表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
179/977

179.魔物の生態と言うより、討伐騎士団の生態調査です。





 ぶるるぅ。


 時折、大きな唇を震わせて鳴く声と、幾つもの蹄の足音をBGMに改めて凄いと思う。

 なにせ凸凹の激しい山や沢なのに、平気で馬に乗って移動している兵隊さん達に、よくも振り落とされない物だと感心するしかない。

 魔物の討伐隊としては、総員二十名程の小部隊。

 今回は後学のために、それに同行させて貰っている。

 同行者は私とジュリ、そしてルチニア・メルローズさんことルチアさん。

 私は、こう言った遠征の実態を知っておきたいと言う、物見遊山とも言える動機ではあるけれど、ジュリは以前に討伐騎士団を目指す様な事を言っていたので、実態を知っておくのも良いだろうと半ば強引に誘った。

 最近、愛称呼びを許されたルチアさんは、元討伐騎士団に所属していた魔導士の経験を買って私のアドバイザーをお願いをしていたのだけど、義足の調子を見る為にも丁度良いと同行してくれた。


「うわぁ、あんな段差を人も荷物も乗せたままなんて凄いですね」

「あれくらいできないと、魔物の領域近くまで歩く事になりますから」


 ルチアさんはそうは言うけど、私は馬に乗った経験などせいぜいお父様やお兄様達、それとコッフェルさんの前に座らせてもらった事があるだけで、一人で馬に乗った経験など前世を含めても無いから、自分にできない事をできる人達にはどうしても羨望の眼差しを送ってしまう。

 今は二人用の鞍を付けたルチアさんの前に乗せて貰ってはいる。

 正直、股ずれがして痛くなるし、自分の足で歩いた方が早くて楽だと言う思いはあるけど、此処は皆んなに合わせないとね。

 ただ、左右にスリットが入って、下に薄手のズボンの様な物を履いているルチアさん達と違って、私の格好だとスカートが捲れてしまう事があるから、気をつけないといけない。

 幸いな事に此の部隊では、そう言う病気の人はいないようなので安心ですけどね。


「やっぱり、普通はこうですよね。

 最近、ユゥーリィさんの狩りに付き合っていたから、常識を見失いそうでしたから」

「ユゥーリィさんとだと、どんな感じなんですか?」

「馬が駆ける速度で山道を、しかも私を背負子に乗せたまま一日中駆けた事も」

「……普通なら、冗談だと思うところなんでしょうね」


 こらっジュリ、人を化け物みたいに言わないの!

 ジュリだって、もっと魔力制御を鍛えれば、半日ぐらいは保つはずですよ。

 彼女の場合は魔力投入型の身体強化だから、瞬発力と燃費は良いけど、その分魔力以外に体力もそれなりに消費する。

 それでも、同じ魔力投入型のヴィーやジッタの身体強化と比べれば、彼女はまだまだ無駄が多いと言わざるを得ない。

 そもそも、馬での移動だって領域の入口付近までで、結局は歩きになるのは一緒なの。


「どうやら休憩のようですね」


 前方の方、少し木々の間隔が開いた場所で、部隊が固まって止まっているのが分かる。

 前世の車と違って、馬だとだいたい二、三時間に一度くらいの休憩が必要みたいだけど、問題は人より馬の数の方が倍近くあると言う事なんだよね。

 その理由は、人が載っていない馬が運んでいる荷物の何割かが飼料だったりする事。

 馬は一日十キロ近くもの草を食べるらしいから、半分は現地調達するにしても相当な量になってしまう。

 行軍中、時間の掛かる食事は一日二、三回に分けてまとめて食事を与える時間を取るのだけど、大きな外道沿いであれば、そう言う休憩所が作ってはあるけど、それ以外ではそう言う草が生えている場所を探すか、荷物として持って行くしかない。

 今は荷馬車の所に大半は置いてきてはいるけど、この辺りは早速改善すべきポイントだと思うので、後日ヨハンさんに相談しようと思っている


「ちょっと行ってきます」

「必ず顔か頭が見える所にいてください」


 ジュリが少し離れて低い木々の中に入っていくけど、何処に行くかは深くは突っ込みません。

 生理現象ですから仕方がないんです。

 すでに危険な領域近くに来ているので警戒は必要ですし、なにか遭った場合にはすぐに動けないといけないので仕方ないのですが、ジュリの場合はまだ良いです。

 年齢の割に背が高いですから、比較的低木が高かったり、少し遠くでも見えますからね。

 でも私の場合は背が低いので、どうしても行動範囲が限られてくる。

 まぁ大体は、事前に部隊で男女の方向を決めておくらしいので、男女が現場で遭遇すると言う事故は、滅多に無いみたいですけどね。

 そこへ連絡なのだろう、部隊の見知った顔の人がやってきて。


「陽が高くなる前だが、ゆっくり休憩できるのは此処が最後だ。

 そちらのお嬢さんも、此処でションベンを済ませておくといい」


 ええ、親切心で言っているのは分かります。

 この先は魔物の領域に、完全に入る訳ですから、なるべく隙を排除したいと言うのもあるけど、魔物への恐怖で失敗をしてしまわないかと心配しての事だとは。

 実際、魔物への恐怖で失敗してしまった人を知ってますし、その後始末もしましたから、その心配も分かります。

 ただ、言い方にデリカシーが無いと思うだけで。


「御心配ありがとうございます。

 連絡は以上で?」

「此処から先は歩きになる。

 今の内に軽く腹拵えをしておくようにと」

「了解しました」


 ルチアさんの隙の無い問答に、連絡の中年男性の兵士さんは、やや顔を引きつらせながら、戻っていくその姿に、あの人、あんな事があったのに、よく来るなと思う。


「やっぱり初日にやりすぎたのでは?」

「十分に手加減はしましたよ」


 まぁ、そうなんですけどね。

 此の部隊の人達は、隊長さん以外は基本的に私達の事は魔導士で、同行者として随伴し案内するようにとしか指示されていないらしい。

 ヨハンさん曰く、私に護衛や下手な気遣いは不要だと判断したためとか。

 私みたいな小さな女の子に対して酷い話だとは思うけど、実際その通りなので文句は言えない。

 下手な護衛はむしろ邪魔だし、変な気遣いをされたら参考にならない。

 そう言う意味では、ヨハンさんの言う通りなのだけど、それが裏目に出たのか、初日の休憩時間に、さっきの男の兵士さんと揉め事が起きちゃったんだよね。


『はぁ〜、まったくこんな子供が随伴なんて、討伐遠征は何時からピクニックになったのかねぇ〜』

『お手数をお掛けしないように気をつけますので、よろしくお願いします』


 ええ、これ位の事を言われるのは、最初から覚悟はしていたので笑顔で対応したのだけど、この後に余分な一言をこの人は言っちゃったから。


『そう願いたいものだね。

 メルローズさんだったか、自分の子供(・・・・・・)が大切なら目を離さねえこったな』

『私にこんな大きな子供がいるように見えると?』


 二十二歳のルチアさんに、十二になる私みたいな大きな子供がいる訳がない。

 案の定、ルチアさん、正面から失礼な事を言った兵士さんを、同じく正面からブチのめしちゃいました。

 魔導士が兵士相手に身体強化も使わずに、肉弾戦のみで圧倒ってどうなのかと思う。

 しかも義足というハンデ付きなのにですよ。

 幸い、唯一私達の事を知る部隊長のダスチニア様が、すぐに止めてくれた上で事情を聞いたあと、一言多かった人を殴られて当然だと叱責した上で、馬洗の罰を言い渡されていたので、それ以上の騒ぎにはならなかったのだけど。

 あの一件以来、私達というかルチアさんに、何処か苦手意識ができてしまったみたいなのだけど、それならば来なければ良いと思うのに、なんやかんやと声をかけてくるんだよね。


「言いたい事は分かりますけど、私がルチアさんの子供って、流石に酷いですよね」

「私にユゥーリィさんの歳の子がいたら、私が十の時に産んでる事になりますからね。

 普通の適齢期で産んだ事を考えたら、今頃は三十路に突入していますよ。流石にそれは聞き流せません」


 うん、ジュリが今此処にいなくてよかった。

 例え話でも、幼い子供の時に出来た子なんて会話は、あまりジュリには聞かせたくない話なので、話題を強制的に変更。

 そう言う意味では、十二になる前に、直ぐに子作りするから寄越せみたいな婚姻話が原因で、成人する前に家を出た経験のある私も人の事は言えないしね。


「じゃあ準備しちゃいますね」


 周りから良い匂いが立ち始めたので、皆さん軽い食事を取り始めたのだろう。

 幸い此の部隊は、商会の商品の実験に協力して貰っている部隊でもあるので、携帯(かまど)やフリーズドライ食品であるスープも先行試験導入されているため、ルチアさん曰く、彼女が討伐騎士団に所属していた頃からしたら、考えられないほど恵まれた環境らしい。

 そもそも此の規模の部隊に、貴重な治癒術士まで付いて来ている時点で贅沢な事らしいけど、新製品のデーター収集が半ば目的なところもあるので、生きて帰って来て貰わないといけないのため、追随しているのでは無いかとの事。

 そう言う訳で、私達も部隊の方と同じような軽食。

 硬いパンとトマトベースの野菜スープです


「でも、この硬くてボソボソのパンは懐かしいですね。

 実家にいた時は、こう言うパンばかりでしたから」

「「……」」


 今までは道程にも荷物にも余裕があったため、新製品の乾麺をお湯で戻した物とかを食べさせて戴いたけど、流石に荷馬車が入れなくなる山奥にまで来ると、それだけの余裕はないためか、遠征では標準であると言う保存性優先の黒くて硬いパンに、つい郷土の味を思い出してしまう。

 ……もっともエリシィーやダルダックお兄様の話からすると、庶民はともかく、教会や名主等のある一定水準以上の家で、こう言う日持ちと栄養価優先のパンを食べていたのは、ウチだけだったらしい。

 そこまでしてお金を貯めておかないと、いざという時に魔物を討伐するために傭兵を雇えないと言うのは、家を出た今ならばよく分かる。

 あんな田舎までこう言った部隊に、食事や物資、そして礼金を用意しようと思うと、世間一般では半端ではない大金が必要だもの。

 

「あれ? どうしたんですか?」

「……家でこのパンって」

「……苦労されていたのだと思って」


 なにか同情されてしまったけど、この硬いだけのパンすら食べれない人達がいると思うと、別に同情される程ではない。

 あくまで実家の特殊な事情で、敢えて日持ち優先の安価なパンを選んでいただけの事だと、簡単に事情を説明しておく。

 

「……灰色角熊(グレイ・ベア)対策ですか」

「確かに討伐依頼はかなり高額になりますからね」


 シンフェリア領では、百年に一度くらいの頻度で、魔物の領域から逸れて出て来るらしく、その対応に代々苦労してきた魔物。

 逆に此奴等がいるから、あの辺りでは他の魔物が出て来ないとも言う説があるくらい。

 なにせ灰色角熊(グレイ・ベア)は角熊の中では、力も早さもない方ではあるけど、その代わりに生命力に溢れた魔物で、切り傷や刺し傷くらいなら、目の前でみるみると塞がってしまうらしい。

 討伐のしにくさと言う意味では上位種の緑角熊(グリーン・ベア)赤色角熊(レッド・ベア)よりも厄介な上、一番の問題は此奴等は群れで動く事。

 単体での脅威度なら人災級ではあるけど、群れの場合は戦災級でも上位に位置する懐泣かせな魔物。

 せめてもの救いが、群れとしての移動はゆっくりなため、避難が間に合いやすいと言う事。


「討伐資金だけでなく、避難中の領民の生活の保証や補填、再興資金も必要ですから」

「そんな事までやってあげるんですの?」


 ジュリは驚くけど、田舎だと力を合わせないとやっていけないし、そう言う事をするからこそ、領民が尽くしてくれる訳だから、特段おかしな事ではないと思う。

 あと、田舎だから人口が少ないから出来るとも言えるけどね。

 これが街レベルの人口となると、必要となるお金の桁がハネ上がる訳だから、大きな街を持つ領主は領主で、悩みが大きいと思う。

 だからこそ一定以上の人口と収入のある領は、自前で兵を揃えるのだけどね。

 その方が街の見回りとか色々と汎用が効くし、結果的には安上がりになるから。


「各自、出立準備に入れ」


 そんな声が聞こえて来るので、軽い食事は終わり。

 此処から先は、匂いを発する暖かいスープを作る事もできないし、休憩時間も少なくなる上、野営も交代となるらしい。

 もっとも、荷馬車を待機させている所まで日帰り予定なので、その心配は少ないものの、何があるか分からないため、最低限の準備だけはしてきている。

 収納の魔法のおかげで、荷物の量を心配する必要のない私には、関係のない話ではあるけどね。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




「おかしいと思いません?」

「今更だけど、おかしいわね」


 後ろからついて来るジュリとルチアさんが、それこそおかしな事を言い出す。

 二人曰く、私の盾の魔法の使い方がヘンテコらしい。

 私はブロック魔法と呼んでいるけど、使い方はブロックそのもの。

 安定した足場にしたり、壁にしたり、組み合わせたりと用途によって、形状と大きさを変えているだけなので、そうヘンテコでもないと思うのだけど。

 背の高い馬に乗るのも、これで階段のように乗り降りしているので、今更と言えば今更だと思うのだけど。


「あれで魔力が尽きた事がないって言いますのよ」

「羨ましいを通り過ぎて、呆れ果てますね」


 むぅ……そういえばコッフェルさんが以前に似たような事を言っていた気がするけど、盾の魔法の魔力消費量は確かにそれなりにはいる。

 でもその魔力消費量は、身体からの距離と、強度と体積と展開時間に比例する。

 足元に私一人の体重を支えるくらいの強度の小さな魔法を一瞬作るだけなら、それほど魔力は消費しない。

 それこそ二人の魔力容量でも、一日は余裕で保つぐらいで済むはず。

 あと初見のルチアさんは仕方ないにしろ、ジュリには以前にも説明しているので、単純に鍛錬不足なだけです。


「慣れの問題ですよ」


 周りを警戒しながらなので、行軍速度は知れているので、話すだけの余裕はある。

 そう言っている間に、私の背の高さの岩場を、ブロック魔法を階段にして一気に駆け上がって見せる。

 身体強化で一気に登る事もできるけど、ブロック魔法と並行する方が実は魔力の消費量は少ない。

 私だって無闇矢鱈と魔力を消費している訳ではなく、ちゃんと考えている証拠でもあるし、こう言う事に慣れておけば、いざと言う時に役に立つ。


「強度を強めてやれば盾にもなりますし、こうして空中でも瞬間的な足場にしたり、方向転換もできますので、応用範囲はかなり広いですよ」


 そう言う訳で、上で引っ張り上げようとしてくれた例の一言多い兵士さん、お気持ちはありがたく受け取っておきますが、小さくても魔導士なので心配無用です。


「そ、そうか」


 そう言って、早足で前に進んでしまわれるから、少しだけ申し訳なかったかな。

 もしかすると、これを機会にルチアさんに謝罪でもしようと思ったのかも知れない。

 少しだけ良いところを見せてからの方が、当人も言いやすいですし、受け取る方も受け取りやすいでしょうからね。

 まぁ逆にそう言う所が気にくわないと取る人もいるから、相手によりけりでしょうけど。

 そう言う訳でルチアさんどう思います?

 ……表面的には前者で対応して内心的には後者と、さすがは大人の対応ですね。

 あと、アレはそう言うのじゃないと、ふ〜む、じゃあなんなのでしょうね?




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




 ぶっ!ゔぉふっ、ゔぉふっ!


 魔物の領域に入って一時間、ようやく魔物と御対面。

 大牙猪(フィールド・ボア)ですが、二人の大楯持ちが並ぶ事で、体をより大きく見せかけて魔物の興味を引かせて、突っ込んできた所を、左右に分かれて回避。

 そこへ数人の兵士が剣や槍で足を狙う。

 どれも浅い攻撃だけど、目的は相手の足を鈍らせる事。

 主に突進力の要である後ろ足を狙っている辺り、よく考えていると思う。

 動きが鈍ったところへ、今度は剣が深く入り足そのものを斬り飛ばし、動けなくなったのを見計らって、部隊の魔導士が風の刃で首元を大きく切り裂いて、ほぼ決着だけど、止めとばかりに兵士が、大牙猪の腹を切り裂き、確実に息の根を止める。


「流れるような連携ですね」

「聞いてはいたけど、此処まで戦い方が変わっているとはね」


 称賛する私の横で、ルチアさんが教えてくれる。

 以前は、もっと大柄な剣でないと大牙猪の身体強化の掛かった硬い毛皮を切り裂く事はできなかったし、威力はあっても重い剣のため、どうしても動きが鈍くなってしまい、その結果、獲物には避けられやすく、逆に此方は怪我人も出やすいものだったらしい。

 新型の剣や槍の威力のおかげで、そこまで重い剣や槍を使う必要がなく、武具が軽くなった結果だろうと。


「……軽いって言っても、私、持ち上がりませんよ」


 前に持たせてもらった事はあるけど、魔法を使わなければ、剣先が地面から離れる事すらできないくらい重い。

 アレでも軽い剣って、以前に使っていたと言う剣はどれだけ重いのか。


「ユゥーリィさんは、ちょっと無理かもね」

「アレぐらいなら、剣としては普通の対人向けの物より少し重い程度よ」


 どうやら、従軍経験のあるルチアさんだけでなく、ジュリも振り回せるらしい。

 それだけ、素の私に力がないって事なんだけど、二人とも凄いと思う。

 ……ああ、実際に振るう時は身体強化を使わないと、すぐに身体を痛めるからやらないけど、魔法なしだと二十回がくらい限度だろうって、それでも十分凄いと思うけど安心しました。

 ……女性の兵士の中では、身体強化なしで昔の大剣を平気で振り回せる人がいると。

 

「それと、大剣は昔じゃなくて現役よ。

 実験的要素のある部隊だとしても、此処が恵まれすぎているだけ。

 大半は、今も大牙猪は十分に危険な相手なのよ」


 ものの数分で終わった、大牙猪との戦闘だったけど、退役魔導士であるルチアさんには、様変わりした今の戦い方は、十分に衝撃的だったみたい。

 そして私も衝撃的だった。

 だって、せっかく狩った大牙猪を、魔石だけ取り出したら地面に埋めて破棄なんですよ。

 皮だって、かなり痛んじゃってますけど、それなりに売れるし、お肉だって白角兎(ホワイト・ラビット)にはほど遠いけど、普通の豚よりはよほど美味しい。

 それを廃棄だなんて信じられない光景だった。


「目標を定めた討伐遠征だと持ち帰る事もあるけど、こういう巡回を兼ねた遠征は、複数の個体を狩るから、いちいち持ち帰っていられないわね。

 血の匂いで他の魔物を呼び込みかねないし」


 確かに魔物の大半は身体がそれなりに大きいので、持ち帰るのも一苦労だと思う。

 大牙猪も解体して、幾つものブロックに分けないと持ち帰れないし、身体強化持ちにしても、バランスの関係で一人ではとても無理だろう。

 魔導士は当然ながら、魔力の温存といざという時にすぐに動けないといけないらしいので、荷物の運搬の対象外とされている。

 私がよく使う収納の魔法は、使い手そのものが少ないし、大抵は前線には出ずに輜重隊や物資運搬の業務がほとんどだとか。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




 その後も周辺を探索、黄金大蝙蝠(ゴールド・バッド)一角王猪ドス・エンペラー・ボア岩崖大鳥(ローックバード)群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)を二匹を倒したところで仮のベース基地まで帰投。

 因みに一角王猪と岩崖大鳥は、私が申し出てお持ち帰り。

 毛皮は傷だらけで売り物にはならないと言っても、小物用には使えるし、お肉は十分に使える。

 私が収納の魔法持ちな事に驚いていたけど、素材確保用に他の獲物も私が持ち帰る事を条件に、引き取らせてもらった。

 ええ、がめつくて結構、どうせ持ち帰れずに破棄するお肉なら、美味しく有効利用です。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ