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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第三章 〜新米当主編〜
207/977

207.美少女剣鍛冶師は目の保養です。無論、作品の事ですよ。





「従者教育の方はどう?」

「鬼ですわ」


 簡易のシャワーを浴びた後に、ジュリに髪を梳いてもらいながら尋ねると、そう返事が返ってくる。

 一応、この世界にも鬼の概念はあるけど微妙に違う。

 鬼はオーガの事で、この世界では角の生えた巨大な猿の魔物。

 力と素早さはたいした事はないらしいのだけど、知恵はもっとたいしたが事なく、逃げると言う選択肢を知らないのではないかと言われているほど凶暴な魔物。

 とにかく硬くて体力がある上に群れでいるため、倒し切る頃には疲労困憊になってしまうほどの魔物のため、そんな状態になる事を押し付けられたり相対する事を鬼と例えている。

 そして鬼と思えるくらい、従者としての心得や立居振る舞い、主人が歓談中の注意やフォローが必要な場合の方法や間の取り方などの座学めいた物から、護衛術から監視や尾行の察し方や対処の仕方のほか、貴族として必要な書類の取り扱い方など多岐に渡るらしい。

 専門的な事は専用の人を私が雇うべきであっても、全体をフォローしつつ統括するのは、従者であるジュリの仕事になるので、一通りできるようになる必要があるとの事。


「鬼って、どれくらい?」

「鬼は鬼ですわ」


 返事になっていないけど、言いたい事は分かる。

 知り合い四人も、こと私の体力トレーニングは鬼だからね。

 とにかく、かなり絞られているという事は伝わってくる。


「でも、ユゥーリィさんよりはマシですわ」


 鬼より酷いって、私、其処まで厳しくした覚えはありませんけど。

 ……口調が優しいだけで、やっている事に差はないと、酷い。

 あっ、でもそれならば、鬼、もといホプキンスよりも酷いと言う事にならないと思うんだけど。

 ……目標設定が、あり得ないぐらい鬼って、ジュリなら出来ると思う事しか言ってませんよ。

 クラーケンを倒せるようになれとか、龍と相対して生き残れとか、そんな無茶は言いませんし言う気もありません。

 大体その目標設定だって、別に今すぐなれとか言ってませんよ。

 ジュリならできると思っているから、最終的にそう成ってくれれば良いと言っているだけで。

 ……その信頼が辛いって、無理なら無理と言ってくだされば良いですよ。

 ……最初の魔物を狩りに行かされた時に、無理と言ってもやらされたと。

 あれはヤレると分かってましたし、実際にヤレた訳ですから、ただの甘えと泣き言だと思うんですが。

 ええ、本当の本当の本当に無理な物は、無理強いしませんから、きちんと言ってくださいね。


「……鬼」


 こんなにジュリの事を想っているのに、酷い。

 まぁ、こうしている事がジュリにとっては、単に私に甘えているだけなので、好きなだけ言わせてあげるとして。


「明日、ちょっと出かけるから、ジュリも従者として付き合ってくださいね」

「……どこかの公爵様や、侯爵様に会いに行くとか言いませんわよね?」

「いえ、本当に出かけるだけですよ」

「……また魔物の領域に出かけるとか?」

「流石にこの間行ったばかりなので、……あっ、でも前回は採取メインだったから、狩猟をメインに行っても」

「絶対に付き合いませんわ」

「そんな思いっきり否定しなくても良いと思うのだけど、とにかくジュリを揶揄(からか)うのはこれくらいにして、明日は街に買い物をするだけだから」


 やっと一段落が付いたので、リズドの街に帰れる事になったので、その前にリズドの街では手に入らない物や、頼んである物を取りに行くだけですよぉ。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




「また買い込みましたわね」

「さすがは王都よね。

 リズドでは見かけないような食材が、沢山ありました」


 国の首都なので当然と言えば当然だけど、お値段の方も当然ながら、お高めなので少しずつ色々な種類を購入しただけ。

 とりあえず見た事もない食材に関しては、味を知らないと評価しようがない。

 一通り代表的な調理法は聞いてきたので、まずはそれを試してからかな。

 あっ、砂漠クラゲの干物発見。

 この値段なら商会を通すより安いので買いか。


「すみません、これをあるだけください」


 いえいえ、衝動買いではないですよ。

 私にとっては研究材料ですから、必要経費です。

 変種の山クラゲもあると、……うーん、では十枚ほど。

 その後、薬剤関係を扱っているお店で、薬や薬剤の情報を仕入れながら、使えそうな物は購入。

 また必要になるのであれば、商会の方でも手に入れれば良いだけの事。

 この手の薬品の個人商店はあくまで、個人が使う量しか手に入らないからね。

 そう言えばジュリ、帳簿の付け方は……数字が弱いなんて言い訳は聞きません、覚えなさい。

 今日の分から練習です。


「そう言われても、女性の大半は数字に弱いものなんですのよ」

「それ、偏見だから。

 実際、女性で働いている人なんて、平民には幾らでもいるからね」


 私ですか? 短い期間ですが、お父様の領運営や商会の帳簿類の監査をしていましたから、ジュリよりは得意だと思いますよ。

 ええ、この際ですので、旧態依然の帳簿の付け方は廃して、前世の知識を生かした帳簿の付け方から計算方法まで、みっちりと叩き込んであげましょう。

 計算は頭が痛くなるって、大丈夫です帳簿くらいの計算なら、記憶で補えます。

 別に橋の強度計算とか、魔導具制作で使う魔力の特性計算とかまでやれとは言いません。

 とりあえずは利率計算や按分計算ぐらいまでですので、やり方さえ覚えてしまえば、あとは反射で出来るようになりますから。

 反論は認めません、帳簿から見える事はかなり多いですよ。

 ……ホプキンスも帳簿付けはしていない、と言うか苦手だと聞いていると。

 良かったじゃないですか、ホプキンスに勝てるものが出来ますよ。

 ……前向き過ぎって、それくらいでなくて、どうするんですか。

 ぶっちゃけ、彼方は侯爵家で専用の職務の人が多いんです。

 執事や従者だって、他にも沢山います。

 それに対してウチはジュリ一人ですから、覚えなくてどうするんですか。

 最初に言いましたけど、私、雇うからには仕事で甘やかす気はないですよ。

 その代わり、ちゃんとフォローはしますし、無理な事には考慮します。

 そして、帳簿付けは無理な事だとは判断しません。


「鬼ですわ」

「鬼で結構。

 でも、きちんと出来るようになったら、好きな物を買ってあげます」


 服でも、アクセでも、化粧品でも、頑張りに応じた特別報酬は、必要経費だとは思っていますからね。

 ……あの作者の過去の作品の原書が欲しいって。

 出来るようになってから言ってください。

 ……今のうち言っておかないと、オークションに出た時に対応できないって。

 以前から闇値だの、物騒な言葉が聞こえてはいたけど、いったい、どう言う事になっているのか本気で気になってきたから、今度ライラさんかラフェルさんに聞いてみよう。

 まぁ、あの作者の本なら、最悪、再刷りすれば良いだけだしね。


「こんにちわ〜、レイチェルさんいる?」


 そんな馬鹿な話をしているうちに、本日の目的のお店に到着。

 お店と言っても、どちらかと言うと工房なんだけどね。

 鉄を溶かし鍛えているから、工房の中は結構な熱気があるため、併設された此方の店舗スペースにもその熱気と鉄の溶ける匂いが伝わってきている。

 その中で、レイチェルさんの母親が店番しながら、帳簿付けをしていたので、ジュリにほらねと言うんだけど……、こらっ、見えない振りをしないのっ。


「いらっしゃいませ。

 今、あの子を呼びますので、椅子にでも座って待っていてちょうだい。

 作業中だったら手が離せないと思うけど」


 まぁ当然と言えば当然のことレイチェルさんは、この工房の娘さんではあるけど、看板娘ではなく職人の一人として働いている。

 手の離せない作業中なら、待つ事ぐらいは最初から覚悟はしているので、気にしてはいない。

 もっとも、この時間帯に来る事は前回の時に言っておいたので、そうは待たされないとは思う。

 とりあえず此処まで結構な距離を街の中を歩いてきたから、収納の魔法の中から、大きめのコップの他にライムとレモン、蜂蜜と塩、後は魔法で冷たい水を出して、簡易スポドリを作成。

 コップに氷とミントの葉を添えてあげれば見た目も涼やか。

 そんな事をしていると、母親と同じ赤い髪を前回と同じ後ろで縛った顔見知りの少女が、ようやく店舗スペースに顔を見せる。

 はっきり言って、店舗スペースに立たせていた方が売り上げが伸びるのではないか、そう思うぐらい美少女なんだけど……。


「お待たせ、頼まれた物は出来てるよ」


 ご覧の通り男の中で育ってきたせいか、言葉遣いはこんな感じなので、営業には向かないかも知れない。

 もっとも前世の記憶を持つ私としては、これくらいの事は違和感は感じないんだけど、周りの人達は十四にもなってと嘆いてはいるみたいだけどね。

 それはさておき、彼女は片手に持っていた革製の布を広げると、そこには幾本もの刃物が内ポケットに収められられて並べられている。


「先日頼んだばかりなのに、本当に出来ていますね」

「まぁ、小物だからね。

 繊細ではあるけど、歪みは生じにくいから、たいして時間は掛からないさ。

 一応は言っておくけど、早かったからって手は抜いていないからな。私としては良い仕事ができたと思っている逸品だ。

 まぁ親父は、例によって文句を言っているけどな」


 とりあえず、一本を革の内ポケットから取り出し、重心と刃付けを視る。

 刃の先端部を少しだけ重くし、小柄ではあるけどやや厚みのあるナイフ。

 柄まで金属で出来た其れに、少しだけ魔力を込めると、ナイフ全体に魔力が行き渡るものの、ナイフの刃のやや内側の部分に多くの魔力が通っている事が分かる。


「うん、注文通りの出来栄え。

 流石はレイチェルさん」

「まぁ、騎士用の魔剣の製法で、こんな生活用品を作らされるとは思わなかったけどね。

 楽しくはあったから、入用だったら何時でも言ってちょうだい」


 実はこのお店、と言うか工房は、本来は武具を専門とする工房。

 以前、王都に来たときに、観光のついでに、ヴィー達が討伐騎士団御用達のこの工房を案内してくれたのだけど、その時にちょとだけ一騒動があって、彼女とは個人的に知り合えた。


「まったく、あの頑固親父に糞兄貴達め、自分の作りたいものを作って何が悪いって言うんだか」


 はい、これが一騒動の原因です。

 レイチェルさん、実は武具より生活鍛冶用品が作りたいらしい。

 理由としては、人殺しの武器より人々の生活の役に立つ物が作りたいからだそうだ。

 流石に直接そんな事は言わないけど、遠回しな言葉ではあったけど、結局はそう言った理由の内容。

 まぁ、何年か前に怖い目にあった事が発端らしく、人を傷つけるための物を扱う事が嫌になったと言うのは分からない話ではない。

 でも、レイチェルさんの言う事は一見正しいように聞こえるんだけど……、正直、間違っていると私は思っている。

 別に彼女の腕は一流で、こと刃物に関しては、彼女の兄達より腕がある事を惜しんでと言う訳ではない。

 単純に、この店が騎士団御用達の武具専門の工房だからだ。

 ようはブランド力の問題で、専門に作っているからこそ武具に関しては他より秀でている品質があると周囲にも知らしめている所がある。

 なのに、そこで何でもありの鍛冶屋ですよなんて言うのは、代々苦労して騎士団御用達になる程に腕と工房の信頼を築いてきた人達に申し訳がたたないし、同業者に付け込まれかねない。

 まぁ御用達と言っても、騎士団の人達が個人的に使っているお店なだけなんだけど、それは御用達になるほどの腕がないと言う訳ではなく、単純にお値段の問題。

 良い物は高い、それだけの事。


「あのねレイチェルさん」

「分かってはいるわよ。

 こうして元気でいられるのは、親父達の苦労があっての事だって言うのは。

 あの時ガツンとやられたからね」


 別にガツンとやりたくてやったわけではないけど、やったのは事実なので仕方がない。

 結局、一悶着あった件は、老舗を守りたいレイチェルさんの父親と、自分の好きな物を作りたいけど、その辺りの事が分かっていなかったレイチェルさんとの確執というか、大喧嘩の場に鉢合わせてしまった事。

 おまけに性質(たち)の悪い野次馬が下手に煽りまくって、頭に血が上っている二人が、工房や店舗スペースから商品を持ち出したため、二人には魔法で冷却した水を頭から思い切り被って貰った上に、拳骨を落としてあげました。

 ええ、年上だろうが何だろうが関係がない。

 頭に血が上っただけで本気ではなかっただろうとも、工房の前の往来で流石にそれは拙い。

 下手をすれば、工房そのものが処分を受ける事になり得る。

 とっさとは言え関わってしまった以上は仕方がないので、事情を聞いた上で喧嘩両成敗。

 まぁ魔法で脅したとも言うけど、緊急事態だっただけで、そういうのが得意だと思われるのは勘弁して欲しい。


「まあまぁ、これでも飲んで落ちついて。

 鍛冶仕事していたから、まだ興奮しているだけだろうからさ」


 頭ごと火照った身体を冷やしなさい、とは流石に口にはしないけれど、きっとこうなるだろうなと思い作ったスポドリを、彼女と彼女の母親にも出してあげる。

 え? お茶を出す方が逆じゃないかって?

 気にしない気にしない、私が飲みたいから淹れたついでだもん。

 汗を出した後には、よく身体に滲み入ると思うよ。


「ふぁ〜……、はぁ……、美味しい」


 ん、気に入ってくれたのなら良かった。

 後で作り方を教えておくね。

 とりあえず話を聞く限り、人殺しとは縁が少なく、人々の役に立っている討伐騎士団関係のお仕事は彼女が一手に引き受ける事で、落ち着いてはいるらしい。

 彼女の今の目標は、お金を貯めて独立して、自分の工房で自分の好きな分野の仕事をする事らしいけど、……レイチェルさん、三人兄娘の末っ子だから難しいんじゃないかな。

 頭に血が上っていない時のお父さんやお兄さん達、基本的に彼女にダダ甘みたいだし。

 そんな話を聞きながら、他の刃物も一つ一つ確認し終えた私は、その内の数本をジュリに渡す。


「え? これは?」

「解体用の刃物。

 ジュリに貸しているのは、いい加減、刃が減っちゃっているからね。

 タダでさえ解体がまだ下手なのに、何時迄も切れの悪いナイフじゃ、変な癖がつきかねないから、新しいのを用意したの」


 もともとそのために頼んだ特注品。

 言うまでもなく魔物は頑丈なので、解体は刃物の消耗が激しい。

 いくら生きている時に比べて魔力を失った分だけ硬くないと言っても、魔物の毛皮を切り裂くのは、刃に対してヤスリを掛けているのと同じ。

 普通のナイフでは魔力で強化しても擦り減る事は免れないし、その分だけ研ぎ直すから余計に減るのも早い。

 私が持っているのは、もともとお父様が私に山歩き様にと用意してくれた物で、そこまで品質が良い物でもないから仕方がないのだけれど、私がそれを無理やり大切に使ってきていた。

 でも子供の頃から使っていたため、いい加減に限界に近い。


「本来魔物の解体用のナイフは、頑丈さ優先の肉厚のナイフで、肉の部分をなるべく切って皮を剥くんだけど、それだと皮下の美味しい部分が駄目になっちゃうし、二度手間だから私は普通に剥ぐんだけど、せっかく魔物の解体に優れた技術があるんだから、それを活かして専用のを作ってもらったのよ」


 お父様やお兄様が持っている剣もそうだけど、騎士団の人達が自腹を切ってまで好んで使う剣は魔法銀(ミスリル)が使われている魔剣が多い。

 魔力との相性の良い魔法銀(ミスリル)を使う事で剣の強度をあげたり、身体強化の魔法の延長で剣捌きの補助にしたり出来るためらしい。

 問題は特殊な材料と技術なので、兵卒に支給なんて出来るような値段ではないと言う事。

 かと言って、命を預ける事になる剣なので、自分に合わせた魔剣を作るのが騎士のステータスの一つにもなっているらしい。


「魔剣だから魔力の効率が段違いに良くなるからね。

 使われている鋼の質も良い物だし、これなら魔力を少しだけ流しておけば、そうそう擦り減る事はないわよ。

 さっき見るついでに柄尻に魔法石を埋め込んで底上げしておいたから、ほとんど研ぎ要らずになっているはずだから大切に使ってね」

「「えっ?」」 


 いえいえ、せっかく良い物を作って戴けたのだから、長く大切に使いたいじゃないですか。

 あっ、そう言えばレイチェルさんは私が魔導具師とは言ってなかったから、驚くのも仕方ないかも知れんませんね。

 ちなみにこの技術は魔法石に埋め込んだ魔法こそ違うけれど、例の新式の武具の剣にも使われている技術だったりする。

 実用した順番は逆になってしまったものの、此方が本来の用途で開発した技術で、彼方はその応用の技術だったりする。

 まぁ、他人にはどうでも良い話なので、そこまでは話さないけれどね。


「解体用の刃物が二セットに、包丁が、牛刀、菜切、骨スキ、ペティを各サイズ違いで計十二本、金板貨(せんまん)一枚と、金貨二枚、纏め買いなので、それ以下は切り捨てで」


 まぁ、幾ら此の技術が魔物の解体にする道具に有用でも、一本当たり金貨一枚(ひゃくまん)もするんじゃ、普通は作られないだろうね。

 はっきり言って、普通の魔剣とお値段は変わりませんから。

 包丁一本に、魔剣と同じ金額は出せないと言うのが本当の事だろう。

 しかも、今、私が魔法を付加したから、市場相場は更に倍以上になるだろうしね。

 ……えっ、高が道具にしては高すぎる?

 いえいえ、技術に自信がない分は、お金でカバーです。

 それに道具に拘るのは漢の性分です。

 いえ、確かに女ですけどね。

 とにかく見積もり通りなので、前金として半分渡してあるので、残りの半分の金貨六枚を渡して精算を終える。


「親父が此の仕事を渋っていたのが何なのかと思うくらい、アッサリと残りを出すし、本当に何者って感じだよ」

「あっ、やっぱり信用されてなかったんだ」


 レイチェルさんは信用してくれたけど、工房を預かるレイチェルさんの父親からしたら、私みたいな子供の高額依頼なんて、信用できないのも当然だと思う。

 私もそれが分かってはいたので、前金で材料費プラスαの半額を払った訳だし、別に咎める気はない。

 お店からしたら、当然の防衛反応だと理解できるからね。


「騎士団の人の紹介だから大丈夫だって言ったのにさ」

「初客で高額依頼なんだから、支払い能力があるか疑問を持つのも当然の事だよ。

 そう言う用心さも大切だし、かと言って用心しすぎていては新規の顧客を逃してしまうし、顧客との信頼関係を気付く事が出来ない。

 だから妥協出来る点を見極めるのも大切な事で、独立を目指すのならば、今の内にそう言った経営的な事を学ぶのも大切。

 独立したら誰も守ってくれないし、全部自分の責任になるの。

 その上、資金を無くしたら材料費や薪代だって払えなくなって、多くの人に迷惑を掛ける事になるんだからね」

「うぅ、好きな物を作れば良いってものじゃないのは分かってたけど」

「無論、帳簿付なんて出来て当然だから」

「ぐはっ、それもあった」


 はははっ、レイチェルさん、後ろでお母さんが手招きしているよ、せっかく話に出たんだから、少しは手伝いなさいって。






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