実家に顔を見せてきたら、どう?

 ベル君の顔を見たいでしょ」

「ユウさんは来られないんですか?」

「うん、今回は止めておく、偶には一人で何も考えずに、ぬぼ〜としてみたい気分だから。

 あっ、これベル君へのお土産」

「偶にはゆっくり休む事も必要ですわ。

 誰がどう見ても、ユウさんは働きすぎですもの」


 チクリと嫌味を言われるけど、そこまで働きすぎている自覚はない。

 少なくとも前世ほど働いてはいないし、切羽も詰まってはいないからね。

 ただ、やはり今世の身体は体力が無いのか、魔法でかなりズルをしていても疲労を感じる事があるのは確かなので、ジュリの言うとおり、この小さな身体に対して仕事を詰めすぎなのかもしれない。

 決して、前回行った時にリベンジに燃えるベル君と賭け斗腕勝負(アームレスリング)して、なんとかギリギリに勝った褒賞として、ベル君を女装させて、その姿があまりにも似合っていたから化粧まで施して、最後には泣かせてしまった事が気不味いと言う理由ではない。……たぶん。

 それはともかくとして、少し休みたいくらいには疲れているのは本当の事。

 化粧品を扱うお店の改装計画に、従業員の教育と意識改革。

 思った以上に精神的に疲労しているのかも。

 やっぱり根本的な思考が前世の人間とは違うため、集団で教えるとなると中々に巧くはいかない。

 でもやると決めた以上はやらないとね。

 とにかく一人一人に、一つ一つ説明しながら懇切丁寧に教えていったので、今では、それなりに分かって来て貰ってきている。

 この辺りは集団教育のノウハウや知識がないため手古摺るのも仕方ない。

 だけど基本的な考え方を叩き込んだおかげで、最近は順調に進んでいる。

 その代償として、私の時間や精神的な疲労としてのし掛かっているだけ。

 でも、今が一番手を抜けない時なので仕方がない。


群青半獅半鷲ブルー・グリフォンの人工孵化も九割が無事に孵ったし、ペンペン鳥も産卵を始めた。

 群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)は、猫の体を持つくせに、何故か単独行動を好まず、元来群れで生活する生態があるためか、生まれたばかりの雛も群れで育てたりしてくれるため、繁殖する側としては大変に有り難い。

 この世界の鳥類の魔物は、だいたい年に三回も産卵をするみたいなので、そりゃあ人間追いやられるわとも思ってしまう。

 ペンペン鳥も群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)岩崖大鳥(ローックバード)皇紅雀(でぼぽ)も、私にとっては美味しいお肉ではあっても、普通の人間からしたら、どれも脅威でしかない。

 そんな訳で、だらりと地面を背にして、寝転がる姿は貴族の令嬢として在るまじき姿かもしれないけれど、生憎と此処は鍛錬場横の緑地地帯。

 誰の目がある訳でもないので自由です。


「ユゥーリィ様、はしたないですよ」


 そう言えば、騎士団のお姉様が監視兼護衛でいたっけ。

 最近気にしない様にしていたから、すっかり存在を忘れていた。

 いえ、嘘です、敢えて意識的に外していただけです。

 少なくとも男性隊員の時ではないからこそやれる事で、一緒にやってみません?

 気持ち良いですよ。


「誰かが近づいて来ないかを見張るのも仕事ですから」

「別に気配を消してさえいれば、態々こんな所まで近づいて来ないでしょ」


 自分一人消しても意味ないって、私、一応は消せますよ。

 狩猟では必要な技術なので、自然と身に付きました。

 もっとも、匂いや魔力に敏感な魔物相手には、あまり意味のない技術ですけどね。

 ……とことん、見た目に反して物騒な令嬢って。

 その感想って酷くないですか?

 ……魔物の群れを一人でなんとか出来る方が、何を今更って。

 お姉様方だって野犬や狼の群れぐらいなら、一人で蹴散らせるでしょうに、その感想は酷い。


「周りを木立に囲まれ、尚且つ小さな開けた地が点在する場所だからこそ、気配を消すのは不味い訳があります」

「そうなんですか?」


 どうやら、元々こう言う場所は人為的に作ってあって、城に忍び込んだ人間が潜みやすい場所と言うのを、彼方此方に点在してある罠地らしい。

 そしてそう言う人目に付かない場所だからこそ、昼間はこう言う場を使って仕事を抜け出して睦み合う男女が多いのだとか。


「平たく言えば、気配を消していたら、いきなり隣の平地でおっ始められる危険性があるわけでして、そう言うのを覗きたいと言うのであれば止めませんし、興味を持たれる年頃でしょうから、理解もします」

「……場所を移しましょう」


 興味がないと言えば嘘になるけど、間違ってこの身体が(ほて)ったりしたら、それはそれで堪らないので、極力そう言うモノからは避けたい。

 ジュリのストレス発散の声だけで抑えるのが大変なのに、現場に遭遇して動くに動けず最後まで覗く羽目になった日にはどうなる事やら。

 君子危うきに近寄らずです。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




「此処なら日向ぼっこしながら、そんな(・・・)心配もない場所だし、人の目にも触れない場所でしょう。

 そう言う訳で身を低くしておいてくださいね」

「……ユゥーリィ様、子供の頃はだいぶ御転婆でしたよね?」

「今も一応は子供ですよ」


 私とお姉様が次にお昼寝の場に選んだのは、何処かの演習場横の建物が立ち並ぶ屋根の上。

 建物が複雑に隣接しているのと屋根の形状上、下からこの場所を覗き見る事は不可能。

 此処なら逢い引きをする様な人達も流石に来ないだろうから、安心してお昼寝ができる。

 隣でお姉様がお昼寝なら部屋で寝れば良いのにとか言っているけど、こう言う外でゴロンと大の字になって眠るから気持ち良いんじゃないですか。

 ……日焼けすると。

 日焼け止め要ります?

 ええ、たぶん噂になっている奴です。

 収納の魔法から、普通の小瓶に入っているそれを、三点セットでお姉様にプレゼント。





「よしっ次っ!」


 暖かな春の日差しにウトウトしていると、不意に意識が浮上しそんな声が聞こえてくる。

 せっかく気持ちよくウトウトと微睡気分に浸っていたのに思っていたら……。


「そりゃあ演習場の横ですから、騒がしくなるのは当然かと」


 同じく寝転がりながらも、周りに気を配っているお姉様に言われてしまう。

 しまうけど、そんなものは関係ない。

 私は自分勝手だから、此処でお昼寝をすると決めたらお昼寝をするだけの事、こんな少し離れた演習場の声など無視してお昼寝を楽しむだけです。


「よし、いいぞっ、その踏み込みだ」

「脇が甘いあまいっ! そんな事だと得物を弾かれるだけだ!」

「一手に全てを賭けるなっ!

 必要であっても、避わされた時の事も頭の片隅に止まらせておけっ。

 今は負けても、退いて次で勝てば良いだけの事だっ」

「相手が自分だったら、どう次に動くかもっと考えろっ、そうすれば次の次の動きまで自然と見えてくるっ」


 ギンッ、ガンッと、金属が叩き合う音も、少し距離が離れているため、程よいBGMと化しているし。

 殺気立っていない純粋な闘気が心地良くもある。

 それにしても、先程からら透き通る若い男性の声は、熱心で丁寧な指導だなと感じてしまうけど、定期的に聞こえている所から、ずっと誰かの相手をしているのかもしれない。

 だとしたら、体力も相当なものだと思う。

 それにしても、どこかで聞いた事がある様な?

 気になり出したら目が覚めてきたので、仰向けからうつ伏せになり、屋根をズリズリと這って屋根の(むね)から向こうの演習場を覗き見ると。


 ん……変態残念王子?


 あの長身に深緑色の髪、一見細身には見えるけど、それは背が高いからそう見えるだけで、実際には肉厚だけど引き締まった身体の全身を使って、刃を潰した模擬剣を振るうのは、この国の第五王子であるサリュードシア・フォル・シンフォニア王子の姿。

 剣を振るってっ戦う姿は凛々しく格好良く見えるけど、おそらく見間違いではないと思う。

 だって、私が作った魔導具の眼鏡を付けているからね。


「……意外に強かったんだ」

「サリュードシア殿下ですか?

 そりゃあ一般兵達が相手では、相手にならないぐらいには強いですよ。

 魔導士殺しの二つ名は伊達じゃありませんし、将としても優秀と言う話です」


 魔導士殺しって、そんな物騒な二つ名があったのかと思いつつ、魔力眼があるのなら、未熟な魔導士相手ならば、分からない話ではないかもしれない。

 なにせ相手が攻撃しようとしているのも、そのタイミングも分かるからね。

 でも優秀……、うん、知識としては理解できるんだけど、私の中でどうにも、その二つと残念王子とが結びつかない。


「はははっ、今のは良いぞ、俺も肝を冷やした。

 ほれ、立てっ」


 体勢が崩れる事など恐れずに、自ら崩れかけた方に地面を転がって、むしろその事で膝に溜めた力を放つ事で次の鋭い一撃に繋げた攻撃を、今度は力任せに吹き飛ばして、今度こそ地面に背を付けさせた女性隊員に、褒め称えながら手を差し伸べる姿は、とてもあのセクハラ発言を繰り返していた人間と同一人物には見えない。

 それから少し見ていても、女性隊員には一定の気遣いをしながらも一隊員として厳しく鍛えている姿は、女性だからと軽視せず、むしろ尊重している様にも見える。


「あれ、第五王子の影か何かで?」

「正真正銘のサリュードシア殿下です」

「つまり私が知っている方が影と?」

「どうしても御認めになりたくないと?」

「だって、あれ、普通に格好良いし」

「ユゥーリィ様にとって、サリュードシア殿下はどう写っていたのですか?」

「変態残念王子」


 つい何の躊躇いなく答えてしまうけど、私にとってサリュード王子はそうなのだから仕方がない。

 それにせっかく王家不敬許可証書があるのだから、陛下とか他の王族にはともかく、あの王子には遠慮なく使える。

 あのどうしたんですか、頭を抑えて?

 頭痛ですか?


「……いえ、ユゥーリィ様が仰りたい事は、分からない訳ではありません。

 確かに以前のサリュードシア殿下は優秀ではあっても、女性にはその……配慮が足りない事や、空気の読めないところが多分にありました。

 なにより王族にしては、人の見る目が無い所も多々ありましたので」


 お姉様の説明を聞くに、どうやら残念王子、時期的にあの一件以来、今までの職務を解かれ、その辺りを教育されていたらしい。

 まずは強い女性には敬意を払う事から覚えさせられたらしく、その最初の第一歩として近衛騎士団や討伐騎士団のお姉様方も協力させられたらしく、魔眼を封じた状態で、徹底的に扱かれたらしい。

 ぅわぁ……て言うか、女性騎士に円陣で囲まれて次から次へと対戦なんて、ほとんど私刑では?

 普通はトラウマものだと思うのだけど。

 とりあえずその残念王子、そのトラウマを乗り越え、魔眼を封じた状態で様々な事を一から学び直すにしろ、半数以上が年上の女性の者が付いて指導に当たったとか。

 なんと言うか、吹奏楽部の男子部員が女子部員に牙を抜かれてゆく姿が脳裏に浮かんだのだけど、多分そう間違っていないよね?

 最近、元の部所に戻って、隊員共々鍛え直しだと励んでいるらしい。

 その辺りの話は兎も角として、目が覚めてしまったので屋根から降りて一息。


「よし、見なかった、そして聞かなかった事にしよう」

「ぇっ? それはあんまりでは……」


 いえいえ、今のはいわば覗き見ですよ。

 しかも見たくて見たものでは無いし、聞きたくて聞いたものでは無いのですから、そこで見聞きした事はなかった事にするのが、淑女として当然の事だと思いません?

 それに私はそれで残念王子を責めてますから、そんな私がそれを残念王子に対してするのは間違っていると思いますので、綺麗さっぱり記憶から削除です。

 ……言っている事は間違ってはいないけど、間違っているって。

 じゃあ何方でも良いと言う事で。

 以上で、先程までの話は終わり。


「殿下、本当に変わろうと必死でしたよ」

「かもしれないですけど、私には関係ない事ですし」

「噂では誰かに叩かれた(・・・・・・・)事で目覚めたとか」


 ぞぞぞぞっ!


 騎士団のお姉様の言葉に怖気が走る。

 は……走るけど、勘違いかもしれないので再度確認。


「目覚めたと?

 その叩かれた事を喜んでいたとか?」

「まぁ喜ぶと言えば喜んでいたと思いますよ」


 うん、確定。

 叩かれで喜ぶだなんて、変態のM男じゃん。

 確かに高貴な人間の中には、普通とは言い難い性癖を持つ事もあるとは聞いているけど、それが私の一撃で目覚めただなんて冗談じゃない。

 たとえ禁断の扉を開けたのが私だったとしても、その責任を取る気は欠片もありません。

 脳裏に、叩かれて喜ぶ変態残念王子の姿が浮かぶ。


 バシッ

『ぁぁぁ……、もっと、……もっと強く叩いてくれっ、

 俺を責めてくれっ』


 恍惚とした顔でそんな事を四つん這いになって望む、どこかの変態残念王子の姿が……。

 はい、全身に鳥肌が立ちました。

 眠気など何処かに吹き飛ぶほどの悍ましさですよっ!

 しかも私、そんな変態M男向けの魔導具を持ってますよ。

 いくら痛い思いをさせようとも、大怪我などはしない魔導具。

 痛みと痺れだけを残して、それ以外は瞬時に癒す物を。


 魔導具:癒しの獣扇(ハリセン)


 違いますからっ!

 そんなド変態の歪みすぎた性癖を満たすために、作った訳ではありませんからねっ。

 純粋に相手に怪我をさせる事なく、戦意を失くさせるための魔導具であって、特殊な遊具ではないですっ!

 そう考えると、我ながら恐ろしい物を作ってしまったと思えるけど、決してそう言う用途には使いたくはないし、使う気もない。


「……叩かれれ喜ぶなんて、どこまで変態なのかしら」


 だから、そんな内心がつい言葉に出てしまい、その事に対してお姉様が何か言っていた気がするけど、私としては、もう変態残念M王子の事など一言も耳に入れたくなくて、耳と頭が拒絶です。

 ええ、その努力が実ってか、何を言っていたのか、全然覚えていません。






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