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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第一章 〜幼少期編〜
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23.お姉様は、いつも輝いているのです。





 夏も真っ盛りになってきた頃。

 シンフェリア領では冬が厳しい分。比較的涼しい山奥では当然エアコンなど不要。と言うか、そんな物はこの世界には存在しないし、なくても窓を開ければ十二分に涼しい。

 ちなみに網戸は存在するので、夏限定で窓枠に嵌め込んである。

 そんな中、日々の忙しさに埋没しそうな毎日の中で、本日は家族での貴重な癒し時間。

 私は甥っ子のアルティアを遊んであげながら、部屋の片隅に目を向けると。

 どうやら、お母様とマリヤお姉様で、ミレニアお姉様にお化粧の指導をしている様子。

 貴族ではあっても、あまり化粧っ気がないシンフェリア家では、普段は口紅くらいで余り化粧らしい化粧はしていない。

 でもそこはそこ、お母様やマリヤお義姉様は、ものの十数分で見事に化ける事が可能。

 催し事や祭事の時や、貴族としての立場を求められている時は、どうしても必要不可欠な技術らしいので、身に付ける事は貴族の妻達としては当然の事なのだろう。

 そして貴族の当主の正妻になる予定のミレニアお姉様も、当然、今後その必要性が出てくる訳で、目下練習中。

 なんと言うか、前世の妹が中学に入ったばかり時に、一生懸命鏡の前で百面相をしていた頃を思い出す。

 実際は、施した化粧でどう見えるのか確認していたらしいのだけど、百面相呼ばわりして飛んできた整髪料のスプレー缶の勢いが怖かったのは、転生した今でも覚えている。

 そんな事を考えながら、甥っ子と睨めっこしていたのだけど。


「アルティア、ミレニアお姉ちゃん綺麗でしょ」

「きれい、きれい」


 マリヤお義姉様の言葉に余り意味が分かっていなさそうに、はしゃぐ甥っ子。

 完成したミレニアお姉様の化粧を施した顔は、確かに綺麗で可愛い。

 でも元々の素材が良いから当然の反応であって、化粧の効果としては……。


「……三十点」


 つい本音が溢れ出る。

 こう言うところが前世で彼女を怒らせた原因だと自覚しているのに、我ながら困ったものです。

 溢れでた声は小さな声だったにも関わらず、ミレニアお姉様達にはしっかりと聞こえたのか、それとも私の表情がそう語っていたのかは分からないけど、ピクリと目元を引き攣らせていた。

 ……うん、こうなったら発言の責任は取らないといけない。

 とりあえずクレンジングオイルと洗顔で、化粧を落としてもらってから下地造り。

 ナチュラルなのも良いけど、見せたいのならば眉もキチンと揃え。

 耳の生毛も、きちんと処理するとしないのとでは大違い。

 とりあえず剃刀は私が扱うと危ないと思われるので、お母様とお義姉様に任せて、私はその間に化粧品の種類を確認。

 異世界で田舎なら、種類や数が少ないし、調合の必要の物もあるのは仕方ないけど、毎日しないのであれば十二分に戦力になる品揃え。


「まず下地の化粧が厚過ぎ、次に目鼻を目立たせ過ぎ、あと色味に段差があり過ぎ。

 とにかく基本的に過剰です」


 正直、ある程度年齢のいった人向けの化粧の仕方の上に技術不足。

 全体的にノッペラして無駄なテカリが出てしまっている。

 これでは、最悪、剥がれが出てきてしまう。

 流石に、これらは口にして言わないけど。


「ミレニアお姉様にしろマリヤお姉様にしろ、もっと素の良さを出すべきです。

 若い肌の潤いを前面に押さなくてどうするんですか」


 そもそもミレニアお姉様くらい若ければ、基本的に日焼け対策と保水とリップくらいで十分に綺麗さを出せる。

 肌を厚塗りするのは、素肌の潤いが無くなってきてからで十分です。と流石に此れも口には出さない。色々とお肌が曲がりどころか、真っ最中のお母様には言えませんからね。


「ベースはテカリの部分だけに必要な量だけ。あと肌の色に合わせた物をきちんと調合。

 化粧水は手でなく、きちんとパフに染み込ませてから全体に満遍なく。

 そうすると下地も薄く乗りやすくなります。あとファンデも軽くで良いです」

 

 若い瑞々しいい肌は、毛穴も目立ち難いですから、ベースメイクはそんなに必要とはしない。

 続けて眉やアイシャドウ、アイラインといれチークを薄らと乗せる。

 元の色を隠すほど塗るのは無意味だし、不経済だ。

 前世での元カノのコスプレに合わせた化粧のために覚えた技術だったけど、こんな形で今世で役に立つとは、前世では欠片も思いもしなかった。

 そんな私の化粧技術に驚く家族は……。

 

「結局は、お絵かきですから」


 と言う、私の言葉にショックを受けていた。

 ……三人とも絵心は余りないからね。

 その間にハイライトとシェーディングで仕上げをし、あとは口紅だけだけど。


「……さっきとは全然違う」

「……私のこれまでの経験って」

「……あの、お母様、それを言ったら私もなんですが」

「おねえさま、きれいきれいなの」


 今度は心から喜ぶアルティアに、幼くても男の子なんだなぁと感心する。

 他の三人は……まぁ今は放っておこう。

 それよりも私としてはまだまだ不満。

 これではミレニアお姉様の魅力は引き出せていない。

 かと言って、手元にある化粧品と私のなんちゃって化粧技術では、これが限界なのが悔しい。

 せっかくミレニアお姉様がお嫁に行って幸せになると言うのならば、その魅力を最大限に引き出したいと思うのは妹として当然の事。

 山奥の男爵家と違って、平野に領地を持つ子爵家となれば、多少なりとも夜会もあるだろうし、旦那様を支えるお姉様の力になる技術でもある。

 今のミレニアお姉様の化粧を施した姿に足りないのは、お姉様の優しさを表すような輝きと、可愛くても確かにある艶やかな色気。


「少し待っててくださいね」


 私は、いくつかの化粧品を少しだけ小分けにしてから、一旦、自室に戻ってきてから、お姉様に最後の仕上げをして、あるものを指に握らせる。


「お姉様、これをいつものように」

「……ぇ?」

「……何これ」

「……凄い」


 お母様達の反応は上々。

 驚きながらも、顔を輝かせている。

 その反応だけで、この仕上げは上出来だと言える。

 まだまだ自分でやっておきながら研究の余地はあるなと思いながらも、お姉様の魅力は引き出せたと自負できる。

 そしてお姉様自身、顔が輝いて見える。

 うん、文字通り、ほんのり僅かに輝いて見える。

 決してくどくなく、自然な光に顔が明るく見え、唇も艶やかに瑞々しく輝いて見える。


「光石を微細な粉にして混ぜてみたんです」


 光石は正常な魔力の流れに反応して光を放つ鉱物。

 放つ白い光は決して眩しい過ぎる物ではなく、むしろ柔らかな明かり。

 魔法でマイクロレベルまで粉にして化粧品に混ぜたそれは、光ったとしてもごく僅かで、薄暗い部屋の中では視認できない程度。

 でも其処に輝きは無い訳ではなく確かにある存在。

 光石の粒度の一番細かい口紅は、透明度のある輝きが、僅かに目の荒い光石はパウダーとして肌を、ラメとは違って自然に輝かせて見せる。


「ここまで細かくした光石は、元々、落ち着いていれさえすれば、魔力を意識しなくてもごく僅かに。

 逆に今みたいに意識して見せたい時は、光石を光らせる要領で輝きを増せれるので、印象付けしたい時に使えます」


 小さな子供が誤飲しても問題ない事は以前に聞いていたから、化粧品に混ぜてもそうは問題ないはず。

 そもそも使用して肌に問題が出るような物なら、光石として普及はしてはいないだろう。


「ところでお母様、これって新たな特産品として領外に売れないでしょうか?」

「た、確かにその通りね。これは売れるわっ!」


 私の提案に、お母様は目を見開いて興奮する。

 元々光石はシンフェリア領の特産品の一つではあったけど、それほど需要が高くない上、寿命の長い光石は、ある一定量が出回れば、それほど売れなくなってしまう。

 その事を帳簿から分かっていた私は、光石を使った化粧品は安定して売れる特産品になると判断した。

 少なくとも物珍しい間は売れてくれるはず。


「ユゥーリィ、これってそんなに簡単に作れるものなの?」

「ええ、今回は魔法を使いましたけど、使わなくても可能です。

 手間はそれなりに掛かりますけどね」


 ミレニアお姉様の言葉にそう答える。

 お姉様が聞きたかったのは、魔法が使えないと作れないような物かどうかと言う事。

 もし魔法が使えないと作れないような物だと、とても素敵な金額になってしまう。

 だけど、魔法が使えなくても作れるのであれば、値段を抑えれる分幅広く売る事ができる。


「問題は安定して均一な粒度を作り続けれるかでしょうね」

「その辺りはなんとかなると思うわ」


 心配する不安要素を言葉にする私に、今度はマリヤお義姉様が断言してくれる。


「光石が原料なら、顔料とかの技術を応用できるでしょうから、商品化も意外に早く進めれると思いますわ」

「なら私の結婚式を、そのまま商品発表の場にしてしまいましょう」

「そうね。ウチみたいな田舎と違って、多くの貴族や商会も招かれているでしょうし。

 先方の貴族後見人であられる伯爵様も来られるでしょうから、絶好の宣伝になるでしょう」

「使えそうな化粧品を急いで取り寄せましょう。

 今回の物以外の商品開発も必要でしょうから、この際、経費よ。経費。全種、揃えましょう!」


 どうやら、お母様達の中では既に商品化は決定事項らしい。

 それらを決めるのは、一応は領主であり商会経営者のお父様達のはずだと思うのですが……。

 え? この件ではお父様達に何かを言う権利はない? 何でですか?と思うけど、怖いので聞けません。

 ミレニアお姉様は自分の結婚式を巻き込む事に、自ら提案する辺り逞しいと言うか、幸せになると言う自らの言葉を邁進する気満々なのが目に見える。

 きっと今のお姉様は、化粧なんてしなくても輝いて見えるに違いない。

 でも、帳簿を管理している私の前で、経費を私物化するような発言は止めてもらいたい。

 必要経費だと分かってはいても、胃にシクシクきますから。


「……ぁぁ、今は止めておこう」


 ……これは、光石をまぶしたウエディングドレスとか、幾つかの案は言わない方が良いかな?

 三人のあまりの熱狂ぶりに、つい一歩引いてしまいそう思ってしまったのは、私が子供のせいなのか、それとも元男のせいなのか。

 何にせよ、言うに言い出せなくなってしまった。





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