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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第三章 〜新米当主編〜
191/977

191.老魔導士、いやいやながら大出世する。





 翌日、城からの連絡の通りの時間帯に登城するのだけど、今日は何故かジュリは招かれていない。

 その事から、やっぱり私の都合に巻き込まれただけなのだなぁと実感しながら、待合室でジュリへの申し訳なさに溜息を吐きながら、改めて室内に視線をやる。

 本日の謁見メンバーは、ドルク様とコッフェルさん、そして私で、ドルク様の従者であるホプキンス様は、その役目をコッフェルさんに託してお留守番、きっと何か仕事を振られたのだろうと思う。


「今日は、黒地に赤のドレスか、派手ではあるが嬢ちゃんによく似合っているな」


 それはどうもと返しながら、正直、既製品といえども、豪華なドレスに居心地が悪い思いをしている私にとって、お世辞など背中をむず痒くするだけの代物でしかない。

 昨日のもそうだけど、おそらくコレも、お持ち帰りさせられると思うと溜息が出る。

 着ている物を剥ぎ取られて、徹底的に磨かれて押し付けのドレスを着せられるのは、陛下への謁見に失礼の無い装いにと言う表向きの理由はともかくとして、その裏にある意図を考えると、ドレスが慰謝料代わりと考えるのが妥当なのだろうけど。

 はっきり言って、こんなドレス(もの)をお土産に貰っても、使う機会がないので邪魔以外の何者でも無いと言うのが本音。

 売れば、其れなりの金額にはなるだろうけど、国から下賜された物を直ぐ様売り払うのは、色々と要らぬ問題を引き起こしかねない上に、熱りが冷めた頃に売ろうとしても、その頃には型落ち品として価格が下がっているので、手間や気を使う事を考えるとあまり嬉しく無い。

 まぁ、今回は収納の魔法の魔導具は、取り上げられずに私の左腕に収まったままだから、前回よりマシになったと言えばマシになったと言えるのだけど。


「そう言うコッフェルさんは、今日も普通にローブなんですね」

「まぁ俺くらいになると、信頼もあるからな。

 嬢ちゃんも、次くらいには無くなるんじゃねえか?

 臣下になった訳だしな」


 元王宮魔導士であるコッフェルさんは流石と言うところだけど、一応、ああ言う事が免除されても、時折抜き打ちで行われるらしいので、不心得な考えは起こさないようにと言う事なのだろう。

 ……予算削減が一番の名目なんだろうね。


「そう言う事は、ドルク様もコッフェルさんも、洗礼を浴びられたんですか?」

「儂は、侯爵だからな、流石にそう言う事は免除されている」


 代々の公爵家と侯爵家は免除されているらしい。伯爵家も古い血筋は免除されているらしいけど、それでも抜き打ちはあるらしい。

 コッフェルさんは、私同様と。


「つまり、若くて綺麗なお姉様方に全身揉み洗いされて、ニヤニヤしていたと?」

「バカコケッ、そんな良い思いするなら、毎日でも受けてやるわいっ」


 うん、どうやら男性用は、女性用と内容が違ったらしい。

 曰く、着替えには侍女が付くものの、身体を拭くにあたっては、数人の男性もしくは歳の召した侍女に監視の元で身を清める事になるとか。

 その代わり、バスローブ姿でマッサージと言う名の検査があるみたいだけど。

 言われてみればそうだよね。

 王城で働く侍女や女中は基本的に貴族の令嬢達だから、そんな破廉恥な真似なんてさせられないよね。


「それにしたって、対応に差を感じますよね」

「良いじゃねえか女として磨かれるんだし、そう言うもんだと思っておけ」

「つまり、コッフェルさんは、年若い少年達に全身を揉まれた挙句に、お尻の穴を触られても大丈夫と?」

「……嫌な物想像させるんじゃねえってんだ。

 あと、若い娘が尻の穴なんて言葉を口にするな」


 コッフェルさんだけでなくドルク様も、思いっきりしかめっ面で、お尻をもぞもぞもさせた事から、お二人にとっても、さぞや嫌な想像だったのだろう。

 その様子は、心のメモ帳にメモをさせて貰うとして、私の方もあまり気持ちの良い話ではない。

 事務的な手触りとはいえ、まぁ…、その…、布ではなく指先で触れられると、色々とぞわぞわとするし、変な声が出そうになるので嫌なんですよね。

 ええ、男性の目から見たら羨ましい光景に見えたとしても、ちょっとアレは慣れそうにない。

 だいたい、使われている洗剤とかは、私が自作した物の方が、よっぽど物が良いし、化粧品に関しては私の肌の色に合う物がほぼ無いため中途半端なもの、私が子供だと言う事もあって、いい加減。

 これならば一層の事、無い方が良いと思っているくらい。


「コッフェルさん、女性に幻想を持ちすぎ。

 女性だけの会話だと、もっと凄いですよ」


 うるせえ、幻想ぐらい持たせろとか言っているけど、本当の事なんだから仕方がない。

 まぁあの会話を男性交じりでやられたら、私も流石に引くけど、今くらいならばありだと思いますよ。

 菊とか蕾とか、そっちの言葉を使う方が逆に卑猥だと思うし。

 ……耳年増って、まぁその通りだから否定はしませんけど、そう言う事ばかり言っているからライラさんに嫌われるんですよ。


「……ぐっ」


 そんな馬鹿な事を話していると、衛士の方が呼びに来てくださるのだけど……、通されたのは何故か執務室。

 いいのかなぁ? 下手すれば国の重要な書類が転がっているような部屋に、私みたいな人間が入っても。

 お決まりのカーテシーで挨拶をした所に……。


「今日は堅苦しいの無しでいいよ。

 此処なら誰も咎める人間はいないからね。

 慣れない敬語も気にしなくていい、その方が二人には話しやすいだろう」


 二人と言うのは、間違いなく私とコッフェルさんの事なんだろうけど…、陛下、昨日とは違い、軽薄な笑みを浮かべながら言ってはくれるのだけど、戸惑う私にジルドニア様が何時かの船の時の用で構わないと言ってくれるので、少しだけ肩の力を抜く。


「取り敢えず、面倒な仕事を片付けてしまおうか。ジル」

「お二人とも、此方へ署名を、三枚綴りになっていますので、三枚ともするように」


 まぁ、叙爵に当たっての手続きがまだ残っていたのかと、渡されたペンを持ち、書類に書かれた文章を見た所で固まる。

 それは隣のコッフェルさんも同じようで。


「ほら、とっとと書いてくれないと、話が先に進まないからさ」

「「いやいやいや、無理だから」」


 ええ、書かれた内容は違えど、思いはコッフェルさんと同じ。

 なんなんですか、この書類の内容は!?

 有り得無さすぎなんですけどっ!

 軽薄な笑みを浮かべ続ける陛下に、これ以上何か言っても無理と早々に悟った私は、助けを求めるようにジルドニアさんに顔を向ける。

 大きな溜息を吐いたジルドニア様は……。


「ですから、説明をされてからの方が良いと申したはずですが」

「いやぁ~、何も考えずに署名してくれたら、手間が省けたと思ったんだけどね。

 爺さんの方はともかく、お嬢さんの方まで気づかれるだなんて、幼い外見の割りにしっかりしているねぇ。あははははっ」


 いや笑い事じゃないですから。

 コッフェルさんの方の書類には『魔導具師ギルドの創設と初代ギルド長の任命』と書かれている。


「爺さんの方には、先代の時から併せて過去に三度、叙爵を断られているから、今更だろ?

 なら代わりの名誉として、新たなギルド長に収まって貰おうと思ってね。

 今回の騒動のそもそもの原因は、一部の魔導士達による魔導具師への差別からくるものだから、その禍根を取り払ってしまえばいいと考えた訳さ」


 魔導具師は、基本的に力のない魔導士が成るもの故に、その魔導具師が力ある魔導士より頼りにされ目立つのは腹立たしい、そんな馬鹿な考えがあるから起こり得た事。

 そして今の魔導士ギルドには、そんな馬鹿な考えが蔓延っているし、魔導具師を守るシステムそのものが無い。

 だからギルドを別けてしまえと言う考えは、分からない事は無いのだけど……。


「お言葉ですが陛下、俺、いえ、私はもう若くなく、そのような大仕事はとても時間が足りません(楽隠居しているんだから、やりたかねえよ)」


 うん、なにかコッフェルさんの言葉に、副音声が聞こえた気がするけど、たぶん聞き違いではないと思う。

 だって、私を睨んでますからね。


 『テメエが、我が儘を言うから俺まで巻き込まれたじゃねえか』


 ええ、心の声が溢れんばかりに。

 私としてはあの時は、あれが最適な手だったのだから仕方がない。

 そもそも、人の意思に関係なく叙爵させようとしたコッフェルさんに、逆に巻き込まれたからって文句を言う資格はないと思っている。


「そんな嫌そうな顔をしなくても、あくまでギルドが本格稼働するための繋ぎだよ。

 住居を移す必要もないし、今、君がやっている魔導具の量産のために行っている魔導具師への指導の他に、魔導具師を育てるための体制を考えてくれれば良いだけだ。

 警備や機密保持、ややこしい書類仕事は他の者にやらせるつもりだから、まぁ、名誉職と思って名前を置いてくれればいいさ、どのみち数年で作れるような組織ではないからね。

 あと、断ってくれても良いけど、そうなると、今、生産に協力してくれる魔導具師達が何れ困る事になると思うんだよね。

 コンフォードの下とはいえ、作っている品物は国家戦略に関わる物ばかりだから、国の認めるギルドと、高位の貴族の監視の下と言う傘は、意外に必要な事なんだよ。

 余計な妬みや嫉妬を躱す為にはね」


 ……絶対、それだけでは済まないだろう事柄なのに白々しく大嘘を言う。

 でも、陛下の言う事はある意味合ってはいる。

 今は、ドルク様の商会が生産管理している物を、国や各領主に売り込んでいるのだけど、それはあくまで互いの良心と信頼の下で商売として成り立っている。

 糧食箱一つ、滑り止め付き靴下一足にしても軍事力には違いないし、貴族の派閥が存在する以上、その売り込み先には偏りが発生してしまう。

 その辺りの采配を国が管理するために、公平な立場を取るギルドが間に入った上で、その生産に必要な魔導具師を保護し、教育する組織が必要。

 そして、その土台として、今、コッフェルさんがやっている事をベースにしようと言う国家戦略。

 ……つまり、断ってもいいよなんて言ってはいるけど、勅令と言っても良い内容。

 ええ、断れば反逆の意図在りと捉られかねないし、それを理由に他貴族から攻撃の材料になりかねない。

 それを理解したのか、コッフェルさんは苦々しい顔で、書類に署名をし終えた所で。


「今夜は嬢ちゃんの酒と飯で自棄酒だ。

 呑まなきゃ、やっとれるか」


 ……いえ、それくらいは作ってあげますけど、人のせいにするのは止めて欲しい。

 絶対、私の事なんて、後付けの理由でしかないでしょうし、ええ、きっと虎視眈々と口実を狙っていたでしょうから。





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