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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第三章 〜新米当主編〜
200/977

200.魔物討伐騎士団の洗礼と誓い。





「総員、構えっ!」

 ザッ!

 

 魔物討伐騎士団王都師団、副団長の掛け声と共に、道を挟んで二列縦隊に整列した男女を含む総員三百名を超える屈強な隊員達が、一斉に向かい合って真っ直ぐと己が得物を手にして立つ姿は壮観と言えるだろう。


「我等に牙と爪、そして温かな食事を与えてくださった、ユゥーリィ・ノベル・シンフェリア子爵に対し、我等が感謝の意を捧げんっ!」


 シャッ!ザッ!


 引き抜いた剣を、そして槍を、天高く真っ直ぐにと掲げる。

 陽の光を受けた刀身や槍の矛先が、光を煌めかせ辺りを照らす姿は正に迫力そのもの。

 その剣と槍の先は、やがてゆっくりと手前から順番に、向かい合う相手の方に僅かに傾けられ、剣と槍のトンネルを作り出す。

 まるで、物語の一幕のように。


「さぁ、歩むが良い。

 そして我等が感謝の気持ちを受け取ってくれたまえ」


 そう私の背中を押すのは、シュヴァルト・カル・ガスチーニ侯爵様。

 王都での爵位拝命において、支持してくださった方への御礼行脚の最後の人物。

 その挨拶も、やっと終わったと思ったら、魔導具の事で師団としてお礼を言いたいと言って、連れて来られた先が、この映画の一幕のような儀式。

 剣と槍のトンネルを作ってくださる方々は、それぞれ私に注目してくださっている。

 以前にお会いした方々は、男性騎士も女性騎士も優しげな笑みでもって…、

 そうで無い方は、多分どんな人間が、自分の手にする武具を齎したのだろうかと、好奇に満ちた笑みでもって…。

 ええ、その内に在る想いはどうあれ、感謝の儀だと言うのは分かります。

 でも……。


「……すみません、…その、…正直、…怖いです」

「……はっ?」


 そりゃあ、格好良い光景ですよ。

 映画やゲームの中では憧れるシーンでもありますよ。

 でも、目の前にあるのは、……本物の剣と槍ですよ。

 人や魔物を殺すための本物の武器。

 たとえ、その目的が多くの人の命と生活を、命がけで守るための物だと知ってはいても…。

 三百を超えるギラギラと光る刀身や矛先の下を、生身を晒して歩くなんて、普通に考えたら怖いでしょうが。

 これが映画とかで使われる模造刀や模造槍とかならともかく、全て本物。

 しかも、鉄の盾を簡単に切断したり貫いたりできるトンデモ無い代物。

 それを私みたいなごく普通……、とは流石に言えないかも知れないけど、それでも私みたいな子供にとっては怖いと言える光景。

 ええ、小さな子供ならトラウマ物です。

 足を一歩踏み出す度に、心臓がドキドキしすぎて破裂ものですっ。


「確かに迫力ある光景かも知れんが、この程度、クラーケンなどの災害級の魔物を倒せる君が怖がるなどとは…」

「だって、魔物は問答無用で攻撃できますけど、こっちは攻撃する訳にはいきませんから」


 だいたい考えてもらいたい。

 一切攻撃を封じられた状態で、特に体術に秀でている訳でも、武術に対して専門的な教育を受けて来た訳でもなく、つい数年前まで病気で寝込んでいる毎日だった私が、この剣と槍の林を潜る事がどれだけ怖い事か。

 お忘れかも知れませんが、基本的に私はビビリなんです。

 魔法が使えなければ、なにも出来ない子供でしかない。


「「「「ぶっ」」」」


 ええ、幾ら笑われようと馬鹿にされようと、怖いものは怖いんです。

 ヴィー、ジッタ、今、笑ったのはしっかりと見ましたから、今度、会った時には覚えていてくださいね。私は忘れませんからっ。

 そんな私とシュヴァルト様の遣り取りを見ていた、指示を飛ばしていた副師団長は、やれやれと言った感じで首を横に振った後。


「我等が魂を大地の懐に抱かんっ!」


 ザッ…ザッ!


 予定していなかった事だろうか、今度は指示に対して僅かに乱れながらも、剣を持つ者は地面に真っ直ぐにと突き立て、その柄頭に両手を置く。

 槍を持つ者は体の中心から少しズラした所に、真っ直ぐと地面に突き立て、柄の部分に腕の抱えるようにして構える。

 うん、此れは此れで格好良いし、こう言うのも映画の一幕にあった覚えがある。

 これで人が居なければ、剣と槍が大地に突き刺さる丘に見えたかもしれない。

 そして、きっと何処かの世界で、聖杯を求めて死闘を繰り広げているのだろう。

 と、そんな妄想をしていたせいか、それとも臨戦体制でないせいか、此れならば先程よりも怖くはない。

 ……まぁ、屈強な騎士三百名を超える人間に囲まれる事を除けばだけど、流石にそれくらいならば、我慢できる……かも?


「これならば良いかね?」

「え、ええ」


 再びシュヴァルト様に促されて、今度こそ私は魔物討伐騎士団王都師団員が作る人垣、…いいえ、花道の中に足を自ら進める。

 私のすぐ斜め後ろを、私の歩みに合わせてシュヴァルト様が、ついてくださる事に安堵しながら……。


「ふむ、まさか怖いと言い出すとは思わなくてね」

「普通、大の大人三百人以上に囲まれたら、怖いと思いますけど。

 しかも、それが全員剥き出しの獲物を構えてです。

 深窓の令嬢なら、泣き出してもおかしくないですよ」

「……いや、確かにそう言われたらそうかも知れないが、そこは我等を信じて貰いたかったのだが」


 こうやって話しかけてくださるのは、きっと私を安心させてくれるため。

 だから、こんなたわいないお話に侯爵様御自身が、付き合ってくださっているのだと感じられる。

 ……優しい方なのだと。


「お言葉ですが、シュヴァルト様にとっては誰もが信頼を置ける方達ばかりなのでしょう。

 ですが、私にとっては、ほぼ全員が初対面ですし、ごく一部の人以外は、それでも二度目です。

 流石にそれは厳しいと思いませんか?。

 あと、お忘れかも知れませんが、私はまだ十二の小娘で、一年近く前まで山奥で暮らしていた田舎者です。

 しかも数年前までは、外にいる時間よりベッドの上で過ごしていた時間の方が多かった病弱な人間。

 そんな田舎のひ弱な小娘に、あまり多くを求められても困ります」


 見知った騎士のお姉さんと目があったので、軽く仕草でもって挨拶を交わしながら、私なりの言い訳をシュヴァルト様に御説明をさせて戴きます。

 本来であれば、爵位を拝命した以上は、あの程度の事で怯んではいけないのだと思う。

 ……思うんだけど、幾ら中身がオジサンでも、平和な世界で生きていた以上、こう言う殺伐とした事に関しては、ユゥーリィ自身の年齢と変わらない。

 むしろ病弱で、家の中に引っ込んでいた分、人より臆病なのかも知れないけど、やっぱり怖い物はしょうがないので勘弁してほしい。

 ええ、花道の向こう側に、付添人のドルク様が、私の不甲斐なさに不機嫌な表情でもって待っていてくださっていようとも、まだ其方の方がマシです。


「……そう言えばそうであったな。

 君の有り余る功績の前に、いささか失念しておった」

「がーんっ……」


 シュヴァルト様の言葉に、流石にショックを受ける。

 忘れないでください、そこ大事な事ですからっ!

 特に私の精神力がガシガシと削られる、大切な事ですから。

 だいたい見た目で分かるでしょう。

 私、身長が百四十チョイしか無いんですよ。

 ええ、サバを読んで盛ってますが、それが何か?

 百三十五だろうが百四十五だろうが、小さい事には違いありません。

 そんな小さな女の子が、ぱっと見(女性隊員を除く)で百八十を遥かに超える人達に囲まれたら、普通は視覚的にも危険を覚えますよっ!

 そこ、笑って誤魔化さないでくださいよ。

 

「いや、実は、一部の女性隊員から止めた方が良いと言う意見はあったのだが、大多数の隊員が乗り気であったのでな」


 シュヴァルト様を含む、大多数の脳筋思考が、真面な思考を麻痺させていた訳ですね。

 そして女性隊員のお姉様方、事前に防ごうとしてくださった事は感謝します。

 脳筋集団の前には無力でしたけどね。


「せめて、儂が腕で抱えるか、肩に乗せてやるべきだと言われたが、それも子爵当人に対して失礼な話だとなってな」

「あっ、それ良いですね」


 懐かしい提案に私はなにも考えず答えてしまうけど、その事自体は嫌いでは無い。

 シンフェリア領に居た頃、よくアルフィーお兄様やダルタックお兄様がしてくださっていたし、お父様も偶にしてくれていた。

 普段と違う俯瞰の光景に、小さいながらもワクワクしていた事は今でも覚えている。


「そうか、なら失礼して」

「ひゃっ…、あっ」


 一瞬で抱え上げられ、恐れ多くもシュヴァルト様の左肩の上に乗せられ、その事に焦るよりも其処からの光景に思わず息を飲んでしまう。

 ただでさえ、シュヴァルト様は歳を感じさせない体格の上、背が高い方なため、其処からの光景は、先程までは下から見上げなければいけなかった皆んなの顔が、ハッキリと遠くまで見通せる景色に、小さな頃のように心を弾ませてくれる。

 高い景色も、シュヴァルト様から伝わる温もりと、がっしりとした腕に支えられ、何の恐怖もない。

 大勢の大人に囲まれる恐怖さえ、もう其処にはなかった。


「どうかね?」

「はい、最高です♪」

「そうか、ならば良かった」


 シュヴァルト様は、そう答えて笑みを浮かべながら、後半分残る花道を歩んでくださる。

 私を左肩の上に乗せていようとも、その足取りは何の不安もなく、むしろ私を乗せて歩いているのかと思えるほどしっかりとした様子に。


「あの、私、重くないですか?」

「なに、昔の大剣を背に持つ事を思えば、これくらいなど何の負担もない。

 失礼な話、むしろ君はもっと食べるべきだと感じるがな」


 うん、女性に対して体重の話は失礼だと思うけど、シュヴァルト様が言うと何の不快感もない。むしろ心からの心配ゆえの忠告だと感じられる。

 そしてそんな話になるのも、仕方ないかも知れない。

 私は十二歳にしては体格が小さく、身長の割には体重も軽い。

 しかも食べる量まで少ないとなれば、心配されて当然かも知れない。


「少しずつですが、食べる量は増えてはいるんですが……」

「確かに、その体格で無理をしては、逆に身体を壊しかねないか。

 ウチの若い連中と同じと言う訳にもいかんか」


 新人隊員は、まず基礎体力と体作りのため、嘘と言う程のご飯の量を食べさせられるらしい。

 もともと若くて健康な身体だからこそ出来る荒技だけど、身体の弱い私がやった日には、間違いなくお腹を壊して逆に寝込んでしまい、筋肉と体力と共に体重を落とす事になるのは目に見えている。

 その分と言うのもおかしいですけど、私の場合は魔力と魔力容量は順調に成長しており、特に魔力容量は、依然天井知らずに成長し続けている。

 そしてその恩恵を最大限に受けているのが収納の魔法で、その収納力は魔力容量に比例するらしい。

 先日の冤罪騒ぎの時に、無罪の証明として収納の魔法から取り出したクラーケン。

 体長がサッカーコート程もある巨大さに驚く中、私に濡れ衣を着せた張本人の一人であるキースレッド魔導士ギルド長にどんな魔力をしているんだ、この化け物めっと逆ギレされた際に、聞いてみたら、そういう事だったらしい。

 ちなみにキースレッド魔導士ギルド長、陛下の命令で一定任期を監視付きで務める事が決定している。

 悪い事もできず、ギルドとして真っ当な仕事のみで、国からの借金を返済し続けなければいけないという、生かさず殺さず状態になるとの事。

 欠片も同情は湧かないので、頑張って死なない程度に真っ当に生きてほしい。

 と、そんな事はどうでも良いので、せっかくシュヴァルト様といるのだから、その時間を有効に使わなければ……。


「以前に、お話ししていた雨や水を弾く布ですが、何とかなりそうです」

「本当かね」

「ええ、あと水問題も何とかなる予定なのですが、何方も数年の月日は必要となります」

「金と人が足りぬのであれば、此方で何とかするが」

「いいえ、単純に時間が必要なんです。

 解決しなければならない問題がまだ数多くあり。

 そのための時間が必要で、資金と人手がいる段階になれば、ドルク様を始めシュヴァルト様にも御相談したいと思いますので、その時はどうかお力添えをお願いいたします」


 今すぐに金と人で解決するような物だとしても問題はあるし、そうなれば間違いなく私は国の財務局と兵站局から怨嗟の言葉を、毎日のように吐かれるに違いない。

 それに、時間が掛かるのも本当だし、解決しなければいけない問題が多いのも本当の事。


「此方から頼んだ依頼故に気にする事はない。

 儂等だけで金と人が足りなければ、他の物にも声を掛けるだけの事。

 利益は減るが、その程度の些事に拘るような物ではない。

 水もとなれば、より多くの民が関わる問題の話だ」


 ええ、より多くの人達が望む物だからこそ、解決しなければならない問題も多く、そのハードルも高いんです。

 そして、シュヴァルト様、さすがは貴族です。

 利益を得る事を当然としていながらも、それに拘っていない所がダンディーです。

 より多くの儲けよりも、優先すべき事があるとする姿勢は、非常に好感が持てます。

 お父様と同じ考えを持つ方、物凄く心強いです。

 だから私も心に決める。

 シュヴァルト様の日焼けした白髪まじりの髪に、そっと口づけをし。


「何年掛かろうとも、多くの人達のために、必ず製品化に成功させる事を、此処に誓わせていただきます」

「ふむ、女神の祝福とは光栄な事だ。

 ならばその誓い、シュヴァルト・カル・ガスチーニが確かに承った。

 そして儂も此処に誓おう。

 力が必要な時は遠慮なく頼れ、儂に出来る事は幾らでも力になるとな」

「人民の盾たる魔物討伐騎士団長に、そう言って戴けるなど身に余る光栄ですわ」





ギルド長の名前を修正

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― 新着の感想 ―
ヴィーくん嫉妬するだろうね団長に( *´艸`)(笑)
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