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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
172/977

172.可愛いは正義です。ご飯三杯はいけます!




「乾麺ですか。

 乾燥野菜や果物は知ってますが」

「乾パンとは違って、お湯や水で戻せます」


 クラーケンのお土産の件は、後始末を商会のヨハンさんにお願いしておいて、それとは別に相談事として、机の上に並べた幾つもの種類の乾麺と、数口分ずつの試食品とレシピ。

 丸麺、平麺、野菜を練り込んだもの等様々。

 専用の箱を作れば運搬中に折れる事も少ないと思います。


「なるほど、此れならば直ぐにでも取り掛かれますね」

「その間に、別の保存食の開発を進めたいと思います」


 フリーズドライ食品の開発。

 一度に数百人分ずつを大量生産する事を前提にすると、どうしてもそれなりの設備を作らないといけないし、多くの魔導士の協力がいる。

 私一人では、とても出来ないし時間も足りない。


「まずは数十人分を作れる器具と、幾つかの料理や食材を試作しますので、その後の研究を引き継いでくれる方を紹介してもらえればと」

「宜しいので?

 此方から下に付ける事も可能ですが」


 ヨハンさんは心配してくれるけど、誰も好き好んで私みたいな子供の下について仕事などしたくないだろうと思う。

 なにより違う視点もあった方が、より良い製品ができやすいと思う。


「では共同開発者という事で、話を進めさせてもらいます」

「殆ど丸投げになるのに、共同開発で良いんですか?」

「此処まで完成しているのなら、むしろ共同開発者として名前を並べられるだけ、相手にとってはありがたいと思いますよ」


 開発を進めるにあたって、上下関係をハッキリさせておいた方が、管理しやすいとか。

 実際に改善とかには協力するつもりなので、商会がその方がやりやすいと言うなら、それで構わないのでお願いします。

 あと開発した食品その物を取り扱うのは構わないのですが、ある程度普及したら、設備とレシピと担当する魔導士の教育を販売すると言う事も考えて戴けたらと思います。

 ええ、どうせその内に真似をされるでしょうから、信頼と実績を武器に売りだすんです。


「他にも素材関係の情報の収集をお願いしたいのですが」

「ドルク様にも頼まれておりますので、その辺りは抜かりなく。

 あと書籍ギルドの方にも国内外問わずに、収集させております」


 ……経費で落としてくださると言うけど、それだけの貴重な本の値段を考えると凄い事になると思うのですけど。


「お嬢さんなら掛けた金額を、あっという間に取り戻してくださると信じておりますから」


 さわやかな満面な笑顔で、プレッシャーを掛けてくるのは止めて欲しい。

 いえ、考えている奴は物にするつもりですけど、すぐに結果が出るとは。

 数年は掛かると思ってくださると助かるんですが。

 はぁ、今までこの手の事が進んでこなかった事を考えれば、それくらいは待つのは当然と。

 なにか以前にも、似たような事を誰かに言われたような気がするんですが。

 

「あとドルク様から御依頼が」

「……風を起こすチョーカーとネックレスですか」


 そんな事になるのではと、半ば予想はしてましたよ。

 意匠とサイズは、向こうからの指定と言うのは助かりますが、一夏限定ならもっと低価格の素材があったので、其方の方では駄目でしょうか?

 ペンペン鳥の羽が魔石無しでも使えたので其方の方が良いかと、あと一羽分で結構取れるんですよね。

 他にもチョーカーとかではなく、アンダーで首の周りと腋の下などから空気が流れ出るようにすれば、何処にでも着て行けると思います。

 それにアンダーも内側を網状にするだけで、涼しさが大分違うと思うので、その辺りは服飾ギルドの方と相談しようと思います。


「では其方は、私共が試用購入させて戴きますので、ドルク様とガスチーニ様の分はそのままで」

「……良いんですか?」

「意匠まで指定されてありますので、仕方ありませんよ。

 届けてから十日後ぐらいに、私の方の使用感の報告をしたいと思います」


 ……どうやら自分達だけ、涼しい思いをしようという魂胆が腹に据えかねたらしいです。

 あの、そう言う意味ではヨハンさんは?

 同じ体格の方の何人かに試してもらって、使用感や問題点を纏めて貰った物をくださると。それはより良いものを開発できると言う点で助かります。

 風属性があれば大抵は行けると思いますので、その辺りの素材があれば入荷の方お願いします。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

【リズドの街の家具工房】




「ぐふっ!

 可愛いすぎっ! なにこの破壊力はっ!」

「侯爵様のお孫さん向けの意匠です」


 家具職人であるサラは、三つ編みに縛った水色の髪を左右に揺らしながら、丸くデフォルメした梟を模した魔導具のオイル時計の意匠図に、興奮した顔で悶えている。

 うん、其処まで気に入ってくれるのは嬉しいけど、少し落ち着こうね。

 はい、涎を拭いて。意匠図は食べ物じゃないんだから。

 あっ、パン二つはいけるって、…その発想が怖いからっ!


「前のでも良いけど、好きな動物を聞いたら梟だったから、特徴のあるのを三種類程。

 基本意匠として、先方の了解済みだから、あとはサラの腕の見せ所次第」

「ゔっ、今日ほど自分の才能の限界を恨めしく思った事はないわ」


 どうやらサラは、こう言うデフォルメした物や可愛い系の意匠が苦手らしい。

 何度書き直しても厳つい意匠になってしまうので、私を羨ましがるけど、私からするとサラの洗練された意匠と、それを作り上げる腕こそ羨ましいと思ってしまう。

 お互い、無いものねだりと言う奴なのかと溜息が出る。


「これ、羽根の部分を光らせたいから、こう小さな穴と輝石を填め込む部分を」

「うわぁ~、なにその発想っ。普通は目とか口だよね」

「夜に目が光ったら怖いじゃない。羽根なら幻想的で可愛いし」

「本人が可愛いと発想も可愛くなるのかなぁ」

「それ言ったら、サラは十分に可愛い物を作れるはずだけど」


 うん、小さな顔で、やや垂れ目がちのだけど、それが物腰柔らかさに見えるし、目も大きいので、間違いなくサラは可愛い系の美人だと言える。

 実際、サラが道を歩くと何人かの男の子が振り向いているのを見かけた事がある。

 おまけに明るくて活発で、歯切れのいい喋り方だから、老弱男女問わず人気者。

 引き籠りがちで、交友範囲の狭い私と違って、よっぽどモテてると思うけどなぁ。

 サラの祖父でこの工房のグラードさんも、その手の話の申し込みを断るのに苦労しているらしいし。

 グラードさん曰く。


『孫の目に適った上で、儂の目に適う奴でなければ認めん』


 だそうで、サラは家族に愛されていると思うよ。

 それはそうとドルク様の方はどうなっていますか?

 もう出来ていて、あとは仕上げの磨きだけと。

 流石は仕事が早い。


「手の大きさと持ち方に追求したカーブが難しかったけど、いい勉強になったわ~。

 ボクとしては、もう少し装飾に凝りたいけど、手触りの邪魔になるしね」

「難しいと言いつつアッサリ形にする所がサラの凄い所だと思うけど」

「手の模型が此れだけあったら、形さえ決まれば後は合わせるだけだから」


 机の上に置いてある幾つもの手の模型。

 ブロック魔法で、ドルク様の手を型取りしたあと、粘度を流し込んで低温焼成した物で、摘まんだ状態や、握った状態の物。

 指の位置は人によって微妙に違うから、型取りが一番手っ取り早いと思って作ってきたんだけど、こうして手の形に合わせること自体が、グラードさんやサラさんにとって初めての事らしく、大変熱心にその理由や目的を根掘り葉掘り聞かれたほど。


「さてと、そろそろ次の約束があるから」

「相変わらず忙しそうね」

「うん、だから少し丸投げする人と打ち合わせ」

「まぁ無理しない程度に頑張ってねぇ」


 サラはそう言ってくれるけど、実際は一日働いているサラの方が忙しいと思う。

 私は、なんやかんやと午前中は日課をこなして自分の勉強事をやっているし、昼からだって頼まれた仕事より、魔法の鍛錬や研究、時折趣味の狩猟に行ったり出かけたりと、比較的自由にさせて貰っているもの。





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