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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
163/977

163.少しばかり、お話ししましょうか(怒)





「やっぱり、ユゥーリィか。よく来てくれたね」

「おひさしぶりです。

 わざわざ王都まで見に来られたので?」


 ヴィーもジッタも相変わらずと言いたいけど、最後に見た時より精悍な顔付きになっているかな。

 うん、良い意味で男らしい感じになってきていると思う。

 まぁ笑みを浮かべている顔は、少年らしさが残ってはいるけど、それはそれで二人の魅力を減ずるものではないかな。

 とりあえず、彼等に学院の今年の代表に選ばれた子の付き添いで王都に来たついでに、ヴィーが以前に見学に来ないかと言っていたのを思い出して、こうして脚を運んだ事を伝えるのだけど、……何故、そんなにがっかりするのだろうか?

 さっきの様子だと、別に迷惑だったと言う訳でもないだろうし。


「それにしても、よくあんな遠くから分かりましたね?

 彼方の場所と違って、此方側は暗くて見にくいでしょうに」

「君は目立つからね。

 それに、例え人混みの中でも見つけれる自信はあるさ」


 ……確かに色なし(アルビノ)の私は目立つかもしれないけど、流石に人混みの中は無理があると思いますよ。

 ほら私って、背が低いから誇張でもなく人混みの中に埋もれてしまいますから、影すら見えないと思います。

 それはともかくとして、とりあえず謝罪だけはしておこう。

 知らなかったとは言え、王族の一員であるヴィーを相手にかなり不敬な事をしてしまったのだから、せめて罰するのなら私一人にしてもらいたいと願う。


「あははっ、気にする必要ないよ。

 彼処ではあくまで一貴族の子息の扱いだし、王妹である母の子と言っても、王族ではないからね」

「それに、貴女はヴィー様と私の命の恩人でもありますし、貴女が我々に幾ら暴言を吐こうが不敬を働こうが、罪に問う事はないと証書にも示してあるので、公式の場でもない限りそのような心配はございません」

「……、ちょっと待って」


 今、ジッタは何を言った?

 暴言を吐こうが不敬を働こうが、罪に問う事はないと証書にも示してあるとか言わなかったか?

 確かにそんな事を以前に言っていた気がするけど、あれは愛称で敬称なしで呼ぶ事を条件に、無かった事になったのでは?

 ……ヴィー、ジッタ、なんで其処で笑みを浮かべながら目を逸らすんですか。

 してやったりみたいな顔をしないでください。


「すみません、私はよくは知らないのですが、こう言うことって、よくある事なのでしょうか?」


 一応は年上の癖に、子供みたいな真似をする二人を無視して、案内してくださった騎士の方に聞くと、案の定、そうそう聞く話ではないらしい。

 ただ、事例が無い事もないらしいし、此処では二人がある程度の役職になるまでは同僚扱いで、砕けた話し方は許されているらしいので、たとえ証書がなくても二人が許しているのならこう言う場では問題ないとの事。

 ただ、私みたいな女性では、まず聞いた事がないらしいけど。


「ヴィー、ジッタ、まったく、二人は何をしでかしてくれるんですか。

 こんな事が知れ渡ったら、私がどんな白い目で見られる事か」


 一庶人が、王妹の子供であるヴィーと愛称で呼び合う仲など噂された日には、噂が噂を呼び、間違いなくヴィーやジッタの妻の座を狙う女性や、その親族のやっかみや妬みは私に向かってくる。

 それを考えると、正直、この場で二人をボコスカにして、そんな噂を全力否定する新たな噂を作りたいけど、流石にそれは二人に申し訳なくてできない。

 どうせこの二人の事だから、其処まで考えていないだろうだからね。

 不幸中の幸いなのが、今は夏休暇中で、人の噂も七十五日と言うし、私の拠点はリズドの街だから被害は最小限で済むかもしれないと言う事。


「そう言えば、学院主催の行事に来たと言ってたけど、もしかして鍛錬場の横の施設に宿泊する予定とか言わないよね?」

「言わないも何もそのつもりですけど」


 いちいち確認しなくても、普通は彼処に泊まるものだと思うけど。

 私の言葉に少し考え込んだヴィーは、少し待っててと言ってから、何やら急いで駆けてゆく。

 残された私とジッタと案内の騎士の方だけど、私の案内はヴィーとジッタで引き継ぐからと二人の先輩騎士である方は、何処かへと消えてしまわれるので、私とジッタの二人だけになるのだけど……。ジッタ難しい顔をしていますが、やはり顔を出したのは不味かったですか?


「いえ、ヴィー様も私もそう言う訳ではありませんが……、正直に申せば、貴女様にとって、微妙な時期に来られたものだと思っています」

「……ジッタ達にも知られていますか。

 それで微妙と言うのは、何か状況に変化が?」


 流石にジッタも詳細までは知らないらしいけど、先に来ていたコッフェルさんがドゥドルク様と共に登城し、一悶着の後、魔導士ギルド長と宮廷魔導士、つまり魔法使いの副師団長が更迭される珍事が先日起きたばかりだとか。

 結局、宮廷魔導士長も部下の監督不行届の責任を自ら取ると言う事で辞職。

 なるほど、彼方さん私達を罠に引っ掛けるつもりが罠に引っかかって、以前から水面下で集めていた証拠と共に、陛下の御前に突き付けたと言う事までは、事前に聞いていた作戦ではあったのだけど、そこまで大事になるとまでは聞いていなかった。

 私が向こうの予測外の動きばかりしていたため、その隙をつけたのも大きいと思うのだけど、やはりドゥドルク様やその配下の方の働きがあっての事なのだと思う。

 私はあくまで、相手の目を惹きつけるための、囮り役でしかなかった訳だからね。


「これで終わるような人達ではないと言う事ですか」

「同じ考えを持つ人達もまだいるでしょうから、当分は大人しくしておられるとは思いますが、逆に強行に出る人達がいる危険性もあるわけで、落ち着くまでもう一月ぐらいはかかるかと」


 それにしても詳細は知らないと言う割には、よく知っていると思う。

 其処は流石はドゥドルク様と懇意にしているだけはあるのかな。

 そうこう話している内に、ヴィーが何やら如何にもお偉いさんらしき年配の人達を二人も引き連れて戻ってくる。


「ユゥーリィ、この方が私達の上司である師団長のガスチーニ様」

「なるほど噂は聞いてはいたが、まさかこのような幼い少女だとはな。

 魔物討伐騎士団王都師団長を務めさせてもらっているシュヴァルト・カル・ガスチーニだ。

 このような場だ、ヴォルフィードにするように、気楽に話してもらって結構」

「ユゥーリィと申します。家名は御容赦の程を。

 そして私のような者に、寛大なお心遣いをしていただき、光栄であります」


 カーテシーを決めながらも、なにやら大物が出てきて何事かと思わずヴィーに視線をやるのだけど、……ニコニコと笑みを浮かべるのみで、助けようともしない。

 人をこんな緊張を強いる場に放り投げておいて、それは酷いのではないかと思う。

 せめて状況の説明ぐらいはして欲しいものである。

 それにしてもヴォルフィードか、……多分ヴィーの家名なのだろうけど、どこかで聞いた事がある様な?


「先ずは我等に牙と爪、そして暖かな食事を与えてくれた事を、騎士団を代表して礼を言わせてもらう」

「え、えーと…」


 温かい食事と言うのは、多分あの恥ずかしい文言が裏に掘られたあの携帯(かまど)の魔導具の事だと思うけど、爪と牙は……そう言えば商会のヨハンさんが、群青半獅半鷲(ブルー・グリフォン)を使った新式の武具の総称だとか説明していた記憶がある。

 記憶が曖昧なのは、私にとって使われた技術の核を、何となくで開発し、その試作品を作った所までで、その後は関わっていないのだから、こう大袈裟に感謝されても困ると言うのもあって、なるべく記憶の端に追いやっていたため。


「全てコッフェル様のお力があっての事で、私などは」

「なるほど、老師の言う通り、奥ゆかしい方のようだ」


 はいっ? すみません、ずいぶんと聞き慣れない言葉が帰ってきたのですが。

 自分で言うのもなんだけど、私の何処をどうやったら、奥ゆかしいと言う言葉が出てくるのか。

 どちらかと言うと御転婆の自覚があるだけに、尚更のこと違和感を感じる。

 こらっ、ヴィーにジッタ、吹き出そうとするのを堪える振りは止めなさい、後でどうなるか見てなさいね。


「部隊の特性上、我々は多くの魔導具を扱う。

 だからこそ言えるのだが、最近我等に齎された魔導具や道具は、どれも此れも今までの物とは匂いが違う。

 何かを倒そう、守ろうとする殺伐した物ではなく、人の生活の温かみのある匂いがな。

 無論、老師が作られてきた魔導具とは違うと、すぐに理解できた」


 ……うん、そう言う事を、真面目な顔で真っ正面で言われると流石に恥ずかしくなる。

 滑り止め付きの手袋や靴下は、以前より楽に力が入るようになっただけでなく、快適性があり安心して踏み込めるようになったとか。

 他にもズレ防止テープは、鎧のズレによる皮剥けを防ぐのに欠かせないなどと。

 純粋に向けられた賛辞と感謝の言葉に、顔が熱くなってくる。

 すみません、それぐらいで勘弁してください。

 本当にそう言うのに慣れてなくて、恥ずかしくて死にそうになりますから。


「なるほど顔を真っ赤にして、可愛らしいお嬢さんだ。

 ヴォルフィードが気に掛けるわけだ」


 ヴィーの事は此の際は関係ないと思うけど、もう本当に勘弁してください。


「まあいい、これ以上お嬢さんを褒め称えて、倒れられても困るからな。

 それで話は変わるのだが、お嬢さんとお嬢さんのお連れを、王都滞在中は当騎士団の賓客として招きたいのだが」


 はい? 何故にそんな大事に?

 まだ顔が熱いのを他所に、勝手に話がとんでもない方向へと行こうとするのを、必死になって辞退を願うのだけど。


「コッフェル老師からは、お嬢さんは大丈夫だと聞かされてはいるが、老師が王都にいた頃とは少し情勢が変わってしまってな。

 少しばかり蜂が飛んでいるらしく、幾ら城内とは言え、お嬢さんのような可憐な子を不安のある場所に放っておくのも心苦しい」


 ……熱っていた顔の熱が一気に冷める。

 蜂と言う刺客を指し示す隠語に、其処までするかと内心驚くしかないからだ。

 一言に刺客と言っても、犬、鼠、猫、狐、狼、梟など、雇われチンピラレベルから始まって、様々な隠語があるけど、蜂はその中でも最悪の部類の隠語。

 今までは、ほとんど犬程度の刺客で、おそらく道中に仕掛けていたのは、裏社会の荒事専門にした集団の組織の狼程度まで。

 だけど蜂と言うのは、要人暗殺専用の刺客を指す。

 噂では、幼少の頃からそれ専用に育てられ、生きて戻る事すら考えない最悪の刺客だとか。


「お連れの方は今は?」

「実家か、魔法の先生に会いに行っているかと」

「此方で調べて、一応は護衛をつけさせてもらうが、情報通り蜂ならば心配は不要だろうな」


 蜂は無駄にその針を使う事はなく、あくまで一撃必殺で次弾はない。

 故に、標的ごと周りを巻き込む事はあっても、警戒されやすい誰かを人質にする様な事はしないとされている。

 その辺りは、コッフェルさんやヨハンさんからの受け売りだけど、私みたいな子供相手に其処までする大人に本当に呆れてくる。

 なにせ、梟や蜂などを動かすのに白金貨(一億)単位の金が必要らしいし、危険な組織だから、ある程度国の諜報に見張られているだろうから、標的が国の中枢であればあるほど、相手に知らせている様な物。

 もっとも、私は中枢から一番遠い位置にいる一庶人なので、今回は偶々知る事が出来ただけなんだけど。

 取り敢えずジュリの反応は、王都の北区にある事は確認してあるので、その事は伝えておく。


「それにしても女神の翼とは、よくぞ言ったものだな。

 実に似合った商会名ではないか」


 お言葉ですが、それは私に関係ない話ですから。

 設立の理由に私が大いに関与はしているみたいですが、あくまでドゥドルク様の商会であって、私は其処を利用させてもらっている一介の魔導具師でしかありません。

 商会名も、ドゥドルク様の知り合いの貴族の方が付けられたと言っていたので、どう言った経緯でそう名付けられたのかも不明です。

 むしろ私が商会紋も含めて、ぜひともその由縁をお聞きしたいぐらいですからね。

 ……ん?

 先程から引っかかっていた事が、頭の中で繋がる。

 

「ところでルメザヴィア様(・・・・・・・)、ヴォルフィードと言うのは、貴方様の家名と言う事でよろしいのでしょうか?」


 まずは確認、目元を痙攣らせながら、いつも通り愛称で良いよと言いながら、肯定するヴィーにもう一つだけ確認する。

 あと、敢えて愛称ではなく、以前の話し方に戻しているのは、もしそうならばと皮肉を込めての事だから、気がつこうね。


「商会名と商会紋の名付けを、ドゥドルク様の知り合いであられる貴族の方が付けられたと、お聞きしているのですが」

「ああ、君に相応しい名だと思ってね」


 ……なるほど。ある意味納得である。

 確か人を女神だとか寝言を言っていた記憶もあるし、九死に一生を得たのだから、多少の美化も仕方ないと聞き流していたけど。

 そうですか、あの大仰な名前も、誰がどう見ても勘違いしそうな商会紋も、全部ヴィーの仕業ですか。


 ぷちっ。


 ええ、次の瞬間にはヴィーとジッタの顔を片手ずつで掴み上げていました。

 しかも今回はちゃんと、土魔法と形状変化の魔法で踏み台を作ってありますので、時間制限はなしです。


「ヴィー、前に言いましたよね。

 私、目立つのが嫌いだと」


 なのに一度ならず二度までも、此処はしっかりお話しする必要がありそうです。

 だいたい、人の都合と立場も考えずに、あんな内容の証書を作るとか信じられません。

 そうでなくても、ヴィー達があの学院から去った後、私がどれだけのヤッカミに遭ったと思っているんですか。

 全部、適当に流しましたけど、不快で無い訳ではないんですよ。

 それに、商会名や商会紋もそうです。

 どれだけ勘違いされていたり、色々と変な噂が行き交っているって分かってます?

 ドゥドルク様の隠し子とかだけでなく、愛人ではないかとの噂まであるんですよ。

 ええ、幼女愛好の変態悪癖があると言う大変失礼な噂が。

 それがドゥドルク様に、どれだけ迷惑を掛けているか分かっていますか?

 それとジッタもジッタです。

 本来であれば、こう言う主人の暴走を止めるのが貴方の役割でしょう。

 ……私、限定と。……そう言う冗談が言える余裕があるなら、もう少し力を入れても良いですよね?

 ええ、せっかくの証書の効力を、此の際は有効に活用させていただきます。

 自業自得と諦めてくださいね。


「二人は上の立場の人間ですから、下位の者に自分の考えを押し付ける事は仕方ないと思います。

 ですが、だからこそ、相手の立場とその影響を考えるべきだと思いますよ。

 相手のためと思っても、それが相手からしたら迷惑でしかない事など幾らでもあるんですからね」





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