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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第二章 〜少女期編〜
157/977

157.船と言ったら、やっぱり釣りですよね。





「四方の何処を見ても海しか見えませんわね」

「……そうですねぇ」

「どうしたんです?

 昨日に引き続き元気がありませんけど、船酔いですか?」


 心配そうにしてくれるジュリには悪いけど、船酔いではありません、原因は貴女です。とは流石に言えないので、女の子の日だと言って誤魔化しておく。

 そっちの方も嘘ではないので、素直に納得してくれるけど、まさか三夜連続とは、毎晩油断して夜中に目が覚めてしまう。

 すぐに耳栓をして寝ようとするのだけど、一度気にしだすと私もどうしても悶々としてしまうので、なんとか耐えて眠りにつくのだけど、どうしても睡眠が浅くなってしまうようで、少しだけ睡眠不足が堪えているだけです。

 ええ、もう今夜は油断しません。

 最初から耳栓装備で寝ますから、どうぞ勝手にストレス発散してくださいと言う感じだ。

 実際、前世でも豪華クルーズの旅では、それ用の品がよく売れたり、一年以内に家族が増えたりするらしいですからね。

 ある意味、当然の事なのだと思う。


「……ねむい」


 だめだ、こうなったら眠気覚ましに何かをやろう。

 船尾の甲板に移動し、収納の魔法から糸と鉄を少し、あとは素材用に取ってあった綺麗な羽を使って擬似餌(ルアー)の完成。

 そいつに長い紐をつけて船尾から海へ投げ込みトローリング。

 陸地にいる時は、川魚を捕まえる時にしか使う機会がなかった水中レーダーの魔法を後方に向けて展開。

 流石に魚群がいる辺りが魔法で分かるので、擬似餌を誘導しやすかったためか、すぐに当たりを引く。


 ぐぐぐっ!


 魔力で強化してある紐を身体強化を頼りに引っ張るのだけど、なかなかの手応え。

 ええ、でも負けませんよぉ。

 お魚さんと勝負です。

 と言っても、私がその気になって強化した紐と擬似餌は下手なワイヤーより強度がありますからね。

 ええ、白絹糸製の魔力伝達コードを駄目にしてしまった反省から開発しました。

 つまり、ほぼ魔力まかせの勝負です。

 テクニックもクソもない脳筋戦法です。

 それでも、それなりに釣りの気分を楽しみたいので、手加減をしながら、それなりのドックファイトを演出。

 ごっこでも楽しいから良いんです。

 

 ジャパ〜ッン!


 五十メートルぐらいで海面から飛び上がって、その落下の勢いで糸を切ろうとするお魚さん。

 残念でした。そんな事は海中レーダーの魔法でバレバレです。

 事前に、ちゃんと糸を緩めてあるから効きませんよぉ。

 そして再び糸を力づくでゆっくりと引っ張ってゆく。

 それにしても今のシルエットからして、おそらくはカジキに似た魚、しかもかなりの大物です。

 あっ、船員さんの一人が、カギ付きのモリを持ってきてくれました。

 お手伝いしていただけるとは、助かります。

 気がつけば周りにはギャラリーが溢れている。

 それどころではないけど、やっぱり皆さん暇を持て余していたんですねぇ。

 じゃあ、ギャラリーの期待に応えますか。

 最後の踏ん張りだと言わんばかりに、紐を巻き取り、近寄ってきた所を、船員さんがモリを持って船尾に体を乗り上げる前に、狩猟に使う予備の自作の矢を魔法で投擲して獲物に止めを刺す。

 いえいえ、あくまで保険です。

 船に近づく前に無力化しておけば、後先考えずに遊んだ訳ではないと言うアピールです。


「「「「おぉぉぉーーー」」」」


 私の引っ張る紐と、船員さんがカギ付きのモリで引き上げる三メートル越えのカジキに似た魚の姿に観客が湧き上がる。

 ああ〜〜、楽しかった。

 狩猟とは、また違う楽しさがありますね。


「嬢ちゃんすげーーっ」

「あんな小さいのに」

「馬鹿、魔法使いだろ」

「それにしたって」

「凄い事には変わんねえな」


 観客としては暇つぶしになれば何でも良いのだろう、それなり楽しげに騒ぐ。

 船員さんに、良かったらこの船の皆さんで食べてくださいと伝えておく。

 足りなさそうなら、もう一、二匹狙いますよ。

 ああ、追加のオカズとしては十分と。




 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・




 そうして次の日、再びトローリング。

 別に睡眠不足の眠気覚ましって訳ではないですよ。

 昨日の大物を釣ってストレス発散になったのか、それとも最初から耳栓をしていたのが効いたのか、しっかりと眠れました。

 今日は小物を狙ってみようと思って、ええ、さっきから釣り上げてるこれです。

 羽を持った魚ですが、これを干しておくと良い出汁が出るんですよ。

 もう二、三十匹ほど釣っておきたいですね。

 新鮮な内に絞めて収納の魔法に入れておけば、後で調理できますから。

 むろん、見ての通り甲板は汚しませんよ。

 結界でコーティングしてありますからね。

 間違って大物が掛かったら、また調理師さんにお願いするかもしれませんけど。


「貴女も毎日、飽きませんね」

「そうですか? まだ釣りは二日目ですよ」

「そうじゃなくて、毎日毎日なにかしら注目を浴びるような事をしているじゃないですか」


 巡回に来た船員さんの後に話しかけてきた、ジュリの言葉にあらためて思い返してみる。

 初日はジャグリングで子供達や周りの人を沸かせたけど、あれはあくまで子供達のためなので関係なし。

 二日目は体力トレーニングの一環でダンスを甲板で、途中で何人か混ざって踊っていたから、それなりに賑わってしまったため、注目を浴びるのは苦手なので以降へ部屋でやってはいるので、その一回だけですよね。

 三日目は船旅に飽きてきていた子供達に、再び何かをやってとせがまれて、光球魔法を使った花火もどきは、結果的にかなりの注目を浴びたと思う。

 無論、私のは普通の小さい花火サイズでですよ。

 四日目が昨日のカジキ釣りで、五日目が今日。


「私としては地味に楽しく生きていたいんですけどね」

「言っている事とやっている事が、正反対だ言う事に、そろそろ気がつくべきですわよ」

「三日目の光球魔法はジュリの方が目立っていた気がするけど」

「あっ、あれはっ、その……」

 

 うん、ジュリ、子供達に良いところを見せようとして、やらかしましたからねぇ。

 あんな近くで、大きな光球なんて出したら、眩しくて仕方ないと、魔法を出す前に気がついて欲しいものです。

 下手すれば失明ものです。

 ええ、反省してください。

 

「……ん!?

 ジュリ、誰か船員さんを摑まえてきて、なるべく急いでっ」


 釣りをしていた紐を急いで巻き取りながら、水中レーダーの魔法に意識を傾ける。

 反応からしてかなり大きい。

 念のため、後方だけでなく全方位にも向かって水中レーダーを展開。

 其処へジュリが先程の船員さんを摑まえてきてくれた。


「お呼び立ててして申し訳ございません」

「何かお困りのことでも?」

「この辺りには大きな鯨でも出ますか?」

「出ますが、今はその時期ではありませんね。それが何か」


 ……言って良いものかどうか迷う。

 でも最悪の事を考えれば、言った方がいいし、船の上の事は船の人間が判断すべき事で、私が勝手に判断すべき事ではない。


「後方から、巨大な生物反応が近寄ってきます。

 探知の魔法で得た感触からして、大きさはこの船の倍ほどもある魔物。

 アレがこっちを狙っているかは分かりませんが、もしそうなら今の速度のままだと、追いつかれる可能性があります」

「じょ、冗談は止めてくれっ!」

「こんなくだらない冗談で、私は犯罪者なんかになりたくありません!」


 故意的な魔物の襲撃を偽った場合は重罪になる。

 魔物が生態系の頂点にあるこの世界では、魔物の襲撃はシャレにならない事態だし、街に与える混乱の影響も半端ではない。

 そして船と言うのは一つの小さな街。

 当然ながらその法が適用される。

 船員の怒声は、それを案じての事でもあるし、信じたくないと言う思いでもある。

 でも、だからこそ私は言わなければいけない。

 そう言う罪に罰せられる事を知った上で、危険を知らせているのだと。

 魔導士として、人として、黙っていてはいけない事だと。


「至急に船長さんへ御連絡を、私は此処でアレの動向を探っています。

 嘘だった場合、此処から海に突き落とされる覚悟もしています」

「わ、分かった」





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