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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第三章 〜新米当主編〜
212/977

212.堂々と責任転嫁、そして狂喜乱舞へ。





「ふぅ〜……」


 此処、書籍棟は何時来ても静かで良いなぁ。

 先程の騒ぎとは一転して、落ち着ける環境は大変にありがたい。

 もう無茶苦茶になった屋外魔法演習場は、使えるようにするための整備が大変だと思うし、演習場の外周にあった騒音爆風対策の植えられた木々や観葉植物は、ほぼ植え替え決定の有り様。

 まぁ責任は取ると言ったんだから、頑張って責任を取ってください。

 もっとも前世でも少しだけ話題になったけど、害獣駆除で街中で国の組織から発砲を指示されたため、役人付き添いの下で猟師が猟銃でもって熊を仕留めたら、街中での発砲は違法だとして逮捕すると言うトンデモ話とかがあるので安心しきれないけどね。

 一応は専門の演習場内での出来事なので、そこまで極端な事にはならないだろうし、危ないから融解した地面だけは冷却しておいたので、後は知らん。

 成るように成れと騒動を横目に、此処まで待避。

 どうせもう実施演習講義どころでは無いからね。

 ジュリには騒ぎの後始末を命じておいたのだけど、此方は怒っていると言うのに、もう晴れやかな顔で返事をするから腹が立つ。

 今夜の夕食は、ジュリの嫌いな野菜のオンパレードにしてやる。


「やっぱり、ないみたいね」


 夏季休暇中に整理し直した書籍は以前よりも使いやすく、ジャンル別に分けられた棚の中には、正しいジャンルの書籍が収まっているので、物凄く探しやすくなった。

 私が見ていたのは、文化や生活一般関係の書物が納められた棚で、その中でも料理関係が纏められた場所なのだけど、思った以上に数が少なく、在っても基本的に文字ばかりで、料理のイメージが掴みにくい。

 想像はしていたけど、ある一定以上の調理の腕を持った人向けの専門書に近いかな。

 材料と大雑把な調理方法で、状態と味はもちろん、文字だけで調理手順が想像できるレベルの人向けの内容。

 少なくとも一般向けではない本が多い。

 でも……、識字率を考えると、それもしょうがないか。


「こんにちは、あれからどうでしょうか?」


 顔見知りの司書官の女性に声を掛け、改装後の様子を聞くと、おおむね良好の様子。

 識別ラベルを付けた事によって、本の整理は明らかにやりやすくなったので、利用者側にも好評で、売却目的による盗難防止にもなる。

 いくら教育を受けている貴族の子達でも、その手の事が全くないと言う訳でもないみたいだからね。

 本の返却方法の変更も手間ではあっても確実だし、全体の作業量としては減ったとの事。

 私が関わった肝心の砂時計の魔導具の方はと言うと、半分インテリアとしての意味合いが強いけれど、それなりに役に立ってるみたい。

 時間の目安になる物があれば、一応は気にして見る人達もいれば、一定時間毎の光りによるイルミネーションに、気を取られるのを合図にしている人達もいるとか。

 まぁ良い事ばかりでなく、集中力が削がれる苦情を申し出る人もいるらしい。

 でも、本当に集中していたら、それ程、気にならない設計のはずなんだけどね。

 なので時間を気にせず集中したい時は、背中を向けるなりの対策をお願いしているそうです。


「そう言ったタイトルの本は見かけた記憶はありませんね。

 此処数か月の本であるのなら、恐らくは入っていないと思います」


 朝のセレナとラキアの話で気になったので、私の書いた料理の本を聞いてみたのだけど、案の定、入荷していないとの事。

 図が多い分、まだ私が書いた本の方が素人向けと言えるので、貸出禁止指定で寄贈できるかと尋ねてみたところ、貴族の当主レベルの意向でないと、基本的には書籍棟の権限で決める事になっており、生活一般のジャンルは基本的に貸出禁止にはしていないとの事。

 では、当主意向で寄贈をお願いします。

 貸出可能にしたら、絶対に染みだらけの、汚れだらけになるに決まっているからね。

 この世界の本はコーティングされていないから、余計に汚れやすい。


「ぇ? 当主?」


 ええ、驚かれるだろうし、魔法の実技監督官が知らないのだから、この辺りの人も知らないのは当然だと思う。

 取り敢えず、収納の魔法から取り置きしていた料理の本を取り出し、私の今の名前と身分の方で寄贈と貸出禁止意向の書類手続き。

 貴族の寄贈で、一冊だけ(・・・・)なんて、まず無い事で申し訳ないけど、名声を求めてではなく、気紛れなので嫌みなく受け取ってほしい。

 いえいえ、目の前のお姉さんはまずそう言う事はないだろうけど、そう言う事を言いそうな人が絶対にいそうなので、自己弁護です、心の保険です。


「……おいしそう、……ぁっ、失礼しました」


 いえいえ、本の内容の確認に中を見て零れた呟きがそれなら、私にとって御褒美です。

 言葉もそうですけど、頭の中で料理を想像している顔が御馳走さまです。

 ええ、微笑ましいんですよね、続巻を出したら、また寄贈をしよう。

 自分で出した本の一冊ぐらいは、お世話になっているお礼と思えば痛くはないしね。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




 書籍棟を後にした後、外の様子を窺うと、どうやら魔法の爆発音は想像以上に大事になっているみたいで、爆発音に野次馬や、近隣の住民が説明を求めて門にまで押し寄せているとか。

 広いとはいえ対災害級の魔法を街中で炸裂させたのだから、騒ぎになるのは当然と言えば当然かもしれないけど、私の知った事ではない。

 許可を得た上での事だし、責任を取ると言った以上は是非とも頑張ってほしい。

 そう言う訳で、残りの社会学の講義は講義を受けるどころではなくなったので、騒ぎの元凶たる私は学院を抜け出して、街まで繰り出してきているんですよね、これが。

 むろん逃げ出した訳ではなく、空いた時間を別の事に割り当てる為。

 そんな訳で来たのが、リズドの街の工房街にある高級家具工房。


「サラ~~、いる~?」

「おうユゥーリィさんか、サラならいるぞ。

 おーーーいっ!サラーっ!ちょっと来いっ!」


 ボクっ()こと、サラさんにお仕事の依頼があって訪れた次第です。

 それとグラードさん、何度も言いますけど、別にさん付けでなくても良いですよ。

 呼び捨てでも、嬢ちゃんでも、その方が私としては気楽にお仕事も頼めますし、打ち合わせもしやすいですから。

 ええ、これからも木工関係や革関係は頼みたいので。

 ……革職人なら信用のある奴がいるから、革用品がメインなら今度紹介してくれると。

 ありがとうございます。

 でもいいんですか? その分お仕事減っちゃいますよ。

 ……十分に仕事を貰っているし、革の比率が高い物は其方で相談してもらった方が満足いく物を作って貰えるし、信頼があって金払いの良い客を紹介するのは、業界では持ちつ持たれつと。

 なるほど、顧客に満足して貰う方が、総合的に長く仕事を取るコツですもんね。


「おじいちゃん、用事?」

「用事があるから呼んだんだろうがよ、ほれっ、嬢ちゃんが訪ねて来たぞ」

「あっ、ユゥーリィ、おっひさ~っ」

「サラ、お久しぶり~」


 軽く挨拶した後、雑談交じりに、書籍棟の例の魔導具のその後の使い勝手や反応を伝えておく、私自身聞いた話だけど、機能よりインテリアとしての評価が高いとか。

 この辺りはサラの職人としての腕前の成果だから、素直に受け止めて欲しい。

 ええ、天狗になってグラードさんに、また拳骨を落とされない程度にね。

 うん、別にサラが天才なのは、グラードさんも否定している訳では無いんだからさ。

 はいはい、痛いよね。

 でも調子に乗ったサラも悪いから、反省しようね。

 そう言う訳で、ちょっとだけ治癒魔法。


「すまねえな嬢ちゃん、だがあんまり甘やかさないでくれや」


 ええ、そう思って、たん瘤は直して少し痛みが走る程度は残しておきましたから。

 ……サラ、文句言わないの、また拳を落とされるわよ。


「それはそうと、この間作って貰った台座なんだけど、また二十台ほど至急でお願い。

 取り敢えず全部で四十程予定しているんだけど、全部は冬までで良いらしいから、使って貰って改善点があれば、残りの台座にも反映してもらおうかと考えているの」

「ボクは問題ないけど、お祖父ちゃんは?」

「ふん、問題ない」

「でも、相変わらず景気が良いよね。

 学院の中型の砂時計の魔導具も、結構な数が入っているんでしょう?」


 うん、まぁそうなんだけどね。

 取り敢えず各教室に設置する中型の砂時計は、散々サラとデザインを弄ったネタがあるので、一通り作ればそれで終わる。

 あとはそれに合わせてサラが台座を作るだけなので、少しずつ時間の合間に作っていけば良いから、今のところは問題はない。

 でも、前回作って貰った台座に関しては完全な赤字。

 なにせ献上しちゃいましたからね。

 もっとも、大量受注を受けたので投資と思えば、大成功と言えるのだけど。


「そっちはボチボチとやって行くから良いけど、今回の台座は使いやすさと頑強さに影響ない程度に豪華にしちゃっても問題ないから。

 材料に凝られても余裕で払える発注元だから」

「なら、材料をもう少し良いのにして、細工を増やしたり石を填めたりしたいから、う~~ん、前回の倍額行っても良い?」

「三倍でも問題なし」

「おおーっ! よっぽど気前の良い相手か、高位のお貴族様なんだ」


 普段あまり使えない材料を使えると喜びながら、腕の見せ所だとグラードさんと早速、変更点を相談している。

 本当にこういうのを作るのが好きな二人なんだなぁと、あらためて思う。


「まぁ相手は貴族と言うか、依頼主は王族なんだけどね」

 ぴたっ。


 私の何気の無い言葉に、楽しげに話している二人は動きを止め。

 こう、ギッギッギッィと聞こえてきそうな、油の切れたロボットのような動きで首をこちらに向け。


「「お、お・う・ぞ・く・っ・?」」


 二人とも顔が怖いよ。

 ……そんな事はどうでもいいって。

 サラは女の子なんだから、怖い顔と言うのもどうかと思うよ、折角元が良いんだからさ。

 いや本当に可愛いと思うよ。

 ……嬉しいけど、今はどうでもいいから詳しく話せって。


「詳しい事は機密に関わるから話せないけど、陛下直筆の依頼で発注を受けたのと、王族の使用は想定していなくて文官が使うと思う、と言えるのはそれぐらいかな」

「なんにしろ、王城に納める事には違いないのね?」

「うん、と言うか既に前回のは納めた」

「だぁーーーっ! なんでそう言う事は最初に言わないのよっ!

 そうと分かっていたら、もっと材料から何から拘ったと言うのにっ!」

「我が工房始まって以来の王城への納入品がアレって、嬢ちゃん何とかやり直せねえかっ!?」


 うん、何故か大騒ぎになってしまっている。

 取り敢えず、やり直しは無理かと思いますよ。

 もう納めちゃった後だし、今更返せは流石の私も言えませんよ。

 それにあまり人目に付く部屋には、設置はされないでしょうから、そこ迄気負わなくても。

 ……そう言う問題じゃないと、職人としての意地と誇りと誉れがあると。

 まぁ、納期が間に合うように満足いくまで好きにしてください。

 ……納期ですか? 

 取り敢えず半月後までにお願いします。なんなら特急料金は払いますから。

 ……早すぎるって。

 前は五日も掛からずに仕上げてくれたじゃないですか。

 でも無理を言うのも何ですから、半月で出来る分だけで良いのでお願いします。

 ……一族や知り合いの職人搔き集めるって。

 大袈裟ですね。気持ちは分かりますけど。


「なんにしろ、我が工房始まって以来の大仕事だ。

 お嬢ちゃん、いや、お嬢様には、感謝しても感謝しきれねぇっ」

「そうだよねぇ。

 王都でもないのに王城納品なんて、こんな地方から夢のまた夢だよ。

 ユゥーリィ様様だよ」

「いえいえ、本当に良い物は地方も何も関係ないと思いますよ。

 現に私の実家も山奥の秘境ですけど、王城や王都の大神殿に幾つも収められてましたし。

 あと様付けは本当に勘弁してください。と言うか様付け禁止で」


 身近な人ほど、本当に様付けは慣れないと言うか、止めて欲しい。

 なんと言うか距離感を感じまくる。

 ……はい、分かってくれて何よりです。

 私としては立場は変わったかもしれないけど……って、言うのを忘れるところだった。


「今回の依頼の経緯と言うか、王都に行った理由と言うのが、私の爵位拝命でして、名前だけの子爵になっちゃいましたけど、中身は変わっていないので、今まで通りお願いします」


 ……無理って。

 無理でもよろしくお願いします。

 グラードさん、先程、分かったと言ってくれたじゃないですか。

 サラも、さっきは乗っただけで、今まで通りに呼ぶって言ってくれたのに、可愛いモノを語り合ったあの日の友情は嘘だったのですか?

 やや芝居を掛けた説得を、この後たっぷり時間を掛けてやりました。

 おかげさまでグラードさんは相変わらず少し硬めで、ヨハンさんと同じ『お嬢さん』だけど、親しみを込めた感じで。

 サラは今まで通りに。

 ええ、身分を乗り越えた友愛です。






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