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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
184/977

184.いったい私が何をしたと言うんですか?





 高い天井に、壁や柱に施された彫刻や装飾。

 そして部屋の至る所に洗練された家具や置物や花瓶。

 此の広い屋敷にある応接室の一室に過ぎず、此の屋敷の中では然程(さほど)ランクの高い部屋ではないらしいのだけど、間違いなく此の部屋一つで、敷地を含めたシンフェリアのお屋敷よりお金が掛かっている事は誰の目にも明らか。

 どちらが落ち着くかと言うと、シンフェリアのお屋敷の方が、よほど心が落ち着くと迷う事なく言えるのだから、私の庶民派も大概だと思う。

 それで、そんな目の保養にはなっても、落ち着かない豪華なお部屋に来たのも実は数度目ではあるのだけど、今日は何故かジュリまで呼ばれており、目の前には王都におられるはずのドルク様の執事で在られるマイヤー様が、一通の手紙の入った豪華な装飾がされた封筒を私達に差し出している。

 そして、その封筒に似た物を、私がシンフェリアのお屋敷に居た時に見た事があり、封筒の裏の封緘も、その時の記憶の物と一致している。

 そして、表に書かれた一言は……。


 【 召 喚 令 状 】


 はい、どう見ても嫌な予感しかしない四文字ですし、国からの呼び出しなんて碌な事が無いに決まっています。

 凝り固まった偏見ではありますが、ジュリの血の気の引いた青い顔を見れば、ジュリも同意見なのだと思う。

 そもそもなんで、ジュリまで?

 マイヤー様、ドルク様より何かお聞きになっていませんか?


「いいえ、特には何も。

 正直、主人も今回の召喚は、本来の予定の物(・・・・・・・)とは違っているため困惑されている御様子でした」

「……予定の物?」

「今となってはと言う意味ですので、どうかお気になされぬように」 


 いえいえ、無茶苦茶気になるんですけど。

 かと言って、侯爵家当主の執事であるマイヤー様に、庶子である私が、これ以上突っ込む勇気はありません。

 そう言う訳でジュリ、貴族令嬢であるジュリの力でもってっ。

 ……無茶を言うなと怒られました。

 ついでにマイヤー様にも『其方はペルシア様には、なんら関わりの無き事ですので』とまで言われたら、此の場では打つ手が無い訳で。


「明朝、学院の方に馬車を廻しますので、御支度の程をお願いします。

 準備に時間が必要と言うのであれば、侍女を向かわせますが」


 いいえ、結構です。

 ジュリは? ……ああ、やっぱり必要ないですよね。

 お互いに、専属の侍女なんて関係ない身の上ですもんね。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

【書籍ギルド・コンフォード支部】




「それは大変な事になってるわね」


 もともと仕事の話のため、ラフェルさんと会う予定をしていたのだけど、領主の館に呼び出されたため、少しばかり時間に遅れてしまった事を申し訳なく思いながら、遅くなった事情を簡単に説明。

 一応、急用のために遅れるかもと、学院の使用人(メッセンジャー)にお願いして伝言を走らせていたので待ち惚けをさせるという、礼を失するような事はせずに済んだけど、話せない内容ではないので、どうしようもない理由と言う事を聞いてもらった訳です。


「それで召喚理由は?」

「それが、ただ来いとだけ」


 あまりと言えばあまりの召喚令状の内容だけど、庶民の私や、貴族とは言っても、国家権力の前には力など無いに等しい子爵家の娘を呼び出すのに、大業な言葉など不要と言えば不要。

 私とジュリの立場からしたら、指定された日時までに参内するしかない選択肢はない状態。

 もし此れが私だけなら、魔導具関連だと分かるし、以前に王都に行った時に、魔物討伐騎士団王都師団の団長で在られるガスチーニ侯爵様より、師団として正式な礼を述べる場を設けるような事を、チラリと言っていたような記憶がある。

 あの時は、なにか壮大な冗談を言っているなぁとしか思っていなかったけど、その後のドルク様とガスチーニ様の会話を聞く限り、あり得る話な訳で、もしそう言う話があったらどう断ろうと思っていたぐらいなので、呼び出されたのが私やコッフェルさんと言うのなら、今回の召喚も理解できる話だったのだけど、残念ながら呼び出されたのは、私とジュリの二人で、コッフェルさんはいない。

 そのコッフェルさんも、此処に来る前にお店に立ち寄ってみたけど、生憎と不在だったのでなにも分からずじまい。

 私とジュリで関わった事と言うと、ガスチーニ様のお屋敷で、闇組織の(しかく)に襲われた事など今更な気もするし、王都観光の時に市場で珍しい食材や素材を買い漁った事は、関税が掛かる程の量を購入はしていないはずだから関係ないと思う。

 ……途中、城に武器を収めている武器職人の工房を見学させてもらった際に、後継問題のゴタゴタに出くわして巻き込まれたのも、……たぶん関係ないでしょ。

 観光の途中、ヴィー達の知り合いに添われて、王都の三方にある一つの大門上にある詰所で、王都の街並みを一望できると、その景観を見せてもらった際に、設置されていた魔導具の投光機が、あまりにもシンフェリアの時に開発した時の状態で使われていた事に驚いた事かな?

 だってシンフェリアで私が作った投光機はあくまで、基本の形のいわば心臓部に当たる部分。

 実際の運用には、其処から目的に即した外装や機能を取り付ける必要がある訳で、そのままで使えない事はないけど、効率が悪いばかりか、拡散した光が味方の目を眩ましかねない。

 その事をついボソって言ってしまった件が、上にまで行っているとか?

 でも、一番ありえそうなのが双眼鏡の魔導具の件かな。

 あれはジュリと一緒の行動の時だったし、あの時の老紳士は国のお偉いさんっぽかったから、あり得ない話ではなさそうだ。


「なにやら、心当たりが沢山ありそうな顔をしているけど」

「いえいえ、召喚を受ける程の事はないから困っているんですけど、もう、なるようになれと言うのが本音です」

「実際、理由が分からなければ、なるようにしかならないわよね」


 仮定上に、根拠のない仮定を重ねても無意味だし、とりあえず誰かに話せてスッキリしたので、仕事の話をしましょう。

 え? 参内するときの格好ですか? 一応は以前に用意していただいた礼服を持ってゆくつもりですけど。

 ドレス? 私がそんな物を持っていると思います?

 必要なら向こうで言われるでしょうし、恥を掻いたところで、なんとも思いませんから。

 ……ああ、そう言うのが必要な場なら、急な呼び出し用に用意されている既製品のドレスがあるので、其処を頼ればよく、ドレスを用意していない旨を言えば、案内してくれるはずだと。

 なるほど、教えていただき感謝します。


「以前から頼まれていた、闇影移しの鏡台(トレース台)の改良の件ですが、やはりちょっと厳しいですね」

「そう、仕方ないわね。

 もともと、取り扱いが悪い人の要望だから、できなくても問題はないのだけど」


 ラフェルさんに頼まれていたのは、トレース台の魔導具の改良で、二台一組の此の魔導具をコードレス化に出来ないかと言う相談。

 伝達コードにインク壺を引っ掛けて、写本と原本を駄目にしたとか。

 コードを持って、トレース台を持ち上げたら断線したとかの、本当にどうしようもない理由。

 実際、コードレス化したら便利だと思うけど、それはそれで、無くしたとか言って別の問題が発生するだけのような気もする。


「いえ、一応は出来るには出来たのですが、お値段が倍以上になりますよ」

「……それは嬉しくないわね。

 改良の試作品の経費を考えただけでも頭が痛いわ」


 もともとトレース台の魔導具は、私の後見人になる事を条件に安く納めているため、同じ利率で納める事になったとした場合、書籍ギルド側の方が、私からの借りが大きくなり過ぎてしまう事になるため、その点からしても宜しくない。

 多分、そうなれば、魔導具師の価値を下げるとして、同じ魔導具師であるコッフェルさんも、黙ってはいないだろうし。

 他にも、此の改良品には問題があって……。


「あと今回の経費は、此方持ちで良いです」

「ユゥーリィさん、それは幾らなんでもいけないわ。

 此方で頼んだ以上必要な経費は受け取るべきです」

「いえ、そうではなく、出来上がった魔導具がもはや別物と化してしまっていて、現状で此の試作品を書籍ギルドに納めたり、開発した記録をギルド側に残すのは色々と問題があると思いますので、此方側の勝手な言い分という事で、今回の改良の話そのものを無かった事にできないかと」


 別物と化した魔導具の機能その物は、前世ではよくある家電製品ではあるのだけど、文明が前世に比べて未発達の此の世界では、一般に普及させるには非常に危険な代物。

 手順を踏んだ普及の仕方をしないと、破滅しかねない。

 そんな訳で、ラフェルさん耳を拝借。


 ごにょごにょごにょ。


 と、理由を説明。

 ええ、顔を真っ青にしていただけたのなら、新型のトレース台の危険性を理解して戴けたと言う事ですね。

 一応、理論上は従来の有線でも可能は可能です。

 その用途で使うには色々と問題もありますが出来ない話ではないですし、使い方を限定すれば、悪用をしようと思えば可能ですので、取り扱いに対して新たな規則を作るなどの対策をお願いします。

 現状、私しか作れないので、管理さえ適切にして戴ければ問題はないと思います。

 ええ、魔導具の寿命の件もあって、管理番号をトレース台に打ち込んでおいたのが、そういう意味でも役に立ちます。

 つまり、悪用しそうな方に貸し出さなければ、現状とさほど変わらないと言う事で。

 発覚した問題点を改善した新たなトレース台の製造に関しては、商会のヨハンさんと相談して戴く事になると思いますが、多分、新型がある程度普及してしまえば、さして問題なくなると思いますので。

 ええ、基本的には別物の魔導具ですからね。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

【翌 朝】




 ぶるるぅ。


 コンフォード侯爵家の紋こそは入ってはいないものの、どこからどう見ても高位貴族が乗っていると分かるような立派な箱馬車。

 華美な装飾は一掃し、純粋に馬車の形状と、その表面に施された漆黒の塗装の仕上げだけで、此の品格を醸し出させるのには、さぞや馬車職人は苦労したと思う。

 そして、そんな馬車に負けず劣らず立派な毛並みの馬が六頭。

 一頭立ては流石にないと思ってはいたけど、六頭立ての馬車って、どんな貴人が乗るんですか、それとも軍用?

 私とジュリと……。

 ではジュリのために用意された馬車という事で。


「現実を直視すべきですわ。

 どう見ても、私より貴女の方がお似合いですわよ」


 どう見ても、って、その根拠は?

 ……見た目って、それならどう見てもジュリの方が、令嬢って感じが出ていて似合うと思うんですけど。

 それに現実と言うのであれば、貴族令嬢であるジュリと庶民の私、何方が豪華な馬車が似合うと思います。

 ……私も元貴族令嬢って、いえ、その通りですけど、そう言う自覚は殆ど無かったですよ。

 実家は田舎でしたし、以前にも言ったように、代々角熊対策のおかげもあり、其処まで裕福では無かったですから。

 それにお父様の爵位は男爵ですから、家の格で言ってもジュリの方が上です。

 そう言う訳で現実を見るべきは、ジュリの方だったと言う事で。


「解せませんわっ!」


 と、納得がいかずに朝から声を上げるジュリだけど、真面目な話何方だろうと関係なく、コンフォード家の執事であるマイヤーさんが、城の召喚に応じて用意してくださったに過ぎない。

 そう言う意味では、豪華な馬車はドルク様に関わりのある私が原因といえば原因とも言えるけど、それをジュリに教えてあげる必要はない。

 ええ、もう少し弄って遊んでからでも良いと思うしね。





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