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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第三章 〜新米当主編〜
214/977

214.愚痴と悩みを気軽に言える相手は大切なんですよ。





「それで集まったのはたった一人とか、馬鹿を通り過ぎて、ど阿呆じゃねえか」


 今日も悪舌が飛び出すコッフェルさんの言葉に、流石の私も同意するしかない。

 上級魔法講義は例によって、講師の魔導士不足で休講のため実技演習となったのだけれど、数日前の後始末を兼ねて、ジュリも私も何人かには声を掛けたものの、集まったのは私とジュリを除いてたった一人。


「やっぱ、地面を耕し直すからって言うのが不味かったのかなぁ?」

「その言い方もどうかと思うが、あそこの学院長には一度会って言っておくか」

「土を耕すのって色々使えるのに」

「まったくだ。

 だいたい発想が貧相なんだっての。

 【土】属性にしたって、遠征では地味に一番使える魔法だってのによ」


 確かに火力という名の攻撃力では【火】【風】【水】の順にあり、【土】属性は一番攻撃力がないと言われている。

 でも、それは単純に扱いやすさと、消費魔力に対しての攻撃力を見た場合だ。

 この辺りを勘違いしている人達が魔法の使えない人達でなく、魔導士の中にも結構いるらしく、貴族であるあの学院にいる魔導士は、その傾向が強いみたい。


「土壁による防壁や敵の誘導、軟弱土壌による足止め、落し穴やそれを使った隠兵などは作戦の重要な要だが、今、上げただけでも全部が土起こしの魔法が基本だ。

 それだけじゃねえ、【土】属性があれば、強化系の付加を掛けた魔導具の武具の再強化や延命も出来る。

 一時的なものだが、有るのと無いのとでは消耗率が違う」

「そこまで行かなくても、崖を掘って宿にする事もできるので、野宿にも便利なんですよね」

「……ペルシアの嬢ちゃんに話を聞いた限りじゃ、洞穴なんてレベルじゃねえだろうが」


 DK、バスとトイレ付なので、下手なテントよりは、多少は豪華ではあったのは認めますけどね。

 そこまでやらなくても、簡単に土をドーム状にして強度を上げるだけでも、野宿の安全度はかなり上がる。


「でも、攻撃にしたって、【土】属性魔法って強力なんですよね」

「使い熟せればだがな」


 なにせ【火】や【風】と違って、質量と言う名の魔物にも有効な強力な武器を持っている。

 同じ質量を持っている【水】は、水のない所では質量兵器となり得る程の水を作り出すのは魔力効率がかなり悪い。

 その点、土は人の生活領域では材料に不自由はしない。


「実際、【火】はある事に越した事はねえが、討伐遠征で喜ばれるのは【聖】は例外にしろ、【風】と【土】の属性持ちだ」


 【水】も喜ばれはするけど、無くてもその二つがあれば、我慢できる類のものらしい。

 荷馬や荷物持ち、皆んなで分けて持つなど出来るからね。

 対して【風】は延焼などのリスクが少ない上に低燃費、ついでに言うなら【風】属性の攻撃魔法は目視しにくい分、討伐の成功率が上がりやすい属性とされている。

 とにかく攻撃力のある【火】と【風】にばかり持て囃されるため、それ故に後回しにされている問題も多い。


「そういえば、【火】で延焼して怪我をする人って、やっぱりいるんですか?」

「ああ、いるねえ。

 特に魔導士見習いの中に、選民意識に毒された馬鹿がいるとな、怪我人どころか死人が毎年出ている。

 魔法があるから魔物を倒せるのであって、そのために巻き込まれるぐらいで騒ぐなってな。

 大抵は何度か袋叩きにされて、やっとこさ矯正されるんだがな」


 なんでも、その場では巻き込まれた皆は耐えて、教会のある街に戻ってから、ほぼ名ばかりの懲罰会にかけられる事になっているとか。

 実際は貴重な魔導士なので、その場の感情任せの私刑で死なせないためもあって、治癒魔法の使える教会のある街まで耐えているのだけだって。

 だけど耐えていた分の反動と、治癒できる環境にあると言う事もあって、遠慮がないらしい。

 幾ら【火】が魔法を扱う事の怖さを覚えるのに一番分かりやすいと言っても、あそこまで【火】特化の訓練をしていて、そう言う事が起きないのかとは思ってはいたけど、やっぱりそう言った事態が起きていたと思うと頭が痛くなる。


「まぁそれでも【火】が持て囃されるのは、結局、最後に物を言うのは火力だと言う事と、見た目の派手さ故だろうな」

「きちんと制御できれば、使える属性には違いないんですけど」

「火力重視で、それが分かってねえ馬鹿が意外に多いんだよ」


 そう言う意味では、コッフェルさんは早々に違いの分かる人だったため、魔力が低いながらも、魔法使いにまで上り詰めたのだろう。

 本人曰く、ふんぞり返った連中と馬が合わず殴ってクビになったとの事だけど、この人の事だから、そんな訳がないと分かる。


「取り敢えず来てくれた子には、色々見本や応用例を見せたり、魔力制御の簡単なコツを教えましたけどね」

「そりゃあ、そいつは得したなぁ。

 嬢ちゃんレベルの見本や教えを受けられる機会なんぞ、そうはねえからな」


 誰でも知っているような基本が、ごっそりと抜け落ちている事がありますけどね。

 あと、あの子の場合は、大抵の魔導士人が持つと言う【火】属性どころか、【土】属性以外が無い子だから、猶更に必死だったのだと思う。

 その必死さが伝わってきたから、ついつい色々と見せてあげたくなったのだけど、あれを活かせるか活かせないかは、きちんと魔力制御を身につけてからだろう。


「見せる事も、もうできませんけどね。

 演習場の土壌を戻したら、実技免除の用紙を戴きましたよ」

「呆れるねぇ。

 他の連中が見て学ぶ機会も奪うとはな」

 

 体の良い演習場への立入禁止勧告。

 個人練習場までは禁止はされていないけど、そちらは使った事が無いし、空間移動の魔法が使える私にとって、無理をして使わなくても練習する場所には不自由していない。


「講師の依頼も来ましたけど、断りました」

「そりゃあ正解だ。

 嬢ちゃんにとってメリットなんぞねえからな。

 今の嬢ちゃんにそんな事をやらせるぐらいなら、やって貰いてえ事なんぞ幾らでもあるから、下手したらドルクじゃなくて国が動きかねん。

 そうなりゃ、やっこさんの首が飛んでいたかもな」


 まるで物理的に飛ぶような口調で言わないでもらいたい。

 でも、もし国が動いたとしたら、胃薬が必要な日々が続いたに違いないと思う。


「やっぱ、色々と見張られているんですね」

「あったりめえだろう。

 今、嬢ちゃんの頭の中だけで考えている物がどれだけの価値があると思っているんだ。

 聞いている物だけでも、国が動くレベル物が幾つもあるぞ」


 話していない物は、世間がひっくり返るような物もあるけどね。

 なんにしろ現状では絵に描いた餅でしかないし、どこから手をつけていいのか分からない物も多い。

 前世の知識のおかげで、発想だけはあるけど、実現するには知識と技術が追いつかないのが現状だし、根本的に変えなければいけない事が幾つもある。


「まぁ見守ってくれていると好意的に捉えて、陛下には感謝しておきます」

「理解ある陛下で羨ましいねぇ。

 ちったぁ、その優しさをこっちにも分けて貰いてえもんだぜ」


 そう言って、苦々しく道の反対側の方に一度だけ視線を向ける。

 そこには先月まで貴族男性向けの服飾屋と杖屋と帽子屋等があった場所で、現在は工事中。


「やっぱり、あのいきなり始まった工事は、コッフェルさん関係でしたか」

「俺じゃねえ、ギルド関係だ」


 魔導具ギルドの創設の際に居を移す必要はないと言っていたけど、こう言う事とはね。

 ついこの間に決まった事ばかりなのに、動きが早いですこと。


「まだ完成は先らしいが、あんな建物まで拵えやがって。

 名前だけの置物にはさせてくれる気なんぞ、欠片もねえと来てやがる」

「ははははっ……、御愁傷様です」

 

 人の出入りからして、かなりの急ピッチで解体しているので、恐らく建てる方も金と人海戦術に任せて急ピッチで行われるであろう事は、想像に容易い。

 でも、あそこの土地ってコッフェルさんの土地じゃありませんでしたっけ?

 ……国の命令で、知らない間に魔導具師ギルドが借りる事になったと。

 そうですよね、国の命令には誰も逆らえませんからね。

 でも、そのギルドの長で土地の持ち主なのに、勝手に決められているって……、流石は封建制度。


「夕食と、明日の朝の分も作っておきましたから、温めて食べて下さいね」

「おう、何時もわりいな」

「いえいえ、此方も気楽に愚痴が言える相手は大切ですから」

「それは俺も同感だな。

 何かあったら何時でも言え、聞くだけは聞くぞ」


 うん、そう言うのを待っていました。

 そして、たぶん私がそれを待っていたと分かっていて、そう言ってくれている。

 愚痴でもなく、真面目な話での相談が。

 私みたいな頭でっかちで出した答えではなく、長い人生を歩んだ人の意見を。

 感情ばかりが先走って、視えなくなっている悩み。

 それでも歩まないといけないから。






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