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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
176/977

176.妹って、こんな感じなのかな?





「慣れって怖い物ですわね」


 ふと隣にいるジュリの口から零れ出る言葉に、少しだけ苦情を言いたい。

 慣れたと言うのなら、獲物の解体の方もいい加減に慣れてほしい。

 グロいのは解るし、直視したくない気持ちも解るけど、目を瞑って刃物を扱うのは危険だし、せっかくの素材を無駄にする。

 なにより見ていて物凄くハラハラするので勘弁してもらいたい。

 もっとも私自身、自分でやれるようになるまでに、それなりに時間がかかったので、そう強くは言えないのだけど、やり始めてからは、目を瞑る段階は早々に卒業はしたのも事実。


「これだけ傷付いていたら、良くて半値かな」

「五箇所だけですのに、そんなに引かれるんですのっ!?」


 溜息まじりの私の言葉に、ジュリが驚きの声を上げるけど、当然だと言いたい。

 その五箇所のうち三箇所が、広く採れる場所の真ん中に点在している。

 縁ならともかく、これでは大きな革生地は採れないので、本来の三割の値段でも文句は言えない。


 魔物:岩崖大鳥(ローックバード)


 脅威度としては下から二つ目の有害級の魔鳥。

 渓谷などの岩壁に巣を作り、前世で言うヒクイドリを大きくして太らせたような、飛べない鳥の魔物。

 岩壁を垂直に駆け上がったり、短いながらも滑空はできる。

 

「鶏冠の羽飾りが綺麗だから高く売れるのに、頭部を吹き飛ばしているから素材となるクチバシも採れないし」

「ゔっ」


 一番高く売れる部分が尽く駄目では、溜息も出ると言うもの。

 動きが速いから狙いが逸れるのは分かるけど、素材を採るつもりなら仕留めるのに爆裂系の魔法は止めてほしい。

 ……制御失敗して爆裂しただけと。

 ジュリ、帰ったら夕食までに制御鍛錬をしようか。

 みっちりと細かく見てあげるから。

 悲鳴を上げない。手元で爆裂してたら危ないでしょうが。

 まったく、最近は魔力制御にもだいぶ慣れて来たと思ったら、これなんだから。


「とにかく、全体で三割以下の値ってところね」


 見本で私も一羽獲ってあるけど、これだけ傷ついていたら、それぐらいの差が出てしまう。

 まだ、ジュリは狩りとしては五回目だから、仕方ない事なんだけどもう少し落ち着いて狙ってほしいものである。

 慣れて来ても魔物は怖いから仕方がないって、災害級のクラーケンや戦災級の剣牙風虎サーベル・ウィンド・タイガーよりマシでしょうが。

 比較対象がおかしいって、クラーケンはジュリも実際に立ち向かったじゃないですか。

 ……立ち向かっていない、必死に私に付いて行っただけと。


「でも、この夏で見違えるように上手くなったのは確かかな」

「必死だったとはいえ、自分でも驚きですわ」

「ではその必死さを一ランク上げ」

「絶対にお断りですわっ!」


 話も途中でぶち折られました。

 冗談ですから、そんな涙目で抗議しなくても、大丈夫です。

 人災級クラスどころか、同じ有害級でも上位のものだと、今のジュリ一人では逆に狩られかねないですから、そんな事はまだ(・・)やらせませんから。

 そんな不安そうな顔で抱きつかなくても大丈夫ですよ、近くにはいませんから。

 すぐ近くにですけどね。

 とりあえず、必死にしがみ付くジュリを宥めて移動。

 まだ狩りを続けるのかって、少しだけです。

 流石にジュリの狩った獲物がこれだけ痛んでいると、引き取ってくれる店に申し訳ない。

 ドルク様の商会を通す程の魔物ではないので、コッフェルさんが最初に紹介してくれた店に卸すつもりなのだけど、未成年の私から引き取ってくれる代わりに、それなりの品質が求められる。

 つまりこのままでは、紹介してくれたコッフェルさんや、私の信頼の問題になるため、ゴマスリのための得物を少しだけほしい。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




「生きた岩崖大鳥(ローックバード)の卵とは珍しい。

 いやぁ〜、ユゥーリィさんには、何時も良い物を回してもらって助かりますが、これはまた珍品ですよ」


 親がいれば当然近くに巣があり、年に三回も卵を生む岩崖大鳥の三回目の産卵期なので、あると思ったら案の定ありました。

 とりあえず幾つもある巣のうちから、戴いて来ました。

 巣にいた親鳥? むろん既に査定済みの台の上に転がっていますよ。


「…あぁ、…これは、ちょっと」

「すみません、今回は全部任せたらそうなってしまって」


 そして案の定、ジュリの狩って来た獲物には、物言いがついてしまった。

 本来はこの店では買取拒否されるような傷物で、逆に言うとそうやって差別化しているからこそ、冒険者ギルドと棲み分けができていると言える。

 それが分かっているので、店員さんにごめんなさいと言いながらも頼み込む。


「まぁ、これくらいなら使えない事はないので、今回は特別に引き取りましょう。

 ユゥーリィさんもそうですけど、彼方のお嬢さんも若いのに、此れだけの獲物を狩れるのなら、将来が楽しみですしね」


 そのあとジュリは細かい金額査定を教えられた後、解体時の諸注意やコツなど幾つか教えて貰っていたようなので、多分、次回はもう少しマシになると思う。

 え? 私に話ですか?


「いきなりアレ程の獲物でやらせるのは勿体無いから、鹿や猪で練習させてやってくれ。

 話を聞くと、解体そのものの経験が、ほとんどないみたいじゃないか」

「……はい、ごもっともです」


 怒られてしまいました。

 魔物に慣れさせるのが主目的なので飛ばしましたけど、お店に迷惑をかけるようなら、必要ですよね。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




「練習では、百回とも形にはなってるかな」

「今の私では、これ以上の圧縮は危険ですから」


 昼間、ジュリが発動しようとした魔法は、高速水流で出来た円盤型のカッター。

 水流の流れが一方向で、尚且つ圧縮が少なめで済むこの魔法は、今のジュリのメインの攻撃魔法と言える。

 元々、【火】属性より【水】属性の方が親和性があるけど、ジュリの師匠さんが【火】属性と無属性しか持ってない人だったらしく、おまけに学院でも【火】属性が好まれることから、ジュリ自身も【火】属性に傾倒していたらしい。

 いざ実戦となると、実は【火】属性の攻撃魔法は余程魔力制御が身につかないと、危なくてあまり使えない。


「身体強化や、盾の魔法と併用しながらですと、どうしても」

「的と違って動くし、自分も動かないといけないからね」


 しばらく、アドルさん達の狩猟に付き合ってみる?

 あの人達通常の野生動物の狩場だから安心だし、五人なら大抵の事は大丈夫だと思うよ。

 ……セレナとラキアはともかく、アドルさんとギモルさんは苦手と。

 あれ? でも二、三回ほどしか顔合わせた事ないよね?

 三回とも胸を凝視されたと。

 ジュリ、私と違って育っちゃっているから、同じ年代の女性でもその胸には目が行くと思うよ。

 それと男はそう言う生き物で、大半は悪気はないから、本能でつい目がいっちゃうだけだからね。

 大丈夫、セレナとラキアにもちゃんと、その胸、もといその旨をお願いしておくから。

 うん、もちろん私も付き合える時は付き合うからね。


「さてと、夕ご飯作っちゃうから、その間にお風呂を洗って来て」

「分かりましたわ」


 そういって、ジュリはお風呂場に向かってゆく。

 どうやらジュリもお風呂の良さが分かったらしく、今やほぼ毎日入ってゆく。

 と言うか朝夕の食事が外食と買い置きから、完全にウチにシフトしたらしく、ご飯とお風呂と魔力鍛錬の間は、私の部屋にいると言う半同棲状態。

 まぁ一人作るも二人作るも変わらないし、ちゃんと食費は置いて行ってくれるので、私としては問題はなし。

 魔力鍛錬にしたって、ウチでするのは数日に一度だし、ちゃんと空気読んで私が集中している時は邪魔をしないし、部屋の掃除とかもしてくれる。




「すーはー、……この感触と匂いって安らぎますわ」


 偶に、こうして甘えてくるのも、可愛いといえば可愛いので良いんですけど。

 人の匂いを嗅ぐのは恥ずかしいので止めてほしい。自分も身に覚えがあるから、強くは言えないけど、言葉にはしないで欲しいかな。

 自分の身体ってそんなに臭うのかと、本気で心配になってしまう。

 それでも狩猟の後は昂ったり、麻痺していた恐怖が襲ってくるものだから、狩猟をした日のお風呂上がりに、こうして抱きついてくるくらいはジュリの好きにさせている。

 ジュリ自身、こうやって不安を解消しようとしているのが分かるし、私もジュリの香りと感触は嫌いじゃないですからね。

 なんと言うか、身体の大きな妹を持った気分だと言えば、分かるかな。






 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

【ジュリエッタ談】

「ユゥーリィさんは、きっと安らぎ成分でできていますわ。

 ……同時に、人をいきなり魔物の領域に連れて行く、人非人ではありますけどね」




【某少年二人の声】

「いや、あれは見ちゃうだろ」

「ああ、悪いと思っていてもつい目がな。

 ユゥーリィも良いけど、あれは男の浪漫だしな。……いや、悪気はないんだよ」

「駄目だって思っても、埋もれてみたいと思っちゃうしな」

「一度は思うよな。って、お前はセレナ一筋やなかったのか?」

「それはそれ、これはこれだ。

 だいたい、アイツは育っても多分無理だろ(w」

「ラキアはもっと無理だろうな(w」

「へぇ〜、随分と楽しそうね♪」

「お兄様、少し大切なお話がありますのよ♪」

「「ひっ!」」






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