表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第一章 〜幼少期編〜
17/977

17.冒険者ギルドはアルバイト斡旋所らしいです。





「ガザルフィルド……、申し訳ございませんが、聞き覚えのない家名ですね。

 紋章の形式からして貴族のようではありますが……」


 数日後、ジャムと枇杷種の粉末と共に尋ねた教会で、神父様は申し訳なさそうに答えてくれる。


「少なくとも、シンフェリア家に縁ある家ではないでしょうな。

 しかし、何処かで見たような気はするのですが……、いやいや、歳は取りたくはありませぬものですな」


 流石はこの地域を任されている神父様だけあって、領主である当家と付き合いのある貴族は全て網羅しているらしい。

 そして収納の鞄の持ち主は、手記から家紋とアルべルト・ラル・ガザルフィルドと言う名前だと言う事は判明した。

 それに対して、剣に刻まれていた紋章に関しては……。


「こちらの紋章は、冒険者ギルドの物ですね」

「冒険者?」


 物語やゲームの中ではよく聞く名前だけど、そんな職業名は普通は成り立たない。

 理由は怪しすぎるからだ。


「百年くらい前から傭兵ギルドから派生したギルドでして」

「派生ですか?」

「ええ、傭兵ギルドは文字通り傭兵のためのギルドで、まぁ身元を保証し支援するギルドです。

 そう言った組織がないと、雇った傭兵が実は強盗団や敵の間諜だったなんて事にもなりかねませんからね」

「なるほど、そのかわり罰則は厳しそうですね」

「ええ、雇用主をそれ相応の理由もなく裏切れば、後悔する事もできなくさせられます。

 その分ギルド側も、傭兵側の待遇を雇用側に厳守させられますので、一方的と言う訳ではありません」

「互いに理がある訳ですね」

「ええ、そのため値段が高めになりますが、雇用側からしたら安全に雇えます」

「では何故、派生のギルドを生み出す事になるのでしょうか?」

「その値段が問題なのです。

 傭兵は基本的に紛争や凶悪な魔物の討伐が専門です」

「その辺りはお父様からも聞いています」


 シンフェリア家ができるだけ質素に暮らしているのは、魔物の生活領域が人の生活圏内にまで迫ってきた時に討伐する傭兵達を雇い入れるため。

 子供の頃からそう聞いてきたし、私が生まれる前にも、一度そう言う事態が発生しており、小さな群れではあったみたいだけど、それでも金貨数枚程度の出費では収まらなかったようだ。


「ですが、それ以外での場合もあるのです」

「と言うと?」

「主に貴重な薬草や鉱石の採取や、そこまで危険のない護衛など。

 増えすぎた危険な野生動物の間引きなどもあります」


 なるほど、傭兵を雇い入れるまでもないけど、それなりの人間を雇いたい場合か。

 確かに、そう言う需要は生まれるか。


「お仕事の内容に適した金額で雇える人達を、と言う訳ですね」

「ええ、おかげで急遽の人工(にんく)や子守、溜池の掻い掘り、祭りの時の警備等様々です。

 あとは魔物の素材の採取も最近は増えているようですね」

「……あの、仕事の内容に随分と差があるように思えるのですが、あと最後のは傭兵達のお仕事では?」


 思わず突っ込んでしまう。

 いくらなんでも、子守と魔物の討伐とを同列にあげないで貰いたい。


「失礼しました。

 下部組織と混ざってしまいましたようで」

「下部組織ですか」

「それは後でお話しするとして、魔物の話は採取と討伐の違いです。

 討伐は増えすぎた魔物、または大変危険な魔物を迅速に殲滅するのに対して、採取は倒す数こそは少ないですが、素材となる魔物をなるべく傷めないように倒す必要があります」

「目的としているものが違うと言う事ですか」

「そうです。

 あとは魔物と言っても危険な物ばかりとは限りませんから、そう言う場合は冒険者ギルドの方に回されます」


 なら話は分かる。

 互いに専門性を磨いて、より効率の良い仕事をすると言う棲み分けなのだろう。


「冒険者と言っても、ごく一部以外は喰い詰めた人達が多く、その能力も一定ではありません。

 ですが臨時的な働き手はそれなりに必要でして、そこで冒険者、傭兵、商業、服飾、土木、魔法、職人の各ギルドが出資した冒険者組合を創設し、様々な仕事の需要を纏める事になりました」


 言いたい事は分かった、要はハローワークやアルバイト斡旋所みたいな物か。

 口にはしなかったけど、それだけのギルドが関係していると言う事は、国や教会も関わっていると見て間違いはないだろう。

 気になるのは……。


「……あの、なんで同じ名前なんですか? 紛らしくは?」

「私もまだ子供の頃でしたので、詳しくは存じませんが、おそらくは当時一番発言力がなかったため、ギルドの名誉の回復と認知をさせるための冒険者ギルド側と、ギルドごと下部組織に組み込もうとした他ギルト側の思惑の結果ではないかと」


 他にも色々な力関係の働いてそうな組織だろう、と言うのが一番素直な感想だ。

 と言うか、未就労者の集団を、冒険者と一括りにするのはどうかと思うんだけど、そうなるだけの経緯があったのかもしれない。

 話の内容は目的からは大分逸れたけど、残念ながらもう一つの手掛かりである紋章も、そんな大きいギルドの紋章では身元の確認の材料にはならなさそうだ。

 裏に何かがあるのであれば、口を閉ざすに決まっているもの。

 相談にのってもらった神父様にお礼を言って、教会を後にする。


「エリシィーに会えなかったのは残念」


 小母様と買い物中らしく、いたらクラッカーにジャムをつけてお茶をしようと思ったのに。

 きっと今頃は、二人の帰宅を待ちきれず神父様の口に入っているかもしれない。

 なにせまだ作り立てで、甘い香りが私の髪にまで纏わり付いている状態だもの。

 今日は家で執務していたお父様に、聞きたい事があったので、作り立てのジャムとクラッカーを持って行ったら、甘くて美味しそうだと、何故かクラッカーではなく私にハグしながら言われて、なんと返して良いのか困った。

 いくら娘が可愛くても、言い方があると思う。

 屋敷の自室に戻ると、机の引き出しから数枚の紙を取り出す。

 魔法の光に照らされた紙の上には、例の鞄に収納されている物の写しで、その内容は食糧、テント、寝袋、ランプ、着替え、書物など色々な物が千点以上。

 生活雑貨が大半ではあるけど、全て広げたら倉庫一杯分はあるかも。

 後は幾つかの素材らしき物や貴重品、現金も結構な金額が入っていた。

 それ等の入った鞄そのものは、チェストの奥に袋に入れて隠してある。

 遺族が判れば渡ししたかったけど、その返し先が分からない。

 お父様でも教会で駄目なら、どうしようもないよね。

 基本的にこの世界は情報網が発達していない事もあり、この手の拾得物は自分の物にできる。

 無論、遺族が判ればお返しするのが普通だけど、それをするかしないかは個人の自由となっているので、人によっては報告だけして、荷物はそのまま懐にと言う人もいるらしい。

 無論、私は遺族に遺品を返すつもり。

 ただ、返却相手が見つかるまでは、色々と便利なのでお借りしておくだけの話。


「書物と手記や日記以外の中身は封印ね。

 外も、少し手直ししないと」


 収納の鞄。

 そう名付けた魔導具の鞄の持ち主は、魔法使いで魔導具師、それも優れたね。

 魔法関連の書物だけでも、私にとってお宝的な内容が書かれているのに、手記や日記には断片的にではあるけど、魔法や魔導具のアイデアや製法の覚書などが書かれていた。

 色々と内容については解読と研究をしなければならないけど、どうやら私よりの魔法使いだったようだ。

 魔法の火力を重視するより工夫で持って補おうとするタイプで、しかも研究者気質。

 自分が使えなくても色々な魔法の研究をしていたみたいで、日記の大半は研究日誌と言っても過言ではない。


『魔法を大衆に!』


 手記の表紙の内側にはそう大きく書かれており、夢と志を持ってる人物だった事が伺える。

 神父様のお話でもそう思ったけど、この世界の魔法使いは閉鎖的というか、数が少ないからか、それとも危険な生活環境せいかは分からないけど、随分と魔法の使用用途が偏っているみたいね。

 だからでもあるんでしょうね。


 魔法使いの成り損ない。


 そんな私に対する評価は、期待があるからこその落胆なのかもしれない。

 この世界の生態系の頂点は、人間ではなく魔物。

 魔物の生活領域は限定的で、ある程度棲み分けもできているけど、その脅威に何処の町や村も晒されており、一晩で町や村が滅ぶ事も無い話ではないらしい。

 幸いな事にこのシンフェリア領では、そこまで危険な魔物の生活領域は無いので、基本は(はぐ)れの魔物がごく偶に見受けられる程度。

 以前話に上がった灰色角熊もその一つ。

 大きい個体だと全長五メートルを超し、額の左右に角の生えた熊で、身体強化を使う魔物と聞く。

 しかも数匹から二十匹程度の群れで動くとか。

 大きさだけでも驚異なのに、そりゃ村の一つも滅ぶのも納得の化け物である。

 そんな魔物を相手に、十歳の子供に何を期待しているのか。

 まぁ……、しているんだろうね。

 生憎とそんな活躍をすれば、我が家の良好な家庭環境は崩壊してしまう。

 こう言ってはなんだけど、お金で解決できるのならば、そうして欲しい。

 そんな話は今はどうでも良くて、チェストの奥から収納の鞄を取り出し。


「だいぶ馴染んだかな」


 土埃に塗れた鞄の表面は綺麗に拭き取り、革用の保湿剤を塗り込んで、別の袋の中で湿度を保たせながら馴染ませてあった。

 状態維持の魔法と言っても劣化を遅らせるだけなので、多少の痛みは仕方がない。

 むしろあの環境でよく保っていたものと、改めて魔導具製作者であるアルベルトさんの技術に感心する。


「革ベルトは流石に取り替えかな」


 元々消耗箇所なのだろう。

 鞄の左右にある金属の輪っかに繋がれた革ベルトだけは、かなり痛んでおり、これからの使用に耐えれそうもない。

 ここは女性物らしい革紐を編んだ物に変えて、本体の角とか痛んだところは重ね貼りか金属で補強……、カービングを施した革でも貼っておこう。

 幸いなことの研究日誌の装丁をした日記には、この鞄の図面が描かれていたので、それくらいの修復はしても大丈夫な事だけは判っている。

 制作方法に関しては……、かなり研究が必要とだけ。

 現状では、私に魔導具製作の資質があるかどうかも分からない状態でもある。

 なんにしろ、やるべき事や覚える事が一気に増えてしまったが、とてもやりがいがあるし、何より自分の未来につながる事なので、むしろ、やらない理由がない。


「さぁ、忙しくなるぞ」


 声を上げて、気合を入れる。

 悩んでいる暇も、立ち止まっている暇も、今の私にはありはしないから。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ