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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
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167.この二人、実は拳で語りあった盟友らしいです。




 コンフォード侯爵家当主。

【ドゥドルク・ウル・コンフォード】視点:




 自分より遥かに体の大きい知人を心配げに、付き添って部屋を退出する白髪の少女の姿に、少し揶揄(からか)い過ぎたと反省する。

 あの少女があまりにも素直で真っ直ぐな心根なために、つい興に乗ってしまったのだが、これではフェルの事を悪様には言えんな。


「まったく、お前が巫山戯が過ぎるから、逃げられてしまったではないか」

「ほざけ、一緒になって揶揄ったお前に、そんな事を言える資格があるものか」


 目の前の男、シュヴァルト・カル・ガスチーニ侯爵こと、ヴァルトの不満にそのまま言い返してやる。

 そもそも止めを刺したのはお前であろうが。


「なに、あのお嬢さんがあまりにも可愛らしい反応をするのでな」

「まぁ、其処は否定はせん」


 もっとも、それだけの少女であるならば、儂も此奴も興味は持たぬ。

 それに、そもそもあれぐらいの歳の少女が、こうして我等と話せる事自体が稀有ではある。

 大抵は恐れ多いと視線すら合わそうとしない。

 それなのに、このような席においても緊張はしていても、思考が固まる事も、濁らす事もなく話せるような人間が、あの年代の高位貴族の子女の中においてもどれだけいる事か。

 無知とか怖いもの知らずとかと言うのでもなく、己の置かれた状況を理解した上での言動。

 大抵がそれを理解してはいても、ペルシア家の少女のように固まって何もできない。……が、そう言う意味においてあの少女はギリギリ合格と言う所か。

 自分と相手の立場の差と置かれた状況を理解した上で、友人の窮地を救うために顔を真っ青にしながらも、我等侯爵家当主を相手に諫言する事など、なかなか出来るものではない。

 やり方は些か拙いが、……まぁ、これから学ばせれば良いだけの事。

 なによりこの程度の事で萎縮して動けぬような者に用はないし、計画に組み込む事はないからな。

 報告通り、アレならば、その価値は一応はあるだろう。

 それは、ともかくとして……。


「お主があのお嬢さんを、ギリギリまで隠そうとする理由も、今なら理解できる」

「はぁ…、やはりバレたか」

「ウチの若い奴が、あのお嬢さんと知り合いでなかったら、分からなかったがな」

「ヴォルフィード家の二人か」


 まったく、彼奴には事があるまではと口止めをしておいたのだが、まぁしかたあるまい。

 何せ、あの二人にとって、あの少女は特別なのだからな。


「しかしあのお嬢さん、全く気がついていないのか、それとも気がつかない振りをして流しているのか、何方にせよ、あの次男坊が少し哀れになって来た。

 そのおかげで、どう言ったお嬢さんかは知る事ができたし、美味い食事にもありつけたから、感謝もしているがな」

「…美味かったか?」

「ああ、食材その物の助けもあるが、あのお嬢さん自身、なかなかの料理の腕前だ」


 フェルの奴が先日王都に来た時に、あの少女が、時折店に立ち寄っては、なんやかんやと作ってくれるような事を言っていただけに、その機会を逃した事に少しばかり悔しく思う。


「もしアレがお主の仕込みなら、ありえん金の掛け方だし意味がない」

「戦災級や人災級を使った八十人分余りの材料と酒だ、まともに人を雇って揃えたら金板貨単位で飛ぶからな。まずやろうとか思う以前に思いつかん」


 聞いた話だと高位の貴族であっても、まず口にする事ができない食材の数々だし、そもそもよほどの酔狂で命知らずでも無い限り、生きた紅皇蜂(クレムゾン・ビー)の巣に手を出そうと思う奴はいない。

 そして、幼く可憐な見た目からは信じられん事に、それができるだけの実力があの少女にはある。


「言っておくが、やらんぞ」

「欲しくないとは言わんが、たった一人の凄腕の魔導士よりも、我等としては役に立つ多くの魔導具の方が助かる。

 遺族への手紙を書くのは、この歳になっても慣れんし、色々と堪えるからな」


 魔物を引き寄せ、足止めをし、時には盾となって止め役の魔導士を守る。

 人災級以上の討伐では、それが基本となる戦略となる。

 討伐の成功率が上がる分、少数ではあっても被害が出やすい戦略でもあるからだ。

 当然、そんな方法だ、怪我が原因で退団する者もおれば、心を病む者もいる。

 儂自身も若い頃に、名誉の地へと旅立った英雄を、何度遺族と共に見送った事か。

 だが、それでもまだ見送れるのであれば、まだマシであった。

 肉の欠片すら持ち帰る事すら出来ず、空の棺を見送った夜は幾ら深酒をしようとも眠れぬし、部下を守る事ができなかった悔しさのあまり物に当たり、その結果、教会に世話になった事も数えきれぬ程ある。


「それがあの少女が齎した魔導具のおかげで、死傷者も重症者も無しで深赤王河蟹(ルビー・クラブ)深緑王河蟹(エメラルド・クラブ)を討伐しただけでなく。

 その場で討伐した魔物を調理し、その味まで書かれた試験運用の報告書を読んだ時には、我が目を疑ったがな」


 蟹を食べる事自体をどうかと思うのに、魔物の蟹を食べるなどと、とても信じられん思いではあったが、蟹鍋と焼蟹の素晴らしさを詳細に書かれた報告書を読めば、呆れるよりも試したくもなる。

 しかもヴァルトは、儂よりも早くその味を知り、美味かったと言いやがるから腹立たしい。


「実際に、王都での先納品の数度に渡る試験運用では、負傷者や死者が減っただけでなく、隊全体の消耗や疲労度も大きく違う結果が出ており、陛下もその結果に大変満足している」

「フェルの持ってきた証拠も功を奏しただろうが、その結果がなければ奴等の更迭は無かったかも知れぬ、今まで通り闇に葬られてな。

 それだけに、今回の陛下の御決断には胸がすく想いだ」

「過去の功績は称えるし感謝もしてはいるが、しばし奴等は傲慢に成り過ぎた。

 奴等がしている事は、国防を顧みないばかりか、身内である現場の魔導士達の苦労を蔑ろにしているのと同じ事。

 幾ら自分達が過去に通った道だとしても、より良い道がある事を無視しても良い理由にはならん」


 便利で強力な魔導具は、魔法使いや魔導士を蔑ろにする存在。

 まったく、くだらぬ妄執に取りつかれた老害共め。

 もっとも、そんなくだらぬ妄執に取りつかれた奴等を一掃できた訳ではない。

 その代表者を更迭したに過ぎない所が忌々しい。

 こればかりは、時間を掛けて考え方を変えて行くしかないからな。

 そのためには、ヴァルトにも此れからも協力して貰わねばならん。

 ふむ、もう一つ土産を渡しておくか。


「話しは戻るが、今、開発している物の中に【目】に当たる魔導具がある」

「牙や爪に引き続き目か、……随分と開発が早いな」


 遠見の魔法を封じた魔導具だが、既に試作は終えて安定した製造方法の開発だと聞いている。

 あの少女の事だ、おそらくは秋の終わりには開発を終えて、早ければ春までには試験運用を終えた物を回せるかもしれんと伝えておく。

 此れからも力を貸し続けるための口実は、それなりにあった方が良いだろうからな。


「それは喜ばしい話しだし、言いたい事は分かった。

 俺も師団も、利用価値のあるあのお嬢さんを守って行く事に、なんら異論はない」


 他にも幾つかあるが、爪、牙、目と立て続けに価値を示せば、頭の固い連中も此方側に付かざるえんだろう。

 結果も出し、古き血筋である五公爵七侯爵の内、一公爵三侯爵の推薦を受けての事だからな、此れであの話は決まりだと言える。

 正規で手続きをすれば、年単位の時間がかかるが、これだけの推薦を受けれるのであれば話は別。

 問題はその後だが、其処まで行けば、ごたごたは増えはしても、ある意味平和ではある。


「目と言えば今一度確認するが、あのお嬢さん、本当に血筋ではないのだな?」

「ああ、その辺りは調べ済みだ。

 辺境の下級貴族の出自で間違いないし、数代遡って血族を調べさせたが、其れらしい接触はない」


 フェルとの盟約で、時が来るまであの少女の家に関しては、関係者以外には誰にも漏らしてはおらぬが、其れらしい血が入った形跡どころか影すらない。

 

「幸いウチの者で見たのは、俺の右腕と例の公爵家の二人だけだ。

 箝口令を引いておいたから、当分の間は噂に上る事はないだろうが、……金色に輝く瞳、何時までも黙っておく訳にはいかんぞ」


 あの少女には、本当に驚かされてばかりだ。

 幾ら当人の予期せぬ魔法の副作用だとは言っても、あの瞳はそれで済ますにはあまりにも意味深すぎる。

 ヴァルトの言う通り、時期を見て上申せぬ訳にはいかんだろうな。





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