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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
166/977

166.生来病弱な私には、この状況はキツイので逃げさせてください。





「……」

「ふむ、そう固くならず、自分の家の様に寛いでくれて構わないのだが」


 そう言われても無理です。

 侯爵家の当主二人を前にして、庶民の私がどう寛げと?

 そう言う訳で、此処は貴族の一員であるジュリに頑張ってもらうとして。

 ……無理を言うなって、私だって無理だから言っているんです。

 手間暇が掛かった豪華な料理が、此方の食べるペース合わせて運び込まれながら、夕食をしているのは、魔物討伐騎士団王都師団長宅である、シュヴァルト・カル・ガスチーニ侯爵様の御屋敷。

 そして、其処へ同じ侯爵家でもあり、私が拠点としているリズドの街の領主であるドゥドルク・ウル・コンフォード様が、今夜は此方のお屋敷お泊まりになられるらしく、貴族落ちして庶民になった私にとっては、どうしてこんな事になったのかと胃が痛いばかりです。

 ……本当に、何でこんな事になったのかと、頭を捻るばかり。

 てっきり、騎士団の宿舎にある客室辺りに、お世話になるとばかり思っていたのですが。

 

「現状では、此処が一番安心と言えるからな」

「確かにそうだが、前に人を貸せと言った時は断ったくせに、よくもいけしゃあしゃあと。

 しかも当の本人は、儂の所に来ずに此方にお世話になっていると聞かされた時は、驚かされたものだ」


 ……いえ、ドゥドルク様のお屋敷で、お世話になる事を辞退したのは確かに私ですよ。でも、シュヴァルト様のお屋敷にお世話になるつもりなど、これっぽっちも無かったです。

 おまけにシュヴァルト様に名前呼びまで許されるとは、夢にも思いませんってば。

 私は予言者ではないので、そんな事態を予測しろという方が無理です。


「私用で師団員を貸せる訳がなかろう。

 だが、師団の賓客を護衛するのであれば話は別だし、少しばかり状況が変化したのだからしかたあるまい。

 そもそもお主が、此方のお嬢さんの事を隠さずに教えてくれていたなら、それ相応に力を貸しもした。

 ウチの若い者が気を利かせて、私のところに報告に来なければ、最後まで知らなかったところだ」


 ええ、やや豪勢なお昼のお茶会の後は、ほぼ拉致です、強制です。

 あの後、後片付けもせずに、あの場にいた騎士団の方全員に、四方を囲まれるようにしてこの屋敷に移動ですよ。

 なんの軍事行動ですか、と言いたくもなります。

 宿舎に置いてあった荷物も、知らぬ間に女性騎士の方が持ってきていましたし、ジュリも訳も判らぬままに、此方に連れて来られたとか。

 突然、騎士が三人も迎えに来たら、そりゃ驚きますし、逆らえませんよね。

 一応、弟さんとは一年ぶりの再会を満喫できた後だったのは、不幸中の幸いだと思う。


「こう言う時は王都が拠点の強みではあるな。

 それとユゥーリィ、本当に気にせんで良いぞ。食事の相手がこんな年寄二人では味気ないだろうが、フェルの奴と同じ様に話してくれて構わぬ」

「別に拠点という訳ではないが、長く居を構えているのも確かだな。

 昼のお嬢さんの手料理には負けるが、ウチの調理人に腕に(より)をかけて作らせた物ばかりだ。

 是非とも楽しんでくれ」


 ドゥドルク様、そう言われて頷ける庶人はコッフェルさんくらいですから、私にそれを求められても困ります。

 シュヴァルト様、物凄く手の込んだ料理ばかりで、私の手の掛かってない料理と比べるのもおこがましいです。

 もっとも、私としては素の味を活かした料理が好みだし、面倒なのでこういう系統の料理を作らないのも事実なんですけどね。

 ……仕方ない、此処は腹を括って、此方から話しかけるしかないですよね。

 経過はどうあれ、私のために此処までしてくださったお二人に、不満があると思われかねないですから。


「ドゥドルク様、砂時計の魔導具の使い心地の方は、如何でしょうか?

 何かあれば、正規に納めさせて戴く物に活かしたいと思いますので」

「ドルクで構わぬと言ったはずだが」


 ……公爵家の次男であるヴィーでも、いい加減にどうかと思うのに、侯爵家の御当主様を愛称で呼べってハードルが高すぎるのですが。

 そんな眉を(ひそ)めて不快を示さなくても。


「……ドルク様」


 ええ、負けました。

 一介の庶人である私に、理由もなく侯爵様御当人に逆らう勇気はありません。


「不満は無いな、大いに役に立っている。

 儂は此の儘で構わぬが、孫娘が欲しがっておってな、悪いが孫の意見を聞いて作ってやってくれ」


 ……すみません、そのまま納入は勘弁してください。

 あくまで仮です、仮のための意匠なんです。

 侯爵様が持つにはファンシーすぎます。

 頼みますから作り直させてください。

 心の叫び声を必死の押さえながら、ドルク様にその意図を確認する。


「参考までにお聞きいたしますが、御不満がないと言うのは、意匠的なものでしょうか、それとも手に馴染みやすいという意味でしょうか」

「ならば、手に馴染むと言うのがそうであろうな。

 こう格式張った物は、どうにも手に引っ掛かったりと扱い辛い物が多くてな」


 よっしゃー!

 それなら何とかいける。

 ファンシーな意匠が当人の好みと言うのならともかく、手に馴染むからと言うのであれば、挽回の余地がある。

 人間工学に基づいた形であれば良いわけだから、それに基づいた格式ある意匠を、サラと突き詰めていけば、ドルク様も周りの人達にも満足いく意匠の物をお納めできる。

 なら、この際に食後に手のサイズを測らせてもらえる様にお願いする。


「ふむ構わぬが、そんな物が役に立つのか?」

「はい、人によって使いやすい大きさや形状という物があります。

 ドルク様もシュヴァルト様も、剣を扱われるそうですからお分かりになられると思うのですが、剣の大きさや長さもそうですが、持ち手の形状は、皆様それなりに工夫されていますよね」

「成る程、手袋なども確かに細かく注文するが、それと同じと言う訳か」

「はい、命を預ける物と比較するのはおこがましいとは思いますが、日々使う物だからこそ些細な違和感が、不満となりその不満が積もって、時には苛立ちとなり正常な判断を鈍らせる事もあります」


 御当主である方の仕事は、例え書類仕事であろうとも、領民や人一人の命に影響する物がある。

 実際にはその様なことはあってはいけないのだし、そう言う事はないと信じてはいるけど。


「もっとも、重職に就かれている方にその様な心配は無用なのですが、少しでも心地良く仕事をして戴けたらと思います」

「其処まで考えての事ならば好きにするが良い。

 だが、まだ喋り方が固いな、フィルを相手に長い説教をしたと言う遠慮の無さを見せてもらいたいものだが」


 コッフェルさん、一体何を話しているんですかっ!

 しかもドルク様、それをシュヴァルト様に面白そうに話さないでください。

 私だって、ああ言う事をしたくてしたんじゃないんです。

 あまりにもコッフェルさんが無茶をしたり、人を無視して筋の通らない事をするからであって。


「それは見てみたい気はするが、ドルク、それくらいにしておけ」


 おお、シュヴァルト様、良くぞ止めてくださいました。

 あのままで、羞恥プレイを続けられたら、どうなっていた事か。


「それに、似た様なものなら拝ませてもらったしな」


 そう言って、昼間のヴィーとジッタへのお説教の事を話し出すシュヴァルト様。

 もう、この二人やだっ!

 本気で恥ずかしくて、顔が熱くなる。


「し、失礼ながら、侯爵家の御当主であられるお二人が、この様な小さな子を揶揄(からか)うにしては、少しばかり過ぎては居られないでしょうか」

「ふむ、確かに度が過ぎたかもしれぬな。ユゥーリィ許せ」

「そうだな当人のいる前ですべき話ではなかったな。

 ジュリエッタよ、よくぞ申した。礼を言うぞ」


 ジュリ〜っ、助かりました〜。本当に、本当に感謝です。

 あのままでは恥ずかしいあまりに悶え死ぬところでしたよ。

 ……あのジュリ、大丈夫ですか? 顔が青いですよ。

 すみません、連れの調子が悪い様なので、此処で失礼させていただきます。


「ジュリ、大丈夫?

 なんならお姫様抱っこで、部屋まで連れてきましょうか?」

「だ、大丈夫です、歩けますから」





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