表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第三章 〜新米当主編〜
208/977

208.癒しって大切ですよ。感触的にも、見た目的にも。





「ライラさん、そう言う訳で、無理やり貴族にされちゃいましたけど、今まで通り付き合っていただけますね?」

「もちろんよ、私とゆうちゃんの友情の間には、そんな物は関係ないわ。

 それにそんな心配はするだなんて、ゆうちゃんの悪い子め。

 もう少し、お姉さんを信用しなさい」


 はしっ!


 カウンター越しにしっかりと抱きしめ合う、私とライラさん。

 どこかで聞いたような三文芝居の台詞で、お互いに半分は悪巫山戯が入っているけど、半分は本気だったりする。

 この世の中の貴族と平民の間には大きな差があり、私みたいに貴族になったり貴族落ちしたりすると、いきなり態度を豹変させたり、疎遠になったりする人がいるから、決して人ごとではない。

 信用してはいても、もしかしてと言う心配はどうしてもしてしまう。

 すぅ〜、はぁ〜〜、うんうん、ライラさんの匂いです。


「そうですよね、同じ鍋の物を食べた仲ですものね」

「そうよぉ、同じ布団で一夜を共にした仲なんだから」

「言い方っ!」

「ふふっ、相変わらずこっち方面は、ゆうちゃんは初心(うぶ)ね」


 いえいえ、前世の記憶で意味を知っているからこそです。

 あと、単純に此方の世界の知識だけでも、耳年増ですから知っています。

 もっとも私の場合は耳と言うより、書物からの知識ですから目年増ですけどね。

 それにいくら前世が男でも、多少なりとも女としての羞恥心はありますから、そう言うのは勘弁してください。

 もうね、そう言うのは何処かの変態セクハラ残念王子でお腹いっぱいです。

 うん、思い出したらまたムカついてきたので、記憶から削除、削除。

 ついでに、陛下からの嫌すぎる証書の事も削除できたらと思うけど、残念ながら国が発行した公正証書なので、勝手に無かった事に出来ないのが厄介なところ。


『王家に対する不敬許可書』


 ええ、意味不明です。

 ドルク様やヴァルト様に相談したところ、憐憫の目で見られました。

 その後で陛下が如何に王として立派な能力を持った人間か、と言う事を説かれましたよ。

 とにかく優秀で、今のシンフォニア王国を率いるには必要な人間だとも。

 でも、その言い方って、人間性に対しては全否定とも言えますよね?

 ……その判断は任せたって。

 説明義務の放棄ですか?

 ……違うと、当主としての判断を他家の者の言葉で、余計な先入観をも刷り込むべきではないと判断しているからと。

 絶対に嘘でしょっ!

 とにかく、陛下を否定するような言葉を避けながら、遠回しの説明によると……。


【陛下の玩具(ひがいしゃ)


 に選ばれたのではないかと。

 ぁぁ……うん、あの陛下の事だから有り得ると思える辺り、私もいい加減に陛下の毒に染まってきたのかもと思う。

 とにかく私にとって、王族イコール、ストレスの原因に決定です。

 極力、関わりたくありません。


「ああ、ライラさんの温もりに癒されます」

「そんなに大変だったの?」

「ええ、色々な意味で大変でした」


 世の貴族は皆んなあんな目に遭っているのかと思うと、本当に貴族て大変なのだと思ってしまう。

 そりゃあストレスで奇行に走る人も出てくる訳ですよね。


「何も知らないまま、いきなり城に連れて行かれたと思ったら、いきなり叙爵(じょしゃく)だと言われるし。

 その叙爵(じょしゃく)の儀のための謁見の間で、いきなり冤罪をかけられて、でも実はそれは私を餌に陛下が仕込んでいた事だったり。

 なんとかコッフェルさんを餌に叙爵(じょしゃく)を回避したと思ったら、冤罪の元になった件で叙爵(じょしゃく)すると言い出されて、それを再び断ろうと思ったら、先に陛下に脅されるし。

 泣く泣く、拝爵が終わったと思ったら次の日には、陞爵(しょうしゃく)ですよ。

 しかもまたもや脅されて、酷いと思いません?」

「……あぁ、なんと言うか……、うん、多分、ゆうちゃんだけよね、そう言うの」

「そこは嘘でも皆んな同じ思いをしている、と言ってくださいっ」

「ゆうちゃんがそれで納得するなら、言っても良いけど」


 構わないのでお願いします。

 せめて、そうでも思っていないと、本当にやっていられません。

 それに私だけではないのは確かですよ。

 実際、コッフェルさんも脅されていましたし。

 ええ、コッフェルさんギルド長だそうですよ、新設の。

 ドルク様がザマァミロと、それはまた良い笑顔で言ってましたよ。

 人を巻き込んでおいて、自分だけ楽隠居できると思ったら大間違いだと。


「……貴族やギルド長になって文句を言うのは、ゆうちゃんと叔父ぐらいだと思うわよ」

「うぅ〜〜〜っ!」

「はいはい、ゆうちゃんみたいな小さな子に、貴族の当主なんて重いよね。

 疲れたら何時でも遊びに来てくれて良いから、愚痴ぐらいは聞くからね」

「だからライラさん好きです」

「もう、調子いいんだから」


 もちろんです。

 精神的逃げ場の確保は大事ですので、必死にもなります。

 それはそうと、そろそろ結婚式の後のお土産用のお菓子作り始めませんか?

 いえいえ、全然、早くないですよ。

 結婚式、直前なんて準備が大変じゃないですか。

 幸いな事に、私には収納の魔法がありますから、早く準備をしても腐らせてしまう心配はありませんから。

 ミレニアお姉様の時は、貴族なのでその手の準備は周りがやっていたけど、ライラさんのような庶民の結婚式の場合は、大抵は自分達でやらないといけない。

 当日の料理は当人達がそれどころではないので人を使えるものの、お土産の焼き菓子は、たいてい花嫁さんが前日までに準備しておくのが慣わし。

 でも実際に当日間近であればあるほど準備する事は膨大に在る訳でして、……まぁ何が言いたいかと言うと、ただでさえお店をやっていて忙しいライラさんが、さらに結婚式の準備で忙しくなった状態で、大切な結婚式のお客様へのお土産を失敗せずに作りきれるかと言うと、……半年近く一緒に住んでいた身としては凄く心配で。

 いえいえ、信頼はしていますよ。

 ただ、普段と違って大量に、しかも長時間集中しないといけないんですよ。

 お菓子って砂糖が多く使われている分、すぐに焦げますからね。

 大丈夫です、ライラさんでもちゃんと作れるレシピと道具(・・)を用意しますから。

 そう言う事で日程調整を……。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




「時間が掛かりましたのね」

「う〜ん、ちょっと甘えてきたからね」


 ライラさんの書店を後にしたあと、待ち合わせ場所でジュリと合流。

 ジュリはジュリで学院側の手続きをして来て貰っていた。

 要は学院に登録してある私の身分の変更とジュリの従者登録、他にもジュリの部屋を私の隣の部屋の人と交換願いの届出。

 部屋の移動に関しては強引なお願いだけど、私が貴族の当主としての立場を鑑みれば、多少のお金を包んでお願いすれば通るはず。

 残念ながらこの世界では、貴族の当主と貴族の家族では雲泥の差があるのが実情。

 厳密に言えば、例え侯爵家の長子でも男爵家の当主には頭を下げないといけないし、逆に言うならば、男爵家の当主は侯爵家の嫡男を顎で使う事ができる。

 まぁ今のは極論であって、実際にそんな事をやる馬鹿はいないけどね。

 侯爵家の当主が息子を馬鹿にされた場合、家を馬鹿にしされたと取って男爵家に乗り込めば、男爵家の当主は侯爵家当主に頭を下げないといけないのも事実だから。

 何が言いたいかと言うと、多少なりとも配慮する振りを見せないといけないという事で……。


「学院側は上の寮棟へと部屋を変えて貰っても構わないと言う事でしたけど、言われた通り今まで通りにしておきましたわ」

「成り上がり者と影口を叩かれるのが目に見えていますからね」


 私はともかくとして、ジュリなど格好の餌食になりかねない。

 喧嘩になったらジュリが負けるとは思わないけど、そもそもそんな事態になる事自体が、敗北しているも同じ。

 手を出させるそぶりをさせる事を狙っているからね、従者風情がと言ってね。

 もっとも、そんなお馬鹿な連中はごく一部なので、気にするだけ馬鹿らしいのだけど、偶に度を超えたお馬鹿が存在するのも事実なので、引っ越さない事によるデメリットが、引っ越す事によるデメリットを超えない限り、今の寮棟のままで良いと言うのが私の考え。

 どうせ、あと二年ちょいしかいない予定だしね。


「此処は?」

「私がお世話になっている服飾店」

「そんな事は見れば分かりますわ。

 でも此処って、確か結構な高級店ですわよ」


 ふーん、そうなんだ。

 ラフェルさんに紹介されたまま使っているので意識していなかったけど、確かに高いと言えば高いかもしれない。

 けど、私の場合は色々とあって色々とサービスを受けているから、最近はあまりそう言うのは気にしなくなった。

 慣れって怖いよねぇと思いながらも、お店の前にいても仕方がないので入店。

 お久しぶりです、義足の件でお世話になって以来ですよね。

 ……今日ですか?

 採寸と服を数着お願いしたくて。

 実は、先日、爵位を拝命いたしまして、その御披露目とデビュタントを兼ねてコンフォード様のお屋敷でやる事になりました。


「「「「おめでとうございます」」」」


 皆さん、総出でありがとうございます。

 もの凄く息が合ってましたけど、練習でもしているんですか?

 ……誕生日でもなんでも、此れをするとお客が喜んで財布の紐が緩くなるのでと。

 私には正直ですね。

 ……私に気を使うだけ無駄だと知っているからと。

 その通りなんですけどね。

 此処の事は話してあるので、その内にコンフォード家から連絡があると思いますので宜しくお願いします。

 ドレスも装飾品も先方の監修でやるそうです。

 貴族後見人としての義務だとか、流石はよく知っていますね。

 私はその辺りは全然分かりませんので、色々と教えてください。


「あと、この子のその際のドレスと従者服を予備を含めて一通り」

「え?」


 え? じゃないですよ。

 ドルク様からもそう言われていますし、お披露目会の時には、当然、私の側に居て貰いますから、そのつもりでいてくださいね。

 従者服は決まった装飾さえ施してあれば意匠そのものは自由なので、そう焦らなくても良いですよ。

 無論、当家のための必要経費ですので、お金の心配は無用です。


「ジュリのデビュタントも兼ねてしまいますから、申し訳ないとは思うんですけどね」

「仕方ありませんわ。

 私が選んだ道ですし、この道を選ばなかったら、やる事はなかったでしょうから」


 本来は、ジュリはジュリでデビュタントを開くべきなんでしょうけど、あいにくと色々と大人の都合でそう言う訳にもいかない。

 あれは貴族社会で大人になりましたから、宜しくお願いしますと言うもの。

 ただ、私はその前に貴族の当主としてお披露目する事になってしまったので、デビュタントはおまけでしかない。

 当主が社会的に未成年のまま、と言う訳にはいかないからね。

 ジュリは私の従者なので、私の都合に巻き込まれた形。

 当主の従者が立場的に未成年のまま、と言うのも私同様に問題がある。

 ただ、このデビュタント、実は下位貴族にはあまり馴染みのない文化。

 夜会等の催しが多い王都ならともかく、地方では特にその傾向が強い。

 理由としてはお金も掛かるし、そこまで多くの貴族の当主が集まる事も少ないためだ。

 やるなら夜会の時で、挨拶程度。

 実際、ミレニアお姉様もそれで済ましている。

 なんにしろデビュタントはおまけ的な物で、メインは私の当主としてのお披露目会なので、どうしてもジュリのデビュタントは名ばかりの物でしかない。


「この子のお披露目時のドレスは、予算は気にしないけど、コンフォード家の意向を配慮した物でお願いします」

「良いんですの?」

「私がジュリを見せたいから良いの。

 と言うか、私より目立って隠れ蓑にさせてと言いたい」

「却下で」

「ぶーっ」

「主役が隠れてどうするんです」

「そのままフェードアウトを」

「許される訳ないでしょう」

「せめて緊急退避場所で」

「……それくらいなら」


 よし、言質は取った。

 実際、変な相手はドルク様が盾になってくださるみたいだけど、心が休める場所は確保したい。

 そう言う訳で、これ、この子用の意匠図帳ですので、お願いします。

 細かい決め事や、作法に則った物の修正はお任せしてもよろしいでしょうか?

 ……貴族の決め事に詳しい担当者がいるから大丈夫と。


「あ、あのユゥーリィさん、これ、少し派手じゃありませんこと?」

「いえいえ、ジュリは素が華やかな美人さんですから、これくらい派手でもおかしくはないですよ」

「それに、何時の間に、こんなに書いたんですの?」

「う〜〜ん、例の、クラーケン騒ぎの後ちょこちょこと、書き溜めていました」

「な、なんでそんな時期から?」

「決まっているじゃないですか、前に約束しましたよね

 なんでも言う事を聞くって」

「あっ、あれって有効ですのっ?」

「もちろん」


 前々から、ジュリを着飾らせたかったんですよね。

 色々書いて、どれを着せようかなぁと楽しんでいたところに、今回のジュリの従者志願。

 悩みまくった結果、従者にする事に決めたけど、それならばそれで楽しまなければ損なので、御主人様命令兼約束の履行で、ジュリの仕事着とドレスは私が決める事にした。


「横暴ですわっ」

「いえいえ、私服までどうこうする気はないですよ。

 仕事着なので、当主の意見が反映されるのは当然」


 私の言葉に肯く服飾店の皆様方。

 ええ、このためにこの場で話しました。

 民主主義というか、数の暴力による説得です。

 もっとも、私の意見が正当な物だから、この結果は当然と言えば当然の事なんですけどね。


「これ、良いですねぇ」

「なかなか思いきった意匠ですが、素材としては光るものがあります」

「こっちも、凛としていて、色さえ気を付ければ十分に従者服としても」


 むろん、ジュリに恥を掻かせるつもりはないので、真面目な意匠図ばかりですよ。

 真面目に、ゲームやアニメの趣味に走った意匠(コスプレ)とも言いますけど。

 お店の人達も興味津々で、衣装図帳を眺めていますしね。

 その評価はプロの視線から見ても概ね高評価のようです。

 まぁ、時折、修正案は出てはいるようですが、ええ、満足いくものに仕上げちゃってください。

 欠点は……。


「これって、物凄く高くなるのでは?」


 まぁ、ジュリが心配する通り、意匠が凝れば凝るほど値段は張るので、普通は従者の服に其処までお金は掛けない。

 他に掛けるべき所があるからね。

 生憎と貴族としてもボッチな私は、お金を掛けるべき所がないので、唯一の家臣であるジュリにお金を掛けても問題なし。

 だいたい高いと言っても……、あっ、なるほど全部作ってもそれくらいの金額と。


「この間の一角王猪ドス・エンペラー・ボア一頭分の毛皮にもならないので、問題ありません」


 半分以上趣味で作るにしても、趣味の狩りで得た収入を使うのだから、誰にも文句を言われる筋合いはない。

 ええ、高いんですよね一角王猪ドス・エンペラー・ボアの毛皮って、特に私が卸す物は、綺麗に皮が剥がされていてムラがないから、買い取って貰うお店にも期待されているんです。


「さぁ、完成したら、ジュリもレイヤーデビューです」

「意味が分かりませんわっ!」


 いえいえ、私が分かっていれば良いだけですので、気にしたら負けです。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ