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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第三章 〜新米当主編〜
198/977

198.ステルス機能標準装備の貴族を目指したいんですが。

今回も短めですが......_φ( ̄ー ̄ )





「この度は、爵位を戴くにあたり、アーカイブ様を始め多くの方に御尽力戴いた事、お礼を申し上げると共に、感謝の気持ちを申し上げに参りました」

「ふむ、初めて会った時は、まさかこのような事にはなるとは思わなかったが、爵位に恥じぬよう努めるがよい」

「はい、未熟の身なれど、精一杯やらせて戴きます」


 予想すらしなかった爵位を戴くと言う出来事の後、とっととリズドの街に帰れるかと思いきや、そう言う訳にはいかなかった。

 新設の貴族の場合、関係各所への挨拶回りとかがあるらしいけど、先ずは爵位を戴くにあたり後押ししてくださった方への御礼参り。

 例え、欠片も欲しいとは思わない爵位であっても、こう言うのは必要な事。

 ええ、前世でもそうだけど、こう言う御礼回りは大切ですからね。

 全ての方々が王都に居る訳ではないので、居る方だけとはなるけど、説明を聞いたらしないわけ訳にはいかない。

 王都に居を構えていない方もいるので、そう言う方の所には、城下の街屋敷に顔だけ出して、挨拶に伺いましたよ~と言う誠意を示しておいて、お礼状をもって当座の挨拶とし、お会いできる機会があれば、またその時に改めてと言う流れになるらしい。

 そんな訳で、王都に来て五日目、最初の叙爵の推薦をしたジルドニア様こと、アーカイブ卿が時間が取れたという事で挨拶に伺ったのだけど、これまた面倒な事に、叙爵の時に顔を合わせたから良いじゃないかと言う事は通用せず、日を改めて挨拶に伺うという事が大切らしい。

 要は、なにかのついで(・・・)と言う事が失礼にあたるらしく、態々そのために時間を取り、足を運ぶ事が大切なのだとか。

 ……本当、こういう所が貴族って面倒臭いと思う。


「港で会った時は、まさかこのような事になるとは夢にも思わなかったが、叙爵の件で推薦した件については一つだけ言っておこう。

 儂が推薦をしたのは、命を救われたからでも、魔物を倒したからでもない。

 そんな物は結果論でしかないからな。

 あの時のお主の決意と行動こそ、貴族たるに相応しいと思ったからだ。

 貴族たる者の真意を理解し、行動し、結果に繋ぐだけの力と運を持っているからこその推薦だ」


 結果は大事だけど、それだけでは駄目だという事だけど、……私としては、あの時は其処まで深く考えていた訳ではない。

 ただ、守りたいモノを守りたかっただけ、そして生き残りたかっただけに過ぎないんだけど。

 たぶん、それでも忘れるなと言いたいのかもしれない。


「心に留めておきます」

「ならばいい。

 あと、此れからはジルと呼べ、多少なりともお主を守る盾となろうからな。

 偶然とはいえ、一度はお主に命を預けた身だ。これくらいはさせて貰おう」

「ジル様、有りがたき御配慮、感謝いたします」


 宰相閣下であるジル様は、忙しいため堅苦しい挨拶は此れで終わりだと言ってくれた後、何やら一通の書状を私に差し出し。


「国からの発注書だ。

 先日の魔導具を二十組、雪が降る前に納めよ」

「…はっ?」


 魔導具:遠き想いを伝えし鏡台(無線FAX)


 いきなり、約束した年間最大発注個数の申し込みに、つい間抜けな声を上げてしまう。

 見本の魔導具をお見せしお渡ししたのは、一昨日前ですよ。

 碌に試験もせずに、そんなにいきなり大量発注していいんですか?

 一組あたり、金板貨三枚(さんぜんまん)もする暴利価格なのに、いいんですか?

 ……空間移動持ちの王宮魔導士に交代で、主要港街や国境沿いの砦や街に飛んでもらって実験済みだと。

 価格は国が決めた事だから私が気にする必要はなく、むしろこれ以上安いと機密保持的な意味で軽く見られる危険性の方が高くなるから、情報を逸早く得られる重要性とその秘匿必要性を考えれば、本当は倍から五倍くらいが望ましいらしい。

 だけど、財務局長が首を縦に振らないから、仕方無くこの値段に落ち着いたと。


 そして首を縦に振らなかった主な理由が、私が…と言うか、ドルク様の商会が売りに出している大量生産品の魔導具が原因で、特別高くはないけど安くもない魔導具の上、必要とされる数と要望されている数の桁が違うので、それが予算を圧迫しているらしい。

 死傷者や退役者が減るため見舞金や傷病者年金の分、最終的には安くはなるはずだけど、それが目に見えるようになるまでには、まだ数年は必要なため、今は国庫を圧迫するだけの存在でしかないとか。


「ぇ…と、すみません」


 ええ、つい謝ってしまいます。

 だってね、私が作り出した魔導具が発端で、国の財政を圧迫しているなんて言われたら、謝るしかない訳で。

 だけど、そんな私に対してジル様は、眉を顰め……。


「必要もなく謝罪するなど相手に付け込まれる隙だ。

 自分が本当に悪くない限りは、謝罪の言葉を口にすべきではない。

 今の話も、それほどお主が作り出した物が、渇望されている事だと受け取るべきだ。

 付け込まれれば、お主と肩と背に背負った者達にまで被害が及ぶと思え。

 お主は、もはや庶民でも、ただの貴族令嬢でもない。貴族の当主だと自覚すべきだ」


 そう、貴族としての心得を私に叩き付けてくださる。

 私の甘い考えを叱り飛ばしてくれる。

 そして、そのための話の流れでもあったのだと、其処で初めて理解する。

 魔導具の依頼すらも、最初から私を鍛えるための材料の一つとして。

 だから私はそれに応えるように、真っ直ぐとジル様を見据え、うっすらと微笑みを浮かべたまま、僅かに頭を下げる。

 下手に礼の言葉を口にして安易に頭を下げれば、借りを作ったと認めた事になると。

 その借りは必ず何処かで返さなければならなくなるものになると。

 ならば、其処までにならないための言動をしないといけない。

 今、この場は、個人の場ではなく、アーカイブ公爵家とコンフォード侯爵家、そしてシンフェリア子爵家としての立場を求められている公の場なのだから。

 そんな私の振る舞いに、ジル様は満足そうに頷いてくださる。

 どうやら、これで正解だったようだ。


「では、此処からは個人の場としよう」


 ジル様のその言葉に、深く息を吐いてしまう。

 そもそも、その前の『挨拶は此れで終わり』とおっしゃって下さったのは、あくまで御礼回りの挨拶の事。

 よくよく思い返してみれば、その後の会話も互いの立場としての会話だった。

 なのにその事にも気が付かずに、個人の場だと勘違いしていた私が悪い。


「お主は、貴族令嬢としての教育は受けてはいるようだが、貴族の当主としての教育は受けていない。

 立場が違えば、当然、考え方や求められるものが変わってくる。

 王都に居を構えないのであれば、それほど拘るべき物ではないが、最低限の事は学んでおけ。

 コンフォードよ、その辺りは任せたぞ」

「もとよりそのつもりだ。

 幸いな事に、秋の祭りを機に当主の座を息子に譲るつもりだったからな、それだけの時間はあるし、貴婦人としての作法も妻に任せるつもりだ」


 なにやら、不穏当な言葉が聞こえてくる。

 え? また、淑女教育ですか?

 家を出た事で、やっと解放されたのに、またもやあの日々が返ってくるんですか?

 ……十日毎くらいに二刻ずつ交代でやるから時間を空けとけと。

 私は女だから、覚える事が倍あって大変だなぁって、思いっきり他人事のように仰られても。

 ……実際に、他人事だから気にならんって、…そんな理不尽な。


「あの娘も、道連れが出来たと喜ぶであろう」

「……確かに」


 私の従者になるジュリは、現在、ドルク様の従者であるホプキンスに従者としての心得や知識や振る舞いを教わっており、それはリズドの街に戻ってからも当分の間は彼の下で、ほぼ毎日、数刻ずつ学ぶ事になるらしい。

 覚える事は私の数倍はあるらしく、初日の昨日は部屋に戻った後は、もうぐったりとしていた。

 最近は、毎日のように読み直しているある書物の新刊すら、荷物の中から取り出す元気すらなくなっていたから余程疲れたのだろう。

 仕方ないので、筋肉痛防止も兼ねて治癒魔法をゆっくりと掛けて、興奮した神経と、詰め込まれた知識でパンクしそうなジュリの脳味噌が安らぐように、お香も焚いておこう。

 今度、ジュリが一番好きな匂いを探して、専用のお香を作ろうか?

 ……魔力循環の鍛錬で、しっかりと私の匂いに慣れたから、それで良いって。

 私はお香代わりじゃないですから。

 はぁ……、一緒に寝てあげるくらいは良いですけど、真面目な話、安心できる好きな匂いを探しておいてくださいね。

 本気で疲れているらしく、起きたまま寝言を言うジュリを横目に、指導教官役のホプキンスの言葉を思い出す。

 なんでも子爵令嬢としての教育をきちんと受けていた以外にも、魔物討伐騎士団を目指していただけあって、基本はできていて筋は良いとのこと。

 魔物討伐する事を思えば、死んだり大怪我をしない分、気楽なはずだと言うのだけど、私からしたら、当主や貴婦人教育を受けるくらいなら、人災級や戦災級を相手にしている方が気楽だと言ったら……。


『『『『『一般常識の話だ(です)』』』』』


 と、何故か声を揃えて反論されてしまった。

 ……解せぬ。






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