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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
188/977

188.私、悪役令嬢として断罪されるのですか?





「リンクラート殿、いきなり何を申すかっ!

 陛下の御前であるぞっ」


 突然の断罪の言葉に、ドルク様が声を荒げる。

 そっかー、あのイケメン爺いはリンクラートさんと言うのか。

 ええ、いきなり人を大罪人呼ばわりする人に、心の中では様付けなど不要です。

 そもそも大罪人呼ばわりされる覚えはない。


「これは異なこと。

 大罪人は大罪人だからこそ、そう述べている。

 例え陛下の御前であろうとも、陛下の忠臣である私めとしては、その前になんとかしようとしている所存。

 ふむ、この者の身元保証人はコンフォード殿と、其処の元魔法使い、いや、魔導師の成り損ないのコッフェル殿でしたな。

 確かに、お二人にとって、この者が大罪人だと断じられるのは色々と拙いですからな。

 その責任の所存とかを考えれば、ですが」

「貴様っ、新任のくせに、よくもそのような事を抜け抜けと」

「新任であろうと、職務は職務。

 多くの魔導師を纏める宮廷魔導師長として、そこの成り損ないのお嬢さんの罪を、看過する訳にはいかないと申しているだけです」

「貴様、何を証拠にそのような事を」

「このような御前を前にして、証拠が無いと御思いですか?

 だとしたら、お歳を召されましたな。

 早々に爵位を譲り隠居されたらどうですかな」


 うん、リンクラートさん、顔はともかくとして性格は最悪です。

 ドルク様とのやりとりを見ているだけでも、コッフェルさんとタメを張れるのでは無いでしょうか?

 いや、コッフェルさんならもっと悪辣に罠を仕掛けながら、相手を調子づかせるか。

 何方にしろ、現状では私の出番はなし。

 幾ら大罪人と断じられようとも、身に覚えがない上に、何を持って大罪人呼ばわりされているか分からなければ、反論のしようがない。

 そう言う訳でジュリ、申し訳ないけど黙っていてね。

 ジュリが私のためを想って、何かを言おうとしてくれるのは分かるけど、今は逆効果だから。

 そして、そう思ったのは、当然ながら私だけでは無いようで…。


「双方、止めるがよい」

「「はっ」」


 まさに天の一声でもって、騒がしかった場は静寂へと還る。

 ええ、此処では陛下がトップで、絶対権力者。

 王権制度をとる以上、こう言った公式の場でそれを乱すのは不文律(タブー)


「コンフォードよ、控えよ」

「……、はっ」


 故に、いくら侯爵であろうとも、陛下にこう言われたら引き下がるしか無い訳で。


「リンクラートよ。

 証拠があるまで調査が進んでいるのであれば、このような場が開かれる前にすべきでは無いかと余は考えるが」

「はは、全くその通りでございまする。

 ですが証拠が揃い、その裏付けが終えたのは、本日の昼を回った処でございまして」

「時間が無かったと。

 まぁよい、その件に関して間違いがなければ(・・・・・・・・)不問にしよう。

 罪人に対し余が知らずに報奨を与えたとなれば、余や国の名に傷を付ける事に相違はないゆえにな」


 そもそも、いくら侯爵であられるドルク様でも、私の身元保証人になった面子があるからとしても、一方的に断罪劇の話を切る事などできない。

 ならば話を聞くだけは聞こうと言う陛下の方が、話の筋としては正しい。

 私自身、いい加減どんな冤罪が掛かっているのかを知りたいしね。

 リンクラートさんは、陛下の許しを得たとばかりに、佇まいを直し声高に私の罪状を読み上げる。


「其処にいる娘、ユゥーリィには魔物襲撃の虚偽報告でもって、一つの街と言える船で船員や乗客を混乱させ、船の安全航行へ重大な問題を引き起こさせた罪状があります」

「ほう、確かに重大な罪ではあるな。

 例え子供であろうとも看過できる事ではない」


 ……そっか〜、そう来たか〜……。

 確かに、魔物襲撃の虚偽報告は重罪。

 この世界は魔物が生態系の頂点に立つ故に、魔物の襲撃一つで街が壊滅する事もあるため、魔物の襲撃の情報に関しては、過敏と言えるほど神経を巡らせている。

 例え子供のよくある嘘であろうとも、それが信じられ混乱が起き、街を守る兵が動けば、もはや子供だからと許される事ではない。

 だからこそ、あの時、近くにいた船員さんも、船長さんも、何度も私に確認した。

 言外に、冗談にするなら今の内だぞと。


「それで、その証拠とは?」

「はっ、証人がおりまする。

 当時の船に乗っていた船員、そして乗客にございます」


 リンクラートさんの合図に、私達が入ってきた扉とは別の扉から、三人の人間が部屋へと入ってくる。

 一人は、コッフェルさんと似たようなローブを着た老人。

 ただし、ローブの質は見た目で分かるほど上等な物から、かなり高位の方なのだと、其処からだけでも分かる。

 そしてその後ろには、明らかに船員と分かるような服装と、商人風の男性。


「ふむ、お主は確か」

「前任のフォルスナー殿に代わりまして、ギルド長に就きましたキースレッドです」

「陛下、この者に私が命じ、調査し、確かな裏付けを取らせました」


 そして、証人となる二人から語られるのは、私が魔物の襲撃があると騒ぎ立て、安全な速度で航行していた船を、限界の速度まで急がせた事。

 乗客の殆どが理由も知らされずに、いきなり船室に押し込められ、乱暴になった船の航行に不安が募り、半恐慌状態に陥った事。

 私とジュリが、連絡艇でもって船を離れた後、再び船に戻るも、その際に連絡艇を沈めてしまっていた事。

 何より証言した船員も、商人風の男性も、魔物の影すら見ていないと言う事。

 その日まで、私がなんやかんやと注目を浴びるような事ばかりしていた事と、その日以降は逆に部屋に閉じ籠っていたとまで。

 まるで、その騒ぎの原因として、部屋に閉じ込められたかのようにとまで。


「ふむ、確かに証言を聞く限り罪状は明らかに聴こえるが、その船の船長はどうした?

 このような重大な証言には、船長に話を聞くべきだと余は思うが」

「あいにくと航海中にございまして。

 今回の航海に偶々(・・)出なかった当時の船員と、乗客の証言で十分かと思います。

 むろん、御疑いであれば、更なる証人を用意しております」

「ほう、どのような証人か?」

「当時、船に乗っていた、乗客を十名ほど何時でも呼べるように、別室に待機させております。

 また、証人の身元確認のほか、乗員名簿、乗客名簿ともに押さえておりますので、後ほど如何様に確認して戴いても構いませぬ」

「似たような証言であれば時間の無駄と言うもの。

 してユゥーリィだったな。

 お主は今の証言に対して何か言う事はあるか?」


 せっかく陛下が弁解の場を設けてくれたのは良いけど、今の証言に対して言うべき事があるかと問われれば、当然ながら…。


「ありません。

 証人のお二人の言葉に対し、身に覚えのある事ではあります」

「罪を自ら認めると?」

「いいえ、罪などありませんので、認めようがありませぬ」

「魔物の襲撃はあったと?」

「はい」

「………」


 妙に間が開いたかと、思ったところへ再び陛下から声をかけられる。


「魔物の種類はなんであった?」

「クラーケンに御座いました」

「ほう、クラーケンとは随分と大物だな」


 ええ、大物でしたよ。

 そして、私の言葉と共に、少しだけ緊張の糸を緩める三人。

 どうやら彼等には、私のカードが伝わったようだ。


「ふん、クラーケンとは語るに落ちたと言うもの。

 所詮は子供の浅知恵」


 反対に、鬼の首を獲ったかのように、イケメン爺いの面影もなく勝ち誇るリンクラートさんとキースレッドさん。


「陛下、これ以上の問答は不要ですぞ。

 この者が、今、口から申した魔物は、例え王宮魔道士である魔法使いであろうとも、とても一人二人でどうにか出来るような魔物ではありませぬ。

 ましてやこのような子供二人、退ける事すら不可能でありましょう」

「ほう、それほどクラーケンとは強力な魔物であったか。

 してリンクラートよ、お主ならその魔物どのようにして倒す」


 陛下の問いかけに対しリンクラートさんは、いつかコッフェルさんが私に聞かせたように、魔物を浅瀬に引き込んだ上で、魔導師の部隊で持って海を凍らせ、魔物の動きを封じるとともに足場を作り、身体強化持ちでの大剣使いの部隊でもって足を切り刻み、体皮に傷をつけ、更には傷口を大きくし、その傷口から強力な攻撃魔法でもって、やっと仕留める事ができる魔物だと。

 それでも魔物の放つ【咆 哮】を、前もって放たせる事なく浅瀬に引き込んでしまえば、部隊の大半が居竦まり、甚大な被害を受ける事になると。

 要は私やジュリが幾ら頑張ろうとも、絶対に手に負えない相手だと言いたい訳で……。


「なるほど、リンクラートよ。

 お主が言いたい事は理解したが、今一度問う。

 この者の罪、間違い無いのだな?」

「はい、我が職務に賭けて間違いありませぬ」

「キースレッドよ、お主はどうだ?」

「はっ、証言に加え、東の海であるポンパドール周辺の海域であればともかく、あの海域にクラーケン等と言う凶悪な魔物が現れた記録はありませぬ。故に間違いありませぬ」


 そりゃあ、そんな魔物がちょこちょこ現れるような海域なら、そもそも航路になる訳がないですからね、状況証拠だけなら、私の罪状は確定していると言っても言い過ぎでは無い。


「そうか。

 ではユゥーリィよ、最後になにか反論があれば述べてみるが良い」


 公平に期してなのだろうか、そう言う事なら喜んでと言いたいけど、さて、どうするかな。

 陛下の横に立っておられるジルコニアさんに頼るのもありだけど、ジルコニアさん自身、あの時に魔物の姿を見た訳では無いので、証言としては弱いだろうし、一番良いのは証言を覆すような証拠を見せる事なんだけど。


「クラーケンの足の干物なら、お許しがあれば今すぐ(・・・)に出せますが」

「ぶははっ、笑わせるな。

 そのような物、何時の物か分かったものでは無い物が証拠になる訳がなかろうが、そもそもクラーケン程の魔物を倒したのであれば、その巨大な魔石だけで噂にならぬ訳がない。

 そして、そのような噂、此処数年ありはしない。無論この数ヶ月もな」


 ああ、品格が滲み出るお言葉、キースレッドさんありがとう御座います。

 こう言った人達の方が話しやすいので助かります。


「いえ、そもそも市場に出していませんから、噂にならないと思いますが」

「ほう、まるで持っているかのような口振りだな。

 ならば出してみるがいい、出せる物ならな」

「嫌ですよ。勿体ない」

「「「「……」」」」


 私のあまりと言えばあまりの予想外の言葉に、何故か空気が冷たくなる。

 いやだって、そうじゃないですか、幾ら夏に比べて涼しくなってきた秋口とは言え、まだ昼間の熱気が残るこの時間帯に、取り出したら傷みが進んで価値が下がってしまうじゃないですか。

 そしたら、その損失分を誰が補充してくれるんですか?

 食べるにしたって、鮮度が良い内に食べた方が良いに決まっています。

 そう言う訳で、冬まで待ってくだされば、解体を兼ねてお見せいたしますが。

 私のそんな言い分に、キースレッドさんは体をプルプルと振るわせ…。


「ふ、巫山戯るなっ!」


 はい、予想通り怒鳴られました。

 

「いえいえ、巫山戯てませんよ。

 お金と食べ物は大切です。

 それともお見せすれば、貴方が買い取ってくださると言うんですか?」

「おう上等だ、見せれる物なら見せてみやがれ、相場の倍で買ってやるわっ!」


 はい売り言葉に買い言葉とはいえ、毎度ありです。

 冬まで待たずに済んで良かったです。

 解体の手間も省けましたしね。

 そう言う訳で、陛下、魔導具の封印の解除の許可と、広い場所をお借りできないでしょうか?

 ……庭と、……其処の広さは分からないのですが、出来れば第十三鍛錬場くらいの広さがあると助かるのですが、……それくらいの広さはあると。

 あれ? リンクラートさんにキースレッドさんどうしました? 何やら凄い汗を掻いてますよ。

 でも、それはどうでも良い事なので置いておくとして、…皆さんも来られると?

 そうですよねぇ、あんな巨大怪獣並みの生物、近くで見る機会なんてそうはないですもんね。


「では、まず場に氷を張らせて戴きます」


 え? 何故かって、地熱による痛みを少しでも減らすためと言うのもありますし、せっかく美味しい烏賊なんですから、泥で汚れるのも嫌じゃないですか。

 其処、笑うところなんですか?

 私、真面目に言っているんですけど。


「では、船を襲撃しようとした証拠でもある魔物を出しますね」


 ええ、此れを見ても人を大罪人呼ばわりするなら、してみろって言うんです。

 その時はガチの殴り合いをするだけです。





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