216.切り株は幸せのお裾分け?
「ではユウさん、私はこれで」
「今日も従者教育、頑張ってね〜。
それと、お土産を渡し忘れても、独り占めしちゃ駄目よ」
「しませんわよ。
貴女の中の私は、どれだけ飢えていると思っているんですか」
「甘いものに関しては底なしで」
「そ、そんな事ありませんわっ、もうっ」
プリプリと怒りながら、私と別れて歩いて行くジュリを見送りながら、ちょっとだけ言葉が詰まったジュリに、多少の自覚はあったのだと、彼女の正直な所につい笑みを浮かべてしまう。
そこへ一緒に見送っていたライラさんが……。
「こ〜らっ、自分の従者を揶揄って、何をニヤニヤしているの〜」
「だって彼女の反応、可愛いと思いません?」
「否定はしないけど、やりすぎは駄目よ」
「それはもちろん。
大切にはしてますよ」
窘められたので、少し反省。
ただ、お土産の渡し先の一つがルチアさんなので、渡し忘れた日には色々と後が怖いのは本当。
ええ、優しい微笑みが怖いと言うか、とにかくお菓子の恨みは怖いですからね。
しかも、それが新しいお菓子となると、絶対に何か言われる事は間違い無しです。
こう言う事に大人も子供もありません。
「あら、もしかして態々お出迎えしてくれたの?」
そんな事を話していたら、道の反対側からライラさんの叔母であるラフェルさんがやって来たので、ライラさんのお店の中というか、店舗スペースの裏側の住居スペースへ移動。
既に新居部分はほぼ完成しており、後は結婚式後の引越しを終えてから、この元からの居住スペースの改装となっているので、下手すると今回が見納めかもしれない。
さて、今から何をするかと言うと、この三人で食事に行くとか、また服を見に行くとかではなく、本日の目的はお菓子作り。
半月後にあるライラさんの結婚式の時に、お祝いに来てくれたお客様にお渡しするお土産のお菓子は、新婦が作って用意するのがこの辺りの慣わしなので、本日はそのために集まった次第です。
「伯母さんもゆうちゃんも忙しいのに、今日はありがとう」
「私はともかく、ユゥーリィさんは、今はかなり忙しいのでは?」
「急遽、色々重なっちゃいましたからね、でも私にとって此方が最優先です。
そのためなら国からの依頼なんて後回しです」
「「そこは後回しにしちゃ駄目でしょ!」」
いえいえ、国からの納期は大分ありますから大丈夫です。
ただ、色々とゴタついているようなので、少しづつでも早く納めようと自分で決めた納期ですから、後回しでも問題ないんです。
ええ、胡散臭さ爆発の陛下の相手より、優しいお姉さん属性のライラさんのために動いた方が万倍も楽しいですから。
そんな訳で、つまらないお仕事の話は、横どころか棚の上の隅にでも置いておいて。
「作って貰う予定なのは此れです」
収納の魔法から出したのは薄い木箱。
中身が潰れないようにするのと、湿度を適度に吸って管理してくれる桐の箱のような物。
これだけでも平民の結婚式にしては、結構お金が掛かっているけれど、平民と言っても富裕層の結婚式のため、これくらいは当然と言える人達が多く来られるらしい。
そしてこの木箱を開けた中には切り株、……ではなく、前世では結婚式の定番のお菓子だったと言うバームクーヘン。
「材料は小麦粉、コーンスターチ、卵、砂糖、蜂蜜、バター、牛乳、生クリーム等の在り来たりの材料ですが、見た目のインパクトもありますし、味の方も素朴ですが悪くは無いと思っています」
派手なのは結婚式で十分堪能してもらう予定なので、その後は素朴で安心する味の方が良いはず。
家庭を思い出すような、それでいて家庭とは一線を画すお菓子を。
早速、包丁で切って、試食をしてもらう。
此れは焼いて三日目の物だけど、実際お出しするのは、一日掛けて冷ました物を収納の魔法の中で当日まで保管して出す予定。
「思ったよりしっとりしているわね。
焼き菓子だから、もっとパサついているかと思ったわ」
「保存性を追求するとそうなりますが、聞いた所それほど遠距離のお客様は来られないとの事なので割り切りましたが、調整は可能です」
「……うん、美味しいのは分かるんだけど、これ、私が作るの?」
いきなり白旗を上げ始めるライラさん。
別にバームクーヘンは特に難しいお菓子では無い。
簡易的な物なら、キャンプやバーベキューで作る人もいるくらいだし、本格的な物にしたって、基本的な作り方は変わらない。
生地を流して、ある程度焼けたら巻いて、また生地を流して、焼けたら巻いてを延々と繰り返して行くだけのお菓子で、特別な技術はいらないけれど、只管手間の掛かるだけのお菓子だもの。
そう説明すると、本気で無理と暴れそうな表情をされたので種明かしをする。
「そう思わせられるお菓子でもあるので、戴いた方は手間暇を掛けるお嫁さんだと思ってくれると思います」
実際は、こんな手間暇の掛かるお菓子なんて真面に作っていられませんので、そこは魔法でズルをします。
台所の土間の空いたスペースに収納の魔法から、ドンっ、とは埃が立つ様な真似しないけれど、奥行きが倍もあるクローゼットぐらいの大きさの魔導具を静かに取り出す。
魔法があるから大きなものでも動かせれるけど、魔法がなかったら運ぶのも大変だと思う。
私は魔法があるので問題なし。
「これは?」
「このお菓子専用の焼き台です」
前世で見た知識と、携帯竃をはじめとする魔導具の技術を駆使して作った調理魔導具。
「ここに生地を流し込んで、此方のダイヤルで火力と速さを調節さえすれば、魔力伝達コードで魔力さえ送っておけば、ある程度自動で焼き上げてくれます」
「……態々、これを?
って言うか、どれくらいお金が掛かってるの?」
「……ゆうちゃんてさ、時々凄いのか馬鹿なのか疑問に思うんだけど」
二人とも酷いです。
せっかくライラさんが少しでも楽をして、尚且つ出来る奥様に見えるように努力したと言うのに。
「いえ、だって、ユゥーリィさん、幾らなんでもお金を掛けすぎでは?」
「私、魔導具師ですよ。実費なんて知れています。
それに、ほとぼりが覚めた頃に売却する予定になっていますから、その辺の心配は無用です。
寧ろそう考えれば、今回のは運用試験とも言えますし」
「だとしても、こんな大掛かりな魔導具ともなれば、かなりの金額でしょ。
そんな物を買う人がいるの?」
「いると思いますよ。
先程も見て貰いましたけど、パッと見でかなりの手間暇かけたお菓子ですから、そう言う見栄を張りたいと思う人って、貴族の中には結構いると思いますし、何より安定して大量に作れると言うのは大きいと思うんですよね」
味も素朴ですから飽きもしにくいですし、また、色々混ぜて味を変える事もできる。その上、焼き上がった物をさらに加工すると、また別のお菓子になったりもします。
水分調整すれば保存も効くし、ラスクやフリーズドライにすれば、もっと日持ちがする上、栄養価も結構あるので携帯食にもなる。
「実際、お世話になっている商会の人に話したら、間違いなく買う人がいると言ってましたし、此れ一台のみなら、尚更高く売れるとか」
「ちなみに幾らぐらいで売れるの?」
「金板貨単位で売れるとか。
材料費としては、銀板貨三枚も掛かってないんですけどね」
魔石は自分で獲ってきた奴なので、お金は掛かっていない。
魔導具師の場合、鉄も銅も魔法で溶かして形にする事ができるから、原材料費は本当に安く済むし、それほど手間は掛からない。
その代わり、形状変化に向いていない木材を使う方が手間が掛かる程。
結局、一番お金が掛かっている部分と言うのは、実は魔力伝達コードやその関連の回路で、材料費の半分近くを占めていたりする。
「気にすると言うのであれば、この調理用魔導具の試験運用を、ライラさんの結婚式の準備に、使用させて貰うと言う事で」
魔導具がライラさんの結婚式に使って終わり、と言う訳ではない事を聞いて安心したのか、二人の緊張が解れるんだけど、私としては最初から問題なくても、なかなかそう言う訳にもいかない。
一方的に施すような状況は良くないので、あくまで私が知人の結婚式を口実に利用させてもらう形の方が受け入れやすいと思って、このお菓子にした事もある。
そんな訳で早速調理。
と言っても、その前の準備が大変なんですけどね。
「きちんと計量してください。
お菓子作りは計量が要です」
「だってこの量よ、多少は許されるでしょ」
「そう言う雑な所が貴女の駄目な所なのよ。
家で食べるお菓子ならともかく、多くの方に食べて貰うお菓子や料理で手を抜くなんて、とてもあり得ないから」
「ゔっ」
早速、やらかしそうだったライラさんの手元を注意するのだけど、ライラさんが計量を大雑把にする気持ちも分からなくはない。
なにせグラム単位ではなくキロ単位、使っている器もボールとかでは無く、桶や大鍋と言う、お菓子作りには見えない光景に、多少の誤差くらいはと思うよね。
でも、お菓子の味と言うものは繊細で、家庭だと一グラム単位で大きく味が変わってしまうほど繊細なもの。
だからお菓子って、実は大量に作る方が味が安定する物でもあったりする。
数人前だと、一グラム単位で気を付けないといけないけれど、数十人分、数百人分だと、そこまで気を使わなくても良いとは言え、手を抜いて良い理由にはならない。
だけど、それでも多少の事は誤差範囲にはなる。
簡単に言えば、大量に作れば作るほどライラさん向けの料理なるため、そう言うお菓子を選んだのはライラさんには秘密。
と言っても実際、一度に数百人分の材料は作れないので、数十人分なのだけど、それでもかなりの量。
引き出物だから完璧な物のみをお客様にお渡しする関係上、歩留まりを考えると、どうしてもこの量は必要になってしまうのよね。
「はい、次はこれでオケの中を攪拌しちゃってくださいね」
「あの、これって?」
「攪拌する魔導具ですよ、この量を木ベラで捏ねるのは大変でしょうから」
ええ、言うなれば寸胴一杯の分の材料なので、私だと魔法を使わなければ、木ヘラを回す事すら無理な量ですから、幾ら大人で私より力のあるライラさんでもこの量を攪拌し続ける事は厳しいと思う。
もはや家庭用のハンドミキサーでも、なんとかなるレベルではない。
なので家庭用では無く、業務用のミキサーを魔導具で作っちゃいました。
もはや見た目は、お菓子作り様では無く土木工事用ですけどね。
「意外に重いですから気をつけてくださいね」
「え〜っ、そう言うのは、ゆうちゃんが魔法でやってくれるんじゃないの?」
「ライラさんのお客様にですから」
ライラさんだけで無く、ラフェルさんも私が魔法でチャチャとやってしまうと考えていた様だけど、そこまで甘やかしません。
と言うか、計量と攪拌さえ終わっちゃえば、後は殆ど魔導具がやってくれるので、此処で私が手伝ってしまうと、ライラさんの手作りと言うには無理がある。
足元を思いっきり踏ん張ってくださいね。
一応、ライラさんが慣れない内は魔法で支えはしますが、あまり当てにしないでください。
まだまだ何回も繰り返す作業ですから。
「あとはこの原液を此処に入れて、足踏みをしながら魔力を流しておくだけです」
いくつかダイヤルの設定や、前もって焼成窯にあたる部分の裏に、焼きムラ対策に焼け石などを入れて余熱をしておくのだけど、今日の所は私の魔法で省略。
魔導具にセットした鉄棒に生地が自動で巻きつき、そのまま焼成窯の中に入ってゆく様子に、目を見開いて唖然としている二人を他所に、少し経って生地が回転しながら焼けた所に、また焼成窯から自動で出てくる。
後は時折ヘラで形を整えてやりながら、ある程度太くなるまで繰り返し、最後に焼き目をつけてやるだけ。
焼成や幾つかの動力は魔力を用いているけど、主動力としては魔法ではなく足踏み式なのは大変かもしれないけれど、全て手作業でやる事を思えばかなり楽。
今回のミキサーも含めて長時間の使用となると、魔導士ならともかく普通の人では魔力が保たない。
この辺りはルチアさんの所に納めた魔導具、そこからフィードバックされた問題点を基に改良。
足踏み式の動力を、ハイブリット車のように魔法石を使った魔法で補助してやる事で、楽に回せるように改良した。
この発想にコッフェルさんがかなり驚愕してはいたけど、生憎とハイブリットを考えたのは私ではないので、あそこまで感動されても複雑な思いしかない。
まぁ一般に使えるほど魔法石は余っていないので、そこまで普及する事はないだろうけどね。
「これ意外に大変だわ」
「クッキーとかですと数が要りますから、一つ一つ気をつけないといけないとなると、大変だと思いますよ」
「そうよね。全体の量としては、そうは変わらないから、此方の方が大雑把なライラ向けではあるわよね。
私は子爵家に嫁入りしたからこう言うのはなかったけど、姉さんの手伝いをした時はもっと大変だった記憶があるわ」
クッキーと違い、一度に作れる量が違うため、大量の材料の計量と生地作りに悲鳴を上げているライラさんに、容赦のない私とラフェルさんの言葉に、ゲンナリしているけどこれくらいでマリッジブルーにならないでもらいたい。
まぁ力仕事に、悲鳴を上げたい気持ちは分からないでもないですけどね。
そんな訳で、少しでも気がまぎれるように、楽しく雑談。
「そう言えば、魔導具に関して上から何か言われました?」
「そうねぇ、使用方法と管理の徹底、あと国外持ち出し禁止を通達されたぐらいね。
もともと貸出形式だったし、ユゥーリィさんが管理番号を刻んでいてくれたから、規定の一部変更と貸出先の身元と保証人の調査の徹底くらいかな」
「それは何よりですね。
じゃあ、少し時間が出来たら料理の本をまた考えているんですけど、問題なさそうですね」
「あら、この間の続きかしら?」
「ええ、それと、別枠でお菓子作りの本も書いてみようかと」
前回の本はあくまで料理がメインで、菓子のレシピはおまけ程度なので、色々と問題があった事が、短いながらも王都での生活で発覚。
もう少しアレンジを匂わせた内容にしておかないと、どのお店も同じ味が出てくると言う事になりかねない。
放っておいてもお店の独自性が出てくるだろうけど、やはり最初はお客の反応を見たいと思うのも分かる話ではある。
そう言った事を気をつけた内容にする予定だと話すと………。
「あらっ、良いわね。
前回の事もあるから、最初から写本用にある程度確保しておかないと。
ライラお願いね」
「了解〜。
でも本も良いけど、私としては現物もあるともっと嬉しいんだけど」
「……目標は、ライラさんでも作れるレシピ本を」
「……ユゥーリィさん、あまり無理をしては駄目よ」
「二人して私を虐めるっ!」
イジけたフリをして見せるライラさんの姿に、笑い声が台所に広がってゆく。
実際、ライラさんはそこまで料理が苦手という訳ではない。
基本は元々出来ていたし、応用性も一緒に過ごした半年で身についている。
問題は、家事については雑な所が出なければ、と言うだけの話。
あと、ライラさんの目の前に、もっと料理ができる二人がいるってだけで。
「何を言っているんですかライラさん、虐めだと言われるのは此れからですよ」
「ゆうちゃん、あんまり虐めると、お姉さん怒っちゃうよ」
うんうん、そういう仕草と台詞が可愛いですけど。
残念ながら言わねばいけない現実がある。
そして、花嫁の経験があり、平民出身の子爵夫人として社交界で揉まれたラフェルさんは、私が言いたい事の察しがついたのか、遠い目で、可哀想な子を見る目でライラさんを見つめてしまっている。
「このお菓子なんですけど、両端は見栄えのために切り落としてしまうんですけど、此れは此れで香ばしくて美味しいんですよね。
でも、ライラさんは食べられません」
「なんでよ?」
「ついでに式の数日前から、色々と良い匂いが漂う事になるんですが、私とラフェルさんは味見をしますが、ライラさんはその味見も碌にできないと思います」
「ゆうちゃ〜ん、何が言いたいのかなぁ?」
「そうね、そろそろ頑張らないと間に合わないわよね」
「伯母さんまでっ!」
本当は言いたくはないんですよ。
でも仕方ないじゃないですか。
「だって、そんな美味しいものを食べたら、益々ドレスを着れなくなりますよ」
「幾ら実りの秋と言っても、ライラ、少し油断しすぎよ」
「ぐはっ!」
ウェディングドレスは当然オーダーメイドなので、採寸時の体格ピッタシに作っている。
デザインは私だし、実際に採寸した時に私もラフェルさんも立ち会っているからこそ分かるんだけど、現状で既にギリギリ。
挨拶して回るのであるなら、もう少し余裕がないと動いている時に糸が解れかねない。
「やはり採寸した時、夏バテしていたのが敗因ですかね?」
「ん〜、でもこの子、元々そういう所があったから自業自得でしょ。
冬眠する熊みたいに秋に肥えて、冬の間は動かないから益々肥えて、春から夏にかけて必死に痩せての繰り返し」
「ちょっ! 伯母さんそこまで言われるほど増減してないわよ」
ええ知っています。
確かにそこまで増減はしてはいないけど、確実に一サイズ分は増減しているのは知っています。
そして、今年はそれが致命的になるので、是非とも頑張って戴きたいです。
あっ、当日にドレスを着れずに普段着で式を上げる事になるわよ、って止めを刺されています。
ライラさん撃沈です。
でも、凹んでいないで手は動かしてくださいね。
私もラフェルさんも手を動かしているんですから。
え? 私は手を動かしていないって、魔法でやってますから、動かしているも一緒ですよ。
……楽をしているように見えるって。
まあ……良いですけど。
カカッ。
大量の卵液を作るための卵割り。
前世なら片手で三つはいけたけれど、今世の身体では手が小さいので、両手で二つが精一杯。
これくらいの事は、魔法の補助無しでも出来ます。
「私は一つが精一杯ですけれど、ユゥーリィさんは流石ですわね」
「別に出来なくても中身に変わりはありませんけれど、格好良くて覚えちゃいました」
「……そうよね、別にできなくても」
察っしてやってください。
本当に出来なくても、一般家庭ではなんら問題のない技術ですから。
それでもって、魔法の補助は別の事に使っている。
「そう言えばゆうちゃん、さっきから殻から分けてるけど、そんな物をどうするの?」
中身を取り出した卵の殻から、魔法で掬い取って瓶に取り分けているのは、卵の薄皮。
その事に疑問に思って口にするライラさんとラフェルさんに、傷薬の材料になったり、美容品の材料になったりと簡単に説明。
特に小皺を目立たなくさせたりとかの話になると、ラフェルさんが食い付く食い付く。
……試用には協力するって。
ラフェルさんが宜しければお願いしますけど、その代わり機密厳守でお願いしますね。
殻は殻で色々使い道はあるので、洗浄乾燥後に粉砕圧縮して収納の魔法の中に保管。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・
「腕が重い、身体が重い」
「ライラ、自虐?」
「自虐ですか?」
「違うわよっ、疲れているのよっ!」
もちろん分かっていますよ。
朝から晩まで、ひたすらバームクーヘンの生地を作っていたら、疲れもすると思います。
「お酒飲みたい、甘いもの食べたい、ガッチリといきた〜い」
その気持ちも分からないまでもないですよ。
休憩時もお茶と、試作中の野菜と大豆とドライフルーツを使ったシリアルバーだけでしたし。
「ここで甘やかしたら駄目なんでしょうね」
「少なくとも式が終わるまでは駄目ね」
「保ちますかね?」
「大丈夫よ、今夜から家に泊めて夜は監視下に置くし、昼間は流石に自制するでしょう。
この結婚を一番楽しみにしていたのはこの子自身だもの、自分で駄目にはしないでしょ」
ですよね〜。
一時間越えの惚気を、何度もされましたからね。
その時の様子を思い出すだけで、此方はお腹いっぱいですよ。
ライラさん、幸せいっぱいの式のために頑張ってくださいね。




