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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第三章 〜新米当主編〜
241/977

241.ジュリの成長、でも地雷付きです。





「ふぅ……、最初に会った時は、見習い以下だったのに、こうも短期間で半人前にまで成長させちまうなんぞ、どんな魔法を使ったんだ?」


 ジュリの魔法を久しぶりに見るコッフェルさんの言葉に、ジュリは嬉しそうに顔を輝かせるし私自身もジュリを褒められるのは嬉しい。

 私がジュリと出会って一年は経っているけど、彼女が仮初にも私の所に通う様になってから一年は過ぎていないので、そう思えば、確かに彼女の成長は目覚ましい物があるのかもしれない。

 かつてバスケットボールよりも大きかった火球魔法が、ハンドボールより大きいくらいの大きさにまで縮まり、覆っている結界も……多少の事では暴発のする心配のないレベルにまでには安定している。


「何って、魔法の練習ですから、魔法以外の何があるんです?」

「言葉遊びしてるんじゃねえって言うんだ」

「真面目な話、親切丁寧な指導と、適度な運動を兼ねた実戦と、美味しい食事とたっぷりの睡眠ですかね?」

「美味しい食事は否定しませんが、細かな事まで厳しくて煩い上に高すぎる目標と、魔物の領域で毎回のように死にそうな目に合う実戦と、睡眠という名の気絶の間違いですわっ」

「誰がジュリにそんな酷い目を」

「貴女の事ですわっ」

「いえいえ、私、ジュリが出来る事しか(・・・・・・)やらせてませんから」


 何やらジュリがブツブツと文句を言うけど、本気で身に覚えはない。

 魔力制御や魔法の構築で間違ったところや癖があれば、その都度、丁寧に指摘して直させたり、見本を見せたり、丁寧な指導だったと思いますよ。

 それに実戦だって、ジュリを一人になんてせずに、たえず後ろに付いていたり、危なそうな時には、きちんと手助けや助言をして、安全には十分に配慮したつもりです。

 動きの速い魔物と接近戦になった時に、焦ったジュリが至近距離で炸裂系の魔法を放った時とかは、流石に焦りましたけどね。

 幸いな事に、毎回、咄嗟のフォローが間に合って、命に関わる事なく済んでますけど、自爆魔法や転倒して勝手に危険な目に遭うのはフォローしきれません。

 気絶に関しては、後先考えずに魔力を使い果たしたり、【死の大地】に生息する魔物からの【咆 哮】を受けて、ガードが間に合わなかった時とかですから、あの時は、本気で勘弁してもらいたいと思ったのは私の方ですよ。

 魔物の領域で気絶とか、本気であり得ません。

 なんのために【咆 哮】に耐性ができる、【威 圧】を身に付けさせてあると思っているのか。

 しかも、それが一度や二度じゃなかったので、擬似的な【咆 哮】の魔法で、反射的に【威 圧】が発動できる様になるまで、気絶をさせたのは確かですけどね。

 ええ、ジュリが可愛いからこそです。


「……魔物の領域で特訓とか、ありえねえな」

「……やっぱりそうですわよね」

「二人して人を碌でもないみたいに言わないでください。

 元々ジュリが凄いからこそですよ。

 ほら、以前コッフェルさんが魔力回路を擬似的に作り出すのは、普通はどんなに早くても二十代半ばを過ぎるまでは無理と言っていたのを、ジュリはもう出来る様になったんですからね」


 私は魔力回路と呼んでいるけど、この世界の人達は器官的な魔力神経(かいろ)があって、魔導士はそれが人より多くあり、魔導士は最初にそれを鍛えて行き、充分に鍛え終えて限界になってから、魔力で擬似的な魔力神経(かいろ)を作り出して補完するなどをする。

 基本的にこの魔力神経(かいろ)の数が、同時に魔法を行使できる数と言われてはいるらしいけど、私の場合、魔力神経(かいろ)と言う名の器官が存在しない未熟児として生を受けているため、最初から擬似的な魔力神経(かいろ)、つまり魔力回路を作り出しているので、私の魔力回路の数は例外中の例外らしい。

 ただ、この器官があると魔力が流れやすく、魔導士として目覚めた時に比較的簡単に、低レベル魔法を発動させる事が出来るのだとか。

 ただ、その分、それに捉われてしまい、擬似的な魔力回路を作るのに大変苦労をするみたい。


「はぁ? オメエさん何をやったんだ?」

「私がやったと決めつけないでください。ジュリの努力です」

「あっ、あれを努力と言うのなら、もう勝手にしてくださいっ!

 でも、あんな想いは二度と御免ですっ!」


 うっ……、ジュリ、怖いですよ?

 そんな涙目にならなくても、別に私としてはそれほど大した事では。


「反動で五日も寝込んでおいて、たいした事も何もありません。

 だいたいあの時、もう二度としないと約束したのに、こんなにも簡単にベラベラと、反省しているとは、とても思えませんわっ!」


 うん、どうやらジュリの地雷を思いっきり踏んだみたい。

 こうなると、ジュリって梃子でも動かないと言うか、最後は泣き出すから、私としては折れるしかない訳で。

 いえ、別に寝込む程度は慣れているからとは、今のジュリを相手には流石に言えず、コッフェルさんに助けを求める様に視線を移すと、何故かそこには真面目な顔の白髭白髪のお爺様が、眉間に血管を受けべて凄んでいたりする。


「ちょっと嬢ちゃん、真面目な話をしようか」




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




 はい、むちゃくちゃ怒られました。

 一時間ほど、もうコッテリと理詰めと正論で攻めてくるから、反論しようがなく、その辺りは流石は年の功と言うか、伊達に歳を取っていないですね。


「だいだい、他人の体内魔力に完全同期して、擬似的な魔力神経(かいろ)を作り出して感覚を強制的に覚えさせるなんぞ、自殺行為以外のなにものでもねえぞ。

 嬢ちゃんだからその程度で済んでいるかもしれんが、普通の魔導士がそんな真似をやったら魔力神経(かいろ)が焼き切れて廃人ものだっ。

 そんな馬鹿な真似は二度とやるなっ!」


 いえ、だから私の場合はその焼き切れる魔力回路もとい、魔力神経(かいろ)が無いから問題ないわけで……、はい、ごめんなさい、以後気をつけます。


「まったく、魔力の感じから随分と上達したみてえだから見せてもらったら、とんでもねえ話がポコポコと出てきやがる」

「私としては、この間の実験の結果を聞きに来ただけなのに」


 なんでこうなったのだろうと思いつつも、耳の痛い話は高い棚の上に上げておいて、頼んでおいた実験の結果を聞く。

 いえ、ちゃんと反省はしていますよ、反省は(・・・)


「結論から言えば、商用として使う事は可能と言えば可能だな。

 十歳未満のガキは問題外として、それ以上の魔力持ちなら、充分な数を熟す事はできる。

 まったく、よくもまぁこう言う物を思いつくぜ。

 言っとくが、型枠はまだウチのギルドでは作れんぞ、人手も足りてねえし、技術も教育も足りてねえ。

 最低でも、十年、いや二十年は掛かるだろうよ」


 コッフェルさんの話に、取り敢えずゴーサインは出せそうだと言うのは分かるし、二十年と言うのは、貴族間の特許期間の様な商品開発元の保護期間みたいな物なので、真似ができない期間と思えば悪くない時間。


「ほれ、此れが一応、アレで作らせた試作品の一部だ。

 悪い方と良い方のな」

「悪くてもこれなら十分耐えられますけど、品質分布はどうなっています?」

「此れだ。あと年齢別もだ」


 ふむふむ。

 十段階に分けて貰った品質を、塗り潰しグラフと言う形で書いて貰った物や、年齢別の大凡の回数と安全境界レベルを示した内容に、取り敢えず満足する。


「未成年で三回から十回。

 成人している人でも七回から十五回ですか」

「熟練した魔導士が隣で見ているから限界が分かるが、でなければあまり回数を求めるのはお勧め出来ねえな」

「別にそれなら最低限で合わせれば良いだけです。

 無理させて体を壊す方がいたら、なんの意味もありませんし、その方が拘束時間は短くすむため、空いている時間でお小遣い稼ぎをしてもらえれば充分かと」

「時間を変えて、何回もする奴も出てくるかもしれんぞ」

「ああ…、確かに居そうですね」


 ならアレを導入する?

 でも、現段階ではとても数を揃えれないし、まだその時期ではないよね。

 それでも抜け道なんて探そうと思えば出てくるから、時期早々か。

 なんにしろ、結局は自己責任っていうところかな。

 コッフェルさんも、悩んだ挙句にちげえねえと言ってるし、その件は保留にしておいて。


「ユウさんそれって、アレですわよね?」

「そう、ジュリにも渡しているけど化粧品の小瓶の魔導具」


 私が一番最初に作った魔導具とも言えるけど、陶器の小瓶を魔法石化して、状態維持の魔法陣と魔力吸収の魔法陣を組み込んだ物。

 どちらも魔石を使っていない上に、陶器という素材もあって、そのままでは中身の保存が半月ほど、あと使用状況によって二ヶ月ちょい保たせる事ができる代物。

 アルコールとかを用いれば、素のままでももっと保つけど、前世の妹のようにアルコールは人によっては肌に合わないし、純度の高いアルコールはこの世界では高価な代物だし、無味無臭ともなれば、この世界の技術的に厳しい。

 素材に水晶や硝子や金属を使えば、もっと保たせられるけれどコスパが悪いし、なるべく安価に出回らせたいと思っているため、高価な材料を使っては意味がない。

 それならば、それで使いきれる量の大きさを沢山作る方が良い、と言うのが当初からの考え。


「アレを魔導士でない人でも作れる魔導具の金型を作ったから、コッフェルさんのギルドの組織力を生かして実験をして貰ってたの」

「組織も何も出来立ての組織にそんなものあるか。

 教会や冒険者組合に話を持って行っただけだ」

「……そこは信頼度の違いと言うわけで」


 私みたいな子供と、コッフェルさんの様な老齢で、誰もが分かる様な地位にいる方とでは、社会的な信頼度が大きく違う。

 コッフェルさんは話を持って行っただけとは言うけど、実際には実験に協力してくださる人達の魔力を視る人達や、機密保持のために手を回したりと、この実験一つにおいても、様々な事に気を回して貰っている。

 そう言う事なので、今度こそちゃんと報酬を受け取ってくださいね。

 ……要らないじゃなくて。

 仕事を依頼した以上ちゃんと、正規の料金を受け取るべきです。

 ……どうしても受け取らないと?

 仕方ありませんね。


「ミゼルナさ〜〜〜んっ!」

「げっ!」

「呼びましたかっ、このお師匠様に付き纏う(ストーカー)白髪女っ!」


 冗談で呼んだら、本当に姿を現す人にストーカー呼ばわりされたくないですから。

 幾ら目の前の建物だからって、アレくらいの声で聞こえるのもそうですけど、現れるのも早すぎません?

 ……たまたま買い物帰りで目の前を通っていただけと?

 本当に?

 でも、せっかく出てきてもらったので、彼女にお仕事をしてもらいましょう。

 この髪の毛どころか、頭の中まで桃色に侵された可哀想なミゼルナさん、実はグランドファザコンでもあり、己が敬愛すべき祖父の仕事も敬愛しているため、祖父と共に勤める魔導具師ギルドの経理の不正などには厳しい。

 まぁ、その経理能力があるから、祖父のと同じ職場に就けれたとも言うけど。


「はいこれ、この間、ギルド長に依頼した仕事の依頼料です。

 コッフェルさん、ギルド長権限で依頼料を無くそうとするので、手っ取り早く経理担当のミゼルナさんを呼びました」

「これはどうも、気に喰わない色なし(アルビノ)女ですが、そう言う筋を通すところは尊敬いたします。

 あの依頼は確かあの人とあの人が動いて、経費が確かアレだったから、これだけで充分なので、こちらはお返しいたします」

「感情とは別にキッチリ仕事をされるミゼルナさんの事は、私は嫌いではないですよ」

「そう言う訳で、用が済んだっらとっとと出てゆけ、このチビスケッ」

「てめえが出てゆけ、この桃色頭のクソ餓鬼がーーーっ!」

「ひやっ!」


 うん、相変わらずミゼルナさん面白い方ですね。

 最初会った時の一件で多少は懲りたのか、ああ言う事は言わなくはなったけど、相変わらずの口の悪さ。

 だけど、どうやらアレは私に対してだけで、あとは見た目どおり桃色の髪の似合う可愛らしい女の子を演じているらしい。

 もっとも私とジュリとコッフェルさん、そして祖父である彼女の保護者は、バッチリとミゼルナさんの本性を知っているので、逆に周りの人が知っている清楚可憐なミゼルナさんの姿が別の生き物の様に見えて気持ち悪かったり、面白かったりするんだけど、これもある意味ギャップ萌えという奴なのかな?


「まったくあのクソガキはっ」

「口の悪さではコッフェルさんと良い勝負では?」

「俺はあそこまで品の悪い事は言わねえぞ」

「あったのは最初だけでしょ。それ以降は可愛いものでは?」

「ふん、それでもクソガキには違げえねえ」


 まぁまぁと宥める私に、言われているのは私だぞと言われても、だって言っているだけだし、今、言っている内容程度なら問題ないですから、実害がないだけ可愛いじゃないですか。

 私が気にしない内容を狙って言っている辺り、彼女らしいと言えばらしいですけどね。

 ……優しいねぇって。

 そうですか?

 実害があれば、容赦しませんよ。

 なんのために、私専用の近接武器があると思うんですか。


 魔導具:癒しの獣扇(ハリセン)


 殴った瞬間に攻撃箇所を癒して、痛みと衝撃のみを与える得物。

 模擬戦用に作った得物だけど、相手の戦意を失わせるためとかにも使える得物で、これならば反省するまで遠慮なく攻撃し続ける事が出来ますから、使わない理由がありません。

 ……えげつねえなぁって。

 優しさで出来ている得物に対して、酷い。


「まぁいい、あの馬鹿の話は置いておいて、これも返しておくぜ。

 あと実験で使った小瓶は、隣の部屋に置いてある」


 そう言って返してくれたのは、例の魔導具を自動で作る魔導具。

 一見して炊飯器の様な形状だけど、それは作る物に合わせた金型で、魔導具の核は中型の平べったい魔法石が数個と、小型の魔法石一つを接続した異形の魔法石。

 平べったいのは強度はさほど必要がないのと、魔法陣の面積を多く描くための形状を求めたため。

 コッフェルさんが言った様に、コッフェルさん達でも作るのは現状では無理と判断する程、複雑な魔法陣が多重構造で相互に干渉しあっているので、私でも作るのはそれなりに苦労する。

 本来であれば、魔導具師当人でないと意味をなさない魔法陣を刻ませるのだから、当然と言えば当然かもしれない。

 生憎と性能の方も魔導具師が作った物よりも少し劣化する上、魔力に対する変換効率がやや悪いのは、仕方のない結果だと言える。

 ただ、これを使えば、私や魔導具師でなくとも魔導具を大量生産する事が出来るのだから、これまたコッフェルさん程の魔導具師を驚嘆させた魔導具。


「まったく、毎回、毎回、とんでもねえ物ばかり作ってきおって」

「そうは言っても、小物で簡単な物しか作れないという制限付きですけどね」


 私としては逆にそれが利点だと思っているし、逆にその欠点がなかったら、攻撃用魔導具を作りたい放題という怖い代物になってしまう。

 もし現状で、魔石を魔法石化し火球魔法を自動的に刻む金型の魔導具を作ろうとすると、災害級の魔物の魔石が数個必要になる上、そんな魔導具を作るのは、おそらく私でも至難の技で、失敗を多数作るのが前提となる。

 つまり、前世換算で百五十万円の武器を量産するために、最低でも二千億円近くの設備投資費が必要で、それにその設備投資も失敗が前提となる上、材料を確保するための危険はまた別にあると言う、物凄くコスパの悪い物になる。


「使えるかどうかはともかく、発想や技術がとんでもねえと言っているんだが」

「発想は私が楽をしたいからで、魔導具作りを勉強していた頃からの課題でしたから、私にしては、結構な開発時間でしたよ」

「お嬢ちゃんで数年なら、他の人間なら一生掛かるかもだな」


 それは、流石に言い過ぎだと思いますよ。

 発想は『焼印みたいに魔法陣を刻めたら楽なのに』ですからね。






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