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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第三章 〜新米当主編〜
206/977

206.中身がオジサンでも、流石にそれは女として怒りますよ。





 シンフォニア王国、国王

【ジュードリア・フォル・シンフォニア】視点:




「ふ~ん、なるほどね。

 サリュードは予想通りと言えば予想通りだったけど、あの娘は相変わらず僕の予想の斜め上を行くねぇ」


 アレの従者であるルードリッヒの報告に、自然と口の端が上がろうとするのを、……まぁ今回は押さえなくていいか。

 人払いしてあるから、執務室(ここ)にいるのは、彼とジルだけだしね。

 結果は予想とは違ったけど、悪くはない。

 いや、むしろ、この結果は僕が考えていた事よりも、良い結果と言えよう。

 アレの眼の事が、僕が思っていた以上にアレに弊害を齎していた事に気が付くのが、僕もそしてアレの周りにいる者も気が付くのが遅すぎた。

 建国の父に影ながら寄り添い、誰よりも力を尽くしたと伝えられるも、その正体を謎にされた魔導士と同じ瞳を持つが故に、期待をし過ぎたのかも知れないな。

 御先祖様の妄執が残した口伝とはいえ、馬鹿にはできないんだよね。

 事実、王家に金色の瞳を持つ子が生まれた時は、なにかしらの形で偉業を残していたり、人知れず王国を救ってたりしている。

 だからアレもそうなのかもと、色々と教育していたつもりだけど、肝心な所を見落としてしまった。

 人の敵意に敏感で、不意打ちだろうが闇討ちだろうが、完璧なまでに対応できる眼の意味を僕も周りの者達も見誤り、気がついた時には遅かった。

 アレの視る世界を理解できない者達では、アレを理解し分かってやれない。

 親とは名ばかりの僕では尚更のこと。


『金色の瞳ねぇ。

 ふ〜ん、王家の血でもないのにね。

 あれ? でも以前に君、この子の素性は遡れなかったって言ってなかった?』

『此処、数代の王家の血を引く方々からは、あの年頃の娘の存在は確認されていません』

『隠し子という事もあり得るけど』

『御冗談を、残っている訳がないと知っておられるはずですが』


 以前に、コンフォードがあの娘の金色の眼の事を報告しに来た時は、そんな話をした記憶がある。

 コンフォードはあの時は、そう誤魔化していたけど、その言葉そのものは嘘ではないから、咎める気もない。

 なにより、アレを理解してやれる存在の報告に、内心喜んだ時には僕も人の親だねぇと妙なところで感心はしたけど、喜んだのは本当の事。

 世間には知られてはいないけど、建国の際に名も正体も封じられた謎の魔導士の末裔の存在。

 その活躍ゆえに、存在その物までは封じる事ができず、むしろ天の使いとして、その能力のみを利用された人物。

 卑しい身分と女だと言う理由で、周りの者に排除させられたと、当時の日記にはそれらしく書かれてはいたが……、なんて事はない、ただ単に己が惚れた女一人守れなかった愚かな男の愚痴でしかなかった。

 二人も子を産ませておきながら守れずに、双子の片割と共に辺境の地へと追いやられたと未練がましく書かれていても、少しも同情する気にはなれなかったね。

 力の無いお前が悪いとしかね。

 その癖して、未練がましく口伝だけは残してある。

 見守るだけで構わないから、シンフェリアを潰すなと。

 金色の瞳を持つ者は守れとね。

 僕もアレの件がなかったら、口伝を頼りにカビの生えた日記や、当時の記録を読み漁るなんて真似をする事はなかっただろうね。

 意味がない事だからね

 と言うか知りたくもなかったよ、建国の際に変えたと言うシンフォニアの姓が、シンフェリアを捩ったものだなんて、そこまでくるとハッキリ言って気持ち悪い。

 とにかくこれが天命か奇跡か偶然かは知らないけど、巧くすれば矯正してくれるかも知れないと、王としても喜んだのは本当だけど。

 

「魔眼殺しの眼鏡か。

 仮初だけど、僕等と同じ視界を手に入れられたんだ。

 ジルドニア、アレを鍛え直す手配を頼んだ。

 もう、これで言い訳は通用しない、徹底的にやれ。

 アレの視界について不明な点があり、アレを鍛えるのに必要であれば、あの娘から聞き出せ。

 幸いな事に、いちいち城に呼び出さなくても済む魔導具があるからな」


 アレの父としてではなく、この国を担うものとして臣下に命ずる。

 きちんと人を見る目さえ持ってくれれば、軍人としては本当に優秀な子だからね。

 逆に軍人としては優秀だからこそ、変な連中に利用されるぐらいなら、その前に処分する事も考えなければと思っていたぐらいだったから、多少の地獄くらいは我慢してもらいたいものだね。


「お前も従者として、そのように動いてくれ。

 それにしても、仮にも王族に対して賃貸料を要求するとは、本当に良い度胸しているね彼女。

 まぁ、この件はどうみても、此方の借りだからそれも仕方ないか」


 金額は王族どころか貴族からしても、端金にすらならない金額。

 ルードリッヒの話からすると、試作品で従来の用途から外れた失敗品だから、売り物にする気はなく、かと言って親しくもない人間に無料(ただ)で贈る程お人好しではないからとの事。

 狙いは、王族とは親しくする気はないと言う内外に対してのアピールか。

 まぁ彼女の場合、アピールではなく心からそう思ってそうだし、言葉通りの意味の可能性もあるか。

 でも甘いなぁ、確かに周りにはそれで済むだろうけど、それは金額を知らない周りの連中にでしかない。

 肝心の僕やアレにとって、この程度の金額では割りに合わない。

 どう考えても、此方側の借りが大きいからね。

 王としても親としても、この程度で良いなんて思われたくはないね。

 かと言って無理やりこの借りを返そうとすると、きっと嫌われる事になるだろうから、それは避けたい。

 まったく、自分の価値を理解していない人間には困ったものだよ。良くも悪くもね。


「でも、両手で優しく包み込むようにして、真っ直ぐな目と言葉で諭すだなんて、女性達が好きそうな物語の一幕のようだけど、実際のところはどうなの?」


 報告では、あの娘に結婚願望がないどころか、結婚が嫌で実家を出ているらしいし、コンフォードも其れを理由に、あの娘を籍に入れさせていない。

 甘いかも知れないけど、逃げられたら元も子もないからね。

 事実、彼女にはその前科があるから、今度は国外に逃げ出す可能性が高い。

 貴族の特権だの、多くの知り合いだのは、あの子にとって足枷にはならない。

 せいぜい躊躇させるためだけの重りだし、本当に必要なら連れて行くだけの事。

 あの娘には、それが出来るだけの力があるからね。

 ただ、それはあの娘が子供だからで、今は興味が無いだけかも知れないとも取れる。

 もし、そうならば早い者勝ちだ。

 馬鹿な真似をしでかす連中も出てくるだろうし、僕も動かない訳にはいかなくなる。

 だけど、その心配は杞憂だったようだ。


「いえ、無いですね。

 アレは困った弟や生徒を諭す姉の目でした。

 諭されたサリュード様には、どう映ったかは別でしょうが」

「そうか、それは残念な気もするが、問題事が起きる事を思えば、寧ろ有り難いとも言えるな。

 それはそうと、君のお姉さんは元気?

 確か嫁いでから、結構、経っていた気がするけど」

「はい、お陰様で半年ほど前に二人目を無事に産んで、一息ついたところです」

「女は凄いねぇ。

 子を生むだけでなく、男が出来ない事を、あっさりとやってのける事があるからね。

 特に姉という者はそうらしいけど、君から見てあの娘はその姉に見えたと言う事か」


 元々、外観とは正反対に成熟した娘だとは思っていたけど、歳の近い彼から見ても、そう感じたのならば、演技でもなく、そうだと言う事なのだろうね。

 色々と例外とされる僕の妹も大概だったけど、あの娘は明らかに次元が違う。

 仕草や感情は確かに年相応なところはあるけど、肝心の根の部分は成熟した者を感じる。

 そうでなければ、あの視点の高さは考えられない。

 つくづく、彼女が貴族の幻想や良心に縛られている者で良かったよ。

 そうでなかったら、アレではないけど、危険視するしかない存在だ。

 そう言う意味でも、あの娘の両親には感謝だね。

 国として無視出来ない程の才能ある娘を、野に解き放ってくれた事もだけど、なによりも良識のある人間として育ててくれた事をだ。

 おかげで、僕は良い駒を手に入れられた訳だからね。

 まぁ、かなり扱い辛い駒ではあるけど、有用な駒である事には違いない。


「さて、報告は以上と言う事だけど。

 報告のし忘れ(・・・)はないかい?

 例えば、アレの両頬の痕とかね」


 そう言って、僕は机の引き出しから取り出した魔導具を彼に見せる。

 遠見の魔法を封じた魔導具【遠近双筒(最終試作品)】だと言ってね。

 此れの事はジルの報告で聞いていたから、予算確保の名目で、あの娘から王命で無理やり買い取った物だけど、想像していた以上に役に立つね。

 わざわざ貴重な魔導士を警戒のために常に使う必要はないし、手軽に使える。

 おまけに、距離を測る事まで出来るから、軍事面、航海面、情報収集等、運用方法が激変するね。

 彼女曰く、通常技術を魔法で補正と補助を掛けているだけなので、魔導具としての技術としては、それほど難しい物ではないとの事。

 その上、魔法の補助がない物でも、そこそこ遠くが見えると言うから、思惑の絡まる配備には使い分けられる。

 まぁ今はそんな事はどうでもいいや。


「さっきの君の話だと、優しく包み込むように叩いたと言う事だよね。

 でも、それならアレの両頬の説明がつかない。

 だから説明し忘れた事を報告してくれないかな」


 実際、この魔導具を使って、覗き見ていた訳ではない。

 僕はそれほど暇人ではないし、悪趣味でもない。

 単純に、別口からの報告が上がっていただけで、アレが教会に寄ってから帰ってきた事も知っているだけの事だ。

 

「も、申し訳ありません。

 そ、その非常に言い辛い事でして、……で、できれば記憶から消すように頼まれていた事でして」 


 この子にしては、珍しく言葉を詰まらせながら話した内容に、僕は珍しく本気で頭が痛くなった。

 彼とは入れ違いに出て行った者の報告には、アレの両頬には小さな手形がハッキリとみられたと。

 そして、その報告に辻褄が合う彼の報告に、頭痛を振り払うように一度大きく呼吸をして……。


「それ、本当に言ったの?」

「……はい」


 馬鹿だ。

 ただの武人馬鹿だと思っていたけど、そっちの方面でも馬鹿だとは思わなかった。

 そりゃあ確かに、生まれ持った能力が活かせるように、騎士団だけでなく、荒くれ揃いの部隊にも放り込んで鍛えさせたから、ああ言う庶民上がりの部隊では、その手の表現が使われる事もあると言う事も知ってはいるよ。

 でも、意味合い的にはともかく、それをあの娘に言うだなんて、馬鹿としか言いようがない。

 いや、馬鹿なのは僕か。

 アレのそう言う事に気が付かずに、其方方面の教育を疎かにした僕のね。


「ジル」

「教育には何名か女性の者も付け、厳しく指導させます」

「頼んだよ。できれば早めに頼む。

 それと興味本位というか参考までに聞きたいのだが、アレくらいの娘だと、まだだと、やはり気にするものなのかね?」


 言葉通り、ただの興味本位とアレの馬鹿度を測るための参考だ。

 それ以外の意味は、神と奥さんに誓って無い。


「世間一般論でしか答えようがありませんな。

 そもそも何故、そのような事を私に聞かれますのかお聞きしたいですな」

「いや、君、僕の知恵袋でしょ」

「何時、この地位をお返しできるのかと、毎日悩んでいる宰相であり、相談役です。

 気になるのであれば、そこらの侍女を呼んで参りましょう。

 陛下が小さな子のソレに興味があると言われれば、恥ずかしがろうと、呆れられようと答えてはくれるでしょうからな」

「止めてくれ、明日には不名誉な噂が王宮中に広がっている事になりかねん。

 いや、噂だけならともかく、早とちりした馬鹿に動かれたら、流石の僕も本気で泣きたくなるからね。

 そうなったら、仕事にも手がつかなくなる可能性も視野に入れてくれ」


 身の回りを世話する侍女達が、末娘のフィニと同じぐらいの娘に入れ替わっていそうだ。

 流石にそんな幼い娘を相手にどうこうする気はない以前に、そんな幼い娘を相手では、流石にヤクに立たないが、愛する奥さんや娘に、そうだと思われるのは嫌すぎる。

 まだ女癖が悪いという噂が立った方が何倍もマシだ。

 今のは僕も悪いが、まさかこんな余波を食らうとは思いもしなかった。

 それぐらい僕にとってもショックだったのがアレの言動。


『まさか、毛も生えていないガキにこうも言われるとはな』


 はいアウト。

 叩かれて当然だ。

 幾ら年上としての誇りを傷つけられたからと言って、年頃の女の子にそれはない。

 そもそも、そんな言葉を使う荒くれの隊員達だって、女性に対しては使わないはず。

 入隊したばかりの少年兵に、一本取られた時の負け惜しみぐらいだ。

 しかも、それに激昂したあの娘に思いっきり頬を叩かれた後……。


『本当の事だろうがっ、確かにそう聞いたぞ』


 事実でなくてもアウトなのに、事実なら尚更に叩かれて当然だ。

 ルードリッヒ曰く、叙爵(じょしゃく)の手続き後、レストルームから出てくるのを待っていた時に聞いた内容らしいけど、どうやったらそういう会話がなされるかは不思議だけど、そこは敢えて気にしないのが男としての礼儀だ。

 記憶を封印しておくべきだし、間違っても当人の前で口にすべき内容ではない。

 なんにしろ、そんな事の後で、よくもまぁアレを赦したものだと、あの娘のお人好しぶりには心底感心するよ。

 まぁ、記憶から抹消したかった、と言うのが本音だろうけどね。


「今度こそ報告は終えたみたいだけど、ご苦労だった下がっていいよ。

 あんな馬鹿だけど、今後も力になってやってくれ。

 今日みたいな馬鹿をまたやったら、遠慮なく殴ってくれて構わない」

「はっ」


 もの凄く疲れた顔をしている彼の姿に、彼自身もアレが彼処まで馬鹿だとは知らなかったのだろう。

 ある意味、新たに発覚した馬鹿は無害な馬鹿だから、側から見たら笑い話で済むのだから、救いはあると言える。

 関わる者としては頭が痛い事には違いないけどね。


「あっ、そうそう、君に預け忘れていた(・・・・・・・)手紙があったから、後で届けてくれたまえ、ジル、彼に渡してやってくれ」

「……はぁ。

 あいにくと私の執務室の方に置いてありますので、今は」

「そう、なら仕方がないな。後で持ってかせよう」


 今度こそ部屋から出ていく彼を見送ってから、ジルが備え付けの棚から専用の用紙を渡してくれるので、早速、ペンを取り書面を埋めてゆく。

 あの手紙があるから、大丈夫だろうけど、保険は掛けておくか。

 反逆罪だとかデッチあげられても困るからね。


「これ、昨日の日付でよろしく」

叙爵(じょしゃく)の際の手続きの中に含まれていたのが、漏れていた事にしておきます」

「そう、さすがは本職、悪知恵が働くねぇ」

「陛下の戯れに巻き込まれたと言う事で、周りには言っておきましょう」

「酷いなぁ。

 でも、僕の影口で済むなら、それで構わないさ」


 理由はどうあれ、王家が後ろ盾にあると思わせられるのは悪くない。

 それが僕の玩具という名目なら、哀れみをもって見られるだろうし、擦り寄る馬鹿も少しは減るだろう。

 まぁこんな物は、アレの失言に対する慰謝料にもならないだろうけどね。






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― 新着の感想 ―
[一言]ばかってか世間を知らなすぎる、大きな子供って感じだな
[良い点] 同年代の男キャラでまともなのヴィーとジッタしかいないじゃん…… てかよく殺さなかったな笑せめて魔法くらいぶつけそうなものだけど
2023/12/09 23:59 退会済み
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