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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第三章 〜新米当主編〜
244/977

244.世間にバレたら火炙り刑物ですよ。





 くきゃっ、くきゃつ。

 ぎゃ、ぎゃっ。


 広い格子の檻の中にいる中型犬より少し小さい程度の翼の生えた生き物達は、鶏とかではなく魔物。

 前世では獅子の胴体を持つ鷲の魔物と言われてはいるけど、此の世界の同じ名前を持つ魔物は、猫の胴体を持った鷹の魔物と言ったところかな。


「は〜い、今日から君達の仲間になった子だよ」


 そう言って、私は気絶している魔物、群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)を数体を巨大な檻の中に入れる。

 無論、飛んで逃げられないように、翼の筋膜と筋を切ってある上、魔法を発する危険な爪は魔導具で封印済み。

 属性持ちである事を逆手に取った封印なので、その効果は絶対ではないけれど、魔物では有っても獣程度知能しか持ち合わせていない魔物なので、使えない状態が続くと、使えない物だと思い込んでしまう事を狙っての物だし、そうならならなくても魔法銀(ミスリル)を混ぜた金属製のため数年は保つ仕様。

 今世代では無理かもしれないけど、数世代重ねれば、いずれ本当に使えなくなってしまうかもしれない。

 素材として必要なのは魔法を使える事ではなく、その因子を持つ爪その物だと言う事は、小さすぎて魔法を発せれない幼体の爪で既に確認済み。


「ユウさん、此方の子達は卵を産んでましたわ」

「そっちはそのまま自然孵化で行くから、採ってきた奴だけ孵化用の魔導具に容れておいて〜」


 此方もそろそろと思っていたから楽しみにしていたけれど、とうとう卵を産んだか。

 猫っぽい体を持つから胎生と思いきや、生態としては鳥に近いためなのか卵生。

 卵の確認と他のお世話をお願いしつつ、私は檻の中にいる一体の群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)を掴まえ。


「はーい、爪切りをしましょうねぇ。

 大丈夫、痛くない痛くない、終わったらオヤツをあげるからねぇ~」


 そう言って、爪の中の血管や神経に触れない程度の深さで爪を切ってゆく。

 一度に取れる量は僅かだけど、月に三度も採れるし、だいたい三ヶ月分で一体分の量になるため、数が増えれば群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)の爪を安定供給する事が出来るようになる。

 そう、私とジュリがこの秘密の研究所でやっているのは、魔物の繁殖。

 魔物が生態系の頂点であるこの世界では、魔物は人類の天敵なので、私がやっている事は人類に対する裏切り行為とも取れる危険な研究。

 もっとも魔物の繁殖と言っても、現在やっているのは群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)と砂漠クラゲとペンペン鳥の三種。

 群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)は、言うまでもなく牙と爪と呼ばれる魔導具の武具の材料として、彼方此方で乱獲が起き始めている魔物。

 砂漠クラゲは、これから物凄く量が必要とされるだろう魔物なので、見込み発車に加え群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)の魔法を抑えるための材料でもあるため、ある意味セット繁殖。

 他にも乱獲が心配されているのが黄色壁大ヤモリイエロー・ビック・ゲコー

 でもこれは生息域が広く多産なので、現状は様子見なんだけど、……ぶっちゃけ、私が爬虫類が苦手なので後回ししているだけです。

 ペンペン鳥は、単に私がお肉が美味しいから増やしたいのと、素材取りのため。

 ペンペン鳥は肉も魔石も羽もクチバシも骨も使える優れもの。

 そう言う意味では白角兎(ホワイト・ラビット)も繁殖したい所だけど、現状では人手不足でとても無理。

 なにせ牛サイズで地中深くまで穴を掘りますからね。


「はい終わり、オヤツは果実入りのクッキだよぉ〜。

 じゃあ次は君ね」


 おやつ欲しさに近づいてきた群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)を掴まえて同じ作業を繰り返す。

 魔物なのに大人しい理由は、安・食・住と揃っている上に、格付けが終わっているから。

 基本的に命に危険がない限りは、自分より強い相手には逆らわないのが大自然の鉄則。

 いくら魔物であっても、此処に連れて来られた時に私に負けているので、既に格付けが終わっている。

 もし歯向かおうとしても、能力を封印された状態では、少し強い程度の変わった猫と化した群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)に、私とジュリが幾ら油断していようと負ける理由などなく、半月を待たずして完全に服従するようになった。

 後は集団心理なのか、後から入ってきた子達も、周りの子達に敵わないから止めとけと教えられているみたいで、随分と従順なものです。

 現在此処にいる群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)は二十七匹。

 冬の終わりから始めたばかりなので数は少ないけれど、魔物の領域に入った際に見かけたら捕獲してくるつもり。

 卵の数はそれなり増えて来ているものの、上手く孵化するかは様子を見るしかない。

 そうやって一通り、爪が長い子の爪を切った後に向かったのは、砂漠クラゲの繁殖ゲージ。

 此方は四方を格子の檻で囲まずに、五メートル以上の高さもある石壁で囲っただけのもの。

 中は乾いた砂を敷いて、対角線に沿いに二ヶ所に水路から水を引いて水場を作ってある簡単なもの。

 一応、群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)の檻と同様に、何ヶ所か日陰や避難場所である岩を組んではあるものの、これくらいの高さの壁があれば、砂漠クラゲは逃げ出さないし、もともと活発的な生き物ではないので、これで十分。

 おまけに乾季は、干物状態で雨季が来るまで年単位で耐えられる驚きの生命力を持っているので、手間は偶に餌をあげるだけと言う簡単さ。

 ただ、餌をあげるのは水場に交互になる様に与えているのは、そうしないと一ヶ所に止まり続けて、幼生を生み出さないかもと考えたため。

 この手の生き物は環境が合えば、ず〜っと停滞したまま何十年も生きるけれど、それで終わってしまうので、むしろ生存本能を促すためにも多少の環境の変化があった方が増えやすい、と言うのは前世の知識からのもの。

 そしてこの考えはどうやら合っていた様で、まだ飼育を始めて数ヶ月だと言うのに順調に増え続けている。

 何せ元々産める環境の時に産む生態の上に、砂漠クラゲは魔物の中でも被食者側なため、種が生き残るための武器として多産。

 おまけにこう言う環境だから、天敵がいないので増える増える。

 

「こいつと、こいつと、こいつと、こいつ」


 ほど良い大きさの物を早速収穫。

 増やす事を目的としている段階とはいえ、今回収穫したのは増えている数の一割にも満たないので、繁殖計画に問題はなし。

 現在、私とジュリとルチアさんは、この砂漠クラゲを材料にした物に毎月お世話になっているので、一定数の収穫は必要。

 本来は他の研究用に必要だからであって、今回収穫した分の残りをそちらに回すだけに過ぎない。

 なんにしろ小さくて薄いのに、漏れの心配もなく、肌触りも良いなんて最高です。

 まだまだ市販するには単価が高いけど、やろうと思えば数回は再利用も可能。

 無論、それだけでなく、この砂漠クラゲを素材とした物は色々と使い道がある。

 砂漠クラゲの胴体の部分は、水分を吸収し溜め込む性質があり、前世の高分子吸収材に似た使い方ができるし、触手部分には弱いながらも水の流れを操る効果がるため、防水布の材料になるのではないかと研究中。

 そして、砂漠クラゲの魔石はクズ魔石と呼ばれる程に小さな魔石で、小すぎて複数の魔石を融合させて一つの魔法石にするには効率が悪いため、使い道のない屑魔石とされていた。

 けど、水属性の魔石なので、これを元に水魔法を発する魔法石を作る事が出来る。

 と言っても、大きさが大きさだけに、たいした魔法は組み込めない。

 せいぜいが、私がコップ魔法と呼んでいる【水】属性魔法の基本中の基本である水を生み出す魔法ぐらい(・・・)とされている。

 そう、水を生み出せる魔法石を作り出せる。

 普通は、わざわざ貴重な魔石を使って飲み水を発生させる魔法石など作らないけれど、使い道がない屑魔石であれば問題はない。

 もっとも魔導具師の手間を考えると、とても高価になってしまうので需要がないみたいだけどね。

 なにせ、この屑魔石で生み出せる湯船数杯分の水を発生させるのに、魔導具師の手間賃で金貨一枚(ひゃくまん)以上掛かってしまう事になるからね。

 手間そのものは普通の小型の物と変わらないのに、更に小さい分、魔法陣を刻むのが大変だかららしいし、生み出せる水の量が少ないからと下手に安くすると需要が増えてしまい、間違いなく魔導具師達が過労死する羽目になる。


「実験結果もまずまずなら、此方もいけるかな。

 そうすれば、水問題も解決」


 でも、先日コッフェルさんを驚かせた魔導具を作る魔導具なら話は別。

 小さくて、簡単な魔導具しか作れない上、作るのに魔力効率が悪いけどけど、普通の人でも魔力を流すだけで作れると言うところが大きい。

 一人当たりが作れる数が少ないのは、人数で補えばいいだけの事。


 くけけけけっ。

 ぺんぺんっ、ぺんっ。


 そして鳴き声とともに何か叩く音が聞こえてきたのは、ペンペン鳥を飼育しているゲージ。

 腕の付け根の所に、群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)同様に、砂漠クラゲの魔石を材料にした【風】属性の魔力を阻害する魔導具を取り付けてあるため、空を飛んで逃げ出す事ができなければ、凶悪な飛行能力を持つペンペン鳥も、ただの豚サイズの激太りのペンギンでしかない。

 半数は実験のため魔力回路である神経を切ってあるので、魔法を阻害する魔導具がなくても飛んで逃げ出る事は出来ない状態。

 群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)もそうだけど、魔物は治癒能力の高い生物なので、定期的に切ってあげないといけない手間があるものの、そのうち空を飛べなくても、食べて行けると覚えれば、逃げ出さなくなるかもしれないと思っている。

 群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)にしろペンペン鳥にしろ、ご飯に関しては自動給餌器の魔導具を使っているため楽をしてはいるけれど、飼育と繁殖と言う事を考えたら、なるべく人の手であげた方が良いんだよね。

 それに自動給餌器の魔導具にしろ、孵化器の魔導具にしろ、私とジュリが数日毎しか来れないため、人がいなくても出来るようにするために大型の魔石を使うと言う、他の人が聞いたら暴挙と呼べる使い方をしている。

 なにせ大型の魔石は、単体で戦災級の以上の魔物が持つと言われていますからね。

 どちらにしろ人手がないので背に腹は変えられないし、自分で狩って手に入れた物なので、元手が無料(ただ)だからこそ出来る事。


「ジュリー、そっちは終わったー?」

「ええ、糞もいつものように堆肥用にしておきましたわ」

「いつもごめんね、ジュリみたいな御令嬢に、こんな真似をさせて」

「もう慣れましたわ。

 それに、ユウさんではないですが、魔力制御の鍛錬と思えばなんて事はないですわ」

「色んな使い方をするから、応用力が付く事には違いないからね。

 後は畑と田んぼの方も軽く見ていこうか」


 子爵家とはいえ、生粋な貴族令嬢であるジュリに、こんな汚れ仕事をさせるだなんて申し訳ないとは思うけど、こればかりは信頼のおける人でないとお願いできない。

 私一人でもやれない事ではないけど、その間はジュリはこの僻地ではやる事がない。

 最初は見学していたけど、そのうち自ら役割を買って出てくれた。

 私もジュリも魔法があるから、この人数でなんとかなってはいるものの、逆に言うとこの規模だからこの程度でなんとかなっているだけで、規模が大きくなれば、そのうち破綻するのは目に見えている。

 なにせ私もジュリも学習院生の身で、幾つも掛け持っている状態だからね。


「後、二、三年は繁殖と研究が中心だから大丈夫だけど、問題はその後かな」

「その頃には私達も、卒業をしていますから、なんとかなりますわ」


 人手不足の原因は、やはり人に言えない研究のため。

 人類の天敵である魔物の繁殖など、とてもではないけど世間に漏らせない秘密だもの。

 実際は、下級の魔物で取り扱いと対策さえきちんとしていれば危険性は少なく、そこから得られるものは必要性の高いものばかりなのだけど、魔物と言う言葉だけで敵視されてしまう。

 ジュリは私の従者という事もあって信頼しているし、研究の意義にも理解してくれているので知ってはいるけれど、この研究はドルク様はおろかコッフェルさんさえも知らない。

 概略だけでも知っているのは、陛下と宰相であるジル様、そして国のお偉いさんの極々一部分の人だけ。

 それだけ計画の途中で魔物の繁殖だと漏れれば、危険だと判断されている事。

 だけど同時に数と安定供給を望めば、どうしてもこういう形を取る事になるのは、仕方がない事だと陛下には理解されているため、裏で色々と調整をしてもらったり、便宜を図ってもらっている。

 やはり水の魔法石と防水布を安価に安定供給するための開発は、国にとっても夢の技術らしいので、焦らないで良いから確実に進めてくれと言われている。


「少し暑くなってきましたわね」

「これくらいなら心地の良い暑さだけど、その分、雑草も元気になってきちゃってるね」


 寒い季節も完全に終えて草も虫も元気になり、その分、手間が増えてはいても、魔法を駆使すれば、草むしりも、虫除けの農薬散布も、散歩気分で終わってしまう。

 流石に種蒔きとか植え替えはそれなりに手間は掛かるけれど、それでも全て手作業でやる事を思えば数十分の一の時間で終わってしまう。


「こうしていると、ユウさんが魔力制御が上手い理由が理解できますわ」

「言っておくけど、草むしりならともかく、畑仕事も繁殖の世話も、今回の件まで経験なんて無いからね」


 田舎の男爵家とはいえ、貴族の令嬢である事には違いないし、私はもともと病弱な身の上だから、尚更経験がある訳がない。

 せいぜい庭弄り程度だし、前世でも庭先で家庭菜園の経験があるだけなのに、何を言っているのか。

 一応は前世のTVや雑誌でそれなりの知識はあるけど、あくまで実践を共わない知識でしかないし、今世でも得た知識の殆どが書物から。

 でもね、知識は書物から意外でだって得る事が出来る。


「色々な本を読んでいればそれなりの知識は身につくし、他人の畑でも観察して何のためにやっているのかと疑問に思ったりすれば、ある程度は自然と答えが出てくるものよ。

 後はその繰り返しと蓄積」


 前世の研究職でもそうだったけど、知識の集積と観察と思考は基礎研究の基礎。

 後はそこから導き出したものを実践し、その結果から修正や対策を検討し、時間と予算が許す限り最適な物になるまで繰り返すのが基本だった。

 でもその基礎となる知識の集積と観察と思考は、何も研究中に限った事ではなく、日常にも含まれていたりするので、私としては、その手の番組は録画をして、仕事の合間や睡眠時間を削ってでも視ていたりしていたほど。


「ジュリはもっと観察力を鍛えないと。

 周りをよくよく見てみるとね、色々な事に気がつくし、そこに意識を向ければ勉強にもなるわ。

 だから私はこうも思うの、世界は一つの大きな学習の場であり、一つの大きな書物なんだって」

「ふふっ、ユウさんは、本当にそう言うところが凄いですわね」

「そう?

 私としては当たり前の事なんだけど」

「ええ、とても凄いところですわ」

「ん〜、お世辞でもそう言ってくれると嬉しいけど、あんまり私を褒めて調子の乗らせると、ジュリも巻き込まれる事になるから程々にね」

「それもそうですわね。

 ユウさん、すぐ調子に乗るのは確かですから」

「掌を返すの早すぎっ!

 もう、ジュリも調子が良いんだから。

 さぁこれで大体見終わったから、温泉に入って戻りましょう」

「お風呂上がりには?」

「……冷たい果実水とか?」

「その程度では割りに合いませんわっ」


 まぁ汚れ仕事をして貰っているし、身体も動かしているから少しくらいの冷たい甘味は問題ないだろうけど、……ジュリ、一緒にお風呂に入っているんだから、体型をチェックされているって気がついていないのかな?

 甘い物も程々にしておかないと、オーダーメイドの下着や服を身に付けているんだから、体型を維持出来なくなって、直ぐに着れなくなるわよ。

 この間みたいに作ったばかりの下着が着れなくなったのを、胸が育ったからと言って誤魔化したら、流石の私もキレるからね。

 ええ、自分だけ、そんなに立派に育っちゃって。

 それとも、そろそろ掴んであげた方がいいかな?

 いえ、何をとは言わないですけど。






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