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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
189/977

189.陛下の得意技は脅迫です。





 証拠物件の見聞が終わり、再び謁見の間(小)に戻ってきた陛下と私達。

 リンクラートさんもキースレッドさんも蒼い顔をしているけど、私は欠片も気にしない。

 ええ、人を無実の罪で投獄しようとした人間を、気に掛ける程、私の心は広くありません。


「さて、ユゥーリィの無実が分かった所で、アーカイブよ。

 先程の魔物、クラーケンの相場は如何程になる?」

「あれほどの大きさのクラーケン、しかも損傷も少ない物となりますと、概算でしか申せませんが」

「構わぬ」

「魔石が白金貨(おく)で千枚はくだらないかと。

 吸盤、皮膜、骨、肝等は素材になりますので、同じく白金貨で五十枚程。

 身は単価としては一番安くはありますが、あれほどの量になりますので、同じく白金貨で五十枚程にはなりましょう」


 先程知ったのだけど、ジルドニアさん、ジルドニア・ラル・アーカイブ公爵様で、この国の宰相閣下であられるとか。

 ええ、国の偉い人だろうなぁと思ったけど、この国で二番目に偉い人じゃないですか。

 なんでそんなお偉い人が、あんな船に乗っていたのかと疑問ですよ。


「合わせて千百か、まぁあれ程の魔物の上に海の物となれば、それくらいはするであろう。

 では、キースレッドよ白金貨で二千二百枚、早急に国庫へ納めるがよい。

 金額が金額だからな、今日のところは余が立て替えておこう」

「ぐぅ、陛下、それはあんまりでは」

「倍額購入は、お主から言い出した事であろう。

 まさか余の前で虚言を申したとか言わぬであろう」


 御愁傷様です。

 国からの借金ですから、踏み倒す事など不可能。

 そして、尻の毛まで毟り取ってでも、回収が可能と判断しているからこその強制貸付でしょう。

 未回収は国庫を圧迫するだけですからね。


「では話を戻すが、此度の事、誤解が生じた故の事故と余は判断する。

 キースレッドにリンクラートよ、御主等も無実の者を罪状を着せたくて、申した訳ではなかろう」

「……はっ」

「その通りで御座います。誤解が生んだ悲しき事故にございまする」

「では、ユゥーリィよ、それで構わぬな」

「御意」


 陛下に構わぬなと言われたら、肯くしか選択肢はない。

 そもそも、リンクラートさんとキースレッドさんに怒りをぶつけた所で、私にとってなんの得にもならない。

 処分の難しいクラーケンを倍額購入してくれたので、私としてはそれ以上の事を望む気もない。


「とは言え、叙爵と言う栄誉ある場を、碌に確認もせずに騒がせた罪はある。

 キースレッドよ、船長に確かめるべき事を怠った上での今回の騒動、決して軽くはないが、ギルド長の首が替わった所で、直ぐ様に替えるのは得策ではないと余は考えている。

 ならば過料で済まそうと思うが、クラーケンの倍額購入の上に、更に出費が重なるのも不憫、故に此度で得たクラーケンを現物徴収とする」

「ぐはっ」


 ああ、人って、本当に心労のあまり吐血するんですね。

 そして、陛下、えげつない。

 陛下の狙いとしては、クラーケンの巨大な魔石。

 あれほど大きな物となると大抵は国が買い上げる事になるのだけど、そう言う事であまり国の強権を使って安く買い叩く事はできないし、国の威信もあるので相場よりやや高く買い上げるのが慣わし。

 オークションに掛けられる事もあるけど、国の国防の意地もあるので、結局は国が競り落とす事になるらしい。

 きっと倍額購入を余儀なくさせられたキースレッドさんの頭の中では、如何にオークションで値を上げさせるかと算段をしていたところへ、更なる仕打ち。

 此れでは、いっそうの事、罰してもらった方が、楽だったのではないかとさえ思えてしまう。


「リンクラートよ、この者を使ったのはお主だったな。

 沙汰があるまで、蟄居を命じる。二人とも下がるがよい」

「……御意」


 まぁ、部下の罪は上司の罪、きっと裏取引なりなんなりで、総合的には似たような罰を受けるのだろうな。


「ああ、忘れる所であった、アーカイブよ。

 お主も此の者達に言う事があるのではないか」

「……はぁ。

 文字通り乗り掛かった船です、最後まで陛下にお付き合いいたしましょう」


 陛下に促されてジルドニアさんは、謁見の間(小)から下がろうとする二人に向かい。


「報告する機会がなかったが、今、言っておこう。

 あの船には実は儂も乗船しておってな、遠見の魔法の掛かった魔導具でもって、此の者達が魔物を倒す姿を確認している」

「ぐっ!」

「貴様っ、我等を嵌めたなっ」

「ふん、言いがかりは止せ、儂は何もしておらぬ、全てはお主達自身の所業だ。

 幾ら急な日程(・・・・)だったとは言え、乗船名簿にある儂の名前を見逃したお主等に、とやかく言われたくはないな。

 これ以上の問答は邪魔だ。とっとと下がるがよい」


 ……つまり最初から、膿を吐き出すための芝居だったと言う事ですね。

 そして、私達はそのための餌と。

 文句があるかないかと言えばあるけど、ああ言う連中を力を持ったまま放置しておけば、何れ私やその周りにまで魔の手が伸びていただろうし、そう言う意味では助けられたと言えるので、文句など言えない。

 一番悪いのは、悪い事を考える人達ですからね。

 なにはともあれ、餌として役割も終わったようですので、此れにて。


「コラコラ嬢ちゃん、何処に行こうって言うんだ、往生際が悪いぞ」


 慣れ親しんだ悪舌に、私は眉を思いっきり潜める。

 ええ、せっかく人が自然にフェードアウトしようとしていたのに、邪魔をするなんてあんまりです。

 文句なんぞ後で幾らでも聞いてやるから、所定の位置に戻れって……、コッフェルさん、絶対に聞く気ないでしょ。

 はぁ、コッフェルさんに見つかった時点で、注目を浴びてしまったため、今更と言えば今更だし、よくよく考えたらジュリを放っておいて、私だけ逃げ出すわけにはいけない。

 心の中で深いため息を吐きながら、所定の位置に戻った私に陛下のお声がかかる。


「ふむ、誰もが望むであろう叙爵が不満かね」


 ええ、不満です。

 別に貴族そのものは否定する気はないですが、私にとって不要だと言う事です。

 貴族にならなくても生きて行けるし、貴族になる必要性も私にはない。

 人の価値観は人それぞれだし、少なくとも、貴族の義務と矜恃は、今の私には重すぎる物。

 かと言って、そんな事を馬鹿正直に言う訳にはいかないので。


「恐れながら、私よりもよほど叙爵に相応しい方がおられます。

 私の功績と言われる魔導具も、そのお方あっての功績。

 その方の叙爵を差し置いて、私だけが栄誉を受け取る事などできませぬ」


 ええ、嘘は言ってません。

 こうして公式の場、ましてや陛下の御前での虚言は、それだけで罪に値する。

 だから、それらしい別の本音を前に出す。


「ふむ、なるほど実際はともかくとして、スジは通ってはおるな。

 目上の者も立てているのも好ましい答えだ。

 よかろう、魔導具の功績による叙爵は、一時、余の預かりとする」

「なっ、陛下っ」

「陛下のお慈悲、ありがたく受け取らせていただきます」


 ドルク様やコッフェルさんには申し訳ないけど、本当に、そう言うのは良いです。

 きっと、私に貴族籍を取らせる事で、魔導具を目当てに私にちょっかいを掛けてくる者達から、守るためと言う事も分かります。

 それでも、そう言うメリットを含めた貴族の特権も、貴族の義務を果たしてこそ。

 今の私には、その義務を果たすだけの力も、決意もない。

 そんな私が貴族の責務を背負うなど、必死に歯を喰い縛って貴族の責務を背負っている、お父様やアルフィーお兄様に申し訳ない。

 私は、もし貴族の責務を背負うのであれば、お父様やお兄様のようでありたいから。


「ドルクよ。

 お主も面子はあろうが、悪いようにはせぬ故に、今日の所は(・・・・・)大人しく引くがよい」

「……、御意」


 そんな私の想いが通じたかは分からないけど、陛下は一瞬だけ優しげな目で私を見た後、ドルク様にそう仰ってくださる。

 ドルク様のお顔に泥を塗った私を案じて。


「では、時間が押したが、魔物の襲撃から多くの船員と乗客を救い、更には我が国の宰相の命をも救った事への報奨として、ユゥーリィ・ノベル・シンフェリアの叙爵、及び、ジュリエッタ・シャル・ペルシアへの褒賞の授与を移る。

 アーカイブよ。準備をせよ」

「はっ」


 はい?

 今、なんと仰いましたか?

 叙爵? なんで、たった今、回避したばかりですよね?

 陛下、分かってくれたんではないんですか?

 いや、そんなニヤニヤ笑みを浮かべてないで。

 って言うか、あの陛下? 先程までの厳粛な雰囲気は何処へ?

 あと、シンフェリアって、私の事、最初から知っていたと?


「中々に間抜けな顔になっているぞ」

「い、いえ、そうではなくて」


 言われた言葉の内容に、思わず言葉が詰まる。

 ええ、だって、誰が謁見の間で陛下が、ニヤニヤと笑みを浮かべて意地が悪そうに、人の顔を貶すような事を言ってくると思う訳ないじゃないですか。

 意外すぎて、一瞬言葉が出ませんでしたよ。

 そのショックから立ち直って、私が言葉を発するよりも先に、陛下が再び威厳を纏い。


「よもや、此の叙爵をも断るとは言うまいな。

 それは、あの船に乗った全ての者の命を、軽んじるものぞ」

「…ゔっ」

「ましてや、その中には我が国の宰相であり、我が片腕であるアーカイブの命も含まれる。

 アーカイブが背負いし我が国の重責、決して軽い物ではない。

 そのような大義を果たした者に、爵位を与え得ぬは余の恥であり、国の恥」


 ……詰んだ。

 ええ、此処まで言われたら、幾ら私が固辞しようとも叶うわけもなく、辞退を口にすれば、それだけで、あの船に乗った人達の命を軽んじただけでなく、国そのものを軽んじた事になる。

 しかも、敢えて私が名乗る事の許されない家名を出す事で、これ以上、我が儘を言うのであれば、実家に迷惑を掛ける事になるぞと示唆してくるあたり、私に退路はない。


「……つ、謹んで拝命致します」


 これって、はっきり言って脅迫ですよね?

 貴族って、脅迫を受けてなるものでしたっけ?











---------- 第二章 〜少女期編〜 完 ----------





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― 新着の感想 ―
[一言] この世界の王様相手に拒否なんてもってのほかだし褒美をねだるのも相当な府警に当たるから受けるしかなかったんだろなぁ、そしてこれ陛下年偽ってたりするのか?
[一言] 面白かったぁー! 読み応えがあるので、遅くなりましたが2章まで読み終えました!! やっぱり人間関係が面白いです!! また、キャラ同士の掛け合いも楽しく、面白かったです! 印象に残ったのは…
[一言] そんなに嫌なら代替え案を出すべきであって出さない己が馬鹿なだけ。
2022/05/12 19:34 退会済み
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