表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第三章 〜新米当主編〜
234/977

234.え〜、武具の開発なんて嫌ですよ。問題が大きくなっているって、私のせいじゃ無いのに。

おかげさまで

ブックマーク500越え & 評価100件越え になりました、ありがとうございます。





 久しぶりに熱を出して、三日も寝込んでしまった。

 攻撃魔法の他人の魔力に直接干渉するだなんて、馬鹿な真似をした結果だとは言え、寝込んだのは数年ぶりかもしれない。

 三日もほぼ寝台で過ごしていたため、思った以上に体力と筋力が低下していた事に、取り戻す努力を思うと憂鬱にはなるけど自業自得なのでしょうがない。

 それに付き合わされるアベルさん達や、寝込んでいた間に迷惑を掛けたジュリには申し訳ないと思いつつ、私のやれる事なんて事は高が知れている。


「ほらっ、速度落ちてるよ」

「苦しくても姿勢を保つ」

「腕を振って体勢をとって」

「はい倒れようとしない」


 病み上がりの人間に対して、此の人達は鬼です。

 鬼と思っても頑張るしかないし、彼等の期待に応えるしかない。

 最近、一対一で身体強化のみ有りの対戦で、皆んなの負けが込んで来ているから、余計なのだと思う。

 もっとも私が勝ち越していると言っても、それは身体強化の出力の違いで勝てているだけで、アドルさん達に合わせて出力を落とした状態では、相変わらず勝負にならないし、得物である癒しの獣扇ハリセンでリーチの差を埋めても、所詮は素人のチャンバラごっこ。

 幼い頃より本格的な武術を学んでいる人達を相手に、同じ出力で遠慮無しに打ち込んだとしても、なんとかなる訳がない。

 まぁ……、負けても勉強にはなるんですけどね。

 そんな訳で、本日の早朝鍛錬も終了。

 ああ、やっぱり動きが鈍っていて、身体が重いわ。


「そう言えば、アドルさん達もう直ぐ十五なんですよね?」

「ああ、もっとも、此奴等が成人するまでは、今まで通り寮に厄介になるつもりだけどな」

「この辺りは、身内とパーティーを組んでる者の特権というか甘えだけど」

「子供じゃないから、寮費は稼がないといけないから大変だけどね」

「その代わり、冒険者組合で仕事も受けれる様になるから、頑張って割の良い仕事を受けてきてね」


 もうすぐ成人を迎える男達に対して、セレナとラキアは、まだ未成年なため、この学習院に御厄介にならないといけない。

 でも、その辺りは、貴族子女の自立を支援するこの学院ならではの救済制度があり、一定年数に限り、アドルさんやギモルさんの様にパーティーを組んでいる未成年が成人するまで寮を借りれる制度がある。

 無論、この制度を利用するためには、様々な条件をクリアした上で実績が必要だけど、二人は当然ながらその条件をクリアしており、学習院の支援元の一つでもある冒険者組合もそのパーティーに対して、例え未成年が混ざっていようとも低難度の仕事を与えてくれる。

 前提条件として全て学習院の人達を限定にした物だけど、それを差別と言うなかれ、そうしないと子供を悪用する輩がいるからだ。


「じゃあ少し早いけど、二人の卒業祝いを兼ねた個人的な低難度依頼」


 私は収納の魔法から、二人が使っている物と似た大剣と戦斧を取り出す。

 無論、私が前置きを言って出すからには、只の大剣と戦斧ではなく魔導具。


「試作型武具の中長期実用試験。

 試験中は壊しても構わないけれど、紛失や貸し出しは厳禁。

 報酬は実用試験後は貸与という形にはなるわ、

 だから売ったり譲渡したりしない限りは、貴方達の物になるわ」


 魔導具の武具なんて物は、本来であればアドルさん達の様な駆け出しの手に入る物ではない。

 例え魔法銀(ミスリル)を混ぜただけの魔剣だとしても、金貨一枚(ひゃくまん)は軽くする高価な物。

 群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)の爪を使った魔導具も、ベースは大量生産品の安価な剣や槍を使ってはいても、倍に近い値段がしてしまっている。

 普通の魔導具師よりも、効果と寿命があると評価されている私の魔導具の武具となると、更に値段は高くなり、物によっては数倍はしてしまうと商会のヨハンさんから聞いている。

 だから、あくまで価値のある物ではなく、試作品の実験に付き合ってもらった御礼を兼ねて、その中古をと言う形をとった。

 無論、魔導具の試験も本気の内容の依頼。

 使用感や改善点など、気がついた事はメモなり口頭なりで、その都度報告する義務がある。

 そうでなければ、アドルさん達の誇りを傷つける事になるからね。


「開発の概念(コンセプト)としては、魔物の属性に関係なく、大半の魔物に有利な重さ(・・)を、武具として追求したものです」


 牙と爪と呼ばれている群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)の爪を使った武具には、【水】属性と【土】属性の魔物には効果が薄いという欠点がある。

 元々群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)を爪の効果自体が【風】属性の魔法なので、何も魔力の通っていない鉄塊ならともかく【土】属性の魔物の皮や甲殻には、ほとんど効果がない。その上、【水】属性とも相性が悪いため効果は半減してしまう。

 夏の時に、クラーケンに群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)の爪を使った弓矢を放つ前に表皮を凍らせてたのは、この対策のための予備動作。


「鞘には重量軽減の魔法が掛けてあるから移動は楽になるし、身体に変な癖も付きにくいと思うわ。

 逆に本体の方には、一瞬だけ数倍の荷重が掛かる様になっているの」


 だけど重さであれば、属性のほとんどは関係がない。

 紅血設定を施す事で、魔力と強い意志で握れば、最大七秒までの任意の時間で、任意の分だけ荷重を重くする事ができる。

 これならば対魔物向けに重い得物で発達した剣術なども、そのまま利用できるため、態々

軽い剣を覚え直す必要はない。

 もっとも普通の重さの剣の技は、どの流派も基本動作として学んでいるらしいので、あまり関係はないらしいけれど、それに合わせて体を調整し直す必要はあるみたいだからね。


「当たる瞬間、又は勢いを更につけるために、数倍の重さか……。

 やりようによっては大岩も砕けるかもな」

「鞘入りだと、大体半分くらいの重さか?

 確かに重量級の戦斧使いにとって、長い移動による身体の歪みは持病みたいなものだから、正直、それだけでも助かる」


 他にも利点としては、群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)の爪を使った武具よりも技術的には低い上、手に入りやすい下位の魔物の魔石を使え、魔法銀(ミスリル)の量を抑えれるため、比較的安く作れると言う事。

 そして群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)の爪を使った武具と違って、魔法そのもので攻撃する訳ではなく、あくまで補助魔法のため、おそらく寿命も比べ物にならないくらい長いだろうと言う事。

 群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)の爪を使った新式の武具は、魔法の方向性を整えているため旧式の物に比べて威力も高く寿命も長いとは言っても、その魔法によって刀身にダメージを蓄積している事には違いない訳だし、核となっている魔法石の消耗もそれなりにあるため寿命は、最前線レベルの魔物の討伐遠征の頻度では二年も保たないとの事で、おそらく信頼して使えるのは一年から一年半ほど。

 旧式が使い捨てだった事を思えば、驚くほどの寿命なのだろうけど、武具の寿命としては長いとは決して言えないらしい。

 その点、この重力制御を施した魔導具の武具は、魔法そのものとしては基本的な魔法を組み込んだ物なので、今までなかった事の方が不思議な魔導具ではあるものの、それには理由があって、魔導士でもない者が無理矢理に重力制御の魔法を使っても、威力が弱く大きさも知れていたため、それならば身体強化を磨いた方が威力が高く効率が良かったと言う基本的な問題。

 他にも魔法の専門家である魔導士が使う場合も、攻撃に一々剣の重さを変えるよりも、攻撃魔法を放った方が手っ取り早いという当たり前と言えば当たり前の理由が原因だと、開発の際に相談したコッフェルさんからも、そう聞いている。

 でも、その問題も魔導士向けの魔導具の杖に施されている特殊な紅血設定を基に、改良した物が解決してくれた。

 魔力の変換効率が上がりはするものの、その代償に紅血設定をした人専用の物になってはしまうという欠点はあるけれどね。


「あれ? 言うほど重くは」

「確かに」


 そして、この新型の魔導具の武具自身にも欠点がある。

 まずその重くする事で威力を上げる特性上、魔法銀(ミスリル)で強化をしても、重量級の武具である大剣や戦斧とかでないと、その刀身が持たないだろうと言う事と、軽くするのも重くするのも、質量の貯蓄の中でやりとりしていると言う事だ。

 それと言うのも、弱い結界で包んで重さを変えると言う、魔道士にとっては基本的な重力制御の魔法が、魔導具化かするための魔法陣が、どうしてもボヤけて見えない。

 何かの法則が働いているのか、従来の効率の悪い物は見えるけど、きちんと体系付けた効率を上げた物だと何故かボヤけてしまうと言う謎仕様。

 確かに、これでは効率が悪くて、今まで開発されなかった訳だと思いつつも、諦めずに開発を続けていたら、抜け穴を見つけた。

 要は質量保存の法則の魔法版。

 軽くした分の質量を、魔法石の中に貯めておいて、その質量を攻撃の際に使うと言う仕組み。


「一定時間は所持していないと、荷重の魔法は放てない仕組みになっているから。

 まだ紅血設定をしたばかりだから、あと数時間は持っていないと無理かな」


 そしてせっかく見つけた抜け穴にも欠点があって、その質量保存の効率が悪すぎる事。

 数時間も鞘に収めたまま持っていて、使う時には十回も使えないと言う欠点。

 当然、重くしている時間と威力によっては、その分だけ回数も短くなってしまう。

 他にも、鞘とセットの魔導具なので、鞘を無くしたら作り直しと言う事などが、今のところ分かっている

 それらの説明にアドルさんとギモルさんは……。


「いや、鞘を失くすとか問題外だし、実際、実戦でそこまで回数振るう事はないしな」

「これくらいの制限は、あっても当然だろう。

 むしろ初撃か切り札的に一、二回使えれば十分だし」


 魔物討伐は基本的に集団による連携戦が主流。

 ならば、その数回でも十分かも知れないと思って開発はしたけど、アドルさん達から見てもその考えは間違ってはいないみたい。


「でも、俺達で良いのか?

 もっと専門の大人がいるだろ」

「確かにな。

 熊や大猪を相手ならともかく、普通の狩猟では俺達も弓矢を使う事が多いし、魔物の領域に入り込む事はまずない。在っても当分は無害級や有害級で、精々人災級だ。」

「だけど、通常の鍛錬では得物を振るう時間は多いし、身近な意見が聞けると言うのは大きいから」


 当然、商会を通して、実戦における試用はしてもらう予定だけど、やはり其方からの報告はある程度纏められてしまった物で、生の声とはほど遠い。

 王都の魔物討伐騎士団のお姉様方なら、その辺りを遠慮なく話してくれるけど、逆にそこまで行くと、既に正式配備に近い状態なので、できる事ならその前に改善できる物は改善したい。

 ええ、嘘ではありません。

 確かにアドルさん達だからと言う事は含まれてはいるけど、その説明に嘘偽りはない。

 まぁ言っていない事があるとしたら、この魔導具のベースとなった大剣と戦斧って、実は王都の討伐騎士団御用達の武具工房の特注品。

 討伐騎士団の人達が見たら羨ましがる様な代物です。

 それに手を加えるだなんて、ある意味暴挙らしいのだけど、元々そのつもりで作らせた物だから私には関係ないし、ちゃんと工房には説明して許可を得ているので問題はない。

 向こうは向こうで、そのためのノウハウを逸早く手にするためというメリットがあるらしいしね。


「それに、この魔導具は、多くの人達に普及する事を目的とした物でもありますから」


 牙と爪と呼ばれる群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)の爪を使った魔導具の武具ほど派手な威力はなくても、地味に有用な能力を持つ魔剣であり、魔剣としての寿命も長いので、コッフェルさんを長とする魔導具ギルドを通して、ある程度の試用を繰り返して開発を終えたら、製法を一般公開する予定。

 これは、群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)を使った魔導具の武具を多く望む声を鎮静化させる目的もある。

 一度に使える回数制限があるため、小競り合い程度ならともかく戦争には向かない武具だけど、戦闘回数の限られた通常の魔物の討伐には、それなりに有効な武具。

 少なくとも、魔物に有効だと言う事を表向きの理由にしていた人達が、これで戦争目的に使いたいから群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)を使った魔導具の武具を寄越せなどとは言えないだろし、今まで築き上げていた剣技をそのまま使える事等を理由に、国はより強い制限を掛ける事ができる。

 大剣や戦斧が対魔物武具として主流だと言うルチアさんの言葉と、武具を欲して問題が起きてヴァルト様が苦労されていると言うドルク様の言葉から、開発を始めたもの。


「開発が進めば、極端な話、効率は多少落ちますが、手持ちの武具にも加工が可能になります」


 この魔導具の武具の最大のメリットは、魔法石と魔法銀(ミスリル)を使ってはいるものの、群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)ほど拘った材料を使用しないと言う事と、加工技術そのものは低いので安価に作り出せ、尚且つ資源保護ができる事。

 そもそも、群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)は厳つい名前の割に、下位の魔物とは言え、戦争を引き起こせる程の武具を用意できる程には生息していない。

 現在でさえ、コッフェルさんが魔導具の武具として広めてくれたせいで、群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)が素材としての価格が上がり、冒険者組合の方で乱獲防止の規制と罰則が出ているほど。

 これでは近い将来自然資源が枯渇して、本当に必要な時に必要な物が用意できなくなってしまい、多くの人達が困る事は目に見えている。

 再生力の強い灰色角熊(グレイ・ベア)の討伐とかには本当に有効の武具なので、それは避けてもらいたい。

 これが、私が乗り気ではない武具の魔導具を、進んで開発をした本当の理由。

 どこまでも自分勝手な理由だけど、所詮、人間なんて物はそんな利己主義的なもの、自分の故郷の長年の問題を理由にして、何が悪いと言いたい。


「報告してくれた内容で、改善した方が良い物は直しますし、それが後々に世間に広まった時の基本ともなりますので、気兼ねなく言ってくださいね」


 そのために、知り合いを利用する事にはなってはいるけど、それはそれ此れは此れ、贈り物としての気持ちには嘘偽りはないので勘弁してもらいたい。

 ……え? セレナとラキアの分って。

 貴女達まだ成人していないし、そもそも槍や双剣では向かない魔導具ですから無いですよ。

 ブーブー言わないの、そのかわり美味しい焼き芋をあげますから、今日はこれで勘弁してください。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ