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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第三章 〜新米当主編〜
235/977

235.この冬頑張りましたよ。でも此れからなんですよね。





 冬が本格的になり寒風が吹き荒む中、いろいろ忙しく動いていたら、いつの間にか寒い日々の中で、時折、暖かい日差しが時折見せ始めた頃、私が本格的に魔導具師としての道を歩み始めてから、早くも一年が過ぎようとしていた。

 振り返ってみれば、本当に激動の一年だった気がする。

 もしかすると人の一生分くらい濃密だったのでは無いかと思うくらい。

 社畜生活なんて二度と御免で、人生をエンジョイをするんだと思いながらも、なんでこうなったのだろうと思いつつも、前世に比べれば、それでも遥かに楽な生活をしていると思える時点で、色々と終わっている気がするのは気のせいだろうか?


『ユウさんは働きすぎだと思いますわ』

『そうかな?』


 何度か友人であり従者であるジュリに、そう言われてしまう程なのだけど、睡眠時間はたっぷり取ってはいるし、気晴らしに採取や狩猟をしたり、現実逃避に街のお店でアフタヌーンティーを楽しんだり、新婚であるライラさんのお家にお邪魔に行ったりと、結構、遊んでもいるからそうとも言えない。


『時折、人を追い出して、執筆と称して篭り切る時もありますし』

『見せれる物もあるけど、見せれない研究の纏めとかもあるから、ごめんね』


 少なくとも、小金稼ぎで始めた小説の執筆は、仕事ではなく趣味の遊びだと思うので除外にしても良いだろうし、料理や化粧や髪型の本の執筆も似た様な物。

 うん、働き過ぎてはいない。

 気がついていたら時間が過ぎ去っていただけ。


『ジュリは忙しかったと?』

『ユウさんに付き合っていましたから、それなりに』


 うん、遠回しと言うか、かなり直接的な苦情だった。

 ジュリの場合、従者教育もあるから、余計に忙しかったのかも知れない。

 ……それよりも私と付き合ってする内容が濃いと。

 確かに、この冬で一番力を入れていた秘密基地と称した研究所の建築と周辺環境の開発には、魔力制御がまだ未熟なジュリにはハードだったかも。

 労いに、美味しいドーナツでも……、油で揚げるは止めて、焼きドーナツを作ってあげようと、素直に思うぐらいに秘密基地の建築には力が入った。

 なにせ夢の温泉付き秘密の研究所ですから、力が入らない訳がないじゃないですか。

 力が入りすぎたついでに研究にも力が入っちゃいましたよ。

 爵位拝命の際の後ろ盾のお礼として、ヴォルフィード公爵家には、ベアリングや板バネの他、エアレス車輪等を用いた走破性が高く振動も少ない上、頑丈な馬車の製造販売の権利を譲渡し。

 アーカイブ公爵家には、現場でそれなりに問題になっていたらしい投光器の改善案、と言うか用途別形状例の試作品を陛下経由で、実家から技術提供した事にして貰って、更には小型船にしか使えないものの、クラーケン退治の時に使ったジェット水流推進の魔法を魔導具化した船の製造販売の権利を譲渡した。

 私からみれば、共にまだまだ問題はあるものの、この世界では現状で十二分な性能らしい。

 ガスチーニ侯爵家にはまだで、現在研究中の物を予定しているけれど、これは当初から時間が掛かると言ってはあるので問題ない。

 むしろ先方からの指定なので、世に出せる準備が整うまで待ってほしい。

 ちなみに、群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)を使った武具の管理はガスチーニ侯爵家から国に移った。

 これは何処かの組織が、あの手この手と国外に持ち出そうとするため、陛下がキレたらしい。

 相手が相手だけに正面きって非難こそはしないものの、表向きに必要としていた理由の一つを、お布施ではなく観光による収入と見做して課税を掛けたので、遠回しな忠告だと思う。

 なんにしろ製造と販売の権利を移譲をしてはいても、特許料がわりに二十年間は得た利益のうち五パーセントは私の懐に入ってくるので、決して損ではないし、その後も二パーセントの利益を入れ続けてくれると言う。

 むしろ広報力と生産力と販売力などの組織力のある方々達に丸投げしているので、楽をしているとさえ言える。

 なにせ私は製品の初期開発と、上がってきた改善要求に対応さえしていれば良いだけですからね。

 あれ? 前世とやっている事に大差ない気が……、うん、気のせいという事にしよう。


「あ〜、極楽〜♪、極楽〜♪」

「なんですのそれは?」


 とにかく、仕事の後の温泉はその一言に尽きる。

 お酒がわりに冷えた蜂蜜入り果実水も側にあるので尚更だし、目の前に広がる夕陽に照らされた辺り一面の緑に、その中にある小さいながらも存在する田園風景も素晴らしい。

 ええ、作っちゃいました。

 秘密の研究室と言う名の掘建て小屋や、研究施設以外にも、高台に湧く温泉施設とお米等を育てる為の田畑。

 森を切り開き整地し、建物を建てたり、土を耕したり、水を引いたりと、そりゃあジュリが文句を言うぐらいには忙しい訳ですよね。

 うん、来年の冬はもっとゆっくりと過ごそう、そして過ごさせてあげよう。

 ちなみに温泉と水源は別々で、今入っている温泉は、広い段がある崖から湧き出し、また地中深くに消えて行っているので、温泉成分が水源に混ざる事はないのを地中探査の魔法で確認しているので安心。

 ただ、ここまで冷却用に川の水を引いてくる方が大変だったかな。


「普通はこんな短期間で、これだけのものなんて作れませんわ」

「魔法があればこそだし、それでも器だけだけどね」

「それでもですわ。

 それに一部は既に稼働しているじゃないですか」

「本番なのは、これからなのは同じ事よ」


 この半年、ジュリは本当に成長したと思うし、私のために色々力を貸してくれているので、感謝の言葉しかない。

 従者だから当然だとジュリは言うけど、それでも感謝する気持ちに変わりはない。

 ん……それにしても。


 ぷにょっ。

「ひゃっ、…なんですのいきなり」

「ジュリ、また成長した?」

「す、少しですわ」

「また作りに行こうか」


 まぁあえて何処かとは言わないけど、一緒に広い露天風呂に入っていて、ふと気になった箇所を触れてみた結果である。

 うん、絶対に前回作った時よりも大きくなっている。

 オーダーメイドの下着なので、合わない下着をつけているのは、形が崩れる他にも健康的にも良くない。

 特に疲れやすいとか疲れが取れないとかも、その要因の一つ。

 もっとも、ジュリの場合は別の意味で成長する事もあるけどね。

 ご飯を食べ過ぎたとか……。

 オヤツを食べすぎたとか……。

 眠る前に、読書しながら摘んだとか……。

 そんな事を考えていたせいか、反応が遅れてしまい。


「もう、お返しですわ」

 ぷにぷにっ

「ぅんっ、…ぁっ、だめっ」


 不意を突かれて、変な声が出てしまう

 以前に胸は敏感で変な気分になるから胸は止めてと言ったら、今度はお尻を揉んできた。

 うん、これはこれで、素直にマッサージ的な意味で気持ち良すぎて、逆に色々と不味い気分になるので、止めてもらおうと思う以前に止めてくれたので、あまり心が狭いと思われるのも嫌なので良しとしておこう。

 一般的に今ぐらいなら、冗談で済む範囲だろうし……多分。


「本当に弱いですわね」


 うん、なんの事か分からないから、突っ込まない。

 突っ込んだ所で、どうしようもない気がしたからね。

 それはそうと、そろそろ定期的に行く約束している時期でもあるので、明日辺り何時もお世話になっている服飾店に行こうとジュリに言うと。


「以前に言っていたユウさんの気持ちが、よ〜く分かりましたわ」

「下着を無料で作ってくれるなんてね、気が引けるもんね」


 私以外にもジュリの下着まで無料になっている理由は簡単。

 何故かあのお店の所有者(オーナー)が、何時の間にか私になっているためです。

 そして、同じくお世話になっているお肉屋さんも、何時のまにか私が所有者(オーナー)になっていたりする。

 年度末向けの決算報告書に目を通していたら、見逃せない記述があって、商会【女神の翼】の副商会長であるヨハンさんを問い詰めたら、良い笑顔で話してくれましたよ。

 あれは絶対私が困惑し、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をすると確信していたに違いないですね。

 ライラさんの結婚式の前に、お肉屋さんの前所有者である商会とあった騒動。

 その結果、お肉屋さんを含む商会の一部の機能と人間は、騒動の迷惑料として私の名義となり、服飾店は自ら売り込みに来たと説明されたけど、絶対にヨハンさんがそう仕向けたに決まっている。

 騒動の原因は、取引のあるコンフォード家が、かなり大きな催しを急遽すると聞いたため、より一層、深い付き合いをするために、私の事を知らないままに、子供など幾らでも黙らせれると引き起こした騒動だったとは聞いてはいた。

 ただ、もしその騒動をコンフォード家が知らぬまま、私から取り上げた物を納められていたら、私のために開いた宴で、私から違法に奪い取った物を料理として皆に振る舞ったなどとなれば、侯爵家としてあり得ない大恥を掻いていた事になっていたとの事。

 そうなれば……。


『奥様、知っていまして?

 コンフォード家は、貴族後見人にした家が懇意にする方の結婚式のために用意した物を、無理やり奪って、その家のお披露目の時に、呼び寄せた貴族達に振る舞ったんですって』

『まぁ、それって、なんでも言う事を聞く都合の良い家を傘下に置いたって広めるためですわよね。

 自らの力を見せつけたいのでしょうが、なんて恥晒しな事を自慢げにされるのでしょう』

『下品で浅ましい考えですわよね。

 古い血筋である事を鼻に掛けて、少し傲慢になっているのではなくて?』


 などと彼方此方の夜会で囁かれまくった上、更には陛下に大目玉を食らってしまうかもしれないと言うのは、かなり大袈裟だとは思うけどね。

 ただ、時間が止まったような時がある社交界では、こう言う恥の話は何十年も捏ねくり回して囁かれる事があるとか聞くから、それを思えば、商会の規模が減る程度で済んだのは、今まで尽くしてきてくれた商会に対しての温情というよりも、むしろ事を大きくしたくない侯爵家のためらしいと言うのも分からない話ではない。

 それで肉屋と分裂した商会の件は良くはないけれどそれで良しとして、貴族向けの高級服飾店の方は、私がテープの魔導具もどき以外にも次々と色々な衣装図やアイデアを出して作ってもらっていた事もあってかは知らないけど、服飾店の店主自ら売り込みに来たらしい。

 貴族である私が経営する店という事にした方が商売がやりやすい上、景気の良い話に飛びいて横から掻っ攫おうとする貴族からの圧力も避わしやすいんだとか。

 どうやら、私から得た知識や頼んだ物を基にした商品で、利益を独占しているから、分けろ…と言うか、寄越せと言う嫌がらせや圧力が酷かったらしい。

 それで、コンフォード侯爵の直寄子で、更にはお気に入りらしい私のお店と言う事にしておけば、妙なちょっかいを掛けてくる貴族やお店も減るだろうと考えた結果だとの事。

 ヨハンさんも、あのお店と私の関係を知っていたため、受け入れたのだとか。


『あのう、私には黙ってですか?』

『まだ商会としては形を整え直している段階でしたし、お忙しい上に経験のないお嬢さんの手を煩わせないように、ドルク様の指示で一時的に私が預かっている状態でしたので、お嬢さんにまで話をもって行く必要はないかと判断しました。

 それとも、お嬢さんは、今までお世話になっているお店が、食い物にされて行くのを黙って見てゆくと?

 あと、お嬢さんが広めようとしている下着の件も、その目的を理解されないままに間違って広まっても構わないと?

 ああ、それと商会の方は大方整ってきましたので、私は手を引いてお嬢さんにお返しいたします。

 後ほど手続きと、後日顔見せを兼ねた引き継ぎの予定は此方で組んでおきます』


 もうね、既に色々と仕込まれすぎていて私が口を挟む隙がありませんでしたよ。

 絶対に何人か、コンフォード家や国の人間が入り込んでいると思いつつも、おそらくそれ以外には怪しげな人間ではなく、仕事には誠実な人間を選ばれているんだろうなと考えていたら。


『それと御懸念でしょうから一応は話しておきますが、ドルク様やヨハネス様の手の者はもちろん、当商会の人間は入り込んでいませんので、どうか御安心を』

『…そうなんですか?』

『陛下の手の者と、コンフォード以外の後ろ盾になった家の手の者です』


 どこが違うねんっ! と突っ込みたかったけれど、私はともかくヨハンさん達側からしたら大きく違うらしい。

 要はコンフォードばかり私に関わり過ぎだ、との事で周囲が煩いのだとか。

 それ服飾店がやられている事と変わらないんでは? と思っていたのが分かったのか、品位とレベルが違うと言われるけど、私からしたら一緒ですよ。

 とにかく、妙な家の人間が入り込んで来ないためでしかなく、後ろ盾になった家のコネを使って売り込めるだけ利用価値があると考えてくれと言われたら、商売的にはそんな物だろうと私も思っているし、もう此処までやられたら、半ばヤケクソになるしかなかった訳で……。


『……もう勝手にしてください』


 実際、コルセット代わりに開発した体型補正下着も水面下で好評で、新年度における社交界の始まりを知らせる王宮主催の春の舞踏会では、私を後援してくださった家の御婦人方が、あちこちに宣伝してくださった。

 やっぱり多少の補正はともかく、今、流行っているコルセットのようにやり過ぎれば、天から与えられた身体の骨が歪むとか、それに伴う症状として、不眠や便秘や頭痛、血行障害による内臓の機能の低下や、それに伴うお腹の中の子供の健康異常や流産などを、最初に作った際に図に示して説明した事が、相当、貴族の夫人方には身に覚えがあったみたいで、導入には積極的だった模様。

 曰く、健全な子供を産むためには健全な身体が必要だそうです。

 細く見える腰と言う見栄より、お家存続の方が優先された結果と言うのは、なんとも言えない気持ちにはなったものの、苦しいコルセットから解放された人達が、幾らか症状が改善されたと言う話を聞いて、まぁ私の商会にどんな思惑が仕込まれているにしろ、喜んでいる人が多くいるのであれば、良いかとも思ってしまったけどね。


「そう言えば、化粧品も今度、出されるんでしたわよね?」

「まあね」


 ルチアさんが試用していた化粧水や日焼け止めクリームに美白効果のある乳液。

 これも、日差しが強くなる前に販売される予定なのだけど、既に予約で一杯状態らしい。

 それと言うのも、ルチアさんの年齢の割に瑞々しい肌に疑問を思ったドルク様の商会のアルフォンスさんが問いただし、その結果、試用範囲を広げる事になり、主だった公爵家と侯爵家の貴婦人達から予約が殺到してしまった。

 幸いな事に貴族に関しては、王妹であるヴォルフィード家のジュシ様が間に入ってくださったので問題はなくなったのだけど、問題は色々残っているので、解決案の準備が整ったら対応かな。

 本当は、解決してから売りに出したかったけど、生憎と待ってはくれなかった。

 特に、間に入ってくださったジュシ様が……とは、口に出しては言えないですけどね。


「今年も忙しくなりそうだから、よろしくね」

「……もう、諦めましたわ」


 ちなみに、ルチアさんを問い詰める際に余計な事を言ったアルフォンスさんは、ボコボコにされたのは言うまでもない事。


『その齢で、その若々しい肌はおかしいだろ。秘密を吐け』


 いくら奥方様や愛娘のためだったとは言え、二十代前半のルチアさんに、そんな暴言を吐けば当然の結果だと思う。

 まったく、この世界の男共はデリカシーがなさすぎです。

 前世が男の私が言うのもなんですけどね。






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