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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
171/977

171.イカを食べても、タコは食べない民族らしいです。




「そりゃあ災難だったな」

「私としては、目立たずに済んだので、かえって良かったですけどね」


 ライラさんへ御土産を持って行った後、コッフェルさんのお店にも顔を出したのだけど、ジュリはライラさんのお店を出てそのまま宿舎に帰宅してしまった。

 ジュリとしてはコッフェルさんの所に顔を出すより、手に入れた新刊を一早く読みたいらしい。

 確かに、こんなお爺ちゃんの顔を見ているよりは、何倍も有意義だとは思う。……読んでいる本の内容はアレだけねど。

 ああ、無論、コッフェルさんにはお土産はないですよ。

 別行動でコッフェルさんも王都に行きましたから、今日はお互いの情報合わせと言うかその辺りを含めた雑談です。

 

「他にも色々収穫はあったので、コッフェルさんの言う通り、旅に出て良かったとは思ってますよ」

「そりゃあ良かったな。

 定期的に色々見て回るのは良い事だぜ、色々な意味でな」


 ジュリに誘われた今回の旅で、それは言えているとは実感した。

 思い出してみれば、最近は色々と自分を追い込んでいたような気がする。

 やる事があるからと……、学ぶべき事は沢山あるからと……。

 本当の意味で、知る事や学ぶ機会を失っていたのは、確かだったかも。

 忙しく頑張るのは良いけど、それだけでは駄目って事。

 ちゃんと遊んだりして、楽しむ事を忘れていた。

 ……ううん、忘れようとしていたのだと思う。

 どうしても、一緒に遊んでいた彼女を思い出してしまうから。


「しっかし嬢ちゃんの事だから、色々やらかしているだろうと思ってはいたが、まさかそんな事態になっていたとはなぁ」


 酷い言い掛かりである。

 そもそも、私が何かをやらかす前提で言うのは、止めてもらいたい。

 ほとんどが、私が預かり知らぬところで動いていた事ばかりなんですからね。


「言っときますけど、私は正真正銘、被害者側ですよ」

「そうかぁ?

 ドルクの奴からの手紙で、嬢ちゃんが色々やらかした事が書いてあったがな」


 そう言って呆れるような笑みをワザとらしく浮かべるくるコッフェルさんに、知っていて聞いてくるのは性格が悪いと思うし、書いてあったなら分かると思いますけど、私に非は無いはずと分かるはずですよと返してあげると。

 ……試作した魔導具や保存食の件が、部隊の中で広まっていて、日に日にシュヴァルト様の所に増える上申書の数が酷くなると。


「そう言われても、現状は無理ですね。

 保存食に関しては代替え案もあるので、其方を先に進めてもらうとして、魔導具に関しては、完全に私の知識と経験が不足していますから」

「魔導具に関しての知識の大半は口伝が多いからな」

「悪足掻きは、させてもらいますけどね」


 コッフェルさんにも言われたけど、私は誰かの弟子になるのは難しいらしい。

 まずは私が魔導具師になるには若すぎるのと、歳不相応な魔力制御力を身につけている事。

 そして既に色々と新規の魔導具を作りすぎているため、師の面子が失くなるため嫌がられるらしい。

 他にも師になる人の色に染められる事で、古い固定概念に縛られて、私らしい魔導具を生み出す事の障害になりかねないと、ヨハンさんもドルク様も反対している事もある。

 でもそう言う事以前に、やっぱり私にとって魔導具師の師というと、アルベルトさんなので、私も積極的に誰かを師事する気もない。

 それにコッフェルさんが相談には乗ってくれるし、私にはそれで十分。


「ほう、今度は何を企んでいる?」

「企むって人聞きの悪い。

 ただ厚かましいお願いをしてきただけですよ」


 どうせ今回の一件で魔導士ギルドに捜査が入るため、ギルドにある魔導具の素材や薬草や鉱物の知識が纏められた物があるだろうから、その写しを手に入れられないかとね。

 私がシュヴァルト様のお屋敷にお世話になっている事が、学習院の職員からギルドに渡ったのは誤情報だったとするための条件として。

 どうせ、捕らえた不審者からは辿れないようになっているだろうし、ああ言った闇組織は、ある意味、国が保護し養っているような組織でもあるから、いくら侯爵であらせられるシュヴァルト様が捜査を入れた所で、結局は嫌がらせにしかならない。

 だいたい、ギルドのお偉いさんの首が飛ぼうが飛ぶまいが、私には関係ない事だから、狙われた慰謝料がわりに情報を貰って、内々で処理をしてもらった方がよっぽど有益という物。

 ええ、ジュリには黙ってましたけど、合同演習中止は、恐らく私のこの案が原因です。


「それでか。

 手紙の中でドルクのやろう、俺に何を入れ知恵してやがるって言い掛かりを言ってきたからな」


 本当ですよね。

 コッフェルさんだったら、もっと真っ黒で有益な方法取るでしょうしね。

 私なんて、これくらいの事しか思いつきません。

 私の見た目で、そういう事を言われるて驚くのは当たり前って、そうですか?

 そういう失礼な事を言う人には、今、作っているお夕飯をあげませんよ。

 何を作っているって、主菜はイカのフリッタのトマトネギダレがけです。

 下にある香草も一緒に食べると、飽きが来なくて美味しいですよ。


「なにか妙に太いイカだが」

「せっかく大きなイカが手に入ったので、あまり小さく切ったら面白みがないと思いまして、一応、食べやすいように切れ込みは入れてありますから、噛み千切れると思います」


 あとは作り置きの冬瓜と胡瓜の冷製スープと葉物の酢漬けです。

 パンはライ麦入り塩パンと、五種のドライフルーツたっぷりのパンがありますが、どっちが良いですか?

 どっちもって、……良いですけど、食べ過ぎに注意してくださいね。

 あと美味しいけど、なんのイカかって?

 取り寄せようとしても無理だと思いますよ。

 なにせクラーケンですから。


「ぶほっ!」

「ひゃ! もう汚いじゃないですか。

 …うぅ、顔に」


 なんで、ジュリにしろライラさんにしろコッフェルさんにしろ、人に向けて吹くんですか。

 せめて下を向くか、手を当てるかしてください。

 薄く結界が張ってあるとは言え、感触は伝わってくるから事に違いはないんですからね。

 ああ、あと干物も少し置いてゆきますから、炙れば酒の肴になりますけど、塩分がありますから程々にしてくださいね。

 結構な量を干物とかにしたんですけど、足一本の、ほんの一部分しか消費できなかったんですよね。

 書物に干した物は滋養強壮の効果があるらしいと書いてありましたから、ヨハンさんに売れないかと聞いてみるつもりですけど。


「……すげえの狩ってきたなぁ」

「本当ですよ。

 海の上じゃ足場がなくて、死ぬかと思いましたよ」

「ちなみに聞くが、足場があったらなんとかなるのか?」

「地面みたいのが広くあれば、なんとでもなりますね。

 確かに結界だので硬いですけど、怖いのは足場の無さと海中からの攻撃なので、陸上に上がったクラーケンなんて、図体が大きくて力があっても、動きそのものは素早くはありませんから」


 触腕と呼ばれる二本だけは別ですが、それ以外の足の動きは知れている。

 ただ一本一本が大きすぎて、動きが捉え難いだけだけど、その辺りは探知の魔法と魔力感知で何とでもなる。


「普通は浅瀬に誘い込んで、魔導士数十人掛かりで、海を凍らせてなんとか倒すもんだがな」

「アレだけ深い海と高い波だと、流石にそんな手段は無理ですし、自然そのものも脅威なので、死ぬかと思いました。

 因みに、今回みたいに浅瀬じゃない時はどうするんですか?」

「そりゃあ決まってるだろ。

 諦めてくれる事を神に祈るのみさ」


 ……本当に、運が良かったのだと改めて実感する。

 属性的に相性は悪くても、群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)を使った強弓で、一点集中の波状攻撃すれば結界を突き破って本体に届くとは思いますけど。

 陸の上の魔物だけで精一杯なのに、流石に其処まで用意するのは厳しいと思うから、実現は不可能だろうなぁ。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




 数日後。


「……ク、クラーケンの処分ですか?

 すみません、流石にちょっと時間をください」


 いつも未成年である私から、快く魔物を買取してくれるヨハンさんが、顔を引きつらせてそう言ってくる。

 大きいですから、流石に直ぐと言う訳にはいきませんよね。

 どのくらいの大きさかですか?

 本体部分で此の商会の敷地分ぐらいあります。

 はぁ、加工しやすい冬までは待ってほしいと。

 別に収納の魔法に入れてありますから、鮮度的には問題はないと思いますけど、確かに暑い夏に外に出したら傷みやすいですからね。


「あと此方の干物はありがたく戴きますが、こういう物を男性相手に直接贈るのは控えた方が良いかと」


 クラーケンの干物は滋養強壮効果があるけど、人によっては効きすぎてしまい夜に激しく猛る事になると。

 他にも、ある素材と一緒になって調理すると、男性にとって増産される効果があるらしい、……敢えてナニがとは聞きませんけどね。

 そう言う訳だから、回数とか量とかそう言う事は聞きたくありませんので、そこまで説明しなくて良いですっ!

 つまり女性が男性にこういった効果のある物を贈ると、貴族的な意味合いとして、自分のために此れを使ってほしいと言う意味合いになると。

 ……知らなかったっとはいえ、流石にその意味に恥ずかしくなる。

 そんな意味合いは全然ないですからっ!

 只、味が良いのと身体に良いと思って贈っただけです。 

 

「ああ、大丈夫です。

 流石に私は、お嬢さんに対してそう言う勘違いはしませんのでご安心を。

 ただ、そう捉えられる事もあると言うだけですし、誤解が無いように贈るには、個人ではなく家を通す等をするので、お嬢さんの場合は商会を通して貰えれば良いかと」

「以後、気を付けます」


 どうりで、ジュリが数日後に、やたらと疲れた顔で口に合わなかったと返してきたわけです。

 滋養強壮の効果があるはずなのに、おかしいなと思ったのだけど、そう言う事だったんですね。

 ええ、敢えて彼女がナニで疲れたかは考えませんが、今度お詫びに何か別のものを贈ってあげましょう。

 それはそうとして……。


「すみません、王都のドルク様とシュヴァルト様、あと王都のお友達にも郵送で贈ってしまったのですが」

「……ガスチーニ侯爵様とドルク様は大丈夫だと思いますが、あとで此方からお手紙を送っておきます。

 御友人と言うのは想像がつきますが、誤解されては拙いと?」

「無論です。ただのお友達ですから」


 ええ、そんなつもりなんて欠片もないです。

 王都に居る時に色々お世話になったし、最後に狩りの約束を守れなかったので、そのお詫びのつもりです。

 だいたい、見た目が少女でも中身が男の私に、それは間違ってもないし、そもそも子供の私がそう言う意味で贈る訳がないじゃないですか。


「此方の一箱をガスチーニ様の師団の方へ手紙と共に贈っておきます。

 そうすれば唯の滋養強壮の贈り物だと、言い訳もつきますので」

「すみません、お手数おかけします」


 お詫びも兼ねて、収納の魔法からもう二箱取り出して、ヨハンさんにお渡しする。

 そういう意味合いではないのであしからず。

 ああ、奥様と楽しませてもらうと、仲が良くて羨ましい限りです。

 年甲斐もないなんて、少しも思いませんよ。

 御夫婦で幸せなら、なによりです。





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― 新着の感想 ―
久しぶりに吃驚した声聞いたけどいままで「わっ」だったのに「ひゃっ」になってたのがよかった
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