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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
168/977

168.封印される魔導具。 意外に似合ってますよ。





「水属性の方が居られないと大変なんですね」

「馬車はもちろん、荷馬が入れる所ばかりじゃないから、やっぱり水って嵩張る上に重いし」


 シュヴァルト様のお屋敷に来た明くる日、ジュリは昨日に引き続きと言うか、昨日は此処に拉致られたために行けなかった、魔法の先生の所に挨拶をしに行ったのだけど、騎士団の護衛の人が三人も付いているから、向こうはさぞや吃驚する事だと思う。

 それで私はと言うと、折角、討伐騎士団の方が護衛についているのなら、楽しくお話しタイム。謂わゆる女子会と言うやつです。

 若干一名程、中身が男性の人がいますけど、この際其処は気にしないと言う事で。

 残念ながら話している内容は恋話とかではなくて、遠征中の話とかですが、色々と参考になります。

 一応気遣っていただいたらしく、私達がお世話になっている部屋の周りは、女性の方達ばかりなので、少しだけ気楽な夏着で居られるのは嬉しいかな。

 暑苦しい長靴下さんさようなら、涼しい素足万歳です。


「治癒術師がいる時は、沼地の水を浄化してもらう事もできるけど、やっぱり、もしもの事を考えると魔力を温存していてもらいたいしね」

「水の浄化ですか? 治癒術師って事は、【聖】属性魔法ですよね?」

「だと思うけど」


 話を聞くと、他にも毒消しや毒検知も治癒術師の役割だとか。

 シンフェリアの神父様は、その辺りは受動的な治療で薬草で済ましていらしたので、学ぶ機会が無かったと言うか、話にすら出てこなかった。

 むろん、医術や薬草学は大変勉強になったし、騎士団のお姉様方の話だと、その辺りは双方共に得意不得意があるらしい。

 うーん、その辺りも研究してみたいな。

 ちなみに解毒の魔法を使わない時と言うと……薪が足りなくて、火の通りきっていない肉やスープを食べてお腹を下した時と。

 ……えーと、その内に良くなると思いますよ。


「でも、その心配も、もう無いかな。

 アレが配備されたしね」


 あっ、この夏から、王都の部隊は携帯(かまど)の魔導具が一部導入されたから、その心配がなくなっただけでなく、湿気った場所や雨さえ当たらなければ、関係なく使えるのが嬉しいと。

 それは良かったです。


「ところで、アレの裏に書かれた言葉って」

「知りませんし、見えません。そして関与していませんっ」


 ええ、言い切ります。

 話している途中だろうが関係ありません。

 名前?同姓同名でしょう。私には関係ない事です。

 とにかくその話はいいですから、それよりも遠征中や魔物に関しての話をしましょう。

 なにか良い解決策とか出るかも知れませんよ。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




「なにやら騒がしいと聞いて足を運んでみたが、………ユゥーリィ、与えられている自室とは言え、少しばかり刺激的な格好ではないかね」


 ……突然やってきたドルク様に、賑やかだった室内は騒然とする。

 それと勘違いされるかも知れませんから、其処まではしたない格好ではないですよ。

 ただのいつもの格好に足を出しているだけです。

 JC生足ですから、はしたないではなく健康的と言って欲しいです。見た目で言えばJSなので尚更です。

 それでもってお姉様方、人の壁をありがとうございます。

 今すぐに、長靴下を履いちゃいます。


「警護が気を抜きすぎだと言いたいが、儂が言うべき事でもないな。

 報告はさせてもらうがな」


 どうやら、先程までお姉様方とワイワイと楽しくやっていたのだけど、少しばかり盛り上がり過ぎていた様で、ドルク様の方へ報告が上がったみたいです。

 因みに、この屋敷の主であるシュヴァルト様は、朝方ちょっとした騒動があって、その後始末で不在。

 それにしてもドルク様、仮にもレディーの部屋に突然入ってくるのは失礼では?

 ……ああ、部屋の入り口の警備の人も此方に来てますね。

 それは仕方ないですが、せめてノックを、……したけど返事がなかったと。

 はい、本気で騒ぎ過ぎていたみたいです。

 ではお姉様方、私と一緒に謝罪を。


「「「「「申し訳ございませんでした」」」」」


 ええ、此れくらいは出来るくらいには、連帯感を持って騒いでました。てへっ♪


「それで一体なにを騒いでいたのかね?

 それに、お茶の時間の前にしては、随分と良い匂いもするようだが」


 特に大した事はやってませんよ。

 お姉様方の話を聞いて、こう言う物があったら良いなぁと言う物を、作って試してみただけです。

 何って言われましても、夏向けに、空気の流れを作り出す魔導具とか。

 背負い鞄をしていると暑いと言うので、汗を掻き難い形状をした背負い鞄。

 他にも、雨が染みてこないように魔導具化した外套を着て、先程まで派手に水を被せてましたし。

 紐を引っ張るだけで荷物を硬く固定できる金具とか。

 あと、良い匂いがするのは、食料品の軽量化と言う事で、少しばかりスープを。

 

「最初の四つは分からんでもないが。

 スープの軽量化というのが、全く意味が分からんのだが」


 そうですよね、確かに予備知識がなければ意味が分からないですよね。

 なら見せた方が早いので、掌サイズの固形物をお見せする。

 

「法蓮草と大根が入った蟹玉スープです。

 まだ先日の材料が余っていたので、作ってみました」

「……どう見ても、スープには見えんのだが」


 そりゃあそうですよね。

 私もこれで分かってくれるとは思っていません。

 あくまで調理する前の物を見せただけですから。

 ティーカップにその固形物を入れて、お湯を注ぐ。

 後はティースプーンで掻き回すだけです。


「このような器で申し訳ありませんが、どうぞお試しください」


 あっという間にできたスープに驚くドルク様ですが、前世では当たり前にあるフリーズドライ食品です。

 前世の知識を元に作った物ですが、本来は作るのにそれなりの設備がいる物ですが、魔法を使えば、作るのはそう難しくはありません。

 完成したスープを結界内で凍らせてから真空状態にした状態で、火魔法で加熱し、水魔法の還元を利用して、スープから水分のみを取り除けば、こうして設備なしで出来てしまいます。


「ふぅ……、濃厚な旨味が蕩けるように喉に入ってくる。

 これは昨日出したというスープかね?」

「いいえ、昨日は深緑王河蟹(エメラルド・クラブ)でしたが、今日は深赤王河蟹(ルビー・クラブ)をベースにしたものです。

 あと遠征向きに、野菜も多めに入れてあります」


 本当はお姉様方に、昨日のスープを希望されたのだけど、流石に全く同じだと申し訳ないので、微妙に内容を変えてある。

 結果は言うまでもなく好評で、部屋から離れた警備の方に、何事かとドルク様に報告が行く羽目になってしまった訳ですけど。


「確かに、これ一つとっても騒ぎになるのも分かる。

 遠征を長く続けた者程、此れの価値は胸に染みいる物だ」


 遠征中の不満についてお姉様方が言っていたのは、やはり遠征中の食事の不満。

 確かに携帯(かまど)の魔導具で、暖かな食事は食べれるようになったし、新式の糧食箱のおかげで、若干野菜も増えはしたものの、基本的には美味しくなく、野菜不足な食事が殆ど。

 一応は乾燥した野菜はあるけど、そう多くもないし葉物は皆無状態。

 それに暖かなスープは、遠征中では贅沢な部類の食料ではあるけど、やはり短時間で作るため、味は知れている上、毎回、同じような味付け。

 ならばと思って作ってみましたが、初めて作ったにしては、まぁまぁの出来です。


「して、夏向けの魔導具と言うのは」

「えーと、彼方のお姉様が首に着けている物なのですが、ドルク様には少し……」

「ふむ、確かに女性向きの物のようだが、試すぐらいならば」

「いえ、サイズ的に…。あと留めないと作動しないようになっているので」


 チョーカー 型の魔導具で、首元から柔らかい風が上下に出るようになっている。

 一応は、ドルク様でも付けれるサイズの物はあるのですが……。


「なぜ大型犬用の首輪なのかね?」

「いえ、一部のお姉様からの要望の意匠で、一応は人間用です。

 あっ、決して実際に使う事を前提にした物ではないので」

「そこは信じるとして、どうやら魔物の革を使っているようだが?」

剣牙風虎サーベル・ウィンド・タイガーの革です。

 もともと風属性の魔物なので、小さな魔石一つで動かせるので」

「……随分と高価な物で、遊ばせる愚か者がおるようだな。

 誰かとは聞かぬが、二度とするな」


 あの、着けられるんですか?

 機能を確かめるのに見た目は関係ないって、実用重視も其処までくれば漢です。

 ドルク様、其処までブレないのは、呆れるを通り越して痺れる格好良さですよ。


「ふむ、これは良いな。

 このまま夏を過ごしたいところだが、流石にホプキンスの奴に泣かれるな」


 はい、絶対に止めてください。

 犬用の首輪の意匠をした首輪をした姿を、ドルク様の従者であるホプキンスさんに見られたら、私が何を言われるか。

 頼みますから、それを付けたまま部屋から出ないでくださいね。

 申し訳ありませんが、試したなら回収いたしますので、御外し下さい。

 どうするのかって、封印ですよ。

 調子に乗って作っておいてなんですが、この様な作った人物の人間性を疑われる魔導具は、永久に封印です。


「雨の染み込まない外套というのは彼女が来ている物かね」

「ええ、水属性の魔法が掛けてあって、水が染み込む前に下に流れ落ちます。

 応用できれば、荷馬車の幌や夜営のテントにも使えると思います」

「それは、何と素晴らしいっ!」


 この世界に、ビニールとかありませんから、防水に関しては魔法を使わない限りどうしようもないので、もし此れが製品化が出来たなら、かなり多くの事が改善されるとは思うんですよ。

 お話を聞いた中だけでも、蝋で防水処理した程度の幌では、移動中の雨で資材や食料が駄目になるだけでなく、テントの中にまで染み込んだ雨で風邪を引いたり体調を崩したりして、それが元で命を落とされる方も居られるとか。

 かと言って箱馬車では重くなる上に積載量も少ないため、遠征の様な任務には不向きで使えない。

 若い頃に前線で御苦労をされたと言うドルク様なら、余計にそう言った物は渇望だったと思います。

 ……ですが。


「ただ、申し訳ありませんが、今日、此処で作った物は、まだどれも使えない物ばかりです」

「なっ!」

「「「「えぇぇぇぇぇ〜〜〜〜っ!」」」」


 ええ、そうなんです。

 どれも、これも製品化には問題がある物ばかりです。

 フリーズドライは、私の魔力で力ずくで作っただけなので、やはり常に量を作る事を考えると、真空室などある程度の設備を開発しないといけない。

 ……私が作ればってお姉様方、私一人で何万食、何十万食分のスープを作れと? 

 無茶な要望だと分かってくれたのなら何よりです。

 他にもどれ位の加工時間が必要とか、保存期間やこの加工に適したスープの種類を開発、適した保管方法やスープ以外の食材への試験などやる事は膨大です。


 気流を作るチョーカーだってそうです。

 今回は素材を偶々持ってましたけど、剣牙風虎サーベル・ウィンド・タイガーの革と魔石を必要分用意できるんですか? 出来ないですよね。

 もっと手軽に手に入る素材で、簡単に作れるような物を開発しないと、作ってもきっと上位の方達に取られておしまいですから、意味がないです。

 そう言う訳ですから、ドルク様、いい加減に首輪を返してください。

 何度も言いますが、それは封印です。

 奥様や娘さんに見られたら、きっと激怒されるか泣かれるかですよ。

 あと、お孫さんからは引かれる事間違い無しです。

 はい、お返しくださりありがとうございます。


「ならば、せめて水の染み込まない布を」

「これ、確かに通常素材ではありますが、普通の厚めの布を魔法石化して魔法を掛けていますので、ドルク様の商会の相場を考えると、多分これ一枚で魔法の加工賃だけでも銀板貨(十万円硬貨)で四枚〜六枚しますよ。

 しかも素材が素材なので寿命も一月保たないかと。そんな潤沢な予算が取れるんですか?」

「せめて寿命が大幅に伸ばせれば、なんとか」

「魔羊毛の毛布とかなら、半年程は行けると思いますど、逆に言うとそれくらいしか。それに値段も相応に」

「それでは無理だな」

「無理と言うか、他に適した素材や、何か別の方法があるかもしれないので、今後の研究次第と言う事で」


 他の二つも、まだ強度試験、摩耗試験、その他色々試したりする以前に、いくつか問題があるので、直ぐに生産と言う訳には。


「此処まで見せておきながら、申し訳ありませんが、基本的にどれも基礎研究以前に、私の知識や経験が足りていないため、中途半端な物でしかありません。

 それに、こう言った道具は誰か一人だけの物より、多くの人が使えなければ、意味がないと思います」


 お姉様方のお話を聞いて、本当は一早く届けたいのですが無理な物は無理です。

 個人の依頼分くらいならともかく、望まれる需要を満たせられるように、研究や開発は続けるつもりですので、暫しお待ちください。

 なので、試作品はすべて回収です。

 あっ、逃げても無駄ですから。





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