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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第三章 〜新米当主編〜
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190.新たな出会いは、……変質者?





---------- 第三章 〜新米当主編〜 始り ----------




「ふわぁ………」


 緊張以上に別の意味で疲れた、謁見と言うか叙爵式。


『少し話をしたい所だが、時間が押した故に、明日にあらためて時間を取ろう』


 叙爵式そのものはあっさり終わった物の、最後にそんな爆弾を落としてゆかれた。

 私としては、恐れ多いので二度とお会いしたくないんですが……、陛下の命に従うのが、臣下の務めなので仕方がない。

 ……ええ、好きで臣下でなった訳ではないですけどね。

 そんな心の中の重い空気を、身体の中に溜まった物と一緒に外に出して気持ちを切り替え、個室から出ると、ちょうどジュリも用を終えたのか手を洗っている所。

 その横で私も手を洗いながら。


「疲れましたわ」

「本当だよね、なんで皆んなして人を貴族にしたがるのか、いい迷惑ですよ」

「そんな事を言うのは貴女ぐらいですわよ。シンフェリア男爵」

「……勘弁して」

「ふふっ、では、ユゥーリィ女男爵様」

「それ一緒だからっ! と言うか女男爵なんて語呂が悪いよ」


 ジュリが私を揶揄(からか)いながら言ったように、私が拝命したのはお父様と同じ男爵位。

 庶民が叙爵した場合に拝命する一代限りの名誉爵位である準男爵ではなく、れっきとした爵位である男爵位。

 その理由は、とうに抹消されていると思っていた私の貴族籍が、実はシンフェリアの家籍からのみ離籍処理され、貴族籍はそのままと言う、普通はあり得ない処理が行われていた事と、国の重鎮である宰相閣下の命の重さ故の事らしい。


「それにしてもユゥーリィさんが、シンフェリアの人間だったなんて、どうりで市場に出回らないような大きな光石を多く持っている訳ですわね」

「ごめんね、家名を使う訳にはいかなかったから。

 それにしてもジュリ、よく知っているわね、シンフェリアなんて辺境の男爵家の名前なんて」


 私が言うのもなんだけど、シンフェリア領は辺境も辺境。

 王都にしろ、リズドの街にしろ、シンフェリア領から遠く離れている事には違いない訳で、知っている事の方が驚きである。

 なにせ、学院の社会学で、奇習が残る土地として紹介されるぐらいですからね。

 無論、其方は出鱈目な内容だったけど。


「王都の大聖堂の大規模な改修工事、発端はユゥーリィさんの御実家だと噂されていますし、直接な取引こそないものの、多くの商会が光石を用いた化粧品を取り扱っていると先生も仰ってましたから」


 どうやら彼女の情報源は、王都にいる彼女の魔法の先生らしい。

 内容が微妙に中途半端だけど、情報が基本的に手紙か人伝であるこの世界では、そんな物なのだろう。

 それにしてもお父様、手広く儲けているようで何よりです。

 あまり遣り過ぎないと良いなと思いつつ、ジュリの褒賞に私は申し訳ないと思う。

 なにせ今回の事で私が得たのは、男爵位の他、クラーケンの代金で|白金貨で二千二百枚。

 それに対して、ジュリが手にしたのは|金板貨一枚と栄誉。

 前世換算で私が二千二百億に対して、ジュリは一千万でしかなく、あまりにも手にした金額が違いすぎる。


「ねぇジュリ、分前を受け取ってくれないの?」

「あの戦いにおいて、私は貴女に付いて行っただけ、それは私が一番分かっていますわ。

 操船をしたと言っても、貴女なら一人でも出来たのは貴女の実力からして明らか。

 そもそも、私にはこの褒賞だけでも不相応と思っている程です。

 あと、これ以上のこの件に関して何か言うのであれば、絶交する事も考えますわよ」


 ふぅ……、此処まで言われたら私も引くしかない。

 きっとジュリにとって、譲れない一線なのだと思う。

 なら、私はそれを尊重するべきなので、諦めるしかない。

 何か、別の形で彼女の助けに応じないと。


「それにしても、今回は船の時とは別の意味で寿命が縮む思いでしたわ」

「私もあの件で冤罪を受けるとは、まさか思わなかったからね」


 とにかく、今回は色々と想定外の事が起きすぎたと思う。

 改めて重い溜め息を吐いていると、何故かジュリが呆れた眼差しで……。


「其方もですけど、何方かと言うとユゥーリィさんが、陛下に口答えをした方が驚きでしたわよ」

「別に口答えという訳じゃなく、私の思いを言っただけ」


 口答えなんて恐れ多い事をする度胸はありません。

 せいぜいが意見、…もとい、思いを言って流れを誘導する程度です。

 ……結果的に無駄な抵抗だったけどね。


「十分過ぎるほど、良い度胸をしていると思いますわよ」

「心臓に毛が生えているかもね」

「何ですの、それは?」


 ああ、つい前世の言い回しが。

 とりあえず、無意味に度胸があったり、神経が図太い人の事を指す言葉と誤魔化しておく。


「……まさにユゥーリィさんのために在るような言葉ですわね。

 少しは、その無駄に生えた心臓の毛を、下に回したらどうですの」

「酷っ! というかジュリ、下品っ。人が気にしている事をっ」

「そう思うのでしたら、少しは自重してくださいっ。

 毎回、毎回、貴女の無茶苦茶に、私がどれだけ心配しているか」


 …ゔっ、そこで涙目になるのは狡いと思いますよ。

 いえ、本気で心配してくれていたというのは、分かりましたけど、それをされると私としては何も言えなくなる訳で……。

 しかも、今回の件も含めて、多少なりともジュリに心配かけたり巻き込んだりしているのは事実だから、尚更の事、言えなくなる。

 はいはい、私が悪かったから、もう少し周りに気をつけるからね。

 ……あやすような言い方が気に入らないって、そこは見逃してください。

 ええ、言いたい事は、夜にでもゆっくりと聞きますから。

 そうですね、一緒のお布団で、寝ながらでも聞きますから。

 今までのもの全部、言ってくださって良いですよ。

 私も直せるものは努力しますからね。

 やっぱり、今回の謁見はそれなりに緊張したのだろう。

 緊張の糸が切れたジュリを落ち着くのを待ってから、レストルームを出ると。


「やっと仲良しゴッコは終わったか」

「……サリュード様」


 緑髪の少年と、その従者らしい金髪の少年が緑髪の少年を嗜めながら、待ち受けていたのだけど。

 隣にいたジュリが思わず息を吸うほど、二人とも美少年ではあるけど、生憎と中身が男の私には、モデルでも出来そうと思う程度で、何ら効果がない。

 なんにしろ少年の第一声が気に食わなったので、ジュリの手を取って、少年達と反対の方向に歩こうとする私達を、まさかスルーされるとは思わなかったのだろう、少し慌てたように。


「待て待て、無視するだなんて、少し酷くないかね?」

「いえいえ、無視だなんてとんでもない、いない者として扱っただけです。

 あと、気安く人の肩を掴まないでくださいますか。

 女性に対してこのような扱い、育ちが知れていますわよ」


 我ながら、何処かの悪役令嬢並みの高飛車な台詞だけど、失礼全開の目の前の少年には欠片も心が痛まない。

 無礼には無礼で結構。

 従者らしい金髪君が、呆れ顔をして、その顔に手を当てているあたり、彼から見ても緑髪君の行動は、非があるようなので、尚のこと心は痛まない。

 それよりも非があると思うなら、この人の暴走を止めてください。

 全く、何処かの誰かさん達と出会った頃を思い出す。

 まぁ同じ髪の色はしていても、ヴィーの失礼具合は、此処まで酷くなかったけどね。

 ……それにしても、金色の瞳か。

 随分と変わった瞳の色をしていると思いつつも、此処は異世界だし有り得ない話ではない。

 取り敢えず肩から手を離してくれたので、嫌ではあるけど話だけは聞こうと思ったので。


「それで、何か御用で?

 私としては何も話す事はありませんけど」

「初対面の人間には随分と冷たいんだね。

 聞いていた性格と随分と違うから、此方としては戸惑うばかりなんだけど」


 ……戸惑うのは此方も同じ。

 それにしても聞いていた性格?

 髪の色も同じだし、もしかしてヴィーの関係者なのかな?


「まぁ君に話す事はなくても、俺としては君に興味があってね」


 そう考えれば、この少年の失礼具合にも納得か。

 もしヴィーと同じような環境で育っていたなら、きっと、この人は本気で自分の行動が何を意味しているのか分かっていないのだろう。

 まぁ幸いにも、従者君は分かっているみたいなので、其方から攻めるのも手か。


「失礼、其方の従者の方、少し御聞かせて戴きたいのですが、例えば一般的に女性用のレストルームの前で待ち伏せしているだけでなく、聞き耳を立てている男性を、普通はどのように思われます?

 ましてや、そのレストルームから出てきた女性に対して、君に興味があると強引に声を掛ける。

 挙句に、自分で言うのも何ですが、私のような幼き容姿の者に対してですよ。

 ええ、例え話ですが」


 直接ではなく、本来はいないものとして使う従者に質問するという形で、少年の失礼な所を一つ一つあげる。

 いくら私が前世では男性でも、今世では一応は女性ではあるわけだし、女性用のレストルームの前で彼が行った事が、如何に女性に対して失礼な事くらいかは、前世今世に関係なく共通な事柄。

 しかも少年はヴィーより少し上ぐらいに見えるから、多分、十六~八。

 それに対して成長の悪い私は、見た目的には十、か十一ぐらい。

 つまり、前世で言うならば、小学生のぐらいの女の子がトイレに入っているのを、高校生ぐらいの赤の他人の少年が、聞き耳を立てて待ち伏せした挙句に、興味があると強引に声を掛ける光景。

 ええ、例え前世でなくても事案ものです。

 だいたい、此方も悪いけど話していた内容が内容な所がある。

 それを聞いていたような事を、相手に知らせるなど、なおさら有り得ないマナー違反。

 幾ら私の中身が男でも、女としての羞恥心ぐらいは持ち合わせているのだから、怒りもします。


「そうですね、そのような光景を見たのなら、衛兵に通報するのが普通でしょうね」

「なっ、お前っ!?」

「ですよねぇ、側から見たら、変質者そのものですものね」

「…へ、…変…質…者…?」

「レストルームの前で待ち伏せもどうかと思いますが、聞き耳を立てている時点でどうかと思います」

「話は変わりますが、幼女趣味の変態ってどう思われます?

 私としては、チョッキンで良いと思うんですけど」

「それは過激な。

 ですが矯正不可能な性癖であるならば、私的にはそれもしかたなき事のように思いますね」

「……待て、何の話を」

「「とある変質者の話です」」


 最後は従者さんと息が合いましたが、とりあえず緑髪の少年、私と従者君の話にショックを受けている所を見ると、やはり自分の行動が見えていなかっただけで、常識そのものはあった模様。

 ……それが自分の行動と繋がらなかっただけでね。

 そう言う意味では、ヴィーとこの少年は本当に似ているのだろう。

 仕方ない、ヴィーの関係者なら、このままと言うのもヴィーに悪いので……、


「明日、また城に用がありますので、今日の所はこの辺りで失礼いたします」

「そうですか、では運が良ければ、またお会いできるかも知れませんね。

 主人には、またそのように伝えておきます」

「ちょ、お前、何を勝手に」


 まぁどこの誰かは知らないけど、ヴィーの友人という手前、機会があったらあらためてと言う事にした。

 逆に言えば、次にまた失礼な態度なら知らないという事だけど、よほどの馬鹿でない限り、今日みたいな事はないと思う。


「さぁ、サリュード様、少しばかしお部屋にて話をしましょう。

 ああ、先程のサリュード様の言動について、フィニシア様の意見を聞くのも良いですね」

「待てっ、妹は関係なかろう」

「いえいえ、彼女と同年代の女性の率直な意見というのは、大変に貴重だと私には思えますね。

 サリュード様は、少し女性の冷たい眼差しを受けてみるべきかと、今回の件で私も反省いたしました」


 賑やかに緑髪の少年の襟首を掴んで、どんどんと廊下を引きずって行く姿に、多分そんな心配は無用だと確信めいた事を感じながらも、それができるなら、最初からやって欲しかったと思う。

 そうすれば、此方は不快な思いをしなくても済んだし、重い溜め息を吐かずに済んだのにと。





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