186.渋い御爺様には憧れます。そして現実逃避全開運転。
王都のドルク様の街屋敷に着いて、ドルク様の従者であるホプキンス様から聞かされたのが、今回の参内では陛下への謁見があると言う驚愕の事実。
いえ、なんでそんな事になっているかのと思いつつも、ホプキンス様は行けば分かると、詳細は何一つ教えてくれない。
城へはいつ頃参内すれば?
昼を大きく回った頃って、陛下へお会いするのに、そんなに簡単にお会いできる物なんですか?
普通は無理と、すぐ終わる予定の上、たまたま空けれる時間帯だったので、昨夜の早馬で今日の到着時間が分かっていたから、捻じ込まれたと。
せめて一晩休憩させてからと思っていたけど、王家にそう言われたら否はない以上、急な予定も仕方がない。
せめてもの救いは、今はお昼前だから、ゆっくり昼のお茶をしてから……、そんな悠長な時間はないから、荷物を馬車から出したら、馬車にもう一度乗れと。
「……此のクッションの山は?」
「いえ、快適性を求めた結果なので、今すぐ片付けますので、しばしお待ちを」
馬車の中の惨状に驚くホプキンス様を他所に、最低限のクッションを残して収納の魔法の中に仕舞い込む。そろそろ使用している水の消費期限が切れるので、後で焼却処分の予定。
水を焼却出来るのかって? そんな物関係ない火力で処分するので心配無用です。
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【城の謁見室前の待合室】
「……」
「……」
ホプキンス様が、そんな暇がないと仰っていた理由も納得です。
城に到着した後、ホプキンス様の紹介で身元確認と、予定の来客である事を確認した後に私とジュリを待っていたのは、身包みを剥がされる事でした。
ええ、持ち込みは下着一枚許されませんでしたよ。
私の場合、収納の魔法を固定する魔導具の件もあるので、大変に困った。
メインではないとは言え、収納の魔法の中には、私にとって洒落にならない財産が収まっているため、担当の女官に事情をお話しすると、大きめの魔法石を用意してきた上で、そこに私の魔力を込める事で、それで最低でも数日は保つはずだと。
念のため、その状態で箱に入れる事で封印を施し、すぐに使えないようにする事で所持を許された。
その一悶着の後は、ええ、徹底的に全身を磨かれましたよ。
指の一本一本まで丁寧なのはもちろん、足の指の間や耳の後ろなどの細かいところなのは分かるとして、お尻の割れ目まで指で丁寧に磨かれました、……うぅ、お嫁に行けない、いえ、最初からお嫁に行く気なんて欠片も無いですけどね。
「……さすがは陛下との謁見ともなると、失礼の無いように徹底的に磨かれるですのね。
それに、こんな綺麗なドレスを着させて戴けるなんて、流石は王家ですわ」
今や城の侍女の方達が用意した綺麗なドレスに身を包んだジュリが、慣れない体験で疲れたように言うのだけど、同じく着慣れない可愛い系のドレスに身を包んだ私は、ジュリの言葉に無意味に疲労を感じてしまう。
「あのね、陛下にお会いする皆んなが皆んな、ああ言う真似を受ける訳がないでしょう。
実際は知らないけど、お忙しいであろう陛下が、一日にお会いする人数を考えたら、幾らなんでも、時間と労力の無駄でしかないわよ」
言い方は悪いけど、彼処まで徹底して磨かれた挙句に、既製品とは言え、こうして綺麗なドレスを着させられているのは、単純に私達が信用できない人間だから。
王族に危害を与えるかもしれない初対面の人間を、そのまま国の要である陛下に会わす訳には行かないための処遇なの。
なんで、身体を磨かれる時に素手だったと思うか分かる?
あれはある意味触診と一緒で、身体の何処かに何かを隠し持っていないかを調べるためのね。
髪の毛なんて念入りに洗われたのは、其処が一番隠しやすい箇所だと言うのもあるし、際どい箇所を触られたのも、其処が隠せる場所だからなの。
「隠せるって……、は、破廉恥ですわっ」
まぁ、ジュリが顔を赤く染める気持ちは分かるけど、前世でも危ない薬の密輸などは、体内を使われる事などしばしばある事で、決して意外な事ではない。
逆に言うならば、それだけ城の危機管理意識がしっかりしていると言う事。
いくら綺麗なお姉様達に全身を揉まれると言う、ある意味、漢の夢のような状況であろうとも、隠し武器や針やテグスが仕込んでいないかと、疑惑の目で触られて喜べる程、私は達観していない。
表面上は丁寧に対応はされたけど、嫌な話、指を入れて確認されなかっただけ、マシとさえ思っているぐらいだ。
そして当然ながら、向こうで用意されたドレスに身を包まされているのは、暗器などを持ち込ませないためなのは、私の収納の魔法の魔導具の封印を見ても明らか。
なにせ鉄箱ですよ鉄箱。
素手ではとても開けれる代物ではない上、直接所持する事は許されてはいない、謁見の際は係の人が、私のすぐ後ろで控えて持って待機する予定と言う徹底ぶり。
「もっとも、そこまで警戒しても、魔導士相手にはどうしようもないんだけどね」
「そう言えば、そうですわね。
私達魔導士は、身一つあれば魔法を放てますものね、そう考えると無用心ですわ」
魔力封じの魔導具なんて聞いた事がない以上、平和的な手段で魔導師を封じる手段は此の世界にはないのだろう。
そして、それは魔道士を封じようと思ったのならば、物理的な物騒な手段しかないと言う事。
まぁ王家である以上、きっとお金に物を言わせた対策を施してはいると思うけど。
「逆にジュリがお城側として、どんな対策があると思う?」
「そうですわね、防げない以上は先手必勝。
いつでも攻撃出来るようにしておくのが有効かと思いますわ」
……いえ、ある意味そうなんだけどね。
逆と言うか、謁見する側からしたら、剣や弓を構えられた状態で謁見する事になる訳だから、そんな一触即発の状態では謁見どころじゃないだろうし、国外の要人相手だったら、それだけで即戦争ものの事案よ。
「なにかあったら、そう出来る体制にはするでしょうけど、幾らなんでも、そんな物騒な案が採用されるわけがないでしょ」
「では、貴女ならどうしますの?」
「よくあるのは、直接会わない事かな」
「それでは謁見になりませんわ」
「そう? よく似た誰かを玉座に座らせておけば、距離さえ保っていれば、案外誤魔化せると思うわよ。
万が一攻撃を受けても、最低限陛下はお守り出来る訳だからね。
一番良いのは魔法を無効化、もしくは防げる魔導具がある事だけど、現実的なのは、宮廷魔導士である魔法使いに、謁見の間中は結界の魔法を張り続けてもらう事だと思う」
多分、そんなところだと思う。
影武者案もありだと思うけど、そうだとしても普段はそんな感じで守り、何か事態が起これば、ジュリが言ったような体制にする。そんな流れだろうな。
そう言う訳でジュリ、緊張のあまり不用意な行動を起こさないでね
向こうからしたら、【不用意な行動】イコール【悪・即・斬】でしょうから。
「脅さないでくださいっ!」
いえいえ、十分にあり得る事態ですから。
国家の安全を考えたら、私達が子供とか関係が無いですしね。
「ふははっ、ユゥーリィよ、そう友人を脅す物では無い」
そう笑い声を上げながら、控室に入ってきたのはコンフォード領の領主様であられるドゥドルク・ウル・コンフォード侯爵様。
ドルク様の登場に、私とジュリは椅子から立って挨拶をしようとしたところを、ドルク様は手でもって不要と仰ってくださる。
「約二ヶ月ぶりと言ったところだが、お主の活躍ぶりは、ヨハンからの手紙もあるが、先に来ていたフェルから話を聞いている故に、久しいと言う気はとんと沸かぬから不思議なものだな」
ドルク様は相変わらず、燻銀が光る渋いイケメン御爺様ですね。
前世では歳を取ったら、こう言う雰囲気を醸し出せるようになりたかったなぁと思ってたけど、あのまま社畜生活していたら、到底無理だっただろうなとも思ってしまう。
「それとペルシア嬢も、よく来てくれた。
どうやら今回の叙爵に辺り、ユゥーリィの学友であるお主から、普段の彼女の様子を聞いてみたいとの事でな。
今回の一緒に召喚したという事らしい」
はい?
今、ドルク様、変な事を言いませんでしたか?
いえ、言葉の意味は分かりますよ。
叙爵、爵位を拝命される事ですよね。
問題は誰が拝命されるのかですよ。
ああ、そう言えば先程、コッフェルさんが先に来ているとか言ってましたから、コッフェルさんの事ですね。
そして私が呼ばれたという事は、きっと携帯竃の件での叙爵なのでしょう。
コッフェルさん以前にも、国の機関にもいたような事も言ってましたから、きっと長年の功績が認められたという事で。
なるほど、それなら納得です。
あの魔導具の開発には、私も多少は関わりましたから、そのおまけで呼ばれたと言う訳ですね。
そしてジュリは、そのおまけのおまけと言う事で。
それにして、水臭い、それならそれで言ってくだされば、何かお祝いを用意したのに。
まぁ、そんな物は後ででも贈れますから、今日の所は心からの言葉で持って、お祝いしてあげましょう。
コッフェルさんの事だから、きっと真面な物じゃなくて、お酒やそれに合う飯が良いとか言いそうだから、お祝いに相応しい材料を用意しないと。
そう思っていたところへ、係官の方が来られ。
「コンフォード様、準備が整ったようですので」
「うむ、あい分かった。
では二人とも、儂の後ろに付いてまいれ」




