22.お姉様、そのまま手を前で丸めてニャーと鳴いてください。
先日の休養で英気を十二分の補給した一件を、お母様達は『ユゥーリィにも、ちゃんと女の子らしい所があった』と喜んでいたけど誤解である。
あったのは『純粋に可愛い子が見たい』と言う男心です。
なお本日の髪型は、数房分だけのお団子ツインテール。
お姉様が気にいってのリクエストです。
フルのお団子ツインテールは、私がやると子供っぽく見えるので、私が抵抗した上での妥協案の結果。
まぁ、お姉様には、私の髪型の変形で猫耳ヘアにしてあげましたけど♪
それはともかくとして、本日もお昼過ぎから魔法の研究。
もう少し大きくなったら夜に回す事も考えるけど、今は保留中。
十歳児と言えば十分な睡眠を必要する年代だから、こればかりは仕方がない。
まだまだ寝ながらの魔力循環に慣れなくて眠いから、これ以上は身体に負担は掛けられないと言うのもある。
「やっと安定して開けれるようになった」
【時空】属性魔法の特性は、此処半月で分かってきたのもあって、空間に時空の穴を開ける魔法も、以前のように揺らぐ事はなく、収納の鞄のように形状も安定し虚空から発生する靄も安定している。
問題は此処からかな。
研究日誌に記載されている観察記録と多岐にわたる考察。
魔法は想像の産物ではあるけど、その想像だとしても筋が通っていなければ破綻してしまうのは当然と言えよう。
自分を騙せないないようでは、世界を騙す事は出来ない。
そんな何処かのペテン魔術使いのような言葉が脳裏に浮かぶけど、こと魔法に関しては全くその通りである。
アルベルトさんの日誌も、ある意味同様。
結果や観察から導かれている物は確かに素晴らしい物があるし、様々の発想や研究内容は、どこに出しても恥ずかしくないと思える。
だけど魔法と言うのは、現実の目に見えるもの等は、ごく一部でしかない。
空間と空間を繋ぐ転移魔法。
でもコインの裏表のように見えていようとも、実際には全くの別物だと言う事は十分にあり得る話。
地に落ちる影を見て、コインに見えたからコインと思ったに過ぎない。
望んだ魔法と結果を繋ぐ物。
この世界の魔法では幾ら想像の産物ではあっても、その一部は理論であり知識でもある。
だけど私の前世では、実現は出来なくとも、その理論や方法だけはあった。
ローゼンの橋。
学術的な詳しい理論なんて欠片も知らない。
でもその概念図やCGアニメはそれなりに有名で、簡単に言えば、要は亜空間領域でのトンネル。
幾らコインの裏と表をくっつけようと試行錯誤しても、それで可能ならば瞬間移動は伝説級の魔法にはならないだろうし、国がその術者達を囲いはしないだろう。
なんにしろ、瞬間転移移動ではなく空間移動魔法であるのであれば、その距離を零にする事はできない。
できるのは、その距離をできるだけ零に近づける事。
「この世界で実在する魔法であるのなら、理論上は可能」
元々この世界に前世程の学術は存在しない。
ならばもっと簡単に考えるべき……。
魔力を高めて操作する。
空間に空けた虚空の穴空は黒い霞が渦巻いている先に、魔力のトンネルを作る。
亜空間なのか虚数空間なのかは知らないけど、この空間は此方の世界と繋がっている。
なのでトンネルの繋げる先を強くイメージする。
でもイメージだけでは駄目だ。
明確な空間座標が必要で、それは【時空】属性系魔法を使った、人間レーダーの魔法。
風と組み合わせれば三次元空間レーダー、水なら水中レーダー、土なら地中レーダーと【時空】属性系魔法と組み合わせる魔法。
なら【時空】と【時空】を掛け合わせれば?
「答えは、これっ」
自分を言い聞かせるように声を上げる。
自身の発想と考えで自分を騙せないようでは、世界を騙せはしない。
時空と時空を掛け合わせた【時空間レーダー】に、私は確か手応えを魔力の触角の先に感じる。
手応えを感じたの先に、もう一度虚空の穴を空けると共に、魔力で出来たトンネルの長さを圧縮すると同時だろう。
虚空の穴に渦巻いていた黒い霞は白い霞と変化してゆく。
「アルベルトさんの日誌通り」
魔力で編んだ空間トンネル。
目の前に虚空の穴と、数メートル先に発生した新たな虚空の穴。これが繋がっているはず。
自信はあるけど、とりあえず手頃なクッションを穴の中に放り込むと……。
ぽすん。
虚空に放り込まれたクッションは、ほとんどタイムラグなしに、目の前に作ったもう一つの虚空から飛び出し床へと落下する。
見た目的になんら異常は見られない。
成功だ。
凄いぞ魔法。
凄いぞ、この世界。
アルベルトさんの日誌のおかげとはいえ、此処まで早く習得できるとは。
【時空】属性の素質、表裏一体のコインではなくトンネルの発想、時空レーダー、最低この三つが揃わないと、習得する事はできないであろう空間移動魔法。
伝説になるくらい使い手がいないのは、相性とかもあるんだろうけど、極秘技術なんだろうな。
便利ではあっても、軍事的に見たら危険すぎる魔法でもあるからね。
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と、喜んでいたのはつい十日ほど前なんだけど、空間移動魔法って意外に不便だわ。
まず、収納の魔法と同様に生きた物は通れない、と言う事はないのはアルベルトさんの日誌で分かってはいたけど。
「この魔法、魔力を食い過ぎ」
今まで魔力が尽きた事のない私でも、日に数十回も使ったら、魔力が枯渇しそうな勢いで目減りするのを感じた。
しかも魔力の消費は、空間移動魔法のゲートの大きさと継続時間と移動物量と移動距離に比例してうなぎ登り。
そんな状態だから、まだ肉体的に幼いと言える私では、実質は日に使える回数はそれほど多くないと見ている。
行って終わりの事はないから、往復する事を考えたら回数は減るし、移動先で魔法を使う必要も考慮したら尚更の事。
あとは、ある程度予想はしていたけど、これも転移系魔法のお約束で、行った事のある場所にしか移動できない。
時空レーダーでマーキングの魔法も新たに必要と判明。
他にも移動先が土砂崩れで埋まっていたり、水没していたら、土砂や水が雪崩れ込んでくる。
当然、年数が経ってマーキング位置に巨木が生えでもしたら、そこは移動先には使えない。
あと、時空レーダーのマーキング魔法。
これは、あくまで感覚でしかないので、膨大な魔力を使って移動はしたけど、実は移動先が違いました。
なんて事も十分あり得る訳で、区別のために数も制限した方が良いし、実際のマッピングもした方が良い。
ちなみに力場魔法の届く範囲であれば、マーキングの魔法も必要はないのだけど、目に映る範囲での空間移動魔法に意味を見出せなかった。
せめて瞬間移動なら、敵の背後に回るなんて事も使えたんだろうけど。
少なくともこの魔法における軍事的利用価値は、だいぶ限定されるだろうって事が幸いだと思う事にする。
「でも、これで活動範囲はかなり広くなるかな」
今まで移動時間を取り過ぎていた山歩きもそうだけど、人目の付かない所での魔法の練習も、かなり時間を節約できる。
後は立場に左右されない街への移動。
まずこれを目指すべき目標だ。
領内では親や領民の目もあるので、どうしても行動が制限されてしまう。
その点、他領であればその限りではないし、外の情報も多く手に入る。
他にも山歩きで手に入れた貴重な薬草や獲物を、家族に知られる事なく現金化する事も可能。
十歳の子供では、現金を手にできる機会なんて限られていたからね。
これは何をやるにも大きいし、何かをするための力を貯める事ができる。
「欠点は、全部徒歩で行く必要がある事なんだよね」
街に行くためには街道を行くのが一番迷わないけど、人目のある街道を身体強化の魔法で駆け抜けるのは目立ちすぎる。
あと活動するなら人の行き来のある隣領は止めておいた方が良いし、シンフェリア家と縁が深い領も避けた方が良い。
車や飛行機がないこの世界、徒歩で歩くには広すぎると思うんだけどね。
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辺境都市リズド。
シンフェリア領から南方に五百キロ以上離れた都市で、シンフェリア家とは派閥も違う貴族が治める都市。
そもそも貴族としての身分が違いすぎるから、実家が何かを言ったとしても届く事はないだろう。
その分、全て自己責任になってしまうのだけど、それはある意味当然の事。
この都市まで、かなりの数の街を経由してきたおかげもあって、一月以上も掛かってしまった。
前世なら高速鉄道に乗って半日程度の距離なのにね。
でも、仕方がない。
普段の家の生活もあるので、実質移動できるのは昼間の数時間だけ。
朝食後の短い時間とは言え、淑女教育が終わった後に自室から空間移動魔法で移動。
その後はひたすら身体強化の魔法で移動して、時間になったら人目のないところでマーキングをし、空間転移魔法で自宅に戻るをひたすら繰り返す。
無論、必要のなくなった位置のマーキングの魔法は解除しておく事を忘れない。
そうしないとマーキングがすぐに一杯になってしまって、訳が分からなくなるからね。
それに幾ら人目に付かないように、街道が見える範囲で身体強化魔法を使って駆け抜けたところで、圧倒的に移動時間が少ないし、初めて訪れた街や町に着けば一通り見て回ったりしたいのが人の性。
どうしても時間が掛かってしまうのは、しょうがないだろう。
けっして、美味しそうな食材がないかを、探し回っていたからではないですよ。
2020/03/17 誤字脱字修正




