182.強くなりたいけど、ゼロに何を掛てもゼロのままなので、道具に頼ります。
「ゔっ、降参です」
目と鼻の先で止められたギモルさんの掌底に、私は言い慣れた言葉を今度もまた紡ぐ。
幾ら慣れてはいても、負けた事にショックが無い訳ではなく、其れなりに悔しい。
長かった夏季休暇も終わり、既に日常へと戻っているため、こうして今日も早朝鍛錬をしてもらってはいるのだけど、本日四度目の敗北を決したところ。
相も変わらず、今、負けを喫したギモルさんを始め、アドルさんやセレナやラキアさんから一本も取れない日々が続いていると、所詮、私なんて魔法が使えなければ何も出来ないのだと自覚させられてしまう。
「「「「いやいやいや、かなり見違えているから」」」」
四人で声を揃えて、そうは言ってはくれても、負けるまでの所要時間は、夏休み前と比べてさして変わっていない。
見違えたと言われて実感が湧かない。
一応は以前より身体が動くようになって、戦えるような気はしてはいるのだけど、全敗以前に、こちらの攻撃は真面に攻撃が入った事がないと言うか、全て躱されるか受け流されている。
「いや、真面目な話、動きが不規則すぎてタイミング読めなくなったから。
正直、遣りづらい」
「以前は余裕で躱せてたんだけど、受けざるを得なくなったし」
「いつもやっている踊りが、あんな風に化けるとはね」
「と言うか、相手の呼吸どころか、自分の動きに関係なく、踊りの呼吸に合わせて動くって、普通はやらないわよね。
リズムを読まれたら迎撃の餌食だし、腰の入った攻撃もできないだろうし」
港街ルシードで見た舞踏と言うか演武をヒントに、前世で身につけた幾つもの舞踏や音楽を、動きに取り入れてみた。
最初は少しぎこちなかったけど、今は大分身についてきてはいるけど、魔法無しの条件では勝敗に繋がっていない。
そうしようと思ったのは、狩猟ならともかく、もともと対人戦における駆け引きのセンスが皆無に近い私が戦闘の真似事をしても、素の身体能力の低さもあって形になりそうもない。
かなりの時間を掛ければともかくとして、体力と筋力を年相応にするだけでも、かなりの時間が必要なのは、これまでの事から見ても明らか。
ならばいっそうの事、動きのタイミングや強弱を舞踏に合わせる事で、相手に読ませない事に特化してみたのだけど……。
もともと前世でも舞踏や音楽は好きだったので、私に合ったみたい。
「実際、魔法は身体強化のみの条件でも、偶に負けるようになったし」
いえいえアドルさん、元々の身体強化の出力が違うから、出力任せの一本ですよ。
「いや、其れでも以前は、動きが短調だったから、結構、迎撃出来てたんだけど」
「ユゥーリィに教えてもらった、魔力の循環制御の方法を取り入れてから、私達の身体強化の魔法も、かなり威力が上がっているのにね」
「家に帰った時、大きい兄さん達驚いていたもんね。
二対二で私達の圧勝だったし」
と、皆んなは言ってはくれても、それはあくまで私が魔導士だからと言う前提がつく。
私が何時でも魔法を使う事ができると言う意識が、アドルさん達の意識の下にあるため、其れを警戒してしまっているからこそ、前世の舞踏とリズムを利用した、なんちゃって体術が通用しているにすぎない。
本当に私が魔法が使えない状況なら、きっとアドルさん達は、なんら警戒する必要なくドンドンと踏み込んで私を無力化する事ができる。
「もともとユゥーリィは目が良かったし、反応そのものは良かったから、自分の動きを身に付けられたら、一段か二段、上の動きが出来るようになるとは分かってはいたけど」
「確かに。……でも、あくまで鍛錬での上の話だね」
「ユゥーリィ軽いから」
「かと言って、得物を扱える訳でもないし」
そう、あくまで模擬戦などの御行儀の良い戦闘での話で、実戦では通用しない。
そもそも、近接戦闘に於いての私の攻撃は軽いのだ。
舞踏のリズムを用いた動きを取り入れた弊害である、腰の入った攻撃がしにくいとか言う以前の問題でね。
その理由は私の生来の病気の後遺症とも言える小さな身体と、小さな子供程度しかない筋力が要因。
同姓のセレナやラキアに比べても、小柄な身体が生み出すリーチは短く、其処から生み出す遠心力も知れているし、そもそも体重がないから、攻撃に重さが無いため威力も高が知れている。
それこそアドルさんやギモルさんからしたら、当たっても無視できる程度の威力しか生み出せない。
其れは身体強化の魔法を使ったとしても、変わらない私の弱点。
幾ら魔力の出力任せに、威力と速度を上げようとも、相手を押す力より、私自身が後ろへと押し戻されてしまう。
何時かギモルさんを相手に痴漢迎撃の練習をした時のように、魔法で反作用の起点となる足場を作りださなければ、私の攻撃は意味をなさない。
むろん、扱うのに高度な技術のいる武器などは問題外。
結局、幾ら足掻こうとも、私は魔法がなければ、何もできない子供でしかない。
でもやっている事は決して無意味ではないと思っているし、見つめる先は今ではなく数年後。
今は自分の身体を作り、自分に合った動きの下地を作るべき時。
あくまで、魔法以外の予備策と、より魔法を活かすための補助的な能力開発でしかない。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・
【コッフェル邸にて】
「という訳で、こんな物を作ってみたんですが、どう思います?」
「……だからな嬢ちゃん、毎回毎回、話を飛ばすなって言うんだ」
いいえ、コッフェルさんなら、此れで分かってくれるかと思いまして。
分かるかって、今回は分かるでしょう。
何せ、目の前の机上には作ってきた品の数々がある訳ですから。
「下着の意匠図の時にも言ったが、俺みたいな爺に女物の装飾品の善し悪しが分かる訳がないだろうが」
「そう思って貰えたなら、まず一つは成功ですね。
一応は此れ、魔導具なんですよ。
気を付けて見れば魔力感知で分かると思いますけど」
「はぁ~? まじか?
……って、確かに、よくよく気をつけて探ってみれば魔導具特有の魔力を感じるが」
凄腕の魔導具師であるコッフェルさんの目を掻い潜れたのならば、取り敢えずは第一関門である魔導具特有の魔力波長の隠蔽化はクリアしていると言える。
コッフェルさんは感心してはくれるけど、実はこの技術、私のオリジナルの物ではなくて、私の所有する収納の鞄を作ったアルベルトさんの技術を私なりに再現した物。
収納の鞄に施された魔導具を隠蔽する性能に比べたら、まだまだ未完成で気をつけて見れば分ってしまう程度の未熟な代物だけど、取り敢えず最低限使えるレベルには達したので、今回作った魔導具に施してみた。
まぁ、欠点としては弱い威力の魔導具にしかまだ使えないと言うのと、当然ながら魔導具を使用する時にはバレてしまうという事。
「未完成の借り物の技術なんですけど、それは置いておいて、一応は此れ、対人用の魔導具なんですよね」
「置いておける程度の技術じゃないんだがな」
「流石に危険な技術なのでお教えできませんけど、見て欲しいのは其処じゃなくて純粋に魔導具としての善し悪しです。
この手の物騒な魔導具は、コッフェルさんが第一人者だと思っていますから」
「……まぁいい。
それにしても、譲ちゃんがこの手の魔導具を作るなんて、どんな気紛れだ?」
「一応は、かよわい女性の一人として、防犯対策をしておこうと思いまして」
「かよわい?」
やかましいです。
ええ、言われると思いましたよ。
私だって、前世ではまさかこんな防犯グッズが、自分に必要になる日が来るだなんて思いもしませんでしたよ。
取り敢えずコッフェルさんの怪訝な眼差しは無視しして、順次魔導具の説明をしてゆく。
◆魔導具【報せの笛】
効 果:卵状の形状の片方を予め鞄やベルトに固定しておき、強く引っ張って固定金具が外れると、一定時間大きな音を出し続ける事によって、音に気が付いた誰かを呼ぶ効果がある。引っかかって固定金具が抜けるなどの誤作動に注意が必要。
◆魔導具【女王の眼差しの指輪】
効 果:逃げる際に魔力を込めて地面に投げつけると、地面一帯に水を張ると共に凍るため、追手の足を滑らせる事による足止効果がある。誤って相手にぶつけてしまうと、全身霜焼けになってしまうので危険。
◆魔導具【夜空に舞いし星の道標】
効 果:筒を空に向けて魔力を込めると、赤、青、白の魔法石を内蔵した輝石が空高く打ち出された後、石に付いた布でもってゆっくりと降下する事によって、緊急事態と居場所を知らせる魔導具。使用の際には筒の方向に注意。人に向けて放ってはいけません。
◆魔導具【乙女が纏いし神秘のベールの腕輪】
効 果:魔力を込めるとごく弱い不可視の雷の蔓が身体の周辺を這い、不用意に触れようとした愚か者を痺れさせる。ただし、相手を怯ませる程度の威力しかないため過信は禁物。
◆魔導具【眠り姫を守りし小人の首飾り】
効 果:気絶や睡眠中などの意識がない状態で、他者が身体に触れると、周囲に人を気絶させる程の雷波が発生し、無差別に周囲の人間を気絶させると同時に、極々弱い雷波を内側にも発して、使用者の強制的な目覚めを促す。ただし、自動起動の魔導具なので取扱いに注意が必要。
◆魔導具【乙女の眼差しの指輪】
効 果:指輪に魔力を込めると、指輪をした掌に不可視の雷が発生し、その手で掴んだ者を強く痺れさせる。相手が心臓の病持ちや老人の場合、相手をショック死させてしまうので注意。むろん、使用中に自分に触れればその雷は自分を襲うので誤作動に注意。
「……雷って、伝説の魔法だぞ。それをいとも簡単に魔導具化って」
「そう言うのは今はいいですから、道具としての意見をお願いします」
伝説の魔法だとか言ってはいるけど、単純にそれは雷の正体やその発生理由を分からないからできないだけの話、前世の記憶で雷や電気の仕組みを知っている私にとっては、再現するのに苦労しただけで出来ない話ではない。
むろん、此れも属性魔法を使用した雷はともかく、魔法で電子を操作して発生させる雷は、使い方次第ではかなり危険な技術なので、コッフェルさん以外には存在そのものは秘密にする予定。
どのような法則かは知らないけど、こうも電子を操作する魔法を魔導具化できないのは、ある意味、此の世界の安全装置なのかも知れない。
「まったく、凄えもん作っているって言うのに、相変わらず無関心でいやがる」
「価値観の違いです。
其れにコッフェルさんを信用して、見せていると言うのもありますし」
「あのなぁ何度も言うが、俺は悪い大人だぜ。
現に何度オメエさんを怒らせていると思ってるんだ」
「そうですよね。何度クソ爺いと思った事やら。
でもコッフェルさんは、私が本当の本当に嫌がる事はしない人ですから」
ええ、その辺りは信用できます。
気をつけないといけないのは、私個人の問題で起こる程度の弱みを見せる事ですね。
まぁその辺りまで気を付けていたら、つまらない人間関係になってしまいますし、お互い様といえばお互い様のところがあるので、深くは気にしませんが。
「はぁ……、こんな年端もいかねえ嬢ちゃんに、いいように手玉にとられるだなんて、俺も焼きが回ったなぁ。
しかたねえ、嬢ちゃんには借りもあるしな、勿体ねえが隠蔽の技術と雷の魔法の件は見なかった事にするとして」
コッフェルさんは、深いため息を吐きながらも、魔導具の一つ一つの動作を問答を繰り返しながら、動作までの作動時間や効果時間、発生する魔法の範囲やその形状など、細かなアドバイスをしてくれる。中でも、
経験から得た対人用魔導具特有の危険性や注意点などは、物凄く参考になったし私にはない視点だったため、大変に勉強になる。
「最初の三つはともかく、隠蔽の技術と雷の魔法を使った後の三つは、隠しておくか封印した方がいいな。
嬢ちゃんの言うような効果があるなら、当然威力を挙げようとする輩が出てくるだろうし、そうなれば其れを使って他国に戦争を仕掛けようとする馬鹿が出てきかねえ」
抗魔力が強い魔物が相手だと、かなり威力を上げないと効果のない雷の魔法も、人間相手であれば効果は絶大。
弱い雷を這わせた武具を作れば、相手に擦れるだけで人などは簡単に相手を無力化できてしまうし、掠らせなくても相手に此方の剣を受け止めさるだけで、一瞬とはいえ相手を動きを止めてしまえれる。
しかも、ほぼ一日で使い捨てになるとはいえ、魔法石もなしに雷の魔法を付加できるとなれば、平和ボケした野心家の大貴族ならばまず間違いなく使うとの事。
「うわぁ、其処まで想像しちゃいます?
と言うか、魔物がアレだけ跋扈しているのに、戦争をしかける余裕なんてあるんですか?」
「ある訳がねえだろ。
知ってはいると思うが、小さな小競り合いは除いて、この二百年、此の国が周辺国と戦争がねえのは、今が魔物の勢力が強くなる闇夜の星の刻だからだ。
国の星読みの言う通りならば、後数十年近くは続くだろうが、昼睡の星の刻にしたって今迄の統計上、二割ほど減る程度でしかねえ。
大半の人間に言わせれば、とても油断できるような物じゃねえよ」
此の世界は魔物が、生態系の頂点に立つ世界。
そして、大体二百五十年周期で、魔物の勢力が強くなる時期と、少しだけ勢いが収まる時期とを繰り返しているらしい。
魔物の勢力が強くなる時期は、魔物からの防衛に力を入れ。
逆に魔物の勢いが収まる時期は、その時期の間に少しでも魔物を減らすために力を入れる。
此の世界の人々は、其れを繰り返している。
其れでも人が生活をすれば当然の如く諍いが発生し、時には大きな戦争にまで発展する事があったらしく、そんな戦争の後には、魔物襲撃によって互いの国や、其処で暮らす人々は大きく疲弊し、より被害を大きくしてきたとの事。
「平和ボケの野心家って、かなり傍迷惑な存在ですよねぇ」
「全くその通りだ。そう言う連中に限って現場の苦労や悲惨さを知らねえから、頭の中を花畑にしたまま机上の理論で動きやがるからな。
しかも、そう言う奴はどの国にも存在するから性質が悪い」
コッフェルさん曰く、強硬派と言われる貴族の大半は、実際には反戦争派で、外交圧力を高める事で、より有利な条件を引き出そうとしているだけに過ぎないらしいのだけど、その中や穏健派に隠れている中に、正真正銘の平和ボケした馬鹿が本気で開戦を望んでいる人達が一定人数はいるらしい。
「まぁ、そんな馬鹿共の話をしていても仕方ねえが、嬢ちゃんはそう言う馬鹿共に目をつけられねえように、作る魔導具には気を付けておけ」
なるほど、其れは厄介ですね。
そう言う事なら雷系の魔導具は封印かな。
私だって戦争の引き金になるような魔導具を、世には出したくはないですしね。
「あと足止めする奴と、音の出る奴と、光球が飛び出す奴は使えそうだから、商会に登録する前に、先ずはラフェルとライラの分も作ってやってくれ、金は俺が出す」
あのお二人のなら私が贈っても、……コッフェルさんが贈りたい訳ですね。
まぁそう言う事なら、……と言うか、今までこう言う魔導具、コッフェルさん作らなかったんですか?
非殺傷目的とはいえ、一応は攻撃用魔導具ですよ。
「基本、殺るか、殺られるかを前提にした物ばかりだったからな、こう言う絶妙に威力を抑えた魔導具という発想そのものが無いから仕方がねえだろ」
……そうですよね。
可愛い姪や大姪の手を血で染めさせたくないですよね。
コッフェルさん、基本的に発想が物騒ですからね。
ああ、でも一応は、作ったのは私と伝えておいた方が良いかも知れませんね。
怖がって、使えないなんて事になりかねませんから。
「……俺より嬢ちゃんの方が、信用あるって言うのが遣る瀬無えなぁ…」
「しょうがないですよ。
綺麗な手段ばかりじゃ守れなかったんでしょうから。
でも、ラフェルさんにはきっと伝わっていると思いますし、ライラさんだって分かってはいると思いますよ、色々と誤解があるだけで。
もし本当に誤解があるなら、私が間に入ります、そのためなら惜しみませんから、遠慮なく言ってくださいね」
きっと、この人の事だから、陰ながら二人を守ってきたのだと思う。
現役を引退して十年以上たった今でも、コッフェルさんが戦闘用の手袋を肌身から離せないのも、そしてその手袋がそう古く無いにも関わらず、その手袋が使い込まれ、汚れていたのも、その証だと思うから。
少なくとも私利私欲で、その手を汚す人間では無い人だと私は信じているし、商会のヨハンさんやアルフォンスさんを見れば其れは分かる。
……まぁ、多分に胡散臭い人達である事には違いないけどね。
でも、だからかな、そんな言葉が自然と口から出る。
ライラさんもコッフェルさんも素敵な人だし、私にとって大切な人達だから。
「嬢ちゃんは将来、良い女になるかもな」
「そんなお世辞を言っても、セクハラ発言や悪戯は容赦無く叩きますけどね」
こう言っておかないと、コッフェルさんの事だから、言質を取ったと言わんばかりに面白がって遣りかねない。
本当にこう言うところは困った人だから、その時はお説教です。
言葉でも、物理的にも。
「嬢ちゃんは年寄りに冷てえなぁ」
酷い言い掛かりである。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・
【翌朝】
「そんな訳で、こんな物を作ってみましたので、セレナとラキアにもプレゼントです」
「ふ〜ん、まぁ、ただの痴漢や変質者程度なら、半殺しにできる自信はあるけど」
「そんな変態に触れるのも嫌だから、あれば助かるといえば助かるかな。
でも、これ、高いんじゃ無いの?」
「いいえ、魔法を使って製作はしていますけど、魔導具ではなくて、ただの道具ですから」
防犯グッズの魔導具の大半が封印になってしまったので、魔法で前世の催涙スプレーのような物を再現してみた。
この世界では安価な鋁のボンベの中に、唐辛子やネギや生姜など様々な刺激のある物を材料に濃縮エキスを作り、それをアルコールで希釈してから圧縮空気と共にボンベの中に封入した物。
先端の保護カバーを外して、先端を押し込むと刺激物が噴霧状になって吹き出す仕組み。
持ち運び性を重視したため二、三回分で中身は無くなるけど、魔法を使えば再充填は可能な作りになっている。
効果のほどは、濃縮エキスを作っているだけで、かなりクルとしか。
「あっ、兄さん丁度良い所に来た。えいっ」
プシュッ
「ぐっおぉぉぉぉーーーーーーっ!!」
……ラキア、幾ら試してみたいからって、なんて事を。
ラキアの兄であるギモルさんが地面に転がって悶絶する姿に、戦慄を覚えていると、あっ、風の向きが……。
「うきゃーーーっ! 何これっ! 痛いっ! しみるっ!」
風向きが変わって、まだ空中に漂う催涙成分を被ったラキアが、ギモルさんの横で悶絶する姿に、ギモルさんと違って同情は覚えない。
……まぁ、この場合は、自業自得、因果応報だからね。
取り敢えず、私はギモルさんを診るから、セレナはラキアをよろしく。
ラキアの方は目と顔を洗う程度で収まると思うから、その後に皆んなでお説教と言う事で。




