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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第三章 〜新米当主編〜
230/977

230.友人二人との模擬戦と面倒臭い人達。






「そう言う事ですから、ヴィー、ジッタ、勝負です」

「ユゥーリィっ!」

「ユゥーリィ様っ、いつ此方にっ?」


 ヴァルト様に案内されて行った演習場には丁度鍛錬中だったのか、魔物討伐隊員数十人がそれぞれ身体を動かしており、その中でヴィーとジッタは鍛錬相手の二人に寸止めで勝負を終えたところ。

 基本的に魔物討伐は二人一組か、三人一組で隊で動くらしいので、今もその動きの確認を兼ねた訓練なのだろう。

 それにしても私の言葉はスルーですか?

 何がと突っ込んでくれないと、少し寂しいんですけど。

 まぁ、いいです。

 スルーされた事をスルーするとして……。


「三ヶ月ぶりかな。

 でも前はそんなに気が付かなかったけれど、二人ともまた大きくなってない?」

「少し服がキツくなったのは確かだな」

「夜、寝ててミシミシ聞こえてきますから、おそらくは少しは」


 いえいえ少しどころじゃないですから、間違いなく夏にあった頃に比べてセンチ単位で大きくなっており、体格もそれに合わせて大きくなっているから、尚更に大きく感じる。


「ユゥーリィ様は小さくなりました?」

「はい、お約束をどうもっ。

 ジッタ達が大きくなっただけなのっ、もうっ」


 一応、これでも少しずつ成長はしているんですよ。

 二人がセンチ単位だとしたら、私はミリ単位だけどね。

 それにしてもまぁ、この半年で、だいぶ男らしくなったものだと思う。

 これだけ男前なら、さぞや二人ともモテてるんじゃないかな。

 あっ、ヴィーには確か婚約者さんがいましたから、浮気はできないですよね・

 ジッタにはそう言うのはいないの?

 ……フリーだと。

 じゃあ頑張ってお嫁さんを見つけないと。


「「……」」


 なにやら黙り込んでしまう二人。

 何か変な事でも言っただろうか?

 思わず首を傾げる私にヴィーが、わずかに苦笑してから。


「王都に来るのは夏以来だろ、今回はゆっくり出来そうなのかい?」

「いいえ、結構来ていますよ。

 なんやかんやと、月に一度は来ているかな?

 ああ、そう言えば伝えていませんしてしたね。

 私、空間移動魔法持ちなので、気楽に来れるんです」


 ……えっ、じゃあなんで顔を出してくれなかったって。

 別に特に用はありませんでしたし、他にも会っていた人とかいましたからね。

 陛下とか、ジルドニア様とか、レイチェルさんとか、サラの観光に付き合ったりとか。

 あれ? なにやら周りの人達がヴィーとジッタを慰めている上、何故か私にそれは無いわと言う様な視線が送られてくる。

 別に、此処に挨拶に来なければいけない決まりなんて、無かったと思うのですが。

 私の知らない都会のルールとか?

 だとしても流石に、其処まで責任持てません。

 基本的に私は山奥の田舎娘なんですから、そんな都会独自のルールを求められても困ります。

 ……違うと。それと私は基本的には(・・・・・)何も悪くないから、気にしなくていいと。

 悪くないだけ(・・・・・・)でって、凄く気になる言い方な気がするんですが、まぁそう言う事なら、気にしません。


「それはそうと、ヴィーとジッタが夏からだいぶ強くなったと聞いたので、是非とも見てみたくて会いに来たんですが」


 別に私は脳筋ではないし暴力は嫌いだけど、この二人だと心配になってしまうのが本当のところ。

 だって、また角狼(コルファー)の群れに囲まれたなんて事があったら、今度は多分助けてあげれないからね。

 魔物討伐隊にいる以上、決して安全ではないだろうし、そう言った事態もあるだろうけど、一度関わり合いを持ってしまった以上、なるべくそんな事態にならない様にしてあげたい。

 元々その件もあって、ヴァルト様に会うのに詰所の方に顔を出したのであって、まあ勝負を挑んだのは、その場のノリです。


「あっ、私に勝ったら白角兎(ホワイト・ラビット)の熟成ステーキを焼いてあげますよ。皆さんに」

「「「「「うぉぉーーーーーーっ!」」」」」


 はい、一気に場が盛り上がりました。

 そしてなんとしても勝てと、ヴィーとジッタを激励する周りの人達。

 やっぱり、究極で至高のお肉である白角兎(ホワイト・ラビット)の効果は凄いですね。

 なにより男の人達は、お肉大好きですしね。

 でも、負けたらステーキは止めて、雀の串焼きですよ。




 パンッ!

 パーーーンッ!


 心地良い音が辺りに響き渡って、決着がついたヴィーとジッタとの恒例となった模擬戦。


「二人とも、弱くなってません?

 もしかして手を抜いたとか?」

「……いや、君が強くなったと思うんだが」

「……攻撃に迷いがないと言うか」


 あまりにもアッサリと決着がついたので二人を疑ってしまったのだけど、思い起こしてみれば手加減された感じはしなかった。

 私には効果がないと魔導具の剣を止めて、取り扱いやすさを重視した刃が付いていないだけの模造剣にした分、魔導具を発動させるための溜めが必要無いため、ヴィー達二人本来の流れる様な動きに加えて、剣捌きも以前より鋭かったし、体格に応じて筋力が上がったためか、動きそのものも速かった。

 記憶と比較してみれば……、うん、確かに強くなっていたかも。


「となると、思った以上に此れの効果があったと言う事かな」


 そうして、改めて右手に持った私用の近接専用魔導具を見下ろす。

 リーチの短い私をフォローしつつも、手加減をする必要のない私専用の得物。


 魔導具:癒しの獣扇(ハリセン)


白雪飛竜(スノー・ワイバーン)の羽と白牛猛鬼の角、そして魔法銀を主材料に作った一メートル程もある巨大ハリセン。

 白雪飛竜は冷気を操るけど、羽は【聖】属性を持っている珍種で、ルチアさんの義足の外装を作った時の余りだけど、此れを使ったこの武器は、私の治癒魔法と非常に相性が良い。

 つまり、治癒魔法を流し込みながら、この武器で相手を攻撃すると、攻撃した瞬間にその箇所を癒す能力がある。

 しかも治癒魔法の際に必須だった魔力の固有波形の同調も不要で、コッフェルさん曰く、私の魔力の力押しの結果らしい。

 ともあれ、私には合っている得物である事には違いない。

 ハリセンの骨材である角は白牛猛鬼の物で、此方は結界を扱う此れまた珍種の魔物で、此方もルチアさんの義足の外装で狩った獲物の使わなかった部分。

 成形時に私の血を流し込んだ事によって、私の身体の一部扱いになっているため、私の身体を覆う結界並に強固で柔軟な結界でハリセン全体を覆う事ができる。

 要は新型の剣や槍の魔導具の特殊攻撃を、簡単に受け止めれるだけの強固な得物でありながらも、気兼ねなく相手を殴れる得物でもある。


「ヴィーとジッタとの模擬戦を想定して作った甲斐がありました」

「嬉しいような、嬉しくないような」

「要は、ヴィー様と私をハタキ倒すための魔導具と言う事ですからね」


 うん、そうとも言うけど、実際問題、体格の良いヴィー達が剣を持ったリーチと、小柄の私が素手ではあまりにも不利じゃありません?

 これなら刃が付いてないから、ただの棍棒として振り回せますから、素人の私でも力任せになんとかなりますし、なにより危なくありませんからね。


「欠片も遠慮がないと言うのは怖い物だな」

「そう言うのは慣れたつもりですが、あの動きでやられるとなると、今までとは次元が違います」

「その言葉、そっくりそのままお返しします。

 私、毎回、二人に遠慮のない攻撃で焦っていたんですからね」

「だってな、幾ら寸止めするつもりでも、遠慮なんてしてたら」

「手も足も出ませんね。

 小柄な上に、あの速度と力は驚異でからね」


 うーむ、二人の言う事も分からないまでもないかも。

 小さくて当てにくいほど速くて、なのに攻撃をまともに受け止めようものなら、吹き飛ばされるのは自分達。

 確かに厄介かも。

 私も剣牙風虎サーベル・ウィンド・タイガーには毎回合う都度苦労させられるから、大抵は思いっきり引き寄せたところを仕留めている訳ですからね。

 それでも私は大分慣れたけど、それで、ジュリが恐怖で失敗してしまうほど、怖い思いをさせてしまった事もあった。

 どちらにしろ、私もヴィー達のこの模擬戦でお互いの問題点は新たに浮上したので、それを課題に次回のその時まで互いに腕を磨いておくの事にしよう。

 なら、そろそろ私が今日訪ねて来た本来の目的である事を伝えようとした時。


「あはははっ、期待の新人と言うからどんなものかと思えば、そのような乳臭い小娘に膝を付かされるとは情けない。

 所詮は獣相手に粋がっている連中程度と言う事か」


 何やら不愉快な声を上げるオッサンと、その取り巻き達が無遠慮に高笑いする声が響き渡る。

 どこかで見た様な出姿だけど、私が知っているものとは少し違うようだ。

 あっ、まだゾロゾロ出てくるから、部隊で移動中だったのかな?

 なんにしろ王城に出入りできる様な人達だから、素性は悪くない人達だと思うけれど、正直に言ってガラは悪い。

 着ている服や装備は品が良いだけに、余計に醜悪に見えてしまうのは、私の気のせいかな?


「ヴィーあの人達は?」

「王国軍の王都護衛騎士団の人達さ。

 最近、頭が変わって性格の悪さを隠さなくなったから、今や鼻つまみものだよ」

「護衛騎士団の主な仕事は、街道での警護と野盗退治や王都周辺の警備だから、自分達が王都を守っていると言う自負だけはありまして」


 王都の中は王都警備隊があるので、そうなると王都へと続く街道の治安を維持し警備、街と街を行き交う人や商人が安心して物を運べるのは、この人達のおかげと思えば、その仕事に誇りを持たれるのは分かる話なのだけど。

 何かイメージと大きなズレが……。


「これはヴォルダリック殿、今日はどうなされたのですかな?

 我々の様な獣臭い部隊は、お嫌いだと思っていましたが」


 あっ、ヴァルト様、柔かな笑みを浮かべて入るけど、あれは腹に据えかねている感じがする。


「あー、隊長キレてるわね」

「ウチだけなら適当に聞き流していたけど、客人まで馬鹿にしたら、そりゃあ怒るわよね」

「まぁ怒って当然よね」


 何やら、あの人達からの不躾な視線からか隠す様に、私の前に立って不躾な視線を身を以て塞いでくださる討伐部隊のお姉様方。

 あれ? 部隊のためでなく私のためなんですか?

 疑問が顔に出ていたのか……。


「そりゃあ、そうよ。

 貴女のおかげで、どれだけ怪我をする人が減ったと思っているの?」

「確実に三割は減っているわよ。

 遠征中に体調を崩す人達も減ったから、実際にはもっとね」

「隊長が怒ってみせなければ、私等がキレてるし」


 うーん、嬉しい様な嬉しくない様な。

 少なくとも私のために諍い、と言うのは勘弁してほしい気がする。


「なに、金食い虫の討伐団が、どの様な厳しい訓練をしているのかと思って覗いてみたら、まさかママゴトをしているとは思わなくてな。これは失礼な事をした」


 う〜〜ん、これは言い返せないかも。

 実際、私が関連した魔導具で相当な金額が国庫から動いたと聞くし、その分、何処かが割りを食う事にはなっているだろうから、おそらく護衛騎士団もその一つなのだろうと思う。

 そしてママゴトは、……私みたいな子供がいたら、そう嫌みを言われても仕方がないかな。

 なので皆さん、そんなに殺気立たないでください。

 私は欠片も気にしていませんから。


「ユゥーリィ、そう言う訳にはいかないんだよ」

「隊長は、ユゥーリィ様の後ろ盾をしたガスチーニ家当主としての立場もありますし、魔物討伐騎士団としてもユゥーリィ様に恩義がありますから、離れとはいえ王城の敷地内でユゥーリィ様を正面から馬鹿にされたのです。

 怒って見せなければ、侯爵としても討伐騎士団としても立場がありません」


 うわぁ〜、面倒臭い。

 なにか私の知らないところで、勝手に人を崇拝の対象に祭り上げないでもらいたい。

 私自身は只の小娘である事には違いないわけだし、馬鹿にされているのは慣れてますから。

 それに、そもそもあの人、私がヴァルト様や魔物討伐騎士団が、恐れながらも大切にして下さっているとは知らないで言っている訳ですし。

 ……そう言う問題じゃないと。

 困ったモノですねぇ。






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