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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
187/977

187.謁見の間で、普通、喧嘩を売りますか?





 ドンッ!

「ドゥドルク・ウル・コンフォード閣下の御入場」

 ドンッ!

「ユゥーリィ殿及び、ジュリエッタ・シャル・ペルシア殿の御入場」


 角熊が肩車をしても入れそうな巨大な扉を潜ると共に、扉の所にいる衛士の方が私達の名前を読み上げる。

 私の収納の魔法を固定する魔導具を封じた箱を持つ係官の方の名前は、当然読み上げない。

 こういう公式の場では基本的に彼女等のような付き人は、存在しない事になっているからね。

 謁見の間と言っても、此処は小規模の部屋らしく、扉の大きさの割には部屋は小さい。

 小さいと言っても、ちょっとしたライブハウスくらいの広さはあるんだけどね。

 そして、左右に並ぶ人達の中に、見覚えのある顔、……と言ってもガスチーニ様と、コッフェルさんなんだけど。

 あれ? コッフェルさん、なぜ其方で並んでいるんです?

 主役はこっちでは?


「ユゥーリィ何をしている」


 既に定位置らしい位置につき膝を付いているドルク様の声に、私も慌ててモコモコの赤い絨毯の上に膝を付く。

 ええ、俗にいう謁見のポーズですが、……あれ? 此の儘で良いんですか? コッフェルさん向こうですよ。

 其処へ上座の方に新たな人が現れ。

 あれ? あの人って確か……。


「国王陛下の御目見である、皆の者、頭を下げよ」


 聞き覚えのある声に、ああやっぱりと思いつつも、今はそんな事を思っている場合じゃ無い。斜め前に同じく膝をついているドルク様の脚も見えないほど、首を垂れた姿勢でもって陛下をお迎えする。

 相手は気分一つで、庶民である私の首など、自由に出来る存在ですからね、卑屈にもなります。必要ならば土下座だってしますよ。

 こんな怖い席を無事に終われるなら、プライドも何もありません、むしろ土下座一つで済むなら、幾らでもしてみます。

 ええ、小物で結構です。

 私、図太い自覚はありますけど、基本的には小心者なので。


「皆の者、面をあげよ」


 想像していたより高めなバリトンボイスに、顔を上げると其処には、思わず一目惚れするほどの美形の陛下が。

 なんて事は、前世が男である私には間違ってもないです。

 確かに美形には違いないけど、中年のオッサンです。

 確か陛下は四十ぐらいと聞いた覚えがあるから、それを思えば若作りで締まった身体付きをしていると思う。

 きっと前世だったら、素敵な仕事のできる課長、もしくは部長として若いOLにモテただろうなとは言える。

 特徴的と言えば、ヴィーと同じような深い緑色の髪と、やや色彩の掛かった翠眼と言う事かな。

 え? 余裕があるって?

 いえいえ、こう言うくだらない事でも考えていないと、こう言う緊張感が漂った空気に耐えられないだけです。

 現実逃避です。


「うむ、コンフォートよ。

 大儀であった、横に控えているがよい」

「はっ」


 あれ、行っちゃうんですか?

 できれば私とジュリも一緒に連れて行って欲しいのですが。

 こんな大仰な席、私達みたいな子供を放っておくなんて酷くありません?


「直答を許す。名を申せ」


 直答ですか……、できれば、顔を下に向けたままで、気がついたら終わっていたと言うのが理想なんですけど。

 そう言うわ訳でジュリ、お先にどうぞ。

 いえ、だって、普通は身分の高い方からですよ。

 ジュリは貴族令嬢、私はただの庶民ですからね

 はい、どうぞ。


「じ、ジュリエッタ・シャル・ペルシアと申しましゅ」

「ぷっ」


 いえ、御免なさい。

 舌を噛んだジュリが可愛くて、つい吹いてしまいました。

 そう言う訳だから睨まない睨まない。

 ああ、私にプレッシャーを掛けているだけと。

 ……酷い。


「ユゥーリィと申します。家名の方は御容赦を」


 ええ、ジュリのおかげで多少の緊張は和らぎましたので、失敗はありません。


「ふむ、家名は申さぬか。よい度胸だ」


 あっ、もしかして私、やっちゃいました?

 でも、家を出た以上は、シンフェリアの名は使えないのは本当の事。

 家名を言えないというのは、ある意味問題を起こして貴族籍を追われたと言う意味であり、この場合は自己申告の誠意とも言える訳なんだけど。


「まぁよい、人にはそれぞれ事情があるのは余も心得ている。

 肝心なのは、その者が敵か味方か、そして使えるか使えぬかだけだ」


 ふぅ〜〜、セーフ。

 陛下が理解ある方で良かったです。

 まぁ後半の部分は多分に怖い言葉ではあるけれど。

 だって裏返せば、敵や使えない者には容赦しないと言う事だよ。


「そう言う意味では、お主は進んで敵になるようには見えぬな。

 使えるか使えぬかなどは、この場にいる事が答えだ、今更、問うまでもなき事だ」


 寛大なお言葉大変ありがたく思いますが、普通、好き好んで国そのものである陛下の敵に回ろうとする人間はいませんよ。

 ましてや一庶民である人間が、どうやったら陛下の敵になると?

 悪政を敷いているのならともかく、比較的この国は善政を引いているとは思うので、そうそう敵になる民衆はいないでしょう。

 特権階級? 民主主義の平等? 封建制度は悪そのもの?

 そんな物は平和な世界でしかあり得ないですし、この魔物が生態系の頂点にいる世界では寝言でしか無いです。

 民衆にとって少しぐらいの政治の不満よりも、目の前の脅威である魔物の方が問題。

 生き残るためには強権も必要です。

 そんな訳で、ごく普通の庶民は、進んで国の敵に回る人間はいないと思います。

 あるとしたら、何処かで扇動する人間がいると思うべきでね。


「さて、此度の叙爵(じょしゃく)だが」


 ああーっ、それ言っちゃうんですかっ。

 人がせっかく現実逃避に全力で他所事を考えているのに、そう言う事を言っちゃうんですかっ。

 私、その先は聞きたく無いんですけどっ。

 相手が恐れ多くも国王陛下なので声に出して突っ込みませんが、私としては全力で拒否したい訳で。


「お主は我が国に、なにより魔物と戦う多くの兵に希望と力を齎せた」


 ええ、流石の私も此処まできたら、今回の叙爵(じょしゃく)が誰なのかは理解できますよ。

 理解できるけど、その現実を受け入れたく無いだけです。

 ……だって、貴族って面倒臭いんですもの。

 誰かこの状況から助けてくれないかなぁ。

 この際、悪魔でも構いませんから。

 そんな願いが通じたのだろうか?

 それとも、そんな事を願ったから天罰が当たったのだろうか?

 何方かは知らないけれど、厳粛な場に新たな声が上がる。


「陛下、お待ちください。

 至急に御耳に入れたき事があります。

 此れは陛下の、いえ、国の威光に影を差す事になるかも知れぬ重要な事です」


 恐れ多くも陛下のお言葉を途中で遮ったのは、比較的上座にいる宮廷魔導士を示す紫のマントと羽織った老紳士。

 少なくとも見た目的にはコッフェルさんと似たような年齢だと思うけど、印象が正反対。

 胡散臭さ全開のコッフェルさんに対して、一見して穏やかな好印象を与える風貌の宮廷魔導士、きっと若い頃はモテたんだろうなと分かるくらいはイケメン爺いです。

 その印象がどれくらい違うかと言うと、ぱっと見どちらの言葉を信頼するかを街の人、百人に聞きましたをしたら、一対九十九でイケメン爺いに勝敗が上がるぐらい。

 この場合、コッフェルさんがマイナス過ぎると言うのも大きいと思うけど、それくらい違う。

 ちなみにその場合、コッフェルさんに一票を入れるのは私ですけどね。

 それはともかくとして、そんなイケメン爺いこと宮廷魔道士は事もあろうに……。


「その者は大罪人です!

 叙爵(じょしゃく)など以ての外っ!

 牢に入れ、然るべき処置をすべきと進言いたします」


 なぜかハッキリと私を指差し、糾弾する始末。

 ……うん、どうやら救いの主ではなく、天罰の方だったようです。





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