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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第三章 〜新米当主編〜
228/977

228.どうせやるなら、鍛錬も楽しくなくちゃ。





「孫が大変に失礼いたしました」


 学習院の入口で待ち伏せされ、何やら、大袈裟に頭を下げた老紳士。

 どうやら、先日のミゼルナさんのお爺様らしいのだけど、別にこの人が悪い訳ではないので、止めてもらいたい。

 ああ、ミゼルナさんと言うのは、先日コッフェルさんの所に顔を出したミゼルさんの事。

 ミゼルと言うのは愛称や略称で、ミゼルナさんと言うのが正しい名前なんだって。

 そんな事はともかく、私の様な小娘に立派な紳士が頭を下げるなど、そうそう有って良いものではないし、公衆の面前ならば尚更の事。

 なんだけど、多分それを狙っての事なんだろうな。

 公衆の面前で謝罪をして許してもらう事が狙い。

 一応は貴族の当主と言う事に私はなっているので、平民であるミゼルナさんが堂々と失言しまくったのだから、祖父であるこの人からしたら顔面蒼白ものなのだろう。

 だって言う所に言えば、私、ミゼルナさんを不敬罪で投獄するなり処刑する事なり出来てしまうのだから、ミゼルナさんのお爺様の気持ちも分からないまでもない。

 ぶっちゃけ、あの場でミゼルナさんを殺したとしても、貴族としての正当な理由があれば許される訳だもの。

 そして爵位持ちの貴族に対しての不敬は、正当な理由になってしまうのだわ、これが。


「私はあの場所には唯の個人でいたので、御心配なく。

 それにコッフェルさんが、しっかりと叱ってくださっていたので、私としては何もなかった。それだけです」


 もっともそのためには色々な手続きが必要なので、そんな面倒臭い事など私がするはずもないし、そもそもそんな気などない。

 そのためもあって、あの時は態と々家名を述べなかったのだ。

 知らなかった事だと。

 相手によっては無意味な言い訳だけど、それを言い訳に出来る様に。


「私としては心は未だ平民の儘ですので、今回はお気になさらないで下さい。

 それよりも、彼女が本気で魔導具師を目指すのであれば、今は魔力制御に力を注ぐ様にお伝え下さい。

 伸び悩む様であれば、相談には乗りますと」

「ありがたきお言葉です。

 ですが既にコッフェル老師より教わった、光石を使った魔力制御は教えてはあるのですが、……どうにも孫は飽きやすく。

 せっかく稀代の魔導具師であられるシンフェリア様が御考案になられた、魔力制御の鍛錬方法だと言うのに」


 あぁ……、飽きちゃったか。

 単純に光らせるだけなら、飽きてしまうかも。

 実際に私も当時は飽きて、色々工夫しながら鍛錬方法を工夫した覚えがある。

 その後、光石が八色に光る事に気がついて、さらに創意工夫を凝らしたんだった。

 ジュリは、そう言う点では偉いよね、黙々と同じ事をやれるんだもの。

 う〜ん、少し工夫させた方が良いかもしれない。

 ミゼルのお爺さんには、幾つかの光石を使った魔力鍛錬のパターンと、遊びと思って色々楽しむ事が大切と伝えておく。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

【コンフォード邸、離れ】




「それでなんですか、これは?」

「んー、新しい魔力制御の鍛錬方法」


 上級魔法講座の番外編こと、私が講師とする回で、生徒はジュリとポーニャとルチアさん。

 約一名、歳が大きく違うけど、そこは突っ込んだら拳が飛んでくるので、誰も突っ込まない。


「積木ですか?

 それにしては大きいようですが」

「……」


 のほほんと、ポーニャが不思議そうな顔をするけど、大きさに関してはジュリの魔力制御力を参考にした物なので、彼女は何も言えない。


「コンセプトは楽しく魔力制御です」

「真剣味が足りないのでは?」

「遊びだからこそ真剣にもなると思えませんか?」

「確かに、……それに平常時の状態での魔力制御の目安にもなりますね」


 そこまで考えてはいないけど、リラックスした状態での魔力制御の鍛錬も大切なことには違いない。


「ならば、もう少し色々な形があった方が良いと思うのですが?」

「それだと一人でやっているのと変わらないから、これは皆んなでやる積木なんです」


 積木は積木でもジェンガ。

 長方体の木を積み上げてゆく遊び。

 本来は一個が数センチ程度の物なのだけど、これは一個の長い方向が二十センチほどもある巨大ジェンガ。

 遊び方を説明しながら、塔を積み上げてゆく。


「お分かりでしょうけど、手は一切使いません」

「でしょうね」

「少しでも制御が狂えば崩れてしまうと」


 だいたい意図が伝わった様だけど、大きい分だけ重みがあるので、小さな物ほど崩れやすくはない。

 荒い魔力制御で、木のブロックを雑に動かさない限りはね。


「はい」

「ん、まぁ悪くないですね」

「あっ、これっ意外に難しい」

「経験者の意地を見せなければ」


 私以外、ただ一人実験に付き合わされて、経験のあるジュリが妙に気合が入っているけれど、こう言う時のジュリって、偶に大ポカをやらかすんだよね。

 なんやかんやと、代わりばんこに抜き取ってゆくと。


「ふっ、楽勝ですわ」

「「「……」」」


 うん、やっぱりジュリはジュリだった。

 私は黙ってジュリが、今、一番上に載せた木のブロックを力場(フィールド)魔法で元の場所に差し込み。


「魔法で触って良いのは、一本だけ

 他の木のブロックを魔法で支えるのは反則」


 当たり前すぎて説明しなかった事をやらかしたジュリに、特に責める事なくやり直しを要求。

 無論、言い出しっぺの私は、ジュリのやらかしたブロックを戻す際にも、ルール通りその一本にしか魔力の紐は触れていない。


 がしゃーん!


 結局、魔力制御に一番日が浅いポーニャが木の塔を崩す事になってしまったのだけど、それなりに楽しめた様だ。


「悪くは無いですが、これは同程度の力量者同士でないと、成立しにくい遊びですね」


 ルチアさんの言うとおり、私はもちろん、実戦経験が豊富なルチアさんも余裕。

 魔力制御に不安のあるジュリとポーニャの勝負だったと言えるけど、実際には私の教えを受けているジュリの方が圧倒的に有利。

 後一年も教えれば、制御力だけで言えば、ルチアさんにかなり近づけれるんではと思っている。


「それに魔導具師の魔力制御は繊細と聞いていますが、この程度で宜しいのですか?」

「うーん、先ずは慣れる事からと思っての遊びだから」


 とりあえず、普通のジェンガの半分くらいの大きさのジェンガを取り出してみる。

 大雑把な魔導具なら、これくらいのジェンガをキッチリ積み上げれる程度の魔力制御が必要かな。

 私が最初に作った小瓶の魔導具もどきなら、マッチ棒サイズのジェンガになる。

 それに魔導具の作成に必要なのはそれだけでなく、瞬時に魔力の出力を変えて魔法陣を焼き付けてゆく事。

 ジェンガを使った魔力制御では、出力を瞬時に切り替える制御は必要としない。

 あくまで魔導具師が必要とする魔力制御、その表面的な部分の鍛錬でしかない。


「それに、学院生あたりには良い遊びじゃないかなと思って」

「ああ、そう言う事なら良いかもしれませんね。

 ではユゥーリィさん、これ学院の人達に教えても良いですか?」

「別に構わないわよ、光石を使った方もね」


 基本的に私の講義で教わった事は、秘密にする事になってはいるらしいのだけど、魔力制御の基本的な鍛錬方法なら、広めても構わないと私は思っている。

 実際に出来たばかりの魔導具師ギルドでは、既にコッフェルさんが教えているみたいだしね。


「さぁ、準備運動も終わったところで、魔力鍛錬に入りましょう。

 前回座学で教えた事が実践できる様になっているか、しっかりと()ますからね。

 特にジュリ、分かってるわよね?」

「手を抜けた試しなんてありませんでしたわっ」

「集中力の緩みは何度もあるでしょ」


 魔力眼の魔法でその辺りは丸視えなのだから、半刻くらいの集中力の維持は、そろそろできる様になってほしい物だ。


「伸びるわけね」

「ですね」


 うん、ルチアさんとポーニャが何か言っている気がするけど、聞こえません。

 当人に合わせた内容ですからね。





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