表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
162/977

162.再会、えっ!そんな人だったなんて聞いていませんっ!





 ああ言う事のあった後なので、残る船旅は船内の客室に籠もって外出を自粛。

 他の乗客には知られてはいないだろうけど、船員にはあの騒ぎの原因を知られてしまっているので、そう言う意味では目立ちたく無いと言うのもあるし、ジルドニアさんにまた掴まるのも厄介そうだと言うのも理由である。

 なによりあの騒ぎのおかげでと言うか、死に物狂いの実戦によって、少しコツを掴んだジュリは、魔力制御が飛躍的に伸びたため、それを安定させる機会だと思って魔力制御の特訓中。

 ジュリ自身もその時の感覚を覚えている内に、身につけておきたいと言うのもあって、物凄く頑張っている。

 どれくらい伸びたかと言うと、以前のジュリなら魔力循環制御ですら、制御できずに漏れでる魔力で二時間も保たずに魔力が尽きていたのに、今は半日近く保つようになった。

 此処までくると、本人の頑張り次第で雪だるま式に鍛錬時間が増えてゆくので、早く魔力制御の鍛錬もコレくらいに保つようになって欲しい。


「コレだけ伸びるなら、たまに魔物の領域に連れて行くのも良いかも」

「全力で遠慮させていただきますわっ!」


 ボソッと呟いただけなのに、全力で断られてしまう。

 別に一人で放置なんて考えてませんよ。

 人災級辺りなら、私が見守ってあげれば、倒せなくてもなんとかなるとは思うし。

 ……普通魔物の領域は十人以上のグループを作って行くものと。

 魔導士って普通の範疇でしたっけ?




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




 客室に引き籠って数日後、貿易港フォルスに着いた時に船長さんがお礼として、陸で宴を開きたいとか言ってきたのを、予定があるからと辞退。

 本当は港町で一日ぐらい観光はしたかったけど、厄介事は全力で遠ざかるべきですからね。

 そんな訳で市場だけ寄って、乗合馬車で王都に向かう事にしました。

 流石に、此処から王都まで真っ直ぐな道なので、背負子で馬並みの速さで走るのは目立ちすぎるし、晒し者になってしまうジュリが可哀想なので自粛。

 だいぶ彼方さんの裏をかいたはずだから、おそらくは大丈夫なはず。

 王都に行けば学習院が準備した施設があるので、そこなら油断しない限り大丈夫らしいと商会のヨハンさんも言っていた。なにせ伯爵家や子爵家だけでなく、公爵家や侯爵家の子女も集まるようなイベントなので、その辺りの警備は万全みたい。

 心配なら、コンフォード家の王都の屋敷を使ってもらっても構わないと言われているけど、それこそ全力で辞退しましたよ。

 だって一介の庶人である私や子爵家のジュリが、恐れ多くもコンフォード侯爵家の当主であるドゥドルク様の滞在されている屋敷に、修学旅行の民宿気分で泊まれと言われても頷ける訳がないじゃないですか。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

【王都:ルグスブルグ】




 ゆったりとした乗合馬車によって、良い具合に王都へ到着する時間を調整する事が出来たのは良かった。遅れるのは問題外だけど、早く到着しても問題が起こる可能性があったからね。

 王都に着いたのは夕方だったので、乗合馬車の業者の知り合いが経営している王都の宿に泊まった翌日。


「……此れが宿舎?」

「……みたいですわね」


 王都の学習院の本部の方に、案内された宿舎というのは名ばかりで、小さくてもどこからどう見ても、立派な屋敷が幾つも並んでいる。

 王城の一番外壁部分側とはいえ、此処も城の一区画にある事には違いない。

 あの、本当に此処なんですか?

 城ってそう簡単に入れるものでは無いと聞いているのですが?

 隣を見て見ろって、……あの建築様式からして闘技場ですかね?

 第十三鍛錬場で、そこが当日の会場の一つになると、あと、魔導士同士で揉め事が起きた場合でも、街中と違って此処なら周りに被害は出難いからですか……。そんな派手な揉め事があるんですか?

 勘違いした自意識過剰な学院生同士が、数年に一度の頻度で、建物を延焼させる事態があるから、魔法部門は今年から此処になったと。

 ヨハンさん、全然安心では無いですよっ!

 とは言え、地区の学習院毎に隔離されているなら、ある意味安全と言えば安全と言えるので、ありがたく使わせて戴く事にする。


「流石に豪華な作りの建物ですね」

「装飾品があまり無い所を見ると、軍の合同演習とかに使われる宿舎のようですわね」

「逆にある程度の装飾品で飾れば、外国の使節団が来た時にも使える建物でもあるかな。

 小さな建物がたくさんあると言う事は、ばらけさせる目的でもあるだろうし」


 この区画自体が城の隔壁に囲まれているから、監視と隔離は容易。

 城の防犯上の概念から、一つの大きな建物に纏めておくと、軍事行動に出やすくなってしまう。

 建物と建物の間に二メートルぐらいの高さの塀があるのも、出入口が向かい合っていないのも、そのためだろう。

 名目は、気にせずに休んでもらうためという意味で。


「窓から、薔薇が咲き乱れる塀とか憧れますし、実際に目にすると綺麗ですわよね」

「綺麗といえば綺麗だけど、ジュリ、あの薔薇が植えてある意味を分かっています?」


 壁を覆う緑の絨毯、その絨毯の所々に咲く薔薇の花は、確かに綺麗ではあるよ。

 一際目立つ薔薇の花は、他の品種に比べて大輪で綺麗ではあるけど、咲く花の数は少なく、トゲが大きい上に多いため、あまり鑑賞向けとしては出回っていない品種。

 それを敢えて壁に沿って生やす理由など、考えるまでも無い事なのだけど、どうやらジュリには、そう言う視点がまだ抜けているようなので、この際勉強しましょうね。


「開催は三日後で、十日後までは此処を自由に使える訳だけど」

「主要な観光名所なら案内できますわよ」


 せっかく王都に来たのだから、それなりの観光はしたいけど、私の場合は、あまり滞在していると厄介ごとを呼びかねない。

 それでも、教会の本殿や市場とかは見て回りたいかな。

 予定では学院生の魔導士部門の合同演習と言う名の見せ物の後は、親睦を深めるための宴が予定されているらしいので、その後に数日だけ観光をしてから帰る予定にしている。


「ジュリはどうします?」


 王都出身の彼女は、それなりに知り合いがいるはずだし、会っておきたい人がいるはず。

 そう思って声を掛けておくと、案の定、家族と魔導士の先生のところに顔を見せに行くとか。

 私も誘われたけど、私に気にせずに行ってらっしゃいと言っておく。

 彼女の過去をヨハンさんから聞かされている私としては、たとえ彼女が許していたとしても、彼女の両親の顔を見たら、嫌悪の表情を隠し切れる自信はない。

 相手にどう思われようが知った事ではないけど、その事で彼女が隠している事を、私が既に知っている事を知られる訳にはいかないし、そもそも彼女の過去の話そのものが捏造である可能性もあったりするので、軽率な事はできないと言うのが本音。

 それに彼女としては、弟君に顔を見せておきたいらしいので、せっかくの姉弟の時間を邪魔をしたくないと言うのも本当の事。

 念のため、彼女にはある魔導具を身につけてもらっているので、空間レーダーの魔法と併用すれば、何かあっても何とでもなるだろう。

 彼奴等にとって、ジュリを直接どうこうしても意味はない事だからね




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




「見学ですか?」

「ええ、知り合いが今年から王都の騎士団に入団しているので、まだ此方にいるのならば、元気にやっているか見ておきたいので」


 次の日、ジュリとは別行動をして、城の入口の門兵さんに話しかける。

 せっかくなので、私も知り合いを訪ねる事にしてみたのだけど、我ながらアポなし凸はどうかとは思う。普通は、前もって手紙で知らせておく物だからね。

 でも、其処は其処、来たついででしかないので、会えなくても問題なし。


「ふむ、学院生ならそれくらいは許すようには言われているから構わないが、所属先と名前は?」

「すみません、所属先は騎士団としか聞いていないので、あと名前もルメザヴィアとジッタガルドの二人で家名まではちょっと」

「あのなぁ、家名も知らない人間を知り合いとは言わないぞ」


 うん、呆れるように言われてしまうけど、事実なのだから仕方がない。

 あっ、ちなみに二人の追っかけ令嬢とかではないですよ。

 友人ではあっても、そういうのは此方からお断りですから。

 面白い事を言うって、本当の事ですけどね。

 まあ、駄目なら駄目で良いです。

 一応は見学に来ないかと声を掛けられていたので、駄目元で来ただけですから。


「おい、その二人なら、討伐の新人だろ」

「ああ、新人なのに凄腕と噂の二人か。

 まぁ家柄を考えれば、分かる話ではあるけどな」

「ヴィーとジッタって、そんなに有名になっているんだ」


 城の城門ごとの受付の二人の衛兵のそんな会話に、つい感心の声を上げる。

 コッフェルさんが、新人見習いの域は出ていると言っていたから、それなりに腕が立つ方なのだと思っていたけど、城内で噂になっているとは思わなかった。


「おいおい、相手は王妹様を血を引く公爵家の人間に、そんな呼び名をして、誰に聞かれるか分かったもんじゃないぞ、厄介な事に巻き込まれたくなければ、言葉を慎む事だ」

「すみません、つい何時もの癖で、以後気を付けます」


 失敗失敗、私にとって二人はヴィーとジッタであって、逆にルメザヴィアとジッタガルドと言うと、どうにも違和感がある。

 こう言う場では、面倒でも正式な名前の方を呼ばないと。

 ……ん? あれ?


「あの、今、王妹様の血を引く公爵家の人間って言いました?」

「なんだ知らずに訪ねてきたのか? 呆れたお嬢さんだ」


 驚きである。伯爵家ではなく、公爵家か侯爵家の人間だと思ってはいたけど、王様の甥っ子にあたるとは予想外にも程があるのでは無いだろうか。

 そんな雲の上の人間に、私はお説教を垂れたり、アイアンクローをかましたり、殴ったりしたんですよね、

 ……なにか、全力で逃げ出したくなりました。

 その証拠に、背中から嫌な汗がダラダラと流れていますからね。


「彼処なら、今頃は第四鍛錬場を使っているはずだから、案内できる人間を今呼ぶから待っていてくれ」


 なのに、神は非情にも此方の心情など、まるで関係ないと言わんばかりに話を進めてくる。

 え? 良いんですか、自分で言うのもなんですけど、こんな不審な人間を通しても?

 ああ、当人ではなく、普通に練習風景の見学なら許可が出ているから問題はないし、そのための案内人でもあると。

 ……納得です。

 向こうが気が付かなければ良し、気がついてもし近寄ってくるようなら、一応は謝罪を入れて、牢獄行きを免れる努力だけはしておこう。

 だってね、王様の甥っ子ですよ、甥っ子。つまり王族です。

 王族への不敬は、昔から厳罰と相場が決まっていますからね。

 お父様お母様、娘の不孝をお許しください。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




 ガンッ! ゴッ! ガゴッ!


 騎士団の手隙の方に案内されて向かった先では、三方を周りの建物で囲まれるような鍛錬場で魔物の動きを模倣したのか、大きなスピアを持つ一人を守るように、四人ぐらいの男の人達が大きな盾を持ちながら、次々と襲いかかる人達の攻撃を防ぎ、弾き時にはスピアや大楯で相手を空高くへと打ち上げている。


大牙猪(フィールド・ボア)辺りを想定した鍛錬ですか」

「おや、分かるのかい?」

「ええ、独特の動きには見覚えがあります。

 だいぶ鈍重ではありますけど」


 まるで見た事があるみたいに言うんだねと、嗜められるけど、見た事があるのだから仕方がない。

 でも、見ている感じ動き自体は鈍重だけど、その分動きにはキレがあるし、仕草そのものはそれなりに似せられてはいると思う。


「ぁ」


 見覚えのある深緑の髪と、錆びたような茶色い髪の二人組の少年騎士に、小さく声が溢れる。

 茶髪の方が右側から攻めて意識をそっちに向けたところへ、深緑の方が身体強化で一気に間を詰めて猪の額のある部分に一撃。

 だけど、打ち込みが弱いと判断したのか、それとも鍛錬のためなのか、猪の硬い鼻を模した動きの大楯持ちの騎士によって空高くへと放り上げられてしまう。

 そこへ茶髪の方が真横から、一撃を入れるようにして魔物役の真正面側へと回る。

 本来は避けた方がいいポジションではあるけど、狙いは魔物役の注意を向けること。

 相方である深緑の若い騎士が、空中へと放り上げられながらも空中で態勢を直し、地面へと着地をすると共に、魔物役の後ろから斬りかかるのを悟らせないために。

 その一撃で、二人の番は終わりなのか二人は下がり、次の組み合わせが魔物役と相対している。


「後ろ足の腱を狙って脚を奪う。

 集団で行う狩りとしては、常套手段なのですか?」

「脚を奪い追い詰めるのは基本だが、流石に狩りなんかと一緒にするのは止めて欲しい」

「すみません。失言でした」


 明らかに不快そうに言う騎士の方に、謝罪をする。

 私にとっては狩りかもしれないけど、此処の人達にとっては魔物から人々を守るための必死の鍛錬なのだから、今のはどう考えても私が悪いかな。

 うん、この辺りの感覚の違いを、少し直さないといけない。

 コッフェルさんにも、その辺りの事を自覚しろと言われてもいるし。

 そうして謝罪をしていると、先程の二人組が此方へ小走りに走ってくるのが、視界の横隅に見える。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ