201.久しぶりの狩猟で、鬱憤を晴らしちゃいました。だって味覚の秋ですよ。
アケビ〜♪ サルナシ♪
山林檎〜♪ ガマズミ♪
ウメモドキ♪ 自然薯〜♪
キヌガサタケ〜♪ ポルチーニ〜♪
あっ、故郷の味たる大鼠を発見〜♪
そして仕留めた大鼠が掘り起こそうとしていた地面には、案の定、トリュフがありゲット。これで白黒共に結構な量が揃ったかな。
他にもキノコもいっぱい採れたし、今日の本命でない薬草も、まぁまぁの種類と数を採取できた。
爵位拝命に関してのお礼参りも終え、王都に居を構えていない方には、お手紙でお礼状とお礼の品物を贈る手配も既に終えていたので、ドルク様が慣れない事の連続で、疲れただろうと、本日はお休みをくださった。
まぁ、最後に新任貴族として教会ヘ挨拶に伺わないといけないのだけど、高位の司祭様と日程の都合が合わずに明日になってしまったためという理由もあるのだけど、休みは休み。
せっかくなので、溜まったストレスの発散と、秋の味覚を求めて朝から御山で採取に励んでいる。
採取がメインだから、朝食の席でジュリも誘ってみたのだけど、紅皇蜂の巣にも立ち寄ると言ったら、何故か全力で拒否されてしまった。
ジュリでも大丈夫な方法があると言ったのに、信用してくれないなんて酷い。
それで私の従者が務まるのかと、ジュリの教育係のホプキンスにチクってみたら、自分の実力を把握した上での判断なので当然とのこと。
出来ない事を出来ると言うのは、最終的に主人に迷惑を掛ける事になるため、従者としてあるまじき行為になるのだとか。
うーん、一理あるけど、本当に安全なやり方ですよ。
何ならホプキンスも付いて来てくださっても、……全力で拒否られました。
あとドルク様にも、人の従者に無茶を強いるなと嗜められる始末に、……解せぬ。
「あっ、あったあった♪
う〜ん、前より巣が大きいから、思ったよりもいけるかな?
でも冬越えもあるから、前より控えめにしておこう。
此処が少なそうなら、もう幾つか回っても良いですしね」
遠くから、巣を大きく包むように、素早く結界を張ると同時に、音響爆弾の魔法を投下。
結界は、強度ではなく遮音と結界内での反響を目的とした物なので、遠くでも意外に素早く張れるんだけど、蜂の出入りに合わせる必要があるためタイミングが難しく、逆に言うとそれが勝負だったりする。
今度は、巣を覆っている結界を解いて、もう一発音響爆弾の魔法を投下。
これで周囲にいた大型犬サイズの蜂も、巣の中で何とか耐え切っていた蜂も、暫くは動けない状態になる。
後は、体の周囲に強度重視の結界を張って、外から帰ってきた蜂対策をする。
ブロック魔法も周囲に沢山浮かせてあるから、時間を稼いで、それなりに集まったら、また音響爆弾の魔法をブチかましてあげるだけの単純作業。
後は二階建て家屋くらいもある大きさの蜂の巣を割って、蜂蜜と蜂の子を採取するだけです。
ほら、どう見ても安全な採取でしょ。
まぁ地面に落ちて気絶している蜂が怖いといえば怖いけど、空気砲の魔法で吹き飛ばしてしまえば、怖くない上に作業の邪魔にならないので一石二鳥。
ぺろりっ
「春の時とは違う風味とコクだけど、相変わらず美味しい♪」
予定通り越冬があるので、ドラム缶サイズの大甕に二杯分と、蜂の子の白のみを五十匹分と前回の半分ほどにしておく。
気絶している成虫数匹のお尻から、針の所にある毒腺から毒を二リッターほど回収。
この毒は少量であれば、副作用のない強心剤の材料などになるらしい。
「そうそう、忘れる所だった」
夏の間、リズドの街にいる治癒術師から教えていただいた【聖】属性魔法の内の一つで、毒感知の魔法。
この魔法を、採れたての蜂蜜に掛けてみる。
すっかり忘れていたけど、蜂蜜の中には、毒を持ってしまう事がある。
少量であれば問題はないけど、一応は念の為。
……よし、問題なし。
確認のために、採取した毒針の毒は、思いっきり反応しているので、魔法の効果としては正常。
例え毒があっても、毒消しの魔法で、強制的に毒を無害の物に変えれるあたりが、この魔法の凄いところ。
もっとも、毒に掛かった患者を治すのにも、それなりの魔力を消費する魔法らしく、毒のある食べ物から毒を無効化にするのは、非常に多くの魔力を消費するらしいので、普通はそんな使い方はしないらしい。
私はやれちゃうけどね。
もっとも、こうやって大量に採取した蜂蜜に、毒が少し含まれていたらやるかもと言う程度で、態々毒キノコを無毒化して食べるなんて馬鹿な真似をする気はない。
その魔法を学んだ治癒術師さん曰く、態々それをする頭のオカシイ美食家がごく偶にいるのだとか。
……どこの世界にも、そう言う人がいるんだなぁと、前世で毒のあるフグを食べる民族であった私が言っても説得力はないか。
ええ、フグ鍋、フグ刺し、フグの唐揚げに白子と、冬の味覚ですからね。
この世界にいるかもしれないけど、普通は猛毒の魚など市場で取り扱わないだろうし、そもそも海辺ではないので、残念ながら見た事も聞いた事もない。
「さてと、そろそろ、この辺りから撤収」
気絶させた蜂が目を覚ます前に、素早く作業を終わらせるのも、この蜂蜜採りのコツの一つ。
身体強化の魔法で距離を取ってから、目が覚めた蜂が追いかけてこないか空間レーダーの魔法に意識を向けて、再度確認。
ついでに、周りに良さげな獲物がいないかも探ってみると。
よし、南東に一キロほど行った所に……。
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【コンフォード侯爵家、王都街屋敷】
「それで調理場の裏で、一角王猪を使った保存食作りって…。
貴女、此処がコンフォード様のお屋敷で、私達が部屋をお借りしている自覚はあるんですの?」
額に手を当てて呆れたように言うジュリだけど、人を常識がない人間のように言うのは止めてほしい。
ちゃんと屋敷の調理長の許可は得ているし、この街屋敷を任されている従事長の方の許可も得ている。
まぁ肝心のドルク様には許可を得ていないけど、山に狩猟に行く許可は得ているので、狩猟の成果を持ち帰る事ぐらいは想像しているだろうから問題はなし。
そもそも本日一番の大物を、お世話になっているドルク様と、此のお屋敷の皆さんに振る舞っても何らおかしな事ではない。
既に一番良い部分や、調理に必要な他の部位を調理長が持っていっているので、残りを私がどう調理しようが文句を言われる筋合いはない。
大体、こんな良い肉を、ただの塩漬けや干し肉にするのは勿体無いですからね。
なので作っているのは、前世の知識を生かしたベーコンにソーセージにハム。
一言にベーコンやソーセージやハムと言っても種類があるけど、これだけの大物なので、種類を作る上で量に困る事はない。
「……それにしても、相変わらず、料理にしている光景には見えませんわね」
「酷いなぁ。ちゃんと理に適った調理をしているよ。
魔法で、だいぶズルをしている事は認めるけど」
空中に浮いているように見える、お肉達や幾多の調味料や香草だけど。
ちゃんと前世の知識を基にした調理を行なっている。
ジュリ曰く、道具を殆ど使っていない時点でおかしいらしいけど、使ってない訳ではないからそれで良いと思うんだけどなぁ。
私の魔法は、まだまだ荒くて二流の仕事でしかない。
切ったり平均の厚さに伸ばしたりなどは、一流の道具を使った物に比べたら、ハッキリと差を感じてしまう。
その辺りは、ちゃんと自覚して使い分けてはいるのだけど、そろそろ解体用の刃物も擦り減ってきたし、何とかしないといけないかな。
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【翌 朝】
「……ユゥーリィ、随分と良い香りをさせているようだが」
「はははっ、……やっぱり匂い…ま…す?」
朝食の席でのドルク様の言葉に、私は誤魔化すように笑うしかない。
昨日は夜遅くまで、即席の燻製窯に張り付いていたし、今朝も朝食前に覗いて来たため、……いわゆる芳ばしい香りと言うか、食欲を誘う匂いと言うか、少なくても今から教会に行って、高位の司祭様に祝福を受ける貴族令嬢が、させてはいけない匂いの類には違いないかもしれない。
女って髪が長いから、特に匂いが絡みやすいんですよね。面倒臭い事に。
「その、……此の後、教会に行くにあたり、身を清めるために禊をしようと思いまして」
「ものは言いようだが、此の後は、その匂いの元に行く事は夕刻まで禁じさせてもらおう。
どうせ見張りの者はいるのであろう?」
ああ、やっぱり言われちゃったか。
実際、従事長に調理人の一人をお借りして、燻製窯の見張りと面倒はお願いしてはあるので、問題はないと言えば、問題はないとは思う。
賄賂と言うかお礼に、お屋敷に一桶分のベーコンとソーセージを交換条件に。
ベーコンとソーセージの製法は、例の調理を纏めた本の中にも書いているため、少しずつ広がり始めてはいるらしいけど、流石に一角王猪を使ったベーコンやソーセージは調理長さんも聞いた事がないらしく、私以上に従事長を説得していたのは、ドルク様には秘密。
ええ、匂いの原因として罰せられたら可哀想ですもん。
出来たベーコンとソーセージは此の屋敷の地下にある熟成庫で、熟成保管。
個人で熟成庫を持っている辺り、流石は侯爵家だと言わざるを得ない。
私なんて、何時ものお世話になっているお肉屋さんにお願いして、熟成をしてもらっていると言うのに、まったく羨ましい限りです。
ええ、ライラさんの結婚式用のお肉一式お預けしてあります。
今回のベーコンとかもそうですけど、最高の状態で使いたいですしね。




